実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド

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クビにならない為の熱血指導

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 西丸藤子が大学卒業後に青龍大学の中等部に教師として就職したのは主家の千鳥家の所為だ。千鳥家のお嬢様が青龍大学の初等部の5年生で2年後に中等部に進学するので、そのバックアップの為に2年前から青龍大学の中等部に乗り込んできていた。

 総ては情報収集の為だ。

 この年、中1の生徒は2年後に千鳥家のお嬢様が進学した時、中3なのだから。

 だが、中等部に就職した藤子が任されたのは東条院青夜という生徒の専任指導教師だった。

 東条院家とは言わずと知れた名家中の名家で、その嫡子が『落ちこぼれ』なのは異能界では有名だった訳だが、青夜のレベルを基準に授業を教えたら他の生徒の異能力修行がおろそかになる。

 通常ならば退学も視野に入れる劣等生だが、東条院のお坊ちゃんなので青龍大学側は退学にも出来ない。

 そこで青夜1人が個別指導される事となり『そんな劣等生の指導を優秀な教師に任せるのは勿体無い。新米教師で十分だろ』との青龍大学の考えが見事に透けて見えるくらいの清々しい人員配置によって大学卒業したての教師1年目の藤子が青夜の個別指導の担当となった。

 藤子から見ても、本当に青夜はダメダメだった。

 『気』も微弱で、異能力の才能がまるでない。

 それでも普通に教えていた訳が、赴任1年目の6月のある日、一向に成長しない青夜を見ながら藤子はふと『あれ? このままこのお坊ちゃんが成長しなかったら東条院の親御さんに『息子の異能力が伸びないのは青龍大学の教師が悪いからだ』とか因縁を付けられて私、クビにされない?』と疑心暗鬼に駆られてしまった。

 東条院の権力をもってすれば正直、青龍大学の教師の1人くらい余裕でクビに出来る。青龍大学は白虎寺陣営だが、白虎寺からすれば西丸藤子は東条院から守るほどの価値もないので簡単に見捨てられて。

 『あれ、もしかして私、マジで拙い立場に立たされてない? ってか、それを見越して新米教師の私がババを掴まされた?』との考えに至ってからは藤子は教育に目覚めた。

 正確には『私は頑張ってますよ。悪いのは才能のないこの生徒ですから』アピール大作戦だった訳だが。





 親身になって青夜を指導。

 他の教師達に青夜の異能力が伸びない事を相談。

 青夜の親御さんには直接会えないので護衛や部下の人達にお話。

 夏休みには都内とは思えない嘘のような東条院の大豪邸に家庭訪問しての特別授業。

 冬休みにも同じ事をやった。





 『アピール大作戦をやり過ぎた』と気付いたのは藤子が赴任1年目の1月の頃だ。

 職員会議で教頭先生に、

「来年も東条院君の担当をよろしくお願いしますね、西丸先生」

 そう気軽に言われた時だった。

「いえ、私などよりも優秀な他の先生方に・・・」

 と職員室で他の教師に視線を送れば教師全員が視線を白々しいくらいに露骨に逸らしてる。

「いやいや、東条院の宗家様からの御指名でもありますから。頑張って下さいね」

 『ええぇ~、つまりは命令じゃないの』と理解した藤子だった。





 ◇





 さて、猫を被ってる東条院青夜の本質は御存知やらかし系だ。

 青夜が藤子に『あれ、青夜君って本当は強くない?』と疑われた事案の幾つかを紹介しよう。





 中2の夏休み。

 青夜は泳げないが(という無能設定)、別に泳げなくても進級が出来ない訳ではない。

 それでも何かを成し遂げて自身の評価に繋げたかった藤子は夏休みに東条院の宗家屋敷に出向き、東条院の屋内プールで青夜にバタ足の訓練を強いていた訳だが、そこでプールの中に居た藤子の方が水に足を絡めて溺れかけた。

 無論、水が絡まったのは術によるもので、術者は青夜に纏わり付いた異性にヤキモチを焼いた4歳年下の小4の妹の青花の悪戯だったのだが、水関連の悪戯は洒落にならない。

「えっ、足が、嘘・・・ブクブクブク」

 ワンピース水着の藤子が眼の前で溺れる中、妹の未熟な術で東条院の宗家屋敷内で溺れて死なれたら堪ったものじゃない青夜が仕方なく藤子を助ける破目になり、

「大丈夫ですか、西丸先生」

 お姫様だっこしてプールサイドに上げていた。

「ゲホッ、ハアハア・・・・・・あれ、東条院君が助けてくれたの?」

「はい、一応」

「つまり泳げるようになったのね?」

「・・・・・・いえいえ、プールサイドのすぐ傍でしたから。足も付きますし」

 との青夜の言い分を全く聞かない藤子が、

「1メートルでも泳げたのは凄い事だわ。やったわね、東条院君っ! この調子で頑張りましょうっ!」

 そう褒めるに至っていた。

 その時は藤子は青夜の微々たる成長を素直に喜んだものだが、後になって『? あれって術式の攻撃じゃなかったかしら? やったのは東条院君? まさかね。術式の発動はなかったし。じゃあ、術を解いたのが東条院君?』と疑ったが『そんな事ある訳ないわね。一瞬『気』が充実したように思えたのも、きっと気の所為。溺れて私も気が動転していたし』と軽くスルーしたのだった。





 中3の春の修学旅行。

 中学の修学旅行は中3が基本だ。青龍大学の中等部も修学旅行は3年の春に行われた。中等部の修学旅行は京都旅行と決まってる訳だが、京都には東条院と敵対関係にある朱雀塾という異能組織が存在した。

 その歴史は古く、幕末までは東条院や白虎寺どころか白鳳院に迫る勢力を誇っていたが、幕末で徳川幕府に味方した事でフルボッコ。明治以降、戦後までの100年間ボコボコにされ続け、敗戦直後も占領軍を怒らせてボッコボコ。戦後復興でも勢力減少。

 今や弱小勢力にまで没落した訳だが、昔の栄光が忘れられず、政敵の白鳳院(本当は相手にされてない)や朱雀塾に取って代わった四柱と呼ばれる4大名家めいけの事を怨んでおり、今年の修学旅行では東条院の嫡子の『落ちこぼれ』の京都入りが既に決まっていた。

 そんな訳で、その年の修学旅行は青龍大学や東条院側も厳戒態勢で護衛をわんさか連れて京都入りする訳だが、当然、藤子も青夜専属の護衛を兼ねる事となった。

 東条院側の護衛は優秀で『何事もなく終わる』と思われたが、最終日に藤子の方が(人質要員として)連れ去られる事案が発生した。

 それを華麗に解決したのが青夜で、当然、藤子の記憶を改竄して東条院の護衛が助けた事にした・・のだが、主家の千鳥家が藤子の記憶がイジられてる事に気付き、そんな危険な状態を放置する訳もなく藤子の記憶を取り戻すと、天狗面を被った青龍大学の中等部の青詰襟制服を着た少年が朱雀塾の連中40人をボッコボコにしていた。

 それも青龍拳でだ。

(凄っ! 東条院流青龍拳よね、この動き? 背恰好も青夜君っぽいけど、でもこの溢れる『気』・・・青夜君な訳もないし、護衛が助けてくれたの? でも、どうして私が記憶を消されたのよ? もしかして東条院家の隠し玉で知っちゃ拙い相手だった? でも青龍大学の学生服だし、背格好はどう見ても青夜君なのよね。案外、双子だったりして)

 記憶を取り戻した藤子はしばらくの間、本気で双子説を支持して青夜を疑うように見ていたのだった。





 中3の卒業間際の冬のグラウンドの隅で授業中に行われた青夜相手の個人レッスン。

 藤子は尼僧系だが、呪詛系でもあるので召喚する悪霊のレベルが実は高い。

 その上、教師1年目にいきなり青夜の専属となった為、匙加減が自分が基準になっており、実は青夜の対戦用に召喚する幽霊は、藤子が気付いていないだけで実はかなり強めの悪霊だった。

「さあ、今日こそ、雑魚霊を倒すのよ、青夜君」

 悪霊が雑魚認識の藤子に対して、実力を隠す青夜にもその悪霊は雑魚だったが青夜は無能を演じてるので秒どころか一撃で、

「ウワアアア」

 と吹き飛んで気絶したふりをした。

「ええぇ? これもダメなの? 邪魔」

 藤子も強いので面倒臭そうに手を払っただけで青夜を吹き飛ばした悪霊を一瞬で除霊出来、その後、気絶中(フリ)の青夜を抱きかかえて、

「大丈夫?」

 と心配する訳だが当然、青夜は無傷だ。

 それに余り長く気絶のフリをしていたら東条院のお坊ちゃんでもあるから青夜が保健室に運ばれて大事おおごとになる。10秒ほどで、

「・・・んん? あれ、先生が助けてくれたんですか」

 青夜は目覚めて、

「良かったぁ~」

 などと藤子が安堵するのがいつもの風景だった訳だが。

 その様子を校内を巡回中の教頭の小豆洗あずきあらい黙示もくじがたまたま見ており、その日の放課後に、

「西丸先生、東条院君に対戦させてる幽霊を召喚して見せて下さいませんか?」

 と教師達の前で実演させられる事となり、藤子が普通に悪霊を召喚すると『えっ? こんなに強いのを?』『生徒には無理だろ?』『下手したら大怪我するぞ』と一緒に見ていた教師達が騒ぎ始めて、

「いやいや、雑魚ですから」

「それは我々からすればですよ。生徒にはまだ無理ですって」

 そう言われて藤子は『えっ、これで強い? 去年の最初の頃はもっと強い奴を出してなかった、私? でも無傷だったわよね、青夜君って』と青夜の実力を疑う事となった。





 だが、疑うだけだ。

 ちゃんと青夜は確証を藤子に与える事なく中等部を卒業していた。
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