実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド

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田中ビルの崩壊、青刃の奮闘、青夜の召喚

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 鍋島加我は青龍大学の教授会で入手したスマホを手にマップ検索を見て青夜の現住所の田中ビルへと出向いた訳だが、端午の節句のこの日、青夜は青龍村だった。

 名古屋~東京間は新幹線だと1時間40分で移動可能だが、青龍村は和歌山県にある。

 在来線で三重県を移動しなければならない。

 東京に移動するには最速だと、青龍村までヘリを呼んで南紀白浜空港まで向かいチャーター機で一気に東京へ、という方法もあったが、異能力のある世界だ。

 襲撃されて墜落したら敵わないので青夜は飛行機を嫌っており、青夜個人が空中ジャンプで東京までの長距離を移動などしたらバテバテになってしまい、その後に戦闘など出来る訳もないので、電車移動となり、夜10時現在、青夜はまだ東京に到着していなかった。

 よって田中ビルに青夜は不在だった。

 そればかりか義母の愛、義姉の葉月とシャンリーも。

 2階のトレーニングジムでさえ、臨時休業で無人の始末だった。

「誰も居ないだと? ・・・どういう事だ?」

 加我は『眼』を使った。『過去視』だ。





 20分前の過去の様子が視え、月御門萌美がやってきて、

「ほら、逃げるでありんすよっ! ここに『ヤマタノオロチ・伍ノ首』が来るのは時間の問題でありんすから」

「何故、ここに来るの?」

「『伍ノ首』の異能力を得たのが青龍大学の高等部の入学式の壇上で『田中』とコールしてた間抜け男だからでありんす」

「・・・どうして月御門が私達を助けるのかしら?」

「そんなの月御門と東条院との間で対『ヤマタノオロチ』で協定が結ばれてるからでありんすよ。ぬし様達を見捨てたらわちきの首が飛ぶからでありんす。ほら、理解したのならさっさと支度をするでありんす」

「待って。ジムの人達も訳を言って帰らせるから」

「それなら心配無用でありんす。今、わちきの部下達が術で操って帰してるでありんすから」

 とか喋ってた。





「間抜け男で悪かったなぁぁぁぁぁっ!」

 と激昂した加我が空振りした憂さ晴らしであっさりと田中ビルをドゴゴゴゴッと崩壊させて、夜の都内に消えようとしたところを、

「探したぞぉぉぉぉぉぉ、オッサンンンンンンっ!」

 ブチキレた桃矢が上空から空中瞬動で特攻してきたので、加我は慌てて、

「いかん」

 と転移して逃げたのだった。





 ◇





 『日本神話ヤマタノオロチ・伍ノ首』を発現した鍋島加我はお尋ね者だ。

 『ヤマタノオロチ』を倒せば莫大な褒賞と地位が約束されてるのは毎回の事なので、誰もが眼の色を変えて追ったのだが並みの奴では毛ほどの傷も負わせられずに返り討ちに遭うのが関の山だった。

 それでも誰もが加我を追う中、追われてる加我はと言えば、東京月御門の屋敷に顔を出していた。

 当然、加我の来訪目的は青夜の家族の田中家の面々だった。

 家族を人質に取れば青夜を誘き出せるとの公算での。

 だが、それはうっすらとしか情報を知らない加我の皮算用だった。

 家族歴1ヶ月の者達を青夜の人質として使えるかは甚だ疑問だったのだから。

 そんな訳で東京月御門の屋敷にお邪魔した訳だが、その加我の行動を読んでいたのが東条院青刃だった。

 日本屋敷の正門を潜った玄関前で日本酒の奉納樽を椅子にしてた青刃が、

「待ってたぞ、『伍ノ首』」

「誰だ、ボーズ?」

 青刃はまだ14歳。確かに子供だ。

 それに東条院宗家の次男坊なのだから一応は有名人なはずだったが『落ちこぼれ』を演じる青夜が悪目立ちしており、意外や青刃の方は影が薄いという現象が起きており、加我も分からずに問う中、

「東条院青刃」

「ああ、あの小僧の弟か。それはちょうど良かった。あの小僧の関係者は全員血祭りにあげないと気が済まなくてな」

 殺気立った加我がコンマ1秒で突進して青刃の胸板を力任せに手刀で貫いたが、グシュッではなくバシャッとの感触だったので、

「ん?」

「バーカ」

 青刃が笑うと同時に水に変わった。

 加我が貫いた青刃は幻術で作られた水の分身だったのだ。

 そして、ただの水な訳もない。

 ヤマタノオロチの弱点は日本神話の時から決まってる。

 酒だ。

 なので、遠隔で操られた青刃の分身だった酒が加我の口に入る。

「ぶぶっ・・・ゴクッ、これは・・・酒?」

「さっさと酔い潰れて貰うぞ」

 声と共に周囲に配置されていた日本酒の奉納樽10個が内側からバシュゥゥッと噴水して意思を持った蛇のように一気に加我を襲った。

「はん、酒ごときでこの私が倒せると本気で思っているのか?」

「物は試しさ。いにしえの言い伝えを馬鹿には出来ないからな」

 声はすれども姿は見えない。

 だが、ヤマタノオロチは蛇だ。

 蛇は『熱感知』で獲物を捕捉する。

 温度センサーを使い、加我は遅蒔きに月御門の屋敷の木の上の陰に隠れてる青刃を発見した。

「そこかっ!」

「チッ、さすがに気付くか」

 青刃は構えて青龍拳を放った。

 14歳ながら7メートル級の青龍の拳圧が出る。

 普通に凄い事だが、防御特化型の『ヤマタノオロチ・伍ノ首』には効かず、避けも防御も腕で払う動作もせずに加我は青龍の拳圧を受けて無傷で消滅させて、そのまま青刃に突進して、

「死ねぇぇぇぇぇぇっ!」

 手刀を繰り出す中、柳の幻術が青刃の手首を引っ張り・・・・、紙一重で手刀を躱した。

「うわ、助かったぞ」

 引っ張られた先には黒マスクをしてる隼人が居て、青刃を受け止める。

「いえいえ、それよりも・・・お時間です」

 と懐中時計の時計盤を見せた瞬間だった。

 東京月御門の玄関先に陰陽道の方陣が出現して、その中から青夜が召喚されたのだった。





 ◇





「おわっ、どこだ、ここ? 東京月御門の屋敷?」

 現れた青の学ラン姿の青夜が状況の把握に努める中、

「田中ぁぁぁぁぁぁ、青夜ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 加我が青夜の姿を見て歓喜するように叫んだが、

「ああ、おまえが『伍ノ首』か? 『初めまして・・・・・』。まあ、すぐにお別れする訳だが・・・」

「待て、こらぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! 私とおまえは『初めまして』じゃないだろうがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 加我がそう叫び、青夜がマジマジと加我の顔を見てから、

「ん? どこかで会ったか? まさか、東条院の一党の家来なのか? だとしたら悪いな、覚えてないかもしれん」

 素直に謝る中、

「全然違うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! まさか、本当に覚えてないのかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ?」

「ええっと、待った。今、思い出す」

 青夜が3秒間考えた後、頬をポリポリと指先で掻きながら、

「ヒントが貰えたりしたら嬉しいんだが?」

 と言った瞬間、加我がブチッと切れて、

「もういい、死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」

「はん、返り討ちだよ、名もなきオッサンっ!」

「誰が名もなきオッサンだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 突進して手刀を繰り出すも、手首を掴まれて捻られて、加我の身体全体が回転した。

「・・・なっ?」

 そのまま地面に派手に叩き付けられる中、青夜が勝ち誇るように、

「東条院流合気、蛇ひねり」

 技名を言ったが、遠めで見てた青刃が、

「そんなのないでしょ」

「バラすなよ、青刃」

「ってか、何、その強さ? 強さを隠してるのは知ってたけど『ヤマタノオロチ』を圧倒的出来るくらい強かったの?」

 と青刃が呆れ、

「『能ある鷹は爪隠す』ってね」

 青夜が誇らしげに答える中、地面に倒れてた加我が、

「舐めやがってぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」

 ブレイクダンスでもするように地面で倒立して回転しながら蹴りを放つも、ピョンッと躱して、

「東条院流青龍拳、蛇頭潰し」

 両足で加我の顔面を踏んだのだった。

「それらしく言ってるけど、それもないから」

 青刃がツッコむ中、

「さすがに硬いな、さすがは防御特化型の『伍ノ首』」

 青夜が踏んだ感触で称賛し、

「まあ、覚醒したのが『名もなき雑魚のオッサン』だったのが唯一の救いか」

「誰が名もなき雑魚のオッサンだぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 加我が怒り任せに『日本神話ヤマタノオロチ・伍ノ首』の気を爆発的に高めて顔面を踏む青夜を吹き飛ばしたが、空中5メートルの位置で空中着地した青夜が、

「『ヤマタノオロチ』だけあって馬力だけはさすがにあるな。酒も全然飲ませてないみたいだし」

 冷静に相手の状態を観察して、

「こりゃあ手こずるかも」

「手こずる以前に、ここで終わらせてやるぅぅぅぅぅぅっ! 喰らえっ! ヤマタノオロチビームぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!」

 と即興で考えた加我が両手を開いた花のように形作って掌から紫色の怪光線を放った。

「なっ・・・その構えは色々と拙いだろぉぉぉぉぉぉっ!」

 ビームを出すとは思っていなかった青夜が慌てて避けるが、避け切れずにビームをどてっ腹に喰らって、

「グアアアアアアアア」

 と悲鳴を上げ、

「ハァーッハッハッハッ、この私を甘く見るからだぁぁぁぁぁぁっ! 本当はもっと残忍なやり方で嬲り殺しにしてやりたかったが仕方がない。これで勘弁してやーー」

 上機嫌で加我が勝ち名乗りを上げてる最中に、ポンッと青夜は紙人形になったのだった。

 それには、

「はあああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ?」

 加我もマヌケな声を出す。

「ど、どういう事だ?」

 落ちてきた腹に穴の開いた紙人形をキャッチする。

「い、いつからだ?」

 と自問した加我が数ある候補の中から最悪のシナリオを口にした。

「・・・ま、まさか、最初から? 遊ばれてた?」

 加我が弟の青刃を睨むとそこには紙人形が2枚ヒラヒラと舞ってるだけだった。

 もう影も形もない。

「弟を逃がす為に紙人形で遠方から干渉してきたのか?」

 と口にした後、

「ド畜生おおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」

 そう加我は悔しがったのだが、次の瞬間にはグシュッと背後から剣で腹を貫かれた。

「ゲフッ」

「見つけたぞ、オッサンンンンンンっ!」

 背後からブチギレた桃矢が笑う中、

「・・・チッ、またおまえか、吉備桃矢っ!」

「あれだけ派手に暴れてたら、そりゃな」

「・・・お呼びじゃないというのに・・・」

 グリッと腹に突き刺さった剣をひねられて、

「ギャアアアアアアアア」

 激痛で加我が悲鳴を上げる。

 それを見て笑った桃矢が、

「さてと、それじゃあ、飛ぶぜ」

 桃色の香りを出して加我を包むと同時に、またも転移したのだった。
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