実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド

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宗家当主の遺体を守れ

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 異能力があるこの世界において、遺体や霊魂は異能力や術によって再利用出来たりする。

 よって実力のある異能力者が死んで一番困るのは死ぬ事よりも、敵対勢力に霊魂や遺体が奪われて利用される事だった。

 日本の僧侶や西洋の牧師が立ち会って葬儀をするのは魂を成仏させる(つまりは敵対勢力に利用されない為の)大切な儀式な訳だ。

 日本の火葬も聖なる炎で遺体を浄化して異能力で遺体を利用出来ないようにしていた。

 海外の土葬でも、ちゃんと聖水等々を掛けて異能力での遺体の利用を阻止しているのだ。





 だが、その前に遺体が奪われたら話は別だ。





 そんな訳で、東条院青蓮の遺体を都内にある(異能力者の名家御用達の)五車火葬場に運ぶ車列は警戒厳重だった。





 遺体を狙うのは何もゾンビにして戦わせるのを目的としてる者だけではない。

 東条院宗家が握る秘密を知りたい者も狙っていた。

 東条院流青龍拳が『中国神話神仙術が源流』なのは有名な事から、中国政府からすればそれはもう喉から手が出るほど欲しい情報が満載なのだから。

 一昔前の第2次世界大戦の直後はアメリカ軍が日本を独占していた所為で中国は手が出せなかった。

 だが、今や大国中国な訳で日本の宗家当主の東条院青蓮の重体情報が流れた直後から本国から凄腕の異能力者が日本に密かにやってきており、都内の高速道路沿いのビルの屋上ではその異能力者を束ねるリーダーのチェ・ホンが霊柩車が通過するのを待ってた訳だが、

「本国から昨日到着した南斗派玄武の『地仙』19人はまだ起きないのか?」

 苛立った口調で、部下に中国語で質問した。

 日本在住のホンは35歳、身長182センチ。黒髪でエラが張ってるが容姿に優れ、優秀な頭脳と覇気を併せ持つ。血統だけが悪く、本国ではなく日本になどに飛ばされて、それでも優秀なので関東エリアの中国の秘密異能力者部隊の指揮を任されていた。

 表の職業は当然、外交特権を持つ中国大使館の幹部職員だ。

「はっ、『まだ酒に込められたしゅが抜けず目覚めない』との報告が3分前に」

「チッ、日本を舐め過ぎだ、本国の連中は。どうして作戦前日にオレ達が前祝いの酒を用意したなどと勘違いして飲んだんだ? 東条院は本国で失伝した北斗派青龍の上巻・・保持一族だぞ? 地仙クラスでヤバイに決まってるのにっ!」

 皮肉な事にこの『上巻だけ・・保持してる』との誤解は東条院側が仕掛けた情報操作ではない。

 明治以降、下巻会得者が東条院宗家に現れなかった為、このような誤解が生まれていたのだ。

「ですが、当主が死んだ今、継承者は現在居ないのでは?」

「宗家から放出された嫡子の『落ちこぼれ』が偽装だった事が判明したんだから、難を察してのがれたそいつが一番ヤバイに決まってるだろ。東条院が3年前のG8の北海道サミットを攻撃しようとしたロシア艦隊を樺太沖で潰してるのは確実で、その時は東条院の当主がやったって事になってたが、もしその嫡子がやってたのなら中1の少年がロシア艦隊を潰したって事になるんだからな」

 高速道路を睨みながらホンがそう吐き捨て、2秒待っても部下が相槌を返さなかったので視線を向けると、横で音もなく倒れていた。

「なっ?」

 慌てて振り返って屋上を見渡せば、他の部下5人も倒れてる。

「はあぁぁ? 攻撃されてるだと?」

 構えて、周囲を警戒するが、倒れてるのは部下だけだ。

 直後に背後からの中国語で、

「またな」

 との声で頭部に貫通するような気の衝撃波を受けてホンは意識を失った。

 その背後に立っていたのは青の詰襟姿の青夜で、高速道路を走る父親の遺体を運ぶ霊柩車を真摯な眼差しで見送ったのだった。





 東条院青蓮の遺体を狙うのは何も中国政府の非正規部隊だけではない。

 日本の四柱家の1つ、西日本を牛耳る吉備一族も青蓮の遺体を狙っていた。

 無論、欲しいのは東条院の宗家当主が持つ青龍拳の秘伝書、――ではなく、別の情報だ。

 ズバリ、関三宝兎がどのようにして『桃太郎』の異能力を覚醒させたのか。

 実はこの春まで吉備一族は関三宝兎の『桃太郎』の異能力の覚醒は、三宝兎個人の資質によるもので『外部からの干渉はない』と疑いすらしなかった。

 だが、皇居御前裁判で手に入れ損ねた三宝兎が青龍大学の高等部に入学してみれば、初日から東条院青夜と喋ってる。明らかに面識がある様子だった。

 そこで初めて『東条院が何か干渉して関三宝兎は『桃太郎』の異能力を覚醒させたのか?』との疑惑が生じた訳だが、その頃には東条院は宗家屋敷の呪詛汚染で大人達が全滅だ。

 青夜と正規ルートで接触して情報を貰おうかとも考えたが、今まで平気でバレバレの無能を演じてた子供だ。

 まともに教えない可能性がある。

 どうするか迷ってたところに、宗家当主の青蓮の訃報だ。

 『火葬する前にチョイと情報を拝借しよう』と思ってしまったが為に大惨事になってしまった。





 情報を盗むのは何も遺体でなくてもいい。霊魂でもいい訳だ。

 そして日本には古来より『口寄せ』という術者に憑依させる降霊術が存在した。

 東条院青蓮が死んだ当夜に、都内の吉備一族陣営の武蔵桃源寺の本堂で青蓮の霊魂の『口寄せ』の降霊術を行ったら、術者の谷口ヨネという83歳、140センチの痩せた老婆が『ゴリラ』を口寄せしてしまい、2メートルサイズのゴリラマッチョになって『ウホウホ』と暴れ出し、武蔵桃源寺の本堂は半壊、暴れるのを止めようとした20人以上が瀕死の重傷を負う被害が出てしまった。





 それで止めれば良かったのだが『霊魂が無理ならば』と今度は(葬儀の寺は東条院の警備が厳重だから)火葬場への移動中に霊柩車から遺体の方をチョイと拝借する計画を企てたが『四柱協定』があるので吉備一族陣営の凄腕達による実行は無理だ。

 東条院に怨みを持つ連中に声を掛けて、前夜に『質が悪い分は数でカバー』と50人以上集めた訳だが、50人も居れば裏切り者も当然居る訳で、柳の幻術が周囲から伸びて来て全員を捕縛し、7、8人が用心して紙人形の代理だったので難を逃れたが、他は全員が四乃森の残党の35歳、182センチ、白髪で黒マスクをした不気味な喪服姿の柳原隼人に倒されていた。

(百合に続いて・・・・・・マジかよ、東条院。四乃森の生き残りをてい良く使い潰す気か?)

 と思いながらも、もう東条院の為に猟犬をするしか生き残るすべがないので隼人は不穏分子を一網打尽にしたのだった。





 そして吉備一族はそこで東条院青蓮の遺体強奪を諦めたのだった。





 アメリカ合衆国のBB財団は占星術により最初から東条院青蓮に興味がない。





 嫡子の田中青夜も東条院青蓮の記憶等々に興味はなかった。

 母親の貴子が死ぬ前にちゃんと青夜出産時の『へその緒』を始末してくれていたので東条院宗家に何の未練もない。秘伝や東条院の秘儀も既に全部継承済みなので。





 他の青蓮の遺体の奪取が可能な勢力はというと、





 ロシア政府は東欧情勢の激化で極東に回す戦力の余裕がない。





 韓国政府は自国のアイドルが青夜と友好関係を築いた為、静観。反日派も抑制。





 北朝鮮は部隊を送り込もうとしたが、水際で侵入に失敗して国内に入れず。





 ヨーロッパは都内に居たフランス国の工作員3人が(本国から命令を受けていないのに、外務省勤めだった鵜殿飛雅の勤務地がフランスだったというだけで)先制攻撃で青夜に潰されてる。





 ドイツ国は東条院と個人的なパイプで友好関係にあったのに工作員が2人、青夜に疑われて睡眠薬を盛られてこの時間睡眠中だ。





 中国の巨大財閥や異能マフィアは東条院青龍拳の源流が中国神話の神仙術な事から入手したら党本部に叛逆を疑われるので逆に危なっかしくて手が出せない。





 ヨーロッパの財閥や財団はロシアとの東欧情勢の方が大事で日本まで来ていない。





 日本国内は青龍大学の高等部の入学式直後の百合一族の顛末を知っており、上昇志向の強い野心家達も二の足を踏んで動けなかった。





 ここだけの話、後継指名を受けた東条院青刃や東条院の宗家代理の藤名金城、宗家当主の義理の祖父の二千院目高の方が、青蓮が持つ東条院宗家の秘伝や秘事の情報を欲しかった訳だが、青刃は幽閉中で身動きが取れない。老人2人も単独で動ける程、下っ端でも無名でもなく、宗家当主の遺体と2人っきりになど東条院の一党は誰もさせてくれず、仕方なく諦め、火葬場の炉前で最後の別れをして東条院青蓮の棺を送り出した。

 その後、術式の炎に焼かれて東条院青蓮は無事に火葬されたのだった。
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