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前代未聞の入学式『青夜様』コール事件
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青夜は東条院の宗家の嫡子として幼稚舎から青龍大学に通学していた。
初等部も中等部も青龍大学だった。
青龍大学は世間的には名家の子息子女が通う学校とされてるが、それは表向きだ。
裏では異能が使える子供達のみが通学出来る関東エリアの学校だった。
青夜もその青龍大学に幼稚舎から通学していた訳だが、それは東条院の宗家嫡子としての義務みたいな物だ。
田中家の養子になって青龍大学に通う必要はなくなった。
宗家当主である父親、青蓮の厳命でもある。
別の高校への入学手続きも簡単に済んだ。
入学試験など受けていないが、東条院の権力を以てすれば生徒の1人くらいはねじ込める。
それだけの権力を東条院は持っていた訳で、青夜はこの春から一般の高校に通うはずだったのだが。
東条院の宗家屋敷の呪詛汚染事件が起きて、宗家当主の青蓮が入院して身動きが取れなくなった所為で一般の高校に通学するはずだった青夜の進路は母方の実家、二千院家の介入によっていつの間にか再修正されており、
4月上旬。
青夜がその事に気付いたのは入学式の前日に渡された高校の制服が青龍大学の高等部の青の詰襟服だと知った時だった。
「ええっと、どういう事かな、パパ?」
「な、何の事かな?」
不機嫌な青夜に詰め寄られて、眼を泳がせる一狼。
「オレの高校の変更は宗家当主の命令だったはずだよ? その命令に背くなんて東条院宗家から粛清を受けるんじゃない?」
「それはないね」
「まさか、親父殿のーーコホン、宗家当主の命令だって事?」
「いや、分家の老人達が・・・」
「嘘だよね、それ? 宗家当主の威光に逆らえる分家は分家頭の藤名家の古狸だけで、その古狸は今、本州追放で東条院一族の権限も停止中。四国の道後温泉でマッタリしてるんだから」
「ええっとぉ~、その、だね、青夜」
「本当は誰なの。こんな馬鹿な事をしたの?」
青夜に詰め寄られて、一狼は渋々と、
「・・・二千院の御前様が一党を説得されてね」
「説得ぅ~? 『命令した』の間違いでしょ?」
「まあ、そうなんだが。東条院の一党は今、宗家屋敷が落ちて大変でね。次期後継の青刃様と青花様は保護という名の幽閉だし」
「ん? 義理の母上殿は?」
「四乃森の本屋敷で呪詛汚染があった翌日にその事を聞いて自刃されたよ」
「うわ、勿体な。まだ30代だったのに」
と青夜が率直な感想を言うと同席してた葉月が、
「何、人妻がタイプなの、青夜は? こんなピチピチな私が居ながら?」
と呆れた。
因みにアンジェリカはまだ来日した母親に付き合ってて日本を観光中だ。
「違うって。母上殿の異能は四乃森一族で大当たりの『柳』の幻術だったから」
「だから何?」
葉月が問うと横に居た愛が、
「あら、知らない、葉月さん? 柳の幻術師のピークは40代が通説なのを」
「へぇ~」
と勉強になったところで、青夜が、
「パパ、今すぐに高校を変えてよ。オレ、一般の高校に憧れてたんだからさ」
「いやいや、無理だって。入学式は明日なんだから」
「ふ~ん。青龍大学の高等部ねぇ~。・・・・・・あっ、バス通学か。バス通学には密かに憧れてたからいいかな?」
「いやいや、車が出るよ。二千院家から」
「はあぁ~、そうなの? それなら電動キックボードの方が・・・」
「いやいや、青夜にもしもの事があったら田中の家が大変だから車通学にしておくれ」
「つまらないの」
青夜はそうガッカリしながら内心では、
(クソぉ~、いったいいつからだ? 綾波邸の花見でサキさんと喋った時からか? さすがに宗家屋敷の邪気汚染の翌日の白鳳院枢が田中家に訪ねてきた時じゃないよな・・・いや、白鳳院なら十分あり得て怖いっ! クソ、せっかく東条院を出たのにオレに分家の鵜殿の宗家簒奪を治めろってか? 東条院の家は出れたが、そんなに東条院とどっぷり関わって大丈夫なのか、オレ? お母様の予言、あの時もっとしつこく聞いておけば良かったぁ~。ああ、もうっ! ってか、あれだけ中等部まで弱いフリしてたのに青龍大学って。高校デビューとか今更過ぎて恥ずかしいんだけど。実力差の分からない馬鹿が何人突っ掛かってくる事になるんだか、はぁ~)
思考回路をフル活用して別の事を考えていた。
そして青龍大学の高等部の入学式の日となった。
入学式には親同伴が基本だが、一狼が、
「イテテテ、今日は朝から腹痛が酷くてね。代わりに愛に行って貰うから」
と下手な演技をしたので、
「つまり、パパはオレの入学式を腹痛程度で欠席すると?」
青龍大学の高等部への通学だけでも不機嫌な青夜が嘘を見抜いてツッコむと、葉月が笑いながら、
「違うわよ、青夜。妹も通うのよ、青龍大学の高等部に今年から。それで入学式で聖美ママとバッティングしたくないから仮病を使ってるだけよ」
そう事情を説明してくれて青夜も納得した。
田中一狼はバツ7男なのだ(正確には死別が4人だが)。
田中家には青夜以外、入学式を迎える者は居なかったが、田中家に居る娘4人の他にも5人、一狼には親権を手放した娘が居た。
5人目の妻、聖美が生んだ五女、坂田良子。
それが青夜と同じ青龍大学の高等部に今年入学するのだそうだ。
「ん? 坂田? あれ、確か葉月のママも確か」
「そうよ、パパが海外出張中に私と弥生姉の事を世話してくれてたのが死んだ私のママの妹の聖美ママだったのに、日本に帰ってきたパパがあっさりとママの妹だと分かってて聖美ママにも手を出してちゃってさ。お陰で坂田家はカンカン。完全に出禁状態ってワケ。笑っちゃうでしょ」
「パパ、何やってんの?」
青夜が呆れる中、一狼が、
「だって美人だったんだもん」
「あのねぇ~」
「だから青夜、お願いね、良子の事。父方の系譜では妹、母方の系譜では私の従妹だから」
「了解、葉月」
「そういう訳だから、オレの代わりに愛が保護者として参加するのでよろしくね、青夜」
「はいはい」
そんな会話が朝からあって入学式には愛と出向く事となった。
二千院の車が来たので制服を着た青夜は乗り込んだ。
愛はシックなピンク色のワンピースだ。
「似合ってるよ、ママ」
「ありがと、青夜君」
更に車内で青夜が見てると、愛が、
「何?」
「いや美人だなぁ~と思って」
「褒めてもエッチな事はしないわよ。葉月さんやアンちゃんとやってね」
「分かってるよ」
「でも一番は弥生さんよね、青夜君は?」
「・・・そこまで分かるの? もしかしてパパに何か聞いた?」
「いいえ。2人してわざとらしく険悪な雰囲気を醸し出してるから『もしかして』と思っただけで」
当て推量が当たった事に愛が内心で驚く中、青夜が苦笑気味に、
「さすがは鴨川家のお嬢様、勘が良過ぎ。もしかして未来予知も出来たりするの?」
「夢見が少しだけね」
と愛が答えたので、青夜が渋々と、
「鴨川家のお嬢様なら知ってるでしょ。主家にとって陪臣家の人間なんて道端を歩く蟻程度の存在で主家は踏んだ事にも気付かないって」
「・・・もしかして何か酷い事をしちゃったの、弥生さんに?」
「どうしても知りたかったら弥生さんから聞いてよ。オレからは口外しないって決めてるから」
などと会話しながら青龍大学へと向かったのだった。
こうして青龍大学の高等部へと出向いた訳だが、東条院の宗家屋敷が落ちた事と青夜が東条院を廃嫡になってた事が知れ渡っていたのか、二千院の車から降りると、
「これはこれは、遂に東条院を廃嫡されたんだってな?」
「今は田中だっけか?」
「どこの田中だ?」
「プププッ、情けなぁ~」
との男子生徒7人くらいから歓迎を受けたが、車が青龍大学に近付くにつれて不機嫌になってた青夜が、
「頭が高い。土下座しろ」
と呟くと、その場の視界に居る保護者同伴の生徒全員が、保護者共々、土下座したのだった。
その数、50人以上が。
無論、強制の術式だ。
でなければ無能者を演じ、蔑まれてる青夜に誰も土下座なんかしない。
誰もが強力過ぎる青夜の術式に抵抗出来ず土下座する中、唯一術の対象外で土下座しなかった愛が焦りながら、
「ちょ、何やってるのよ、青夜君?」
「いいのいいの、青龍大学ではこれが普通だから」
「そんな訳ないでしょ。早く術を解いて」
「ええっと、解き方は・・・どうやるんだっけ? 途中で解いた事なんてないから。確か、オレが居なくなって10分後には解けると思うけど?」
「なら早く式場に行きましょう。皆さん、本当にすみません」
愛が青夜の手を取って入学式の式場の体育館へと向かったのだった。
因みに土下座の強制は20分間続いた。
東条院が異能界のトップ5に入る名家な事から『宗家屋敷の陥落』と『嫡子の青夜の廃嫡』は誰もが知ってる訳で、入学式では視線を集める事になり、更には青龍大学側の高等部長を兼任の40代後半で副学長の優秀な鍋島加我が東条院と鍔迫り合いをする白虎寺の陣営だったので入学式の挨拶中にわざわざ、
「そう言えば、屋敷が落ちたどこぞの名門の子息が精進が足りず廃されるという不名誉が出たと噂になったが、入学生の生徒の皆さんは・・・・・」
と言った瞬間、1秒ほど間を置いて、
「その名前を御存知かな?」
と言った時には保護者の中の実力者の十数人が『操られた』と悟ったが、
「その名は田中青夜。前の名前と間違わぬように皆で合唱しよう。私が『田中』と言ったら、皆さんは『青夜』と叫ぶように、では『田中ぁ~?』」
とマイクで問うと、入学式に居た青夜と愛を除く全員が、
『青夜っ!』
と叫んでいた。
叫んだ全員が自分が操られてる事を悟り、入学式に参加している生徒、教師、保護者の誰もが異能力者なので何とか術に抵抗しようと頑張る中、
「声が小さい、田中ぁ~?」
『青夜っ!』
またもや全員が叫んでいた。
この強力な強制の術式を使って、全員を操っているのは当然、青夜本人だった。
青夜の術式が強力過ぎて誰も抵抗出来ず、
「様を付けて、田中ぁ~?」
『青夜様っ!』
「もっと敬意をこめて、田中ぁ~?」
『青夜様っ!』
「拳を力強く上に突き上げて、田中ぁ~?」
『青夜様っ!』
「全員、席から立って、田中ぁ~?」
『青夜様っ!』
この異常な入学式はまさかの3時間も続く事になったのだった。
青龍大学の高等部の入学式は3時間、全員参加の『青夜様』コールの場と化していた。
何度か事態に気付いた青龍大学側の人間が『止めさせよう』と入学式会場に乗り込んできたが、その全員も術に掛かり一緒に『青夜様っ!』と名前を叫んでいた。
誰もが強力過ぎる術を自力で解く事が出来ず、青夜の名前がコールされる異様な空間の中で、唯一術の対象外だった関係者の愛が青夜に近付き、
「青夜君、もういいでしょ? 術を解きなさい」
「同級生のテストも兼ねてますので」
「青夜君、お願い」
「ダ~メ」
「そんな事言わずに、ねえ?」
「上目使いで胸を強調して可愛くお願いしてもダメなものはダメだよ、ママ。怒るならこうなる事が分かってて宗家命令を無視して青龍大学にオレを通学させた大人達に怒ってよね」
説得に失敗した事で、誰にもこの強力な青夜の術を解く事が出来ず、青夜が優雅に椅子に座ってスマホで海外の有名海賊映画を丸々1本見終わった後に術を解くとそこで全員が解放されたのだった。
それで一件落着な訳もなく、マイクを持った副学長の鍋島加我が怒り任せに、
「貴様ぁぁぁっ! さっさとその馬鹿を叩き出せっ!」
と突入部隊達に命令したが、
「頭が高い」
そう青夜が言った瞬間、今度は全員が青夜に土下座する破目になった。
またもや強制だ。
異能力者だらけの空間だが誰も土下座の強制を解除出来なかった。
全員が額を体育館の床に敷かれたゴムシートに付けて土下座している。
「青龍大学って本当、異能力者の質が低いよな。教師も生徒も」
辟易と青夜が高等部長の鍋島加我の土下座した後頭部を踏みながら、
「精進が足りずに廃嫡? 何言ってんだ、おまえは? 頭、大丈夫か? あれは東条院を『オレが出たかった』から無能を演じただけだ。もう演じる気はねえよ。分かったな、ド低能」
そう説教して、
「さてと、おまえらマヌケは後1時間、土下座でもしてろ。教師と生徒は入学式後のクラス移動と挨拶ね。術はもちろん害意や殺気も向けない事。向けたら無条件で土下座が発動するように術式を組んだから」
術を解いてクラス移動を始めさせたのだった。
初等部も中等部も青龍大学だった。
青龍大学は世間的には名家の子息子女が通う学校とされてるが、それは表向きだ。
裏では異能が使える子供達のみが通学出来る関東エリアの学校だった。
青夜もその青龍大学に幼稚舎から通学していた訳だが、それは東条院の宗家嫡子としての義務みたいな物だ。
田中家の養子になって青龍大学に通う必要はなくなった。
宗家当主である父親、青蓮の厳命でもある。
別の高校への入学手続きも簡単に済んだ。
入学試験など受けていないが、東条院の権力を以てすれば生徒の1人くらいはねじ込める。
それだけの権力を東条院は持っていた訳で、青夜はこの春から一般の高校に通うはずだったのだが。
東条院の宗家屋敷の呪詛汚染事件が起きて、宗家当主の青蓮が入院して身動きが取れなくなった所為で一般の高校に通学するはずだった青夜の進路は母方の実家、二千院家の介入によっていつの間にか再修正されており、
4月上旬。
青夜がその事に気付いたのは入学式の前日に渡された高校の制服が青龍大学の高等部の青の詰襟服だと知った時だった。
「ええっと、どういう事かな、パパ?」
「な、何の事かな?」
不機嫌な青夜に詰め寄られて、眼を泳がせる一狼。
「オレの高校の変更は宗家当主の命令だったはずだよ? その命令に背くなんて東条院宗家から粛清を受けるんじゃない?」
「それはないね」
「まさか、親父殿のーーコホン、宗家当主の命令だって事?」
「いや、分家の老人達が・・・」
「嘘だよね、それ? 宗家当主の威光に逆らえる分家は分家頭の藤名家の古狸だけで、その古狸は今、本州追放で東条院一族の権限も停止中。四国の道後温泉でマッタリしてるんだから」
「ええっとぉ~、その、だね、青夜」
「本当は誰なの。こんな馬鹿な事をしたの?」
青夜に詰め寄られて、一狼は渋々と、
「・・・二千院の御前様が一党を説得されてね」
「説得ぅ~? 『命令した』の間違いでしょ?」
「まあ、そうなんだが。東条院の一党は今、宗家屋敷が落ちて大変でね。次期後継の青刃様と青花様は保護という名の幽閉だし」
「ん? 義理の母上殿は?」
「四乃森の本屋敷で呪詛汚染があった翌日にその事を聞いて自刃されたよ」
「うわ、勿体な。まだ30代だったのに」
と青夜が率直な感想を言うと同席してた葉月が、
「何、人妻がタイプなの、青夜は? こんなピチピチな私が居ながら?」
と呆れた。
因みにアンジェリカはまだ来日した母親に付き合ってて日本を観光中だ。
「違うって。母上殿の異能は四乃森一族で大当たりの『柳』の幻術だったから」
「だから何?」
葉月が問うと横に居た愛が、
「あら、知らない、葉月さん? 柳の幻術師のピークは40代が通説なのを」
「へぇ~」
と勉強になったところで、青夜が、
「パパ、今すぐに高校を変えてよ。オレ、一般の高校に憧れてたんだからさ」
「いやいや、無理だって。入学式は明日なんだから」
「ふ~ん。青龍大学の高等部ねぇ~。・・・・・・あっ、バス通学か。バス通学には密かに憧れてたからいいかな?」
「いやいや、車が出るよ。二千院家から」
「はあぁ~、そうなの? それなら電動キックボードの方が・・・」
「いやいや、青夜にもしもの事があったら田中の家が大変だから車通学にしておくれ」
「つまらないの」
青夜はそうガッカリしながら内心では、
(クソぉ~、いったいいつからだ? 綾波邸の花見でサキさんと喋った時からか? さすがに宗家屋敷の邪気汚染の翌日の白鳳院枢が田中家に訪ねてきた時じゃないよな・・・いや、白鳳院なら十分あり得て怖いっ! クソ、せっかく東条院を出たのにオレに分家の鵜殿の宗家簒奪を治めろってか? 東条院の家は出れたが、そんなに東条院とどっぷり関わって大丈夫なのか、オレ? お母様の予言、あの時もっとしつこく聞いておけば良かったぁ~。ああ、もうっ! ってか、あれだけ中等部まで弱いフリしてたのに青龍大学って。高校デビューとか今更過ぎて恥ずかしいんだけど。実力差の分からない馬鹿が何人突っ掛かってくる事になるんだか、はぁ~)
思考回路をフル活用して別の事を考えていた。
そして青龍大学の高等部の入学式の日となった。
入学式には親同伴が基本だが、一狼が、
「イテテテ、今日は朝から腹痛が酷くてね。代わりに愛に行って貰うから」
と下手な演技をしたので、
「つまり、パパはオレの入学式を腹痛程度で欠席すると?」
青龍大学の高等部への通学だけでも不機嫌な青夜が嘘を見抜いてツッコむと、葉月が笑いながら、
「違うわよ、青夜。妹も通うのよ、青龍大学の高等部に今年から。それで入学式で聖美ママとバッティングしたくないから仮病を使ってるだけよ」
そう事情を説明してくれて青夜も納得した。
田中一狼はバツ7男なのだ(正確には死別が4人だが)。
田中家には青夜以外、入学式を迎える者は居なかったが、田中家に居る娘4人の他にも5人、一狼には親権を手放した娘が居た。
5人目の妻、聖美が生んだ五女、坂田良子。
それが青夜と同じ青龍大学の高等部に今年入学するのだそうだ。
「ん? 坂田? あれ、確か葉月のママも確か」
「そうよ、パパが海外出張中に私と弥生姉の事を世話してくれてたのが死んだ私のママの妹の聖美ママだったのに、日本に帰ってきたパパがあっさりとママの妹だと分かってて聖美ママにも手を出してちゃってさ。お陰で坂田家はカンカン。完全に出禁状態ってワケ。笑っちゃうでしょ」
「パパ、何やってんの?」
青夜が呆れる中、一狼が、
「だって美人だったんだもん」
「あのねぇ~」
「だから青夜、お願いね、良子の事。父方の系譜では妹、母方の系譜では私の従妹だから」
「了解、葉月」
「そういう訳だから、オレの代わりに愛が保護者として参加するのでよろしくね、青夜」
「はいはい」
そんな会話が朝からあって入学式には愛と出向く事となった。
二千院の車が来たので制服を着た青夜は乗り込んだ。
愛はシックなピンク色のワンピースだ。
「似合ってるよ、ママ」
「ありがと、青夜君」
更に車内で青夜が見てると、愛が、
「何?」
「いや美人だなぁ~と思って」
「褒めてもエッチな事はしないわよ。葉月さんやアンちゃんとやってね」
「分かってるよ」
「でも一番は弥生さんよね、青夜君は?」
「・・・そこまで分かるの? もしかしてパパに何か聞いた?」
「いいえ。2人してわざとらしく険悪な雰囲気を醸し出してるから『もしかして』と思っただけで」
当て推量が当たった事に愛が内心で驚く中、青夜が苦笑気味に、
「さすがは鴨川家のお嬢様、勘が良過ぎ。もしかして未来予知も出来たりするの?」
「夢見が少しだけね」
と愛が答えたので、青夜が渋々と、
「鴨川家のお嬢様なら知ってるでしょ。主家にとって陪臣家の人間なんて道端を歩く蟻程度の存在で主家は踏んだ事にも気付かないって」
「・・・もしかして何か酷い事をしちゃったの、弥生さんに?」
「どうしても知りたかったら弥生さんから聞いてよ。オレからは口外しないって決めてるから」
などと会話しながら青龍大学へと向かったのだった。
こうして青龍大学の高等部へと出向いた訳だが、東条院の宗家屋敷が落ちた事と青夜が東条院を廃嫡になってた事が知れ渡っていたのか、二千院の車から降りると、
「これはこれは、遂に東条院を廃嫡されたんだってな?」
「今は田中だっけか?」
「どこの田中だ?」
「プププッ、情けなぁ~」
との男子生徒7人くらいから歓迎を受けたが、車が青龍大学に近付くにつれて不機嫌になってた青夜が、
「頭が高い。土下座しろ」
と呟くと、その場の視界に居る保護者同伴の生徒全員が、保護者共々、土下座したのだった。
その数、50人以上が。
無論、強制の術式だ。
でなければ無能者を演じ、蔑まれてる青夜に誰も土下座なんかしない。
誰もが強力過ぎる青夜の術式に抵抗出来ず土下座する中、唯一術の対象外で土下座しなかった愛が焦りながら、
「ちょ、何やってるのよ、青夜君?」
「いいのいいの、青龍大学ではこれが普通だから」
「そんな訳ないでしょ。早く術を解いて」
「ええっと、解き方は・・・どうやるんだっけ? 途中で解いた事なんてないから。確か、オレが居なくなって10分後には解けると思うけど?」
「なら早く式場に行きましょう。皆さん、本当にすみません」
愛が青夜の手を取って入学式の式場の体育館へと向かったのだった。
因みに土下座の強制は20分間続いた。
東条院が異能界のトップ5に入る名家な事から『宗家屋敷の陥落』と『嫡子の青夜の廃嫡』は誰もが知ってる訳で、入学式では視線を集める事になり、更には青龍大学側の高等部長を兼任の40代後半で副学長の優秀な鍋島加我が東条院と鍔迫り合いをする白虎寺の陣営だったので入学式の挨拶中にわざわざ、
「そう言えば、屋敷が落ちたどこぞの名門の子息が精進が足りず廃されるという不名誉が出たと噂になったが、入学生の生徒の皆さんは・・・・・」
と言った瞬間、1秒ほど間を置いて、
「その名前を御存知かな?」
と言った時には保護者の中の実力者の十数人が『操られた』と悟ったが、
「その名は田中青夜。前の名前と間違わぬように皆で合唱しよう。私が『田中』と言ったら、皆さんは『青夜』と叫ぶように、では『田中ぁ~?』」
とマイクで問うと、入学式に居た青夜と愛を除く全員が、
『青夜っ!』
と叫んでいた。
叫んだ全員が自分が操られてる事を悟り、入学式に参加している生徒、教師、保護者の誰もが異能力者なので何とか術に抵抗しようと頑張る中、
「声が小さい、田中ぁ~?」
『青夜っ!』
またもや全員が叫んでいた。
この強力な強制の術式を使って、全員を操っているのは当然、青夜本人だった。
青夜の術式が強力過ぎて誰も抵抗出来ず、
「様を付けて、田中ぁ~?」
『青夜様っ!』
「もっと敬意をこめて、田中ぁ~?」
『青夜様っ!』
「拳を力強く上に突き上げて、田中ぁ~?」
『青夜様っ!』
「全員、席から立って、田中ぁ~?」
『青夜様っ!』
この異常な入学式はまさかの3時間も続く事になったのだった。
青龍大学の高等部の入学式は3時間、全員参加の『青夜様』コールの場と化していた。
何度か事態に気付いた青龍大学側の人間が『止めさせよう』と入学式会場に乗り込んできたが、その全員も術に掛かり一緒に『青夜様っ!』と名前を叫んでいた。
誰もが強力過ぎる術を自力で解く事が出来ず、青夜の名前がコールされる異様な空間の中で、唯一術の対象外だった関係者の愛が青夜に近付き、
「青夜君、もういいでしょ? 術を解きなさい」
「同級生のテストも兼ねてますので」
「青夜君、お願い」
「ダ~メ」
「そんな事言わずに、ねえ?」
「上目使いで胸を強調して可愛くお願いしてもダメなものはダメだよ、ママ。怒るならこうなる事が分かってて宗家命令を無視して青龍大学にオレを通学させた大人達に怒ってよね」
説得に失敗した事で、誰にもこの強力な青夜の術を解く事が出来ず、青夜が優雅に椅子に座ってスマホで海外の有名海賊映画を丸々1本見終わった後に術を解くとそこで全員が解放されたのだった。
それで一件落着な訳もなく、マイクを持った副学長の鍋島加我が怒り任せに、
「貴様ぁぁぁっ! さっさとその馬鹿を叩き出せっ!」
と突入部隊達に命令したが、
「頭が高い」
そう青夜が言った瞬間、今度は全員が青夜に土下座する破目になった。
またもや強制だ。
異能力者だらけの空間だが誰も土下座の強制を解除出来なかった。
全員が額を体育館の床に敷かれたゴムシートに付けて土下座している。
「青龍大学って本当、異能力者の質が低いよな。教師も生徒も」
辟易と青夜が高等部長の鍋島加我の土下座した後頭部を踏みながら、
「精進が足りずに廃嫡? 何言ってんだ、おまえは? 頭、大丈夫か? あれは東条院を『オレが出たかった』から無能を演じただけだ。もう演じる気はねえよ。分かったな、ド低能」
そう説教して、
「さてと、おまえらマヌケは後1時間、土下座でもしてろ。教師と生徒は入学式後のクラス移動と挨拶ね。術はもちろん害意や殺気も向けない事。向けたら無条件で土下座が発動するように術式を組んだから」
術を解いてクラス移動を始めさせたのだった。
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いつも仕事でへとへとな私、清家杏(せいけあん)には、とっておきの楽しみがある。それは週に一度、料理代行サービスを利用して、大好きなあっさり和食ごはんを食べること。疲弊した体を引きずって自宅に帰ると、そこにはいつもお世話になっている女性スタッフではなく、無愛想で見目麗しい青年、郡司祥生(ぐんじしょう)がいて……。
仕事をがんばる主人公が、おいしい手料理を食べて癒されたり元気をもらったりするお話。
郡司が飼う真っ白なもふもふ犬(ビションフリーゼ)も登場します!
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