実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド

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青夜のゴールデンウィークの予定表、蚩尤の邪

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 ゴールデンウィークとは4月末から5月初旬に掛けて祝日と休日が重なる日本特有の期間の事である。

 その期間、平日も休めば最長で10日なんて事もあるらしいが、今年は9日らしい。

 但し、それは一般人の話だ。





 異能界でゴールデンウィークはこう呼ばれていた。

 異能発現週間。

 何せ、五節句の1つ、端午の節句が5月5日にあるのだ。

 異能力は誕生日等々の記念日に覚醒する事が多く、端午の節句でも統計的に男子の異能力の覚醒率が高かった。

 当日だけではなく、その前後を合わせた5日間、5月3日から5月7日も覚醒の確率が上がった。

 どうして覚醒する確率が高いのか明確な理由を聞かれても困るのだが。

 そんな訳で、東条院では5月3日~5月7日の5日間は式典だらけだが、他も凄く、





 4月29日(祝日)、皇居四柱殿上式。四柱晚餐会。

 4月30日、死月治めの儀。弐式グループとの連絡会。

 5月1日、東京龍門神社での奉納の儀式。一門衆(仁王家除く)挨拶。

 5月2日、東条院の節句前大挨拶会。白鳳院枢の十日祭。

 5月3日(祝日)、移動日。日の出と同時に和歌山県に出発。青龍村へ到着。

 5月4日(祝日)、日の出の熊野詣で。青龍村の龍門神社のお神輿の儀。

 5月5日(祝日)、青龍村の龍門神社で奉納相撲大会。青龍穴の儀。

 5月6日、移動日。東京へ出発。都内到着。

 5月7日、東条院主催の皐月武術祭。

 5月8日、東条院主催の皐月武術祭終了。





 新宗家の緑子が4歳の為、東条院の副宗家として青夜がそれら総てに参加する事が今年は決まっていた。

 邪気汚染してまだ浄化中の宗家屋敷は殆ど関係がない。

 東条院では五節句の時期、歌山県へと移動するのだから。

 『五節句の総てを物心付いた時から毎年、一族発祥の地の青龍村で過ごしてその習慣が身体に染み付いてるから今更移動するのがアホらしいとは言わないけどさ。それにしても』と青夜は思いながら、

「ジイ、青龍村には新宗家になった緑子も連れていくのか、これからの五節句全部?」

「無論です」

「グズるぞ、絶対?」

「それをアヤすのが副宗家の・・・」

「ふざけるなよ。ジイがやれ」

「嫌ですよ」

「新宗家の護衛が最優先だからな。ジイも守れよ」

 青夜はそう言いながら、夢見たゴールデンウィークの遊びを断念したのだった。





 4月下旬。

 田中家3階のキッチンダイニングで夕食を食べながら青夜が自分のスケジュールを家族に伝えると、

「ええぇ~、そうなの、青夜? せっかくのゴールデンウィークだから遊びに出掛けたかったのにぃ~」

 葉月が口を尖らせて文句を言ったのだった。

「私はウチのママの誕生日もあってアメリカ合衆国の屋敷に顔を出さないと色々と五月蠅うるさいからこの時期は関係ないんだけどね」

 それがアンジェリカの感想だ。

 アンジェリカの母親、エリザベート・F・ブラッディームーンの誕生日は4月30日。アメリカ合衆国現大統領ジェームズ・マッケンリーの誕生日が5月4日なので、そちらも参加するとかで、ゴールデンウィークはアンジェリカはアメリカ合衆国にずっと滞在する予定なのだ。

 青夜が、

「それで問題はシャンリーさんなんだけど、どうするの?」

「私? どういう意味よ?」

 箸でご飯を食べながらシャンリーがキョトンとすると、

「アンがアメリカ合衆国に行く時はBB財団の護衛も連れていくんだよね?」

「ええ」

「東条院も和歌山県移動では部隊を連れていくし。となると、都内がガラ空きになって中国の異能部隊が絶対にシャンリーさんにちょっかいを掛けてくると思うんだけど、この前みたいに」

「それはないんじゃない? ゴールデンウィークは都内は比較的安全だから」

 というのがシャンリーのべんだった。

「えっ、そうなの?」

「ええ。ゴールデンウィークの都内の警備はかなり強固だから」

「皇居でも式典が目白押しだものね。その関係で全国から凄腕の異能力者達が都内に集結する訳で、その凄腕達がいいところを見せたくて都内の騒動に首を突っ込むとかでゴールデンウィーク中は他国の勢力も大人しくしてるって話だから。それに・・・『嵐の前の静けさ』って言うものね」

 愛の補足説明で『伍ノ首』の事だと悟った青夜が『それ、極秘情報だよ、ママ』と注意しつつも、

「・・・なるほど。『そっち・・・』の『観測』の為に中国の精鋭部隊は日本に残ってる訳か。てっきり東条院の前当主の遺体強奪の失敗を挽回する為にシャンリーさんを狙ってるとばかり思ってたけど」

「東条院の前当主の遺体の強奪って何? そんなモノ盗んでどうするの?」

 シャンリーの質問に青夜が、

「記憶を抜くのさ。東条院流青龍拳は中国神話の神仙術が源流とか言われてるからね。その秘伝書が欲しいらしくって」

「へぇ~。まあ、私は私で気を付けるから田中家の事は気にせず和歌山県にいってらっしゃい」

「うん」

「熊野大社の破魔札をお願いね」

 愛に言われて、

「了解」

 青夜は答えたのだった。葉月が、

「私も和歌山県に付いて行きたいんだけど?」

「葉月さんは空手教室があるでしょ」

「そうよね。早く引き継ぎをしないとね」

 葉月はガッカリしたのだった。





 ◇





 シャンリーと青夜の言葉は両方とも正しかった。

 シャンリーの予想通り、シャンリーは狙われなかったし、青夜の予想通り、東条院の前当主の遺体強奪失敗の挽回の為に中国の異能部隊は日本に残っていたのだから。

 東条院青蓮の遺体奪還を目論んで派遣された中国の凄腕の南斗派玄武の『地仙』の凄腕19人は『本国への帰国命令』を無視して日本に滞在し続けていた理由は帰国したら処罰されると分かっていたからだ。

 古来より中国では失敗は功績で相殺される。

 19人は酔い潰れた失態を挽回すべく、中国政府が欲しがってる二十八宿の星宿のシャンリーではなく、『東条院の借りは東条院で返す』と言わんばかりに東条院家の一番弱いところを狙ってきた。

 つまりは新宗家になったばかりの東条院(旧姓、小巻園)緑子をだ。

 4歳の子供で、まだ異能力すら発現していなかった訳だが。

 現在、東条院緑子は分家頭の藤名家の屋敷に滞在中な訳で、中国の異能精鋭部隊の『地仙』19人が狙おうと都内の夜空を移動中に、中国の関東エリアのチーム統括のチェ・ホンが、

『おまえら、何を考えてる? 本国の帰国命令を無視して? さっさと帰れっ!』

 中国語の念話で通達するも、34歳。189センチ。屈強で古代中国の武将をイメージさせる地仙のシュー・ウェンロンが、

『このまま帰国しても罰を受けるからな。土産が必要なんだよ、こっちも』

『だからって、日本の四柱を狙うか? 四柱って言われてるだけあって、東条院は・・・』

 『五月蠅うるさい』と念話を遮断したウェンロンが仲間に向かって、

『相手は子供だが油断はするなよ。東条院ってのは日本では屈指の名家らしいからな』

 念話でげきを飛ばした。

 『ワシらなら余裕じゃろう』『違いない』などと念話で同意した地仙達が藤名家に近付いた訳だが、突如として自分達の『気』が減少した事にウェンロン達は気付いた。

 『何だ?』と不思議がるが、そのまま続行した為に東条院の周辺を警備してた警視庁の異能部隊と遭遇する事となった。

 路地でバッタリではない。空中を空中疾走で移動中に電柱の上やビルの屋上に居た日本の異能警察にだ。

「止まれ」

「おまえ達、何者だ?」

「身分証を見せて貰おう」

 奇しくも肥後炎刀流のサムライ4人だったのだが、南斗流玄武の上巻習得者の地仙19人は、

「五月蠅い」

「消えろ、日本の官吏風情が」

 問答無用で襲い掛かり、

「その程度の実力で・・・」

「愚か者が」

 いくら場所が日本国内でサムライの異能力者に『自国補正』があって有利だろうと、その肥後炎刀流の中伝程度4人を相手に苦戦する事となった。

 理由は明白だ。

 『気』が減少し、更には乱れて上手く練れないのだ。身体も心なしか重い。

 ともかく何かが変だった。

 不調の原因が前祝いで飲んだ中国の高級酒に含まれていた『本命』の仙人殺しの『蚩尤しゆうの邪』が潜伏する形で全員の身体に残っており、こんな太古の呪詛など今の時代ではとっくに失伝していて19人は誰も知らず、自分達の身体が『蚩尤の邪』に侵されてる事を見抜けずに(本人達は)原因不明の不調の中、戦闘で次々と倒されていき、

「クソ、どうしてこのオレが、こんな雑魚に――ギャアアアアアアア」

 ウェンロンも倒され、残る8人になったところで『撤退だ、撤退しろ』と尻尾を巻いて逃げる事となった。





 『蚩尤の邪』は運も喰らう。

 お陰で更なる不運を招いた。

 逃げた中国の『地仙』8人の中に18年前のシャンリーの母親の暗殺チームに参加していたヤン・ムーという42歳、身長167センチ。見るからに武道家の男が居り、当時、BB財団の護衛チームと激突しており、18年後にアンジェリカの護衛として日本に来ていた41歳、身長181センチ、短髪の黒人で元来は黒眼だが、右眼を18年前にそのムーに潰されて青眼を入れてる、ガムを噛んでるジャンロ・スイーパーと再会してしまったのだ。

 正確にはスコープ越しに発見されて遠距離からムーは狙撃されただが。

 それもASシリーズの力天使パワーのライフルで。

 さすがはBB財団。日本国内に兵器級を持ち込んでいた訳だが、狙われたムーの方はたまったモノではなく狙撃されたと気付いた時には胸に風穴が開いた後だった。

「グハッ・・・何だ? どうし・・・」

 と一撃で見事に心臓を撃ち抜かれて力尽きる。

『ヤン? クソ、 どうなってる? ・・・ゲフッ、何だと? 弾が見えなかったぞ?(ガク)』

『冗談じゃ・・・・・・ブハッ、そんな』

 その他2名がついでに狙撃されて、アジトまで辿り着いたのは僅か5人だった。

 その後、命令に従ってその5人は本国へと帰還したが、狙撃された3人は死に、炎刀で斬られた11人は捕縛されたのだった。





 深夜にスマホが鳴り、青夜はスマホの不便さを思い知らされる事となった。

 報告の内容は新宗家の緑子が滞在する東条院分家の藤名家を襲撃しようとしたと思われる中国の部隊が日本の異能警察に撃退されたとの内容だった。

 『あっそ、引き続き警戒よろしく』と答えてスマホを切ると、同衾するアンジェリカが目覚めて気だるそうに、

「・・・何かあったの?」

「つまらない事だよ」

「起こした罰よ、青夜。抱き枕になりなさい」

 明日アメリカ合衆国に帰るアンジェリカの為に葉月が気を利かせたので、今日はアンジェリカ1人だけが青夜の部屋に居り、

「分かったよ、アン」

 青夜は苦笑しながらアンジェリカの赤色のシースルーのネグリジェで覆われたアメリカサイズの胸元に顔をムニュッとうずめながら、

(新手の拷問だな、これは)

 抱き合うように眠ったのだった。
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