実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド

文字の大きさ
上 下
29 / 123

古代中国の山河で大岩を持ち上げる夢

しおりを挟む
 青龍大学の高等部で入学式があった夜。

 青夜は就寝時間の夜11時に眠る事が出来なかった。

 田中ビルの4階の青夜の部屋に、同じく4階に自室のある葉月が客用の布団一式を持ってきて(葉月の部屋の寝具はベッドだったから)、

「良子と聖美ママにコールをさせた罰として今日は一緒に寝るわよ、青夜」

 そんな事をのたまったからである。

 葉月の4月初旬の寝着スタイルはTシャツとピンク色のスエットの長ズボンだったが、Tシャツの下がノーブラなので妙に色っぽかった。

「いやいや、それだと罰になってないって、葉月。それにオレ、許嫁の精算がまだちゃんと終わってないっぽくて下手すると葉月が大変な事に・・・・・・」

「関係ないわ」

(下っ端の家門過ぎて白鳳院の怖さが全く分かっていないな、これは)

「じゃあ、せめて別日に。今夜は拙いんだって。オレの勘だと異能力で精神攻撃される可能性が・・・」

「いいえ、絶対に今日一緒に寝るわよ、青夜」

「だからダメなんだって、今夜だけは」

 との問答が続き、葉月に押し切られて困ってると、弥生が帰宅して、

「何やってるの、アナタ達?」

「弥生さん、いいところに。葉月をどうにかして下さい」

 青夜が泣き付き、葉月が、

「弥生ねえは黙ってて。青夜が二度と馬鹿な事をしないようにする為なんだから」

「噂になってる入学式のアレね」

 と理解を示した弥生が葉月の意図を深読みして、

「もしかして青夜を守る為に葉月は青夜と一緒に寝るの?」

「守るって、何から? そう言えば、さっき精神攻撃がどうとか青夜も言ってたような」

 違ったらしい。葉月が問うので、呆れながら、

「夢での青夜への攻撃とかもあるかも、と思っただけよ」

「そうなの? もしかして拙いの?」

 葉月が青夜を心配すると、青夜が嘘臭い笑顔で、

「うん、凄くね。でも、アンから貰ったこの護符タリスマンがあるからギリ大丈夫かも」

「そう。そういう事なら今日は止めておくわね」

 と理解を示したが葉月だったが、長年姉をしてる弥生が、

「嘘ばっかり。夜に忍び込む気でしょ? そんなに一緒に寝たいんなら葉月は今日、私と寝なさい」

「嫌よ。弥生姉となんて」

「ほら、いいから。一緒に来なさい」

 首根っこを掴まれて葉月が、

「ちょ、襟が伸びるじゃないの、弥生姉っ! これ、お気に入りなのに」

 Tシャツを庇ってようやく青夜の部屋から退場し、青夜は呆れながらも気を取り直して就寝したのだった。





 ◇





 青龍大学の高等部の入学式でじかに『あれ』を喰らった実力者達は十分、東条院(田中)青夜の真の実力を再認識させられて刃向かおうなどとは微塵も思わなかったが、伝聞ではその実力が伝わらず、同日に青夜が叙勲されたにも関わらずその意味を理解せず、入学式のあった当日の夜は、肥後道場同様、飛び跳ねた者が結構出る夜となった。

 翌日に起こる出来事を見れば、誰も東条院に逆らおうなどとは思わなかったのだが、その迅速さがあだとなって。

 入学式の当日に報復に動いたのは月御門つきみかどの東京分家の忠義者の陪臣達である。

 入学式で月御門の東京分家の当主、ほむらと娘の蛍火ほたるびが3時間も『青夜様』コールをやらされたと知り、激怒。月御門の東京分家の当主、焔が口酸っぱく『『四柱協定』との兼ね合いで京都本家と歩調を合わせる必要があるから命令があるまでは絶対に手を出すな』と言ったにも関わらず、動いたのは床未とこすえ一族と有芽ゆめ一族だった。

 床未一族は『未』の字は下の方の横棒が長く『十二支のひつじ』を意味する。

 有芽一族に至ってはその名の読み通りだった。

 名前が表すように両一族とも『夢見』の異能力を持つ。『夢見』は未来予知なども出来たが、夢の中での精神攻撃も出来る異能力だった。

 これならば『証拠も残らず・・・・・・『四柱協定』でも罪に問われない』との論法で動いた訳だが、問題は攻撃対象者との実力差にあった。





 床未一族の当主で、54歳、身長172センチ。黒髪で30代でも通る若さの床未ようも寝室に夢見用の特別な一族秘伝の香を焚いて、標的の青夜の夢の中に侵入した訳だが。

 そこで待っていたのは夢の中の青夜ではなく、古代中国を思わせる雄大な大自然の中で巨大な岩を下側から潰されないように両腕で持ち上げている『苦行の夢』だった。

 夢に侵入すると既にようは巨大な岩の下でクソ重い岩を1人で持ち上げていた。周囲の風景もあいまって中国の修行を思わせて仕方がない。

「ぐぐぐぐっ、何だ、これは?」

 どうして羊が自分が持っているモノが大岩だと判別出来たのかと言えば、1人ではなかったからだ。

 いや、羊の大岩を持っているのは羊1人だけだったが、古代中国の山河の風景の中で、周囲には同じような小さなビルのくらいのサイズの大岩1個を1人で下側から支えている者が30人くらい居たのだ。

 というか、人と大岩のセットが今もどんどん増えていた。

 そして顔見知りも少なからず居た。

 床未一族は14人全員が居り、同じ月御門の東京分家を主家に持つ有芽一族の『夢見』の異能力者達も居た。

 他にも5年前から原因不明の(おそらくは夢に囚われた)昏睡状態が続く凄腕の『夢見』の桃谷幹夢あつむや7年前から同じく原因不明の昏睡状態の京都の夢宮一族の老婆、夢宮雲までが居た。

「な、何だ、ここは?」

「こんにちは、新入りさん」

 そう美しい声を掛けてきたのは隣で巨大な岩を持ち上げている22歳の涼やかな目鼻の美人だった。エメラルドグリーンの布地に黄金の龍の図柄が描かれたチャイナドレスを纏ってる。スタイルも良い。

 その美人を見て、羊はドキリッとした。

(8年前まで日本にちょっかいを掛けまくってオレとも3回やりあった事のある中国トップクラスの『夢使い』リー・キョンヒーだとぉ? 8年前から音沙汰が無くて『党本部に粛清された』と噂になってたが、こんなところに居たのか)

「『東条院宗家の嫡子の子供の青夜を狙った』でいいのよね?」

 その時間軸のズレを感じさせる言葉が更に羊をゾクリッとさせた。

(確かに我が一族と有芽一族は示し合わせて今夜、東条院の嫡子を狙ったが・・・まさか、これ、東条院青夜がやったのか? いや、ないな。東条院の『落ちこぼれ』に出来る訳がない。東条院の一党の『夢見』、または所有する『夢見』対策の国宝クラスの宝具で防衛した訳か)

「おまえ、もしや8年間ずっと?」

「あら、もう8年も経ったのね」

 そのキョンヒーの言葉が余計に恐怖を生んだ。

 8年間も夢にとらわれるなんて普通じゃない。金持ち以外は本体が維持出来ずに絶対に死ぬ。

「ちょ、この夢からのがれられないのか?」

「さあ。私はもう諦めたけど。アナタ達は脱出出来るか頑張ってみたら?」

「そんな投げやりな。知ってる事があるんなら教えてくれっ! こっちは一族総出の14人で来てるんだからっ!」

「そんな事言われてもねぇ~。持ってる大岩に押し潰された者は消えていくけど、果たしてそれで夢から覚められるのか微妙だし。他の方法があるんなら、とっくに私が夢から覚めてるわ。まあ、頑張ってね」

 そう笑ってキョンヒーは重そうな大岩を持ち上げる事に専念した。

 大岩に押し潰された者が消えるのならば、それに賭けたいが、大岩の真下に居るだけに力尽きて潰れた印象がどうしても残る。

 直感も『何か拙い』と訴えてる。

(嘘だろ? 嘘だよな? 『夢見』の異能力勝負で負けたら確かに夢を見続けて最後には死ぬ事になるけど、それでもこれはないだろ。こっちはまだ何もしていないのにっ! ってか、東条院の一党にこんな凄腕の『夢見』や夢見潰しの宝具があるなんて聞いた事もないぞっ! そもそもどうして無駄に古代中国風なんだ? 古代中国から流れた宝具か何かなのかっ?)

 そう羊は戦慄と共に脱出方法を模索する事となったのだった。





 ◇





 青夜が寝苦しくなって不意に夜中に目覚めると、小さな1人用の布団の中に葉月が潜り込んでいた。

(結局、部屋に来てるし)

 1人用の布団に無理矢理入り込んでるので葉月はかなり青夜に密着してる。

 葉月の胸は青夜のニの腕で潰れてるし、葉月の片足などははしたなく青夜の足に掛かっていた。

 思春期の青少年としては嬉しい限りだが、今は4月上旬だ。

 正直、葉月の体温が暑くて寝苦しい。

 だが、邪険にする事も出来ず、青夜は優しく葉月の髪を指で撫でて眠れるように努めたのだった。
しおりを挟む
感想 38

あなたにおすすめの小説

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

14歳までレベル1..なので1ルークなんて言われていました。だけど何でかスキルが自由に得られるので製作系スキルで楽して暮らしたいと思います

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕はルーク 普通の人は15歳までに3~5レベルになるはずなのに僕は14歳で1のまま、なので村の同い年のジグとザグにはいじめられてました。 だけど15歳の恩恵の儀で自分のスキルカードを得て人生が一転していきました。 洗濯しか取り柄のなかった僕が何とか楽して暮らしていきます。 ------ この子のおかげで作家デビューできました ありがとうルーク、いつか日の目を見れればいいのですが

最低最悪の悪役令息に転生しましたが、神スキル構成を引き当てたので思うままに突き進みます! 〜何やら転生者の勇者から強いヘイトを買っている模様

コレゼン
ファンタジー
「おいおい、嘘だろ」  ある日、目が覚めて鏡を見ると俺はゲーム「ブレイス・オブ・ワールド」の公爵家三男の悪役令息グレイスに転生していた。  幸いにも「ブレイス・オブ・ワールド」は転生前にやりこんだゲームだった。  早速、どんなスキルを授かったのかとステータスを確認してみると―― 「超低確率の神スキル構成、コピースキルとスキル融合の組み合わせを神引きしてるじゃん!!」  やったね! この神スキル構成なら処刑エンドを回避して、かなり有利にゲーム世界を進めることができるはず。  一方で、別の転生者の勇者であり、元エリートで地方自治体の首長でもあったアルフレッドは、 「なんでモブキャラの悪役令息があんなに強力なスキルを複数持ってるんだ! しかも俺が目指してる国王エンドを邪魔するような行動ばかり取りやがって!!」  悪役令息のグレイスに対して日々不満を高まらせていた。  なんか俺、勇者のアルフレッドからものすごいヘイト買ってる?  でもまあ、勇者が最強なのは検証が進む前の攻略情報だから大丈夫っしょ。  というわけで、ゲーム知識と神スキル構成で思うままにこのゲーム世界を突き進んでいきます!

処理中です...