実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド

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利根川強歩、その8、十字軍の完全撤退、防衛戦に勝利するも、青夜の帰還

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 総ては深夜1時。

 フランシスコ・カンナヅキが水神製鉄所の空き倉庫の内側の壁にスプレーで書かれた文字を見つけた直後にまで帰趨きすうする。

 スプレー文字と同じくスプレーで『→』と書かれており、フランシスも素直にそちらの方向に視線を向けたが何もなく、スプレー文字の矢印の先に何か小さな文字が書かれてる事に気付き、近付いて文字を読むと、ボールペンで故意に・・・小さな文字で、





『イエス様の顔を踏んでるぞ』





 と書かれている事に気付いて、慌てて飛び退いたのだが、倉庫内のコンクリートの床が千円札サイズで光り輝いていた。

 注目すると本当に光り輝く紙からイエス・キリストの顔の絵が消えており、5秒後にはただの真っ白な紙になっていた。

「クソったらぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 それを見たフランシスコは悪態を吐きながら背筋を凍らせたのだった。

 世界中でデカイ顔をしてる十字軍が日本で幅を利かせられないのは、江戸時代に徳川幕府が国内の神道仏教に総力を挙げて作らせたキリスト教弾圧術式の『踏み絵』の所為だ。

 この術式は日本固有のモノで日本人のみが対象だが酷い物だと『強制改宗』まであった。

 キリスト教では有名な日本の悪しき術式だ。

 一応、敗戦後の極東国際軍事裁判で『禁呪』に指定し、日本でも使用禁止・・・・になってるが、今のように絵が消えて証拠が残らない仕様が開発されてからは公然と使用されていた。

 余りに有名な為にその効果ももうバレバレで、初詣や七五三で神社仏閣に出向いた事がある者が対象なはずだが。

「えっ? 何で? あのサイズで半分以上『信仰心』が削られただとぉ? どうしてだ? オレは日本の神社仏閣には足を運んだ事などないぞ。それにそもそもイタリア人だし・・・まさか、祖父が日本人でその血を引いてるからか?」

 と驚いたフランシスコが振り返って、

「全員、気を付けろっ! あの忌まわしき術式『踏み絵』があるぞっ!」

 10人の部下に言った時には、

「うわぁぁぁぁっ! しゅの美しい顔を、私は何と罪深い事を・・・」

 十字軍所属の日本人の1人が『踏み絵』を踏んで、この世の終わりのような声を出していた。

 『この場所は拙い』と悟ったフランシスコが部下10人に、

「全員、撤収するぞ」

「ですがピエールと客8人を一度に運搬するには車両が・・・」

「何を言ってる? 我々だけだっ! ピエールはどうせもう使い物にならない、捨てておけっ! ピエールを失った今、客ももう必要ないっ! そもそも、この場所がバレた時点でなっ! さっさとズラかるぞっ!」

 こうして撤退した訳だが、倉庫の入り口前に停めていた車に乗り込むと、車内でフランシスコの足許が光り、

「へっ? まさか・・・」

 恐る恐る足元を見るとまた千円札サイズのイエス・キリストの顔の絵が消え始めてる紙が落ちていた。

「ふざけるなよぉぉぉぉぉぉぉっ! 白虎寺・・・ぃぃぃぃぃぃぃっ!」

 またもやゴッソリと信仰心が奪われて倉庫に入る前の5分の1の信仰心になったフランシスコが喚き声を上げ、発進した車内でスマホを片手に、

「オレだ。全員を集めて今すぐ白虎宗の寺を襲えっ! あるだろ? 小白虎宮山の白安寺ってのがっ! 何言ってる、今夜だっ! そうだ、今からだよっ!」

 そう命令して、自分達はそのまま成田空港に向かい、チャーター機でローマに逃げ帰っていったので、1時間後に三宝兎から逃げてる陣の電話が掛かってきた時には空の上で電話には出られなかった。





 ◇





 十字軍が撤収した後に遠くからその様子を眺めていた分身の青夜(本体はビジネスホテルで正座中)が水神製鉄所の倉庫内に姿を見せていた。

「意外に輸血パックの血でもバレないものだな」

 青夜はそう笑いながらボロボロで気絶中のピエール・ヴェルデの切断された右腕の残りの箇所を引っこ抜いた。ポンッと紙人形の腕に戻す。

 そして腕のあるボロボロのピエールの身体のツボを押して乱れた気脈の流れを正常に戻した。

「これでよしっと。後は治療をして海外に売ればいいだけだな。おっと、そうだ。踏まれなかった踏み絵は回収っと」

 倉庫内の床に置いた3枚の千円札サイズのキリストの絵を風で回収して、大切に木板2枚の札入れに収納すると、青夜の分身はピエールを小脇に抱えてそのまま倉庫から出ていったのだった。





 そうなのだ。

 キリスト教弾圧術式『踏み絵』は青夜の仕業だった。

 つまり、十字軍のフランシスコの命令で、陣達バビロンが深夜2時に白虎宗の小白虎宮山白安寺を攻撃したのは完全な誤解な訳で、その総ての元凶は青夜だった。

 だが、その真実を知る者は悲しいかな誰も居なかった。





 ◇





 そして深夜3時。

 小白虎宮山白安寺を攻めていたバビロンは白虎密教の僧侶達以上に後から駆け付けた三宝兎の活躍によって半分以上が倒され、幹部達が逃げた事で300人程が総崩れとなって蜘蛛の子を散らすように逃げていった。

 (電話を受けて三宝兎と青夜の部屋に出向いてビジネスホテルを出発したのが2時23分で、車移動が20分、春菜の説教が10分なので、実質、三宝兎は17分しか戦っていない訳だが、それでも三宝兎の活躍により)小白虎宮山白安寺側の大勝利していた。

 白安寺も守られた。

 三宝兎の斬撃によって南側の山が少し削れて、北側の裾野の火が断水によって消火出来ずに山門が綺麗に燃える被害が出たが、それは勝利の為の『尊い犠牲』という奴だ。

 三宝兎は止まらず、逃げるバビロンを追撃しようとしたが、

「関、もういいわ」

「本当にいいのか、春菜ちゃん、アイツラを逃がして? 昼間に青夜に頭を下げにきてた、いけ好かない奴もいたけど」

「いいのよ、白安寺が守られたんだから」

 大僧正の命令を完遂し、やり切った感のある清々しい笑顔で春菜は答えたが、それは春菜の主観であって、白安寺から降りてきた白虎密教の徳の高そうな老僧が、

「小娘どもぉぉぉぉぉぉっ! もう少しうまく出来なかったのかぁぁぁぁぁぁっ!」

 ハッスルして大激怒していた。

 怒るのも当然だ。
 
 燃えた北側の山門は立派な門構えだったし、南側の山の裾野は見事にえぐれてるのだから。

 バビロンに落とされなかったとはいえ、被害は甚大だった。

 だが、その老僧の主張には春菜も不満げで、

「何よ? こっちは大僧正の直接命令で眠い中、救援に来てあげたのにっ!」

「救援には感謝するが、何も水道管を壊す事はないだろうがぁぁぁぁぁぁっ! お陰で消火に手間取ったんだぞぉぉぉぉぉぉぉっ! それに南側ではそっちの小娘が放った攻撃でお山が削れてるんだからなぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 『眼』を飛ばしてバッチリ見てたのか、三宝兎の指差して吠えたのだった。

 さっき戦闘中に怒ってた癖に、春菜は三宝兎を擁護するように、

「『それくらい・・・・・』いいじゃないの、お寺は守られたんだから(春菜個人の感想です)」

「ホントホント」

 山を削った張本人の三宝兎も頷いたが、

「小娘ども、反省しとらんなぁぁぁぁぁっ! 説教じゃぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 と老僧が唾を撒き散らしながら喚き散らし、三宝兎と春菜が視線で『殴っていい、この爺さん?』『ダメよ、一応は白虎密教の白安寺の代表みたいだから』と語り合う中、

「そこで正座せいぃぃぃっ! 白安寺の歴史を聞かせてやるからぁぁぁぁぁぁっ! あれは鎌倉時代、幕府を開いた源頼朝公がお亡くなりになった翌年の・・・・・・」

 その後、三宝兎と春菜は正座させられ、本当に老僧に白安寺の歴史を1時間も長々と語り聞かされる事になったのだった。





 ◇





 一年以組の他の生徒達も呑気には眠れなかった。

 ビジネスホテルから田中青夜が消えたからだ。

 もう青夜は東条院の『落ちこぼれ』の若様ではない。

 宗家の死によって(本人は継ぐ気はサラサラなかったが)後継者筆頭で、初七日法要の後の新宗家当主の発表をもって東条院宗家を継ぐ男なのだから(と、下っ端は思ってる)。

 なので、一年以組の東条院の一党の生徒達は全員が起きて青夜の捜索に当たっていた。

 電話で状況を報告した際、宗家代理の藤名金城が『探さなくてもいい』と言ったのに、それを『若様の身を案じないなんて。宗家を乗っ取る気か?』と勝手に誤解して。

 そんな訳で深夜に大捜索してた訳だが、留守番も置いていた。

 野々宮稲穂が青夜の部屋での留守番だった。

 霊獣使いなので霊獣で捜索こそしていたが。

 そこに青夜がフラッと戻ってきて、

「んっ? 野々宮? 何してるんだ、オレの部屋で? もしかして夜這いか?」

「田中君? 良かったぁ~、無事で。心配したのよ。どこに行ってたの?」

「内緒」

「もう。ともかく電話で田中君の捜索に出てるみんなに伝えるわね」

 稲穂がスマホで伝える中、

「眠いんだけど寝ていい?」

「ええ、どうぞ。膝枕しようか、田中君」

「いやいや、膝枕はイチャイチャする為のものであって本当に寝る時にはしないものだぞ、野々宮」

「それもそうね」

 こうして稲穂が部屋を退出し、青夜はベッドで眠った訳だが、寝てる最中にその顔を見に弁真が現れて、青夜は呑気に寝られる性格ではなかったので、

「・・・榊、何の真似だ? 用件なら明日にしてくれ」

「あのですねぇ~、こっちはずっと若様を探してたんですよっ!」

「ん? 藤名のジイの手の者と一緒だったから心配しなくても良かったのに」

「そうなんですか? 聞いてませんが」

「ともかく、おまえも寝ろ。明日も昼まで朝から歩くんだから」

「はい、おやすみなさい、若様」

 こうして弁真も出ていって、青夜はようやく眠る事が出来たのだった。
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