実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド

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『青夜様』コール事件の後始末

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 3時間にも及ぶ入学式の大絶叫の『田中ぁ~?』コールで(その間、術を解こうと異能力を使いまくって精神をすり減らし、結局は解けずプライドをへし折られ、更には術が解けた直後に1時間土下座させられて完全に精神が疲弊して)ヘトヘトの副学長の鍋島加我はその日の午後に開かれた臨時の教授会で吊るしあげを喰らう事となった。

 当然だ。3時間も醜態を晒したのだから。

「本日の高等部の入学式では大活躍だそうで?」

「保護者の中には月御門の縁者も居たのに、入学式の直後に転校手続きの書類を提出されましたぞ」

「他にも20名弱が。入学式当日にこれだけの数の生徒が転校とは前代未聞ですな」

「優秀な副学長がその場に居ながら何たる醜態」

 他の教授達に嫌味を言われる中、

「違う。私は操られただけで・・・・・・」

 疲弊して普段の覇気も消え失せ、気弱な言葉を加我が吐くと、

「副学長ほどの実力者が3時間も?」

「まさか、そのような術者が居ようとは。いったい誰なのです、その術者とは?」

「そんなの東条院青夜に決まって・・・」

「東条院青夜は無能で有名ではありませんか」

「廃嫡もされていますしな」

「まさか、そんな無能者に青龍大学の副学長の職にある者が操られたと?」

「そう言えばウソかホントか、副学長が『生徒に土下座した』との噂もあったような?」

 その後も嫌味を言われると職員がノックと共に教授会に現れて、

「どうした?」

「事務局に提出された転校手続きの書類が100枚を越えました。他校への送付許可のハンコを高等部長にいただきたく」

 職員が申し訳なさそうに言い、高等部長を兼務する副学長の加茂が青ざめる中、74歳で顎髭がチョロリと伸びた仙人のような容姿の学長の夏目夏雄が、

「構わん。去る者は追わずだ」

「よろしいのですか?」

「どうする事も出来んからな」

「東条院青夜を退学にすれば・・・・・・」

 そう加我が提案するも、

「何のとがで?」

「入学式に居た全員を操った・・・・・・」

「つまり3時間操られたが青龍大学は何も対策を打てなかったと宣伝する訳か」

「それは・・・・・・」 

「まあ、実際に何も出来なかったんだがな。突入した連中も一緒になって名前を叫んでいた訳だし」

 と力なく笑った夏雄が、

「まあ、今回は不問とするしかあるまい」

「お待ちを、学長。何のペナルティーもなしでは他の生徒に示しが・・・・・・」

 加我が反論した時、ドアが開いて職員が慌てて、

「た、大変ですっ!」

「何だ?」

「当校の高等部1年の田中青夜が叙勲されたと、たった今、文科省から連絡がありました。従四位下じゅしいのげ、賽河原近衛権中将だそうです」

「ふ、ふざけるなっ! あんな奴が叙勲だとぉぉぉっ!」

 と叫んだのは加我だった。

 『事前に青夜が叙勲の話を知ってた』との結論には疲弊した頭では到達出来なかった。

「生徒の躍進を喜べないのは教育者としてどうかと思うぞ?」

 夏雄がそう嫌味を言い、

「宮内庁が叙勲させた者の処罰は出来んので田中青夜は不問とする。文句を言ってきた生徒や保護者は全員黙らせろ。無能者は要らんからな。転校したい生徒は全員転校させてやれ。従四位下の生徒1人の方が貴重だからな」

 加我が『自身もその無能者の中に入ってる』との危機感を覚える中、

「鍋島副学長は明日の高等部の始業式で田中青夜の叙勲をちゃんと表彰し、青龍大学の伝統に従い、優秀生徒の肩章を与えるように」

 その言葉で我に返り、

「はあ? 冗談ですよね、学長?」

「高1での叙勲だぞ? それも殿上間でんじょうのまへの昇殿を許される従五位以上。栄誉な事ではないか。我が校にとっても誇りだよ。それに賽河原が何の部署か知らん訳でもあるまい? まさか、白虎寺の首脳部まで巻き込んで揉めようとか思っておらんよな?」

 そう夏雄に正論を無理矢理飲まされ、臨時の教授会は終了したのだった。





 ◇





 警察庁では異能部隊の幹部達が集められ、またもや会議が開かれる事となった。

 議題は当然、本日行われた青龍大学の高等部の入学式の『青夜様』コール事件だ。

「異能課に被害届が20通以上出てるぞ。逮捕出来ん事もないが・・・」

「音頭を取ってた副学長をか?」

「操った田中青夜をだよ」

「それは無理だろ。青龍大学が放置したんだぞ、3時間も。つまりは不介入って事なのだから。青龍大学側が認めんさ。『入学生の実力をテストした』などと言われてみろ。お手上げだ」

「だが、今回のはやりすぎだろ。下手すると白虎寺と東条院の『四柱協定』に引っ掛かるぞ。月御門の東京分家もその場に居たそうだから月御門とのにも」


 その時、全員のスマホが一斉に鳴り始めた。

 メールや電話を受けて、

「はあ? 田中青夜が叙勲? 従四位下、それも賽河原だぁぁ?」

「今の賽河原卿は確か白鳳院の御曹司が兼務を・・・」

「賽河原が皇居司法で、近衛が皇居直属の最高異能部隊。もう警察庁オレたちよりも上じゃねえかっ! そうか、知ってやがったな、叙勲を。それでこの暴挙か」

「敵わんな。これからもっと酷い事が起こるぞ、特に東条院と青龍大学」

「まったくだ。誰だ、寝た子をわざわざ起こした馬鹿は?」

 そんな言葉が交わされたのだった。





 ◇





 青夜が皇居から田中家へ帰ったのを待っていたのは二千院目高だった。

「青夜、貴様ぁ、やってくれんたなぁ~」

「ああ、もしかして叙勲の事? オレは嫌だったんだよ、ホ・ン・ト・ウ・に。なのに、白鳳院の御当主様に無理矢理押し付けられてさぁ~」

 青夜がわざと誤解する中、目高が、

「そっちじゃないわいっ! 青龍大学の高等部の入学式の方じゃっ!」

「オレ、入学したくなかったんだよねぇ~、青龍大学なんかに? なのに、東条院宗家の決定を覆したバカが出てさぁ~。転校手続きよろしくね」

「無理じゃ。白鳳院の御前様に野点の後に呼び出されて取り決め破りを責められて、青龍大学へ通わせるよう約束させられたから」

(白鳳院にいいように使われてるなぁ~。二千院の曾お祖父ちゃんってこんなに勘が悪かったっけ? それともわざと愚者を演じてるフリをして曾孫のオレを操ってる? いや、ないか、この様子じゃあ)

「なら仕方ないね。まあ、落ちた東条院の新たな兵隊になれる奴が居るか学校でテストして優秀者をスカウトでもするかな」

「テストはするなっ! 青夜、いいなっ?」

(分家の鵜殿をそそのかした百合潰しは決定事項なんだよ、もう。でも、曾お祖父ちゃんは今、鼻が利いていないみたいだし、言わない方が賢明かな? 変にしゃしゃり出て場を荒らされても困るし)

「それは無理かなぁ~。東条院の立て直しを白鳳院の御当主様に直々に命令されてたから」

「頼むからもう暴れんでくれっ!」

「暴れたりなんかしないさ。周囲が勝手に馬鹿をやってただけで。今日も何もしてないしぃ~、オレぇ~」

 嘘臭い笑顔の青夜を見て、曾祖父の目高はガッカリと肩を落としたのだった。
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