実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド

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会ったのはたったの3回だけ

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 関帝信仰の総元締めの関一族の中でも三宝兎の家は中堅どころだった。

 弱小勢力の中堅どころなのだから、弱小もいいところだ。

 三宝兎自身、中1の夏休みまでは青龍偃月刀こそ出せたが、全然だった。

 誕生日が8月6日だったので三宝兎は周囲からかなり期待されていたのだが。

 どうして期待されていたのかと言えば、生まれた年の8月6日が旧暦では6月24日にあたり、関帝である関羽の誕生日だったからだ(らしい)。

 だがしかし、本場の中国から(2巻のみで)ちゃんと伝わらなかった日本の関帝信仰は異能力としては弱い。

 弱いと大変だ。

 例えば、神奈川県の鎌倉に二千院って名家がある訳だが、そこの当主は凄い年寄りの癖にピンピンしているが、一度跡目を譲った息子や孫娘は死んでおり、その息子の3回忌の大法要とやらに大金を包んで一族総出で鎌倉の寺に出向かなければならないくらいに。





 そして三宝兎はそこで青夜と初めて出会った。





 中1の夏休み、8月上旬だった事を三宝兎は今でも覚えてる。

 デカイ寺の境内では喪服を纏った大人達が多数集まって真面目な顔をして喋ってた。

 三宝兎は学生の正装、夏制服だったが、クソ暑い日で『真っ昼間に法要なんてやるなよ。せめてやるなら術式で境内を冷やせよな』と思った事も。

 余りに馬鹿馬鹿しくて駐車場の片隅で関帝武術の練習をした。『気』で青龍偃月刀を作り出すところまではもう三宝兎も出来る。青龍偃月刀を振り回してると、

「何、それ? 長刀なぎなたにしては変わってる動きだね?」

 そう質問してきたのが目立つ青地の紋付羽織袴を纏った青夜だった。

 その時は名前も知らない(その格好から)ただの良家のお坊ちゃんとの認識だったが。

「何か用か? 邪魔なんだけど」

「いやいや、教えてよ。どこの流派の長刀なの?」

「ったく、長刀じゃなくて関帝信仰だよ」

「関帝? ああ、三国志の関羽の・・・・・なら青龍偃月刀だったんだ、それ? じゃあオレ、教えれるかも」

「はあ? 教えれるって?」

「だって青龍偃月刀って『青龍の力』を使うんでしょ?」

 気軽に言ったそのお坊ちゃんが三宝兎の背後に回って、夏なのに抱き付くくらい密着してきたが、涼しいどころかヒンヤリと冷めたくて『うわ、個人で術式を使ってるんだ。さすがはお坊ちゃん』と正直冷たさが心地良過ぎて邪険に振り払えずに居ると、

「ほら、青龍偃月刀を出して構えて」

「ああ」

 三宝兎が『気』で青龍偃月刀を出した時だった。

 三宝兎の青龍偃月刀に、そのお坊ちゃんが凄い『神気』か『仙気』を上乗せしたのは。

「うわ、何これ?」

「これが『青龍の力』だよ。覚えた? もう出来そう?」

「いや、さすがにすぐには。もうチョイ、コツを」

「コツはね。偃月は半月。青龍は『青』と『水』と『東』と『春』。それをイメージして・・・・・・あれ、桃の匂いがかすかに・・・へぇ~、そうなんだ。だったら『桃』もイメージかな? シャンプーやボディーソープを桃の匂いのにしたらいい事があるかもね」

 何の事か分からなかったが、その日の風呂前に母親にシャンプーを今度から桃の香りの奴にしてって頼んだら『元から桃の香りのでしょ』と呆れられたのも覚えてる。





 そして、8月下旬には三宝兎は自力で青龍偃月刀に『青龍の力』を帯びさせる事が出来た。

 関一族の大人達は大騒ぎだ。

 更に9月下旬の横浜で催された異能交流戦に出場し、三宝兎は中1ながら18歳以下の個人部門で優勝。

 来賓席に座ってた異能界の重鎮達や会場に集まった全員の視線が三宝兎に釘付けで(殆どの奴がスマホで映像を撮るか真剣に喋ってたが)三宝兎は鼻高々だった。

 まあ、この頃には(桃色の霧にしか見えない)『桃の香り』を纏えた訳で、そっちの方が大問題だったらしいけど。

 大会の優勝賞金も入り、家が楽にもなった。

 だが、すぐに『面倒臭い事になった』と三宝兎は知る事になる。

 10月上旬には親族が増えたからだ。

 母親の実家の名前は植木のはずなのに、何故か西の吉備一族って凄い名家が出て来て『この家系図を見ろ。その娘は我が一族だ。寄越して貰うぞ』と言ってきて。





 この後も長々と大変だった。

 そんな時だ。

 2回目の青夜との出会いは。





 中2の冬、三宝兎は中学校の友達に(変身した別人に)睡眠薬を盛られて気付けば倉庫の中に居た。

 後に七瀬忍軍だと知るが『これが吉備一族が欲しがってるガキか?』『ああ、凄い値を提示してきた』『大儲けだな』などと喋ってた訳だけど、

「何だ、このガキ? ギャアアアア」

 とか倉庫のドア側から悲鳴と共に人が中に吹き飛んできて、

「どうもぉ~」

 ブチギレた青夜が現れた。

 すぐに三宝兎は青夜に気付いたが、青夜の方はそれどころではなく、

「2年半前の5月5日の端午の節句で、東条院の青龍村で宗家嫡子が毒を盛られたのは当然、覚えてるよな、おまえら? あの時、毒はオレの口には入ってないんだよ。代わりに分家の久遠寺条太ってオレの家来が死んだだけでさぁ~。家来のケジメ、取らせて貰うぞっ!」

 それからは大暴れだ。

 途中で青夜が三宝兎の異能力を封印してる護符付きの鎖を切断して、三宝兎も参戦して2人で無双して全員を潰した後、

「去年の鎌倉の爺様の3回忌の時の青龍偃月刀のだよな?」

「まあね。あの後、吉備ってのが親族だって出てきて大変でさ」

「やっぱり『桃太郎』の異能力も使えた訳ね。ついでに盗めば、奴らの秘伝を?」

「嫌だよ、私は関帝信仰一筋なんだから」

「いやいや、凄いんだって、桃太郎も関羽並みに日本国内だと。さすがに子供の頃に聞かされて知ってるだろ、昔話『桃太郎』の伝承は有名過ぎるから? 『鬼退治』の鬼神斬り、『日本一ののぼり』の国内最強、『桃の香り』内の瞬間移動、『桃』はももとも呼べて100人分身、『吉備団子』の犬、猿、雉の絶対服従とかさ」

 と三宝兎も知ってる有名な『桃太郎』の異能力を長々と説明された後、

「そうだ、頼みがあるんだけど。オレ、死んだ母に16歳までに家を出ないと死ぬって予言を受けててさ。家を出たくて弱いフリをしてるんだ。だから、こいつらをやったの、おまえって事でお願い」

「おまえじゃない。三宝兎だ」

「ミホトぉ~? 知り合いに同じ名前のお姉さんが居て紛らわしいからミッチーね」

「絶対嫌だぞ、その呼ばれ方」

「じゃあ、オレ帰るから。頼んだからな、ミッチー」

「ミッチー言うなっ!」

 それが青夜との2度目の出会いだった。





 直後に大人達がやってきて七瀬忍軍の頭目、七瀬輝明以下、幹部が勢揃いしてたとかで三宝兎が七瀬忍軍を倒した事になったが、やったのは殆どが青夜だった。

 というか、そこで青夜の素性が東条院という名家のお坊ちゃんだと三宝兎は知る事となった。





 3回目の青夜との出会いは最悪だった。





 中3の夏に鎌倉の二千院家に正式に客分として招かれた時、東京から青夜も来てて、

「よう、東条院のお坊ちゃん」

「久しぶり、ミッチー」

「だからミッチー言うなっ!」

 一緒に無人の屋内プールで遊んだ訳だけど『青龍なら水を操れないと。ほら、関羽も雨を使って曹操軍の龐徳ほうとくって奴を倒してるし』なんて口車に乗った所為でプールの水を異能力で操ってたら、水の制御に失敗してワンピース水着の前側が全部破れて、真っ裸になって青夜にモロに裸を見られる事となった。

「ピンクか。さすがは桃太郎」

「ーーっ! 青夜、殺してやるっ!」

 『桃の香り』を『鎧化』して裸を隠した(この時、初めて出来た)三宝兎は恥ずかしさもあって青龍偃月刀で斬りかかったが、青夜が軽くいなすので、どんどん眼の色を変えて本気になって4時間ずっとプールで斬りかかったが、総ての攻撃を青夜に余裕でいなされる事となった。

 『私の全力を鼻歌混じりで受け流す奴が弱い? 世間の評価はどうなってるんだ? 後、『鎧化』が出来るようになったのはラッキーだったな』と思ったのだけは三宝兎もしっかりと覚えてる。





(ってか、裸を見られたの思い出した。本当に最悪だったな、3回目の出会いだけは。もう青夜に責任を取らせて結婚して貰うしかないな)
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