実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド

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遺恨決闘、白泉外し、吽軍幹部の面々

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 白鳳院本邸の談話室で話題となった白泉総司とは白鳳院の同年代の嫡流から名前を一字貰ってる事からも分かるように白泉家の嫡流で、冷一の長男である。

 冷一が67歳なのだから、総司は41歳となった。

 そして百提灯艮は44歳。3歳違いだ。

 極官が『従四位上、阿大弁』の百提灯家の方が白泉家よりも家格は上だが、白泉家は白鳳院の傍系な為に何かと優遇されている。

 そんな複雑な公家の門閥力学がゆえに、白泉総司と百提灯艮の間には禍根となる因縁の過去があった。

 女だ。

 名は千本梅せんぼんうめ清子。

 その清子に2人は恋をし、そして艮が清子の心を射止めながら、門閥の力学によって2人の仲は引き裂かれ、清子は総司と結婚したのだった。





 当然、百提灯艮は納得出来ず、周囲が仲裁に入って、この話は過去の物となったはずだったのだが・・・・・・





 ◇





 その日の夕方、あろう事か皇居勤務を終えて帰路に就いた白泉総司を百提灯艮が呼び止め、通常ならば過去に因縁のある男の誘いなど総司も乗らなかったのだが今は『三族連座』の非常事態なので仕方なく地下ガレージで会談したら、





「積年の怨み、晴らさせて貰うぞ、白泉総司ぃぃぃっ!」

「そんなの効ーーギャアアアアアアアアアア」





 総司も艮を警戒してたが、艮の方は宝具『龍玉』の霊力を転用して陰陽道の炎術を使った為に、総司は上半身が蒸発する程の灼熱によって焼き殺されたのだった。





 ◇





 当然、その情報は直ちに白鳳院本邸の玄関ホールで屯する重鎮達に届けられた。

「何? 総司が『龍玉』を使った百提灯艮に殺されただと?」

 白泉冷一は絶句すると同時に、

(まさか、昼間の御前と百提灯の謁見か? だとしたら、どうして総司が狙われる? というか、御前の許可が下りてた? だとしたらこの後の展開は・・・・・・)

 思考を働かす中、

「ともかく一度、帰らせて貰う」

 冷一は慌てて玄関ホールを出ていったのだった。





 ◇





 死んだ白泉総司の官位は『正六位下、打出小槌うちでのこづち大丞たいじょう』。

 当然、『従四位上、阿大弁』『従四位下、裏参議』兼務の百提灯艮でも逮捕される事となった。

 清々しいくらいの顔をしてる艮が賽河原の取調官に、

「過去の遺恨を晴らしただけだ」
 
 と言い放ち、

「過去の遺恨とは?」

「相思相愛だった恋人との仲を引き裂かれたのさ。意外と私の悲恋は有名だぞ?」

 と気軽に決闘に至る経緯を話したのだった。





 その後、百提灯艮の『遺恨決闘』が認められて『流罪』となるのだった。





 ◇





 田中邸では、その情報を聞いた愛が青夜に、

「青夜君、どういう事? 愛染寺を紹介してくれた百提灯さんが白泉の嫡子を殺したって? 青夜君がやらせたの?」

「まさか。ただの20年前の女関係の縺れでしょ?」

「あのねぇ~。そんな嘘を信じるほど私は世間知らずじゃ・・・」

「いくら東条院でも公家の百提灯を操れる訳ないでしょ、ママ。やったのは雲上人なんだからそれ以上騒がないでよね」

「ええっと、一狼さんのお墓はどうなるの?」

 愛の本音は『お墓の心配』だったので、青夜がさらっと、

「そっちは大丈夫だって」

「そうよかった」

 愛はそう安堵すると、その後は薄情にも一切、百提灯艮の事は話題にしなかったのだった。





 ◇





 そして、その2日後、青夜を狙った賊と三族の処刑日、刑の執行直前に皇居司法の賽河原から刑罰の変更が発表された。





 賊13人の罪状は変わる事なく処刑だ。





 だが、『三族連座』が適用された親族の処分には変更があった。





 まずは白泉総司を倒した『褒美』と言わんばかりに百提灯家の系譜にのみ『白赦』が白鳳院令の名前で発令された。

 それにより百提灯艮が青夜に陳情していた『4人』と、親類の金斗石家の『3人』が無罪となり釈放されたのである。





 そして処刑当日の処刑30分前に皇居司法の賽河原が罰則の変更を発表した。

 公家出身者は通例通り『島流し』へと。

 それだけだ。

 財界の大物の親族への温情はなかった。東条院の報復支配の邪魔だとばかりに粛々と処刑され・・・





 公家の『島流し』への変更書類に記載ミスがあり『白泉』の名前が欠落していた事から、他の罪人の三族と一緒に白泉家出身の公家も処刑されてしまったのだった(というか真っ先に処刑されたのだった)。





 こんな狙い澄ました不手際がある訳がない。





 明らかに故意だ。

 過去にもこんな事はまれにだが存在した。

 つまりは『白泉外し』。

 こんな采配、賽河原卿の当主代理はもちろんの事『御前のお気に入り』でも不可能だ。
 
 この手際の良さから『白鳳院の御前が噛んでる』と異能公家達は全員理解しており、『白泉は何をやって御前を怒らせたんだ?』と興味を持ったが、誰も怖くて聞こうとは思わなかった。

 そして、嫡子を決闘騒ぎで殺され、更には実父や実姉を処刑された白泉冷一は身内の無念を晴らす機会も得られず、白泉家から三族連座の罪人を出した責任を取って、その日の内に官位を返上して無役となったのだった。





 ◇





 そんな血生臭い話はさておき。





 邪気の浄化を終え、清掃を終えた東条院の宗家屋敷は遂に稼働を始めた。

 新宗家の緑子が住居を宗家屋敷に移し、使用人も多数、宗家屋敷で働く事となった。

 問題はやはり東条院の副宗家の青夜が宗家屋敷に寄り付かない事だ。

 母親の貴子に『屋敷を出ろ』と言われてるので屋敷にだけ・・は絶対に寄り付かない。

 『どうしても』という時は青刃が代参する事となった。

 そんな訳で、緑子の横に控えるのは宗家代理の藤名金城だった。

(新宗家のおりをしながら東条院の運営をするのが我が余生になろうとは)

 と思う金城に対して、緑子が、

「セーヤお兄ちゃんは?」

「学校ですじゃ(ウソ、テスト休み中)」

「つまらなぁ~い」

「申し訳ございません」

 と答えながら『宗家当主の御機嫌取りもワシがする訳か、トホホじゃな』と思ったのだった。





 ◇





 青夜は青夜で忙しかった。

 『従三位、吽近衛大将』という官位を貰った為に東条院副宗家以外にも、皇居吽軍の最高司令官の地位も得てしまったからだ。

 そんな訳で、皇居吽軍の幹部会に出席だ。

 青夜が『吽近衛大将』で一番偉いが以下は、





 吽近衛中将(実力)、杜若擬かきつばたもどき天馬、43歳。

 吽近衛中将(出世コース)、金斗石明唐みんとう、22歳。

 吽近衛権中将(実力)、吉野よしの桜太郎おうたろう、77歳。

 吽近衛権中将(特別世襲)、黄泉小路愛之助、68歳。

 吽近衛少将(実力)、筑紫つくし毅久雄つくお、61歳。

 吽近衛少将(世襲)、北天川きたあまのがわ国持、66歳。

 吽近衛権少将(実力)、八幡原武雄、32歳。

 吽近衛権少将(白鳳院枠)、白鳳院鎌安、42歳。





 となった。

 幹部会に出席してるのはここまでだ。

 その下の吽近衛将監は8人なので。





 そして年齢が総てを物語っており、





 天馬は父親の青蓮の側近。

 明唐は足掛けの地位なので長くは居ない。

 桜太郎は祖父の青飛の代から仕える。

 愛之助は公家の黄泉小路の当主で極官。対『日本神話・イザナミ黄泉比良坂』専用。

 毅久雄は祖父の代から仕える。

 国持は公家の北天川の当主で極官。羽州探題を兼任。

 武雄は父親の青蓮が次の中将候補として抜擢。

 鎌安は皇居吽軍を監督する為に白鳳院が派遣。通常は傍系の家の者が務め、白鳳院の家名の者が派遣されるのは異例。因みに鎌足の父親である。





 このような事情だった。





 部屋に入った直後の挨拶の時に、

「大将閣下、御前への『白赦』の働きかけ、ありがとうございました」

 明唐がそう言って10度だけ頭を下げた。

 明唐は男だが、黒髪ロングで細眉の儚げな美青年だ。細身で戦闘系には見えなかったが、陰陽師は遠隔戦闘なので線の細さは関係ない。

 因みに当主家の嫡子であり、数年で出世するが、公家の出世コースの中将枠は皇居吽軍が暴走しないように監督する地位でもあるので意外に重要で『お飾り』ではなかった。

 今の恰好は皇居吽軍の軍服だ。

「総ては白鳳院の御前の采配だけどね」

「我が一族には『白赦』が出ませんでしたけどね」

 すねたようにそう言ったのは愛之助だ。

 愛之助は68歳なのだが、年齢以上の老年の外見で、頭は禿げた白髪で、顔も笑い皺があり、好々爺の部類だった。

 黄泉小路家は異能公家でも特別な異能力なので、平時の際は名誉職だった。

「欲しかったの、『白赦』?」

 青夜が真顔で問うと、

「いえ、『島流し』で十分です。百提灯のような事をやらされては堪りませんからな」

「百提灯? ああ、20年くらい前の女関係の縺れの事?」

 青夜がすっとぼけ、

「そういう事にしておきましょう」

 と愛之助が苦笑する中、桜太郎が、

「それよりも聞きましたか、大将閣下。北桐紀州の霊魂、南原奥政おうせいが横取りしたらしいですよ」

 そう青夜に注進した。

 桜太郎は77歳だが、こっちは逆に老け込んでいない。灰色に染めた総髪で、50代でも通る若さを保っていた。

 因みに権中将なのは中将になって部下を指揮するのを嫌ったからだ。

 ついでに言うと、調子に乗った武雄の両眼を斬ったのもこの桜太郎で意外と怖かった。

「ならお札の作成の能力もそっちに?」

「それが、そっちは継承出来なかったそうです」

「チッ、何をやって・・・出来るのに隠してるかの確認だけはするようにね」

「わかりました」

 と会話を終えた後に青夜が、

「さてと、お喋りはここまで。信長鎮魂祭の警備の最終確認を始めるよ」

 そう発言して、全員が背筋を正して会議に臨み、鎮魂祭の警備を確認したのだった。
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