実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド

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鵜殿の処罰と東条院の新体制

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 その日の夜に東条院の分家頭の屋敷で東条院の総集会が催される事となった。

 召集を掛けたのは藤名家の先代当主の金城だったが、もう東条院の一党は入学式の『青夜様』コールや叙勲、それに野々宮の起請文、肥後の屈伏、百合邸の炎上等々を知っている。

 誰が命令した事なのかも。

 そんな訳で、上座の当主席を空席として左隣の藤名金城と挟む形で当主席の右隣に座る嫡子の青夜を尊敬の眼差しで見ていた。

 これまで青夜が無能を演じ、それを見抜けずさげすんでいた癖に。

 そう、つまりは見事なまでの掌返しで尊敬していた。

 総集会は上座と下座の間に座る東条院分家の1つ、鵜殿家の若当主で外務省勤めでヨーロッパに出向いてて『当主生誕の儀』を欠席し、運良く難を逃れた飛雅ひがの土下座から始まった。

「この度は東条院宗家の当主が倒れ、宗家嫡子が廃嫡、新嫡子の外戚が東条院宗家攻撃により嫡子不在の状況の中、帰国し、百合一族にそそのかされるがままに東条院の宗家当主への野心を見せて行動してしまい、誠に申し訳ございませんでした」

 そう言った飛雅はまだ25歳だ。

 身長は182センチ。黒髪でエリート官僚を思わせる怜悧な雰囲気を纏う。名家出身なので後ろ手の土下座の姿勢も美しかった。今はスーツに身を包んでいる。異能力を封じる護符の付いた鎖で後ろ手に繋がれて罪人の姿だったが。

「さて、皆の衆、どう裁く?」

 と尋ねたのは金城で、この場合の『皆の衆』とは下座の一党の事ではない。

 東条院の分家、藤名、鵜殿、綾波、仁王、小巻園の5家の代表者を意味していた。

 鵜殿は当然、発言権はない。

 久遠寺は『当主生誕の儀』の邪気汚染で嫡流が全滅で、後継で揉めてて代理も擁立出来ないありさまで宗家当主席と同様に空席だ。

 よって残るは4家だった。

「死刑ですじゃ」

 紋付姿の綾波家代表のサキが言い、

『ゼェゼェ、若いんじゃし、鵜殿家の当主の引退で許してやれい』

 本日欠席で席にモニターが置かれ、その画面の中で紋付を着た90歳の高齢で鼻に酸素管を付けた仁王景隆かげたかが答えた。

 仁王家は『東条院発祥の地』の和歌山県熊野古道そばの青龍村を守る東条院の分家だが、その当主の景隆は1人では座っても居れず、今も美女2人に後方から身体を支えられている。

 お陰で『当主生誕の儀』も不参加だった。

「うんとね、綾波のお婆ちゃんと一緒っ!」

 そう乳母の膝の上で元気良く答えたのは小巻園家の当主直系の孫の緑子みどりこだ。

 緑子はまだ4歳。可愛い女の子で、言葉も覚束ない。明らかに誰かに教え込まれた言葉を口にしていた。

 『当主生誕の儀』ではギャン泣きを1回、更に昼2時の時点でお漏らしをして『もう帰らせてやれ』と当主の青蓮の許可により実母と別れて先に小巻園の屋敷に帰って難を逃れている。

 尚、緑子の実母は青蓮の実妹の旧姓『東条院青子』で、緑子は青夜の従妹という系譜だった。

「藤名も死刑に一票じゃな」

 東条院の分家代表の評決が出る中、金城が青夜を見て、

「如何でしょう、若様?」

「だからオレははいされて、ただの田中青夜だって」

「そういう建前はいいですから」

「・・・飛雅さん、他の『三柱』で東条院の宗家簒奪計画を知ってた者は?」

「白虎寺一虎の使いとは会いましたが」

「飛雅さん自身が東条院の宗家屋敷の邪気爆発の情報を事前に知ってたなんて事は?」

「ありませんっ! 誓ってっ!」

 飛雅が答える中、青夜がつまらなそうに指を軽く動かしただけで、

「畏まりました」

 金城が頷き、

「待ってくれ、青夜君っ! 頼むからっ! 二度と宗家当主の野心は見せないっ! だから許してくれっ!」

 飛雅が必死に懇願する中、部屋の外に連れて行かれたのだった。

 無論、鵜殿飛雅の処遇は分家代表が三票入れた裁決が適用された。





 続いて東条院の新体制について話し合われた。

 これは既に話が付いており、規定路線通りの報告になる訳だが。

「ええぇ~、では宗家当主が病で動けぬ為、東条院に宗家当主代理を置く訳じゃが・・・宗家代理は分家から出すのが習わしなので、不本意ながら分家頭の藤名家のワシがやる事となった」

 と伝えると、下座の一党から不平のざわめきが起こった。

「ほれ、若様がやらんから」

「オレは宗家を出された、ただの田中青夜だからな」

「ったく。代理のワシが暴走しないように宗家代理を監督する宗家代理監査役を各分家から1名」

 ここまでは既定路線だったが、

「それと緊急事態なので今回は特例で東条院の一党の官位持ちも監査役に抜擢とする」

 そう金城が言った瞬間、青夜が、

「待て、古狸。聞いてないぞ?」

 口を挟んだ。

 青夜が叙勲して官位を持っていたからだ。巻き込まれるのは困る。

「おや、そうでしたかな? てっきり話したとばかり。年は取りたくありませんな、ハッハッハッ」

「ふざけるなよ。オレはやらないからな」

「はあ? ただの田中なにがしごときに宗家代理の言葉が覆せるとでも?」

「ジイ、死にたいのか? オレは東条院とは距離を置きたいんだよっ! お母様にも言われててーーコホン、今のなし。ともかく官位の方は取り消せ」

 咳払いを挟んだが、それでも青夜が室温を冷やすくらいの殺気込みの凄み方をし、緑子が怖くなって『びぃええぇぇん』とギャン泣きを始め、その泣き声で青夜が我に返った時、下座の襖が開き、

「やあやあ、皆の衆、遅くなって済まなかったな」

 そう言って現れたのは東条院と同格の白虎寺の本家当主の白虎寺雷司らいじだった。

 雷司は33歳。身長185センチ。五分刈りで眼光鋭い快男児だ。

 纏ってる恰好は紫色の法衣服。僧侶系なので、これが白虎寺家の正装であった。

 異能力は『白虎密教』。護衛は居ない。護衛が不要なくらい強いので。

 上座まで移動した雷司に対して青夜が警戒しながら、

「直接足を運ばれるとは、どのような御用件で?」

「『四柱協定』違反をした我が従兄、一虎の首を持ってきた」

(ほう、『なら』の首を刎ねたのか)

「おや、ゴネると思ってましたが?」

「ゴネないさ。東条院の窮地に嘴をつつくような馬鹿を助ける為なんかでは。これで義理は果たしたからな。もう暴れるなよ、東条院の麒麟児?」

(チッ、今の殺気を知られたか)

「まだ邪気爆発の出所が判明しておらず・・・」

「それは四乃森が他国勢力から無償提供されたのであろうよ」

 さらりと言って事態の終結を強要してきた。

「・・・分かりました。白虎寺とは百合一族追討の連名での施行でーー」

 と理解を示した青夜の横から金城が、

「それと迷惑料の支払いの協議が済み次第、手打ちですな」

 ぬけぬけと口を挟んだ。

「ああ、因みにワシ、この度、宗家代理に就任したので今の発言、東条院の意思ですからな」

「・・・分かった。追討令の書類もあるなら出せ。帰る前に署名するから。それにしても、はぁ~。ストッパーの居ない藤名の爺さんと眼の開いた麒麟児嫡子の体制とは。今の東条院は宗家当主の5倍は酷いな」

 呆れて脱力した雷司はそう呟くと、下座へ向かって歩き出し、そのまま部屋を出ていった。

「では、これでお開きじゃな。白虎寺と追討令を用意せねばならんので」

「待て、こら、ジイ。オレは監査役をやらないからなっ!」

「白虎寺も認めたのに今更そんなわがまま通る訳がないでしょ。ほれ、皆の衆、解散じゃ。御苦労であったな。若様を狙った百合一族の馬鹿は許さずに狩れよ」

 こうして藤名金城が雷司の後を追った事で宗家代理の監査役は有耶無耶のまま総集会は終わり、

「若様、東条院の為ですじゃ」

『ゼェゼェ、またな、若様。生きてる内に次の節句で』

「グッスン。怒ってない、セーヤお兄ちゃん?」

「ああ、怒ってないよ、緑子ちゃん」

「良かったぁ。バイバイ、セーヤお兄ちゃん」

 分家の代表に挨拶されて、

(マジでやってられないぞ。宗家代理に添える為に古狸を呼び戻したのは失敗だったか?)

 青夜はゲンナリしたのだった。
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