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利根川強歩、その6、本当の夜の部の開幕
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日付が変わった深夜1時。
2時間の利根川強歩の夜の部を終えた一年以組がビジネスホテルの玄関ロビーに戻ってきた。
「結局無駄足だったわぁ~。収穫は裏切り者の白虎信仰の僧侶達と水神神宮の宮司一族だけで。他はスタジアムを潰した関と田中にブルッちゃって現れもしないし」
と春菜が嫌味ったらしく正座をする青夜を見て、
「ちゃんと正座してたんでしょうね、2人とも?」
「もちろんですよ、春菜センセー」
青夜が嘘臭い笑顔で答える中、春菜が、
「私達が戻る2分前まで関の膝枕で寛いでた癖に、何ヌケヌケと言ってるのかしら、田中ぁ?」
「あれれ、何の事ですか? オレ、知りませんよぉ~?」
そう青夜はすっとぼけた。
「ったく、もういいわ。収穫もあって機嫌もいいから。2人ももう正座はいいわよ、部屋に戻って寝なさい。明日は朝6時起床だから、そのつもりでね」
「ええぇ~、朝の10時にして下さいよ」
「どれだけ寝るつもりよ、田中。馬鹿言ってないでさっさと寝なさい」
こうして1日目の宿泊研修の利根川強歩は終わった。
ーー訳もなく、これから青龍大学の高等部の一年以組による利根川強歩の真の茨城県水神市制圧が始まるのだった。
◇
同時刻。
約束の時間となり、水神製鉄所内の空き倉庫のタトゥー作業部屋に眠った新たな客4人を連れて、前の客4人を回収に来た10人組のリーダー、身長189センチ、染めた金髪と黒眼、白肌の彫りの深い異国人顔でモップを連想させる外見の十字軍の日本撹乱部隊の牧師フランシスコ・カンナヅキは絶句した。
身体強化専門のゴブリン彫師、ピエール・ヴェルデが作業部屋の床でズタボロの状態で倒れていたからだ。
それも御丁寧に出血死しないように腕を強く縛ってから、利き腕である右手を手首から斬り落とし、その手は焼かれ、更には腕の『気脈の流れ』も潰されていた。
これでは例え、霊薬で手を生やして治しても、異能を授与するタトゥーはもう彫れない。
異能力を授与出来るタトゥーを彫れる彫師は貴重なのに。
「まだ『将軍』や『軍師』までで『王』を誕生させてないのにぃぃぃぃっ! どこのどいつだぁぁぁぁっ? こんな大それた事をしてくれたのはぁぁぁぁぁぁっ!」
そう叫んだフランシスコの眼に止まったのは倉庫内側の壁に書かれたスプレーの文字だった。
『白虎寺の白虎寺による白虎寺の為の利根川。おまえ達は何も考えずに白虎寺に従え』
リンカーンの名言を文字ったこの言葉は白虎寺陣営が常々利根川界隈で宣ってきた挑発的な常套句だった。
「そうか、白虎寺かぁぁぁぁぁぁっ!」
そうフランシスコは吠えたのだった。
◇
茨城県水神市は白虎寺の勢力圏だ。
それも明治時代からの。
お陰で水神市には白虎寺の施設が山ほどある。
その一つが白虎宗の白安寺だった。
白虎宗の歴史は飛鳥時代と古く、鎌倉時代にはもうこの地に建立されてた山寺だったが、室町時代に山全体に増築されるも江戸時代の廃仏毀釈運動で一度は廃れ、明治時代に水神市が白虎寺の勢力圏になった事でそれはもう立派な寺に再建された訳だが。
その白安寺が丑三つ時で御馴染の深夜2時、バビロンに襲撃された。
それもバビロンの残る全兵1300人にだ。
『おらぁぁぁ』『潰してやるぜぇぇ』『普段から偉そうにしやがってぇぇ』と突っ込んでる。
それらバビロンを指揮してるのが、
「潰せ」
金髪の坊主頭で首筋に炎を模る(ただのオシャレの)黒タトゥーをした半グレの老田陣だった。
陣は29歳。マッチョで普通の人間としても元々『圧』があったが、ゴブリンのタトゥーで運良く『将軍』を引き当てて更に『圧』が増していた。
陣は千葉県出身で元々異能力者でもなかったが、強くなれるタトゥーの噂を聞いて茨城県までゴブリンのタトゥーを彫りにきたら『将軍』の図柄を得た事で一端の異能力者にまで昇華している。
纏う『邪の力』も周囲のゴブリンのタトゥー持ちとは段違いだった。
まあ、それでも所詮はゴブリンなのだが。
「千葉県から御苦労様です、陣さん」
と声を掛けたのは水神製鉄所の敷地内に侵入してスケボーをしていた闇瀬剛だった。
剛は21歳。茶髪で派手な服を着て、更にスケボーのヘルメットやプロテクターを手や肘や膝に装着していた。剛のタトゥーもただのゴブリンではなく『軍師』だ。
剛の方は若者特有のファッション感覚でゴブリンのタトゥーを身体に彫ったら『軍師』という面倒臭い図柄を引き当てて、水神市に居るタトゥー持ちの統率者に抜擢されていた。
まあ、バビロンの管理など放棄していたが。バビロンに所属してる自覚すら剛にはない。お陰でバビロンは軍師が機能しておらず、みんなが好き勝手していた。
そして、この剛、ゴブリンの『軍師』を得たり、水神製鉄所で『彫師』を発見した青夜に見逃されたり、と生まれつき運だけはかなり良かった。
「剛、今、水神市には東京番長連合ってのが来てるんだよな?」
「そんなの本当にあるんですか?」
「さあな。だが、500人以上やられてるって話はホントなんだろ?」
「らしいですね」
剛が他人事のように言い、陣が呆れながら、
「らしいですねって、やられたのは剛の部下だろうが。相変わらずやる気がねえな、おまえは。アイツラを使ってのし上がってやろうとか思わねえのかよ?」
「だって面倒臭いじゃないですか。今回だってこんな時間に寺を襲撃しろって指図されるし」
「まあ、それはそうだが。それでも十分お釣りがくるくらいの『力』を貰ったからな。他の雑魚どもと違って」
「それはそうですけど」
「で? 本当に彫師は潰されたのか?」
「ええ。作業場の前に付けてた雑魚10人が潰されてましたから」
「やったのはやっぱり白虎寺?」
「らしいです」
などと喋りながら白虎宗白安寺のある小白虎宮山を見上げたのだった。
その小白虎宮山では白安寺の白虎信仰の精鋭が応戦してるが、バビロンの雑魚の数に押され・・・・・・・
◇
同時刻の深夜2時。
ビジネスホテルの一室で眠っていた真達羅通春菜は廊下を警護してる女護衛に起こされてスマホに出ていた。
寝入ったところを起こされたのだから不機嫌な訳だが、電話の相手が白虎寺のトップ、大僧正の雷司相手ではブチキレる事も出来ず、
「田中を使って『白安寺を守れ』ですか? ですが、東条院の嫡子は思ってたよりも扱いが難しくて言う事を聞くかどうか・・・・・・はあ? 色仕掛け? 嫌に決まってるじゃないですか、何言ってるんですか? 女教師よりも尼僧プレイが田中の好みとか聞いてませんから・・・はい、ええ、そっちなら。関に頼んでみます」
と通話を切って着替えると、髪型をセットする時間もなかったので下ろしたまま同階に居る三宝兎の部屋を『関、話があるの』とノックした。
10秒待ったが応答がない。僅か10秒だけで人生勝ち組の真達羅通家の人間らしくイラッとした春菜は電子錠の端末に指から放った電撃でバチッと強引に解錠して室内へと入った。
三宝兎はベッドで寝ていた。
三宝兎はガサツな口調だが、髪を下ろして眠る姿は本当に仙女のようにお淑やかだった。
「関、起きなさい」
身体に手を伸ばそうとして、瞬時に意識を覚醒させた三宝兎が『誰だっ!』と反射的に蹴りを放とうとして、
「・・・おわっ! 春菜ちゃんか」
気付いて足を春菜がガードで構えた腕に当たる直前に寸止めで止めた。
「ったく、教師を蹴ってたらさすがに停学よ」
「ってか、何? 夜這い? 私が美人だから? 春菜ちゃんってそっちの趣味なの?」
「そんな訳ないでしょ。今、白虎宗が襲われててね、助けて」
「どうせグルなんじゃないの?」
三宝兎が眠そうに口を開いた。
「グルって、どうしてそう思うの?」
「だって、どっかの白虎寺系列の大企業の工場の倉庫がゴブリンのタトゥーの作業部屋だったから・・・」
寝起きで思考の回っていない三宝兎がそう気軽に口にしたのに対して、初耳の重大情報に春菜が真剣な顔で、
「待ちなさい、関っ! 今の話、詳しく聞かせてっ! ってか、いつ、その事を知ったの? まさか、正座中に抜け出した?」
追及されて『あっ、口止めされてたんだった、ヤバ』と思ったが今更挽回など不可能で仕方なく口を割ったのだった。
1分後には青夜の部屋にも春菜は乗り込んでいた。
ドア前の廊下に東条院の護衛が居て、
「悪いけど通して貰うわよ、白虎寺の正式依頼だからっ!」
「一応、東条院の宗家代理に確認を・・・・・・」
「待ってられないのよ、こっちは」
という訳で護衛2人を電撃を纏った裏拳と蹴りで無効化した後、部屋に入ると呑気に青夜はベッドで眠っていた。
「ちょっと、田中、起きな・・・・・」
勢いに任せて凄もうとした春菜がハッと気付く。
「紙人形の身代わり? なら、本人は・・・あのヤロー」
どこに向かったのか考察しながら、殺気立った視線に気付いて背後に振り返ると榊弁真が立っており、
「護衛を撃破して若様の部屋に侵入って何をやってるんですか、先生? さすがに笑えませんよ? この事は正式に白虎寺に抗議させていただきますから」
「いやね、夜間の見回りよ。元に、ほら、紙人形を置いて抜け出してるじゃないの」
と言われて、弁真が『はあ?』と慌ててベッドに駆け寄って、
「どこが紙人形なんです、ちゃんと居るじゃないですか?」
「あれ、榊には見分けられない? ほら?」
言うと同時に春菜が電撃を帯びたかかと落としをベッドで眠る青夜に喰らわすと、本当にポンッと音を立てて紙人形に戻った。
「本当に紙人形・・・・・宗家代理が心配してたのはこれだったのか。宗家当主が御隠れになって、他家への放出がなければ東条院の宗家の家督を継ぐ正統な後継者の身だというのに。異母弟妹2人が宗家落としに噛んでて隔離中で、分家も全滅に近く、ご自身の身体がどれだけ尊いか分かってないのか、若様はっ!」
と呻いてからスマホで東条院の宗家代理に直接連絡したのだった。
2時間の利根川強歩の夜の部を終えた一年以組がビジネスホテルの玄関ロビーに戻ってきた。
「結局無駄足だったわぁ~。収穫は裏切り者の白虎信仰の僧侶達と水神神宮の宮司一族だけで。他はスタジアムを潰した関と田中にブルッちゃって現れもしないし」
と春菜が嫌味ったらしく正座をする青夜を見て、
「ちゃんと正座してたんでしょうね、2人とも?」
「もちろんですよ、春菜センセー」
青夜が嘘臭い笑顔で答える中、春菜が、
「私達が戻る2分前まで関の膝枕で寛いでた癖に、何ヌケヌケと言ってるのかしら、田中ぁ?」
「あれれ、何の事ですか? オレ、知りませんよぉ~?」
そう青夜はすっとぼけた。
「ったく、もういいわ。収穫もあって機嫌もいいから。2人ももう正座はいいわよ、部屋に戻って寝なさい。明日は朝6時起床だから、そのつもりでね」
「ええぇ~、朝の10時にして下さいよ」
「どれだけ寝るつもりよ、田中。馬鹿言ってないでさっさと寝なさい」
こうして1日目の宿泊研修の利根川強歩は終わった。
ーー訳もなく、これから青龍大学の高等部の一年以組による利根川強歩の真の茨城県水神市制圧が始まるのだった。
◇
同時刻。
約束の時間となり、水神製鉄所内の空き倉庫のタトゥー作業部屋に眠った新たな客4人を連れて、前の客4人を回収に来た10人組のリーダー、身長189センチ、染めた金髪と黒眼、白肌の彫りの深い異国人顔でモップを連想させる外見の十字軍の日本撹乱部隊の牧師フランシスコ・カンナヅキは絶句した。
身体強化専門のゴブリン彫師、ピエール・ヴェルデが作業部屋の床でズタボロの状態で倒れていたからだ。
それも御丁寧に出血死しないように腕を強く縛ってから、利き腕である右手を手首から斬り落とし、その手は焼かれ、更には腕の『気脈の流れ』も潰されていた。
これでは例え、霊薬で手を生やして治しても、異能を授与するタトゥーはもう彫れない。
異能力を授与出来るタトゥーを彫れる彫師は貴重なのに。
「まだ『将軍』や『軍師』までで『王』を誕生させてないのにぃぃぃぃっ! どこのどいつだぁぁぁぁっ? こんな大それた事をしてくれたのはぁぁぁぁぁぁっ!」
そう叫んだフランシスコの眼に止まったのは倉庫内側の壁に書かれたスプレーの文字だった。
『白虎寺の白虎寺による白虎寺の為の利根川。おまえ達は何も考えずに白虎寺に従え』
リンカーンの名言を文字ったこの言葉は白虎寺陣営が常々利根川界隈で宣ってきた挑発的な常套句だった。
「そうか、白虎寺かぁぁぁぁぁぁっ!」
そうフランシスコは吠えたのだった。
◇
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それも明治時代からの。
お陰で水神市には白虎寺の施設が山ほどある。
その一つが白虎宗の白安寺だった。
白虎宗の歴史は飛鳥時代と古く、鎌倉時代にはもうこの地に建立されてた山寺だったが、室町時代に山全体に増築されるも江戸時代の廃仏毀釈運動で一度は廃れ、明治時代に水神市が白虎寺の勢力圏になった事でそれはもう立派な寺に再建された訳だが。
その白安寺が丑三つ時で御馴染の深夜2時、バビロンに襲撃された。
それもバビロンの残る全兵1300人にだ。
『おらぁぁぁ』『潰してやるぜぇぇ』『普段から偉そうにしやがってぇぇ』と突っ込んでる。
それらバビロンを指揮してるのが、
「潰せ」
金髪の坊主頭で首筋に炎を模る(ただのオシャレの)黒タトゥーをした半グレの老田陣だった。
陣は29歳。マッチョで普通の人間としても元々『圧』があったが、ゴブリンのタトゥーで運良く『将軍』を引き当てて更に『圧』が増していた。
陣は千葉県出身で元々異能力者でもなかったが、強くなれるタトゥーの噂を聞いて茨城県までゴブリンのタトゥーを彫りにきたら『将軍』の図柄を得た事で一端の異能力者にまで昇華している。
纏う『邪の力』も周囲のゴブリンのタトゥー持ちとは段違いだった。
まあ、それでも所詮はゴブリンなのだが。
「千葉県から御苦労様です、陣さん」
と声を掛けたのは水神製鉄所の敷地内に侵入してスケボーをしていた闇瀬剛だった。
剛は21歳。茶髪で派手な服を着て、更にスケボーのヘルメットやプロテクターを手や肘や膝に装着していた。剛のタトゥーもただのゴブリンではなく『軍師』だ。
剛の方は若者特有のファッション感覚でゴブリンのタトゥーを身体に彫ったら『軍師』という面倒臭い図柄を引き当てて、水神市に居るタトゥー持ちの統率者に抜擢されていた。
まあ、バビロンの管理など放棄していたが。バビロンに所属してる自覚すら剛にはない。お陰でバビロンは軍師が機能しておらず、みんなが好き勝手していた。
そして、この剛、ゴブリンの『軍師』を得たり、水神製鉄所で『彫師』を発見した青夜に見逃されたり、と生まれつき運だけはかなり良かった。
「剛、今、水神市には東京番長連合ってのが来てるんだよな?」
「そんなの本当にあるんですか?」
「さあな。だが、500人以上やられてるって話はホントなんだろ?」
「らしいですね」
剛が他人事のように言い、陣が呆れながら、
「らしいですねって、やられたのは剛の部下だろうが。相変わらずやる気がねえな、おまえは。アイツラを使ってのし上がってやろうとか思わねえのかよ?」
「だって面倒臭いじゃないですか。今回だってこんな時間に寺を襲撃しろって指図されるし」
「まあ、それはそうだが。それでも十分お釣りがくるくらいの『力』を貰ったからな。他の雑魚どもと違って」
「それはそうですけど」
「で? 本当に彫師は潰されたのか?」
「ええ。作業場の前に付けてた雑魚10人が潰されてましたから」
「やったのはやっぱり白虎寺?」
「らしいです」
などと喋りながら白虎宗白安寺のある小白虎宮山を見上げたのだった。
その小白虎宮山では白安寺の白虎信仰の精鋭が応戦してるが、バビロンの雑魚の数に押され・・・・・・・
◇
同時刻の深夜2時。
ビジネスホテルの一室で眠っていた真達羅通春菜は廊下を警護してる女護衛に起こされてスマホに出ていた。
寝入ったところを起こされたのだから不機嫌な訳だが、電話の相手が白虎寺のトップ、大僧正の雷司相手ではブチキレる事も出来ず、
「田中を使って『白安寺を守れ』ですか? ですが、東条院の嫡子は思ってたよりも扱いが難しくて言う事を聞くかどうか・・・・・・はあ? 色仕掛け? 嫌に決まってるじゃないですか、何言ってるんですか? 女教師よりも尼僧プレイが田中の好みとか聞いてませんから・・・はい、ええ、そっちなら。関に頼んでみます」
と通話を切って着替えると、髪型をセットする時間もなかったので下ろしたまま同階に居る三宝兎の部屋を『関、話があるの』とノックした。
10秒待ったが応答がない。僅か10秒だけで人生勝ち組の真達羅通家の人間らしくイラッとした春菜は電子錠の端末に指から放った電撃でバチッと強引に解錠して室内へと入った。
三宝兎はベッドで寝ていた。
三宝兎はガサツな口調だが、髪を下ろして眠る姿は本当に仙女のようにお淑やかだった。
「関、起きなさい」
身体に手を伸ばそうとして、瞬時に意識を覚醒させた三宝兎が『誰だっ!』と反射的に蹴りを放とうとして、
「・・・おわっ! 春菜ちゃんか」
気付いて足を春菜がガードで構えた腕に当たる直前に寸止めで止めた。
「ったく、教師を蹴ってたらさすがに停学よ」
「ってか、何? 夜這い? 私が美人だから? 春菜ちゃんってそっちの趣味なの?」
「そんな訳ないでしょ。今、白虎宗が襲われててね、助けて」
「どうせグルなんじゃないの?」
三宝兎が眠そうに口を開いた。
「グルって、どうしてそう思うの?」
「だって、どっかの白虎寺系列の大企業の工場の倉庫がゴブリンのタトゥーの作業部屋だったから・・・」
寝起きで思考の回っていない三宝兎がそう気軽に口にしたのに対して、初耳の重大情報に春菜が真剣な顔で、
「待ちなさい、関っ! 今の話、詳しく聞かせてっ! ってか、いつ、その事を知ったの? まさか、正座中に抜け出した?」
追及されて『あっ、口止めされてたんだった、ヤバ』と思ったが今更挽回など不可能で仕方なく口を割ったのだった。
1分後には青夜の部屋にも春菜は乗り込んでいた。
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「悪いけど通して貰うわよ、白虎寺の正式依頼だからっ!」
「一応、東条院の宗家代理に確認を・・・・・・」
「待ってられないのよ、こっちは」
という訳で護衛2人を電撃を纏った裏拳と蹴りで無効化した後、部屋に入ると呑気に青夜はベッドで眠っていた。
「ちょっと、田中、起きな・・・・・」
勢いに任せて凄もうとした春菜がハッと気付く。
「紙人形の身代わり? なら、本人は・・・あのヤロー」
どこに向かったのか考察しながら、殺気立った視線に気付いて背後に振り返ると榊弁真が立っており、
「護衛を撃破して若様の部屋に侵入って何をやってるんですか、先生? さすがに笑えませんよ? この事は正式に白虎寺に抗議させていただきますから」
「いやね、夜間の見回りよ。元に、ほら、紙人形を置いて抜け出してるじゃないの」
と言われて、弁真が『はあ?』と慌ててベッドに駆け寄って、
「どこが紙人形なんです、ちゃんと居るじゃないですか?」
「あれ、榊には見分けられない? ほら?」
言うと同時に春菜が電撃を帯びたかかと落としをベッドで眠る青夜に喰らわすと、本当にポンッと音を立てて紙人形に戻った。
「本当に紙人形・・・・・宗家代理が心配してたのはこれだったのか。宗家当主が御隠れになって、他家への放出がなければ東条院の宗家の家督を継ぐ正統な後継者の身だというのに。異母弟妹2人が宗家落としに噛んでて隔離中で、分家も全滅に近く、ご自身の身体がどれだけ尊いか分かってないのか、若様はっ!」
と呻いてからスマホで東条院の宗家代理に直接連絡したのだった。
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