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襲撃の翌朝、詣で騒ぎ、針のむしろ
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田中邸が襲撃された翌日(正確には日付が変わってたので同日)だが、青龍大学の登校時には早々と襲撃の件と親族である異能界の重鎮達の自決の情報が錯綜していた。
毎朝迎えにきてる野々宮稲穂はこの田中邸は初な訳だが『おはよう、田中君』と何事もなく車に乗り込んだ後の車内にて、
「田中君、昨夜、竜崎先輩達に命を狙われたとの情報が流れてるけど?」
「ああ、本当だよ。笑っちゃうだろ、野々宮? 東条院に喧嘩を売るんだから。宗家屋敷が落ちたとはいえ、どこまで東条院をナメてるんだよって話さ」
青夜は『古狸が温情裁定などするからだ』と内心怒っていたが、
「まあ、見せしめに連座で三族を捕縛したから、これでようやく東条院をナメる奴は居なくなった訳だけど」
「えっ? 何言ってるの、田中君?」
「何が?」
「自決したわよ。竜崎天昇、丹田銀丸、北桐紀州なら」
「・・・待った。捕縛される前にか?」
「ええ」
「まさか、全員?」
「そこまでは分からないけど有名どころは自決よ、7人くらいだったかしら?」
「皇軍がそんな不細工なミスをねぇ~。・・・いや、待てよ。もしかしたら」
青夜は確認の為にスマホで電話する事となった。
電話の相手は皇居吽軍のナンバー2、吽近衛中将の杜若擬天馬だ。
『これは吽近衛大将殿、いかがされましたか?』
「天馬さん、もしかしてオレの命令を無視して皇居吽軍を動かさなかったの?」
『いえ、命令しましたが実動部隊が『後日、必ず蒸し返されて難事になる』と判断したのか命令に反して動かず、報告しようにも夜分でしたので・・・』
(わざとか。こいつ、相当使えるな。さすがは親父殿の腹心なだけの事はある。『白赦』でどうせ三族は全員釈放なのを自決させるとは)
と青夜は思いながらも素知らぬ顔で、
「あっそ、命令違反者には命令違反の罪科だけは記録しておいてね。実際の処罰は必要ないから」
『畏まりました』
「で? 昨夜の成果を聞こうか」
その後、通学の車内移動中、ずっと青夜は報告を聞く事となった。
青龍大学の高等部の校舎前に到着して下車し、
『おはようございます、副宗家様』
「ああ、おはよう、みんな」
と出迎えられながら登校してると、その中に何故か担任の真達羅通春菜まで居て、
「田中、アナタ、なんて事をしてくれたのよぉぉぉっ! 人間国宝の丹田銀丸が死んでるじゃないのぉぉぉっ!」
「はい?」
「もしかして、異能界の重鎮が死にまくってるの、まだ知らないの?」
「いえ、知ってますけど、それが?」
興味無さそうに青夜が答え、春菜が、
「それだけなの、感想は?」
「オレは襲われた被害者ですよ? どう答えればお気に召すんです、春菜センセーは?」
「被害者? 田中の実力なら余裕であしらえたはずでしょ?」
「いえいえ、相手は毒や呪詛の武具を装備してましたので。本当怖いですよね、襲撃者って。『日本国の反逆者』を10人以上も育成してる青龍大学の方がもっと怖いですけど。青龍大学が『十二傑』とか褒めてた高等部の元生徒が5人も賊の中に紛れ込んでいたんですから。『青龍大学ではいったい何を教えているんだ』って話ですから」
「それよっ! 今、青龍大学が大変な事になってるんだから、その件で・・・」
「却下」
「はあ?」
「二度とこのような事が起こらぬよう見せしめの意味も込めて連中は厳罰に処しますから悪しからず。温情判決はありませんから」
青夜が事務的に答え、それが目的だった春菜が、
「そこを・・・」
「無理に決まってるでしょ。白虎寺だって大僧正以外の6人が狙われたらそれくらいの厳罰で臨むんですから。では」
青夜はそう言ってさっさと下足箱に向かったのだった。
◇
東条院分家頭にして東条院宗家当主、東条院緑子滞在の藤名屋敷では朝からアポなしの訪問客が山のように押し寄せてきて、東条院の一党によって、
「アポのない方はアポイトメントを取って改めてご訪問下さい」
「そこを何とか・・・金城殿にお目通りを」
「当屋敷には現在、東条院の新宗家当主、緑子様が居られますので。本当に・・・こちらが優しく言ってる内にお引き取り下さい」
陪臣次席の日ノ岡月雄がキレかけの笑顔でそう答え、無礼な訪問客を追い返したのだった。
その門前の様子を防犯カメラ越しに書斎のモニターで見ていた藤名金城は、
「青龍大学はどういう教育をしておるのだ? 10代後半の身空で東条院の副宗家の暗殺を企むなど。勝てる訳などないのに。実力差が分からないのか? ・・・それよりも若様だ。甘い裁定で連中を許したワシにまで飛び火するぞ、これは」
しみじみと呟いたのだった。
◇
田中邸でも同様の事が起きており、門前にて、田中邸護衛の5人に、
「アポイトメントのない方はアポを取ってから改めてご訪問下さい」
6人以上の使者が追い返されていた。
午前中に自宅に居るのは愛と葉月とアンジェリカで、窓から門前の様子を眺めていた葉月が不思議そうに、
「何があったの?」
「昨夜の騒動でしょ? その余波で何人か日本異能界の大物が自殺したらしいし。それで普段は重役出勤の私もこんなに朝早くから出社なんだから。本当に嫌になるわ」
アンジェリカが不機嫌そうに珈琲を飲む中、愛はと言えば、
(まさかあの中に丹田銀丸や北桐紀州の身内が混じってたなんて。失敗したわぁ~。私がちゃんと気付けてたら、この大惨事は止めれたかもしれないのに)
と少しだけ罪悪感を覚えたのだった。
◇
さて。
最近、御無沙汰の神奈川県の二千院目高の許にも昨夜の襲撃グループの家来達が押し寄せてきており門前払いをしていた訳だが、自室にて93歳で高齢の目高はと言えば、
「・・・ププッ、竜崎天昇と丹田銀丸は死んだのか。良い気味じゃ。さすがは我が曾孫。良い仕事をする。じゃが、さすがにしおらしくしてねばな。ワシが青夜を青龍大学に戻した事がバレたら大顰蹙じゃし」
とっくにバレてるのに、そんな事を呟いてお茶を飲んだが、気分良くお茶を飲んでいられるのは『三族連座』で賊の4等親が捕縛されるまでだった。
何故ならば。
◇
白鳳院晴彦の方はもう最悪だった。
次期当主になれるかの試験期間なので父親の令に意見する事も出来ない。
その為、命令通りに賊13人の4等親までを捕縛させたのだが、賊の中に無駄に名家の子息や子女が混ざっていた為に、異能界の公家だけで白泉、御池藤、百提灯、金斗石、牡丹寺、菊今出、黄泉小路の7家の出身者を捕縛する事となった。
捕縛後には当然、晴彦の許に顔見知りの重鎮公家の当主達が直々に詰めかけてきており、
「晴彦様、お願いです。『白赦』(白鳳院家が出す大赦)を今すぐに出して下さるように御前にお口添えして下さいませ。父はもう93歳で寝たきりなのですよ。座敷牢生活など寿命を縮めてしまいます」
「晴彦様、後生でございます。息子の嫁は昨日の時点で離縁し我が家から籍を抜いた事にして下さい。そうすれば息子は『三族連座』の適用を免れますから」
「晴彦様、御前様にどうか御再考されるよう進言して下され」
「晴彦様」
「晴彦様」
「晴彦様」
陳情の嵐だった。
晴彦は白鳳院の嫡流とはいえ次男坊だったので、35年間の人生で、ここまで重鎮達に縋られた事など今まで一度もない。
だが晴彦の方も白鳳院の後継者の試験中なので下手な安請け合いは出来ず、断らなければならないのだから針のむしろだった。
晴彦では裁決出来ぬ事案なので、
「父上の御加減が良くなった時に聞いてみるな」
そう言うのが精一杯でどうにか重鎮達を帰したのだった。
二千院目高の方は朝は御機嫌でお茶を飲んでた癖に、今や昼間から寝室の布団で寝る破目になってた。
『具合が悪い』と演じる為だ。
(拙い拙い拙い拙い。忘れておったわ。そうじゃ。竜崎天昇が偉そうに出来るのは嫁が白泉麗歌だったからじゃった。まさか、白泉家の先代と現当主の姉が『三族連座』で捕縛されるとは。丹田銀丸の妻は金斗石利美で娘の嫁ぎ先は百提灯家。拙い拙い拙い、公家に怨みを買いまくるぞ、これでは)
と寝込んでるところに、71歳、163センチ、白髪の額禿げ、眼鏡の老執事、伊豆野右近が入室してきて、
「御前様、白泉家の御当主様よりお電話が・・・」
「ワシは意識不明の重体じゃ。そう言えっ!」
「ですが、これで5回目ですよ? 白泉家の御当主の電話に5回連続で出ないのは非礼かと・・・」
「電話に出た方がもっと拙いんじゃっ! ともかくワシは意識不明の重体じゃから、そう言えっ!」
目高はそう絶叫して布団を頭から被り、
「青夜めぇ~。何をしてくれておるんじゃぁぁぁっ!」
そう呻いて仮病を続けたのだった。
藤名屋敷の門前では、
「二千院目高めぇ~っ! ワシの電話に5回も出ないとはっ!」
電話相手の白泉冷一が忌々しげに呟いてスマホを部下に渡したのだった。
冷一は67歳。173センチ、鼠色の染めた総髪で眼鏡を掛けた温厚そうな老年だ。格好は燕尾服とシルクハット。手品師よりも英国紳士被れを思わせた。左手で西洋杖を地面に付いてるが、足は悪くない。
尚、白泉家は800年前に白鳳院家から別れた傍系である。
その冷一がアポなしなので金城に会えず藤名屋敷の門前に立ったのは15分前だった。
官位持ちの冷一がここまでするのは、白泉家の今の惨状にある。
竜崎輪廻が馬鹿な事をした為に、白泉家は現在、先代の父親、竜崎家に嫁いだ実姉、姉の子供2人、姉の孫(輪廻以外の)4人全員が捕縛されているのだ。系譜上は白泉家は父親の1人だけの捕縛となってるが、もうなりふり構っていられない。
藤名屋敷の閉じた門の内側から日ノ岡月雄が困った顔で、
「白泉様、お願いですからお帰り下さいませ。昨夜の副宗家襲撃は宗家代理が4月に名家の血を引く者達に情けを掛けた結果で、宗家代理ではもう副宗家に意見出来ませんので。かといって現宗家はまだ4歳。宗家が副宗家に意見を言った瞬間に『誰が言わせたんだ』と逆に怒りに火を付ける事になりますから」
「いや、どうせ暇なので待たせて貰ってるだけだから。藤名殿に時間の空きが出来たら会ってくれるよう頼んでくれるだけでいい」
「ならばせめて車内にてお待ち下さい。門前に立たれると色々と困りますので」
「失礼な、年寄り扱いしてくれるな。まだまだ元気だぞ、ワシは」
「別に健康を気遣ったのではなく、外聞をですねぇ~」
などと話しており、
その様子を防犯カメラを通して、室内のモニターで見ていた藤名金城が、
「最悪じゃ。『正四位下、裏参議』の白泉の現当主、冷一殿が門前に立つなど。会ってもどうする事も出来ず、会わねば更に拙い事態となる。目高殿は仮病でやり過ごすと決めておるようだし」
金城は頭痛を覚えて打開策を考える破目になったのだった。
まあ、打開策など存在しなかったのだが。
毎朝迎えにきてる野々宮稲穂はこの田中邸は初な訳だが『おはよう、田中君』と何事もなく車に乗り込んだ後の車内にて、
「田中君、昨夜、竜崎先輩達に命を狙われたとの情報が流れてるけど?」
「ああ、本当だよ。笑っちゃうだろ、野々宮? 東条院に喧嘩を売るんだから。宗家屋敷が落ちたとはいえ、どこまで東条院をナメてるんだよって話さ」
青夜は『古狸が温情裁定などするからだ』と内心怒っていたが、
「まあ、見せしめに連座で三族を捕縛したから、これでようやく東条院をナメる奴は居なくなった訳だけど」
「えっ? 何言ってるの、田中君?」
「何が?」
「自決したわよ。竜崎天昇、丹田銀丸、北桐紀州なら」
「・・・待った。捕縛される前にか?」
「ええ」
「まさか、全員?」
「そこまでは分からないけど有名どころは自決よ、7人くらいだったかしら?」
「皇軍がそんな不細工なミスをねぇ~。・・・いや、待てよ。もしかしたら」
青夜は確認の為にスマホで電話する事となった。
電話の相手は皇居吽軍のナンバー2、吽近衛中将の杜若擬天馬だ。
『これは吽近衛大将殿、いかがされましたか?』
「天馬さん、もしかしてオレの命令を無視して皇居吽軍を動かさなかったの?」
『いえ、命令しましたが実動部隊が『後日、必ず蒸し返されて難事になる』と判断したのか命令に反して動かず、報告しようにも夜分でしたので・・・』
(わざとか。こいつ、相当使えるな。さすがは親父殿の腹心なだけの事はある。『白赦』でどうせ三族は全員釈放なのを自決させるとは)
と青夜は思いながらも素知らぬ顔で、
「あっそ、命令違反者には命令違反の罪科だけは記録しておいてね。実際の処罰は必要ないから」
『畏まりました』
「で? 昨夜の成果を聞こうか」
その後、通学の車内移動中、ずっと青夜は報告を聞く事となった。
青龍大学の高等部の校舎前に到着して下車し、
『おはようございます、副宗家様』
「ああ、おはよう、みんな」
と出迎えられながら登校してると、その中に何故か担任の真達羅通春菜まで居て、
「田中、アナタ、なんて事をしてくれたのよぉぉぉっ! 人間国宝の丹田銀丸が死んでるじゃないのぉぉぉっ!」
「はい?」
「もしかして、異能界の重鎮が死にまくってるの、まだ知らないの?」
「いえ、知ってますけど、それが?」
興味無さそうに青夜が答え、春菜が、
「それだけなの、感想は?」
「オレは襲われた被害者ですよ? どう答えればお気に召すんです、春菜センセーは?」
「被害者? 田中の実力なら余裕であしらえたはずでしょ?」
「いえいえ、相手は毒や呪詛の武具を装備してましたので。本当怖いですよね、襲撃者って。『日本国の反逆者』を10人以上も育成してる青龍大学の方がもっと怖いですけど。青龍大学が『十二傑』とか褒めてた高等部の元生徒が5人も賊の中に紛れ込んでいたんですから。『青龍大学ではいったい何を教えているんだ』って話ですから」
「それよっ! 今、青龍大学が大変な事になってるんだから、その件で・・・」
「却下」
「はあ?」
「二度とこのような事が起こらぬよう見せしめの意味も込めて連中は厳罰に処しますから悪しからず。温情判決はありませんから」
青夜が事務的に答え、それが目的だった春菜が、
「そこを・・・」
「無理に決まってるでしょ。白虎寺だって大僧正以外の6人が狙われたらそれくらいの厳罰で臨むんですから。では」
青夜はそう言ってさっさと下足箱に向かったのだった。
◇
東条院分家頭にして東条院宗家当主、東条院緑子滞在の藤名屋敷では朝からアポなしの訪問客が山のように押し寄せてきて、東条院の一党によって、
「アポのない方はアポイトメントを取って改めてご訪問下さい」
「そこを何とか・・・金城殿にお目通りを」
「当屋敷には現在、東条院の新宗家当主、緑子様が居られますので。本当に・・・こちらが優しく言ってる内にお引き取り下さい」
陪臣次席の日ノ岡月雄がキレかけの笑顔でそう答え、無礼な訪問客を追い返したのだった。
その門前の様子を防犯カメラ越しに書斎のモニターで見ていた藤名金城は、
「青龍大学はどういう教育をしておるのだ? 10代後半の身空で東条院の副宗家の暗殺を企むなど。勝てる訳などないのに。実力差が分からないのか? ・・・それよりも若様だ。甘い裁定で連中を許したワシにまで飛び火するぞ、これは」
しみじみと呟いたのだった。
◇
田中邸でも同様の事が起きており、門前にて、田中邸護衛の5人に、
「アポイトメントのない方はアポを取ってから改めてご訪問下さい」
6人以上の使者が追い返されていた。
午前中に自宅に居るのは愛と葉月とアンジェリカで、窓から門前の様子を眺めていた葉月が不思議そうに、
「何があったの?」
「昨夜の騒動でしょ? その余波で何人か日本異能界の大物が自殺したらしいし。それで普段は重役出勤の私もこんなに朝早くから出社なんだから。本当に嫌になるわ」
アンジェリカが不機嫌そうに珈琲を飲む中、愛はと言えば、
(まさかあの中に丹田銀丸や北桐紀州の身内が混じってたなんて。失敗したわぁ~。私がちゃんと気付けてたら、この大惨事は止めれたかもしれないのに)
と少しだけ罪悪感を覚えたのだった。
◇
さて。
最近、御無沙汰の神奈川県の二千院目高の許にも昨夜の襲撃グループの家来達が押し寄せてきており門前払いをしていた訳だが、自室にて93歳で高齢の目高はと言えば、
「・・・ププッ、竜崎天昇と丹田銀丸は死んだのか。良い気味じゃ。さすがは我が曾孫。良い仕事をする。じゃが、さすがにしおらしくしてねばな。ワシが青夜を青龍大学に戻した事がバレたら大顰蹙じゃし」
とっくにバレてるのに、そんな事を呟いてお茶を飲んだが、気分良くお茶を飲んでいられるのは『三族連座』で賊の4等親が捕縛されるまでだった。
何故ならば。
◇
白鳳院晴彦の方はもう最悪だった。
次期当主になれるかの試験期間なので父親の令に意見する事も出来ない。
その為、命令通りに賊13人の4等親までを捕縛させたのだが、賊の中に無駄に名家の子息や子女が混ざっていた為に、異能界の公家だけで白泉、御池藤、百提灯、金斗石、牡丹寺、菊今出、黄泉小路の7家の出身者を捕縛する事となった。
捕縛後には当然、晴彦の許に顔見知りの重鎮公家の当主達が直々に詰めかけてきており、
「晴彦様、お願いです。『白赦』(白鳳院家が出す大赦)を今すぐに出して下さるように御前にお口添えして下さいませ。父はもう93歳で寝たきりなのですよ。座敷牢生活など寿命を縮めてしまいます」
「晴彦様、後生でございます。息子の嫁は昨日の時点で離縁し我が家から籍を抜いた事にして下さい。そうすれば息子は『三族連座』の適用を免れますから」
「晴彦様、御前様にどうか御再考されるよう進言して下され」
「晴彦様」
「晴彦様」
「晴彦様」
陳情の嵐だった。
晴彦は白鳳院の嫡流とはいえ次男坊だったので、35年間の人生で、ここまで重鎮達に縋られた事など今まで一度もない。
だが晴彦の方も白鳳院の後継者の試験中なので下手な安請け合いは出来ず、断らなければならないのだから針のむしろだった。
晴彦では裁決出来ぬ事案なので、
「父上の御加減が良くなった時に聞いてみるな」
そう言うのが精一杯でどうにか重鎮達を帰したのだった。
二千院目高の方は朝は御機嫌でお茶を飲んでた癖に、今や昼間から寝室の布団で寝る破目になってた。
『具合が悪い』と演じる為だ。
(拙い拙い拙い拙い。忘れておったわ。そうじゃ。竜崎天昇が偉そうに出来るのは嫁が白泉麗歌だったからじゃった。まさか、白泉家の先代と現当主の姉が『三族連座』で捕縛されるとは。丹田銀丸の妻は金斗石利美で娘の嫁ぎ先は百提灯家。拙い拙い拙い、公家に怨みを買いまくるぞ、これでは)
と寝込んでるところに、71歳、163センチ、白髪の額禿げ、眼鏡の老執事、伊豆野右近が入室してきて、
「御前様、白泉家の御当主様よりお電話が・・・」
「ワシは意識不明の重体じゃ。そう言えっ!」
「ですが、これで5回目ですよ? 白泉家の御当主の電話に5回連続で出ないのは非礼かと・・・」
「電話に出た方がもっと拙いんじゃっ! ともかくワシは意識不明の重体じゃから、そう言えっ!」
目高はそう絶叫して布団を頭から被り、
「青夜めぇ~。何をしてくれておるんじゃぁぁぁっ!」
そう呻いて仮病を続けたのだった。
藤名屋敷の門前では、
「二千院目高めぇ~っ! ワシの電話に5回も出ないとはっ!」
電話相手の白泉冷一が忌々しげに呟いてスマホを部下に渡したのだった。
冷一は67歳。173センチ、鼠色の染めた総髪で眼鏡を掛けた温厚そうな老年だ。格好は燕尾服とシルクハット。手品師よりも英国紳士被れを思わせた。左手で西洋杖を地面に付いてるが、足は悪くない。
尚、白泉家は800年前に白鳳院家から別れた傍系である。
その冷一がアポなしなので金城に会えず藤名屋敷の門前に立ったのは15分前だった。
官位持ちの冷一がここまでするのは、白泉家の今の惨状にある。
竜崎輪廻が馬鹿な事をした為に、白泉家は現在、先代の父親、竜崎家に嫁いだ実姉、姉の子供2人、姉の孫(輪廻以外の)4人全員が捕縛されているのだ。系譜上は白泉家は父親の1人だけの捕縛となってるが、もうなりふり構っていられない。
藤名屋敷の閉じた門の内側から日ノ岡月雄が困った顔で、
「白泉様、お願いですからお帰り下さいませ。昨夜の副宗家襲撃は宗家代理が4月に名家の血を引く者達に情けを掛けた結果で、宗家代理ではもう副宗家に意見出来ませんので。かといって現宗家はまだ4歳。宗家が副宗家に意見を言った瞬間に『誰が言わせたんだ』と逆に怒りに火を付ける事になりますから」
「いや、どうせ暇なので待たせて貰ってるだけだから。藤名殿に時間の空きが出来たら会ってくれるよう頼んでくれるだけでいい」
「ならばせめて車内にてお待ち下さい。門前に立たれると色々と困りますので」
「失礼な、年寄り扱いしてくれるな。まだまだ元気だぞ、ワシは」
「別に健康を気遣ったのではなく、外聞をですねぇ~」
などと話しており、
その様子を防犯カメラを通して、室内のモニターで見ていた藤名金城が、
「最悪じゃ。『正四位下、裏参議』の白泉の現当主、冷一殿が門前に立つなど。会ってもどうする事も出来ず、会わねば更に拙い事態となる。目高殿は仮病でやり過ごすと決めておるようだし」
金城は頭痛を覚えて打開策を考える破目になったのだった。
まあ、打開策など存在しなかったのだが。
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( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。
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