実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド

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深夜の空手道場で秘密指導

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 青夜の16歳の誕生日の深夜の事だ。

 正確には日付が変わって翌日の4月5日なのだが、青夜は自室の布団で目を覚ました。

 青夜は宗家屋敷ではベッドだったが、田中家では布団だ。

 ベッドを購入するという話だったが(宗家屋敷と比べて)田中家の自室が狭過ぎるので『この部屋にベッドを置いたら他のスペースが無くないか?』と思い始め、ベッド購入を保留にしてる今日この頃だったのだ。

 それはさておき。

 青夜は眼を覚ましてスマホで時間を確認した。

 深夜1時28分だった。

(ったく、何を考えてるんだか)

 青夜はそう思いながら布団から出ると4階の玄関から階段を降りていった。





 1階の空手道場へと移動する。

 普段は深夜、施錠されてるはずだが今は掛かっておらずドアを開けて青夜は道場に入った。

 道場内は電灯が点いておらず暗室だったが、まあ、異能が蔓延る世の中だ。

 『暗視』くらいは訓練すれば御手の物なので、劣等生を演じる青夜も空手道場内を見渡せた。

 テニスコートくらいの広さがある空手道場では空手着を纏った葉月が暗闇の中、『ハッ、ヤアッ』と空打ち(素振り)をやっていた。

 普通の空手の練習とは違う。

 同時に『気』を込めての稽古だ。

 その為、気配を感知したというか、癇に障ったというか、青夜は目覚めていたのだ。

 正直、この葉月の深夜の練習は睡眠の邪魔だ。

「どうしたの、青夜?」

 相当練習をしていたらしく振り返った葉月は汗だくだった。

「気の高ぶりを感じてね」

「あら、睡眠の邪魔をしちゃった? ごめんね、青夜」

「深夜に稽古するのは初めてだよね?」

「まあね」

「どうして?」

「青夜が埼玉県まで拳撃を打った際の屋上での青夜の膨大な気の集中に触発されて格闘家として居ても立っても居られなくて」

「じゃあ、オレの所為な訳か」

 苦笑した青夜に対して、

「ねえ、青夜、稽古を付けてよ」

 と葉月がねだってきた。

 青夜はパジャマ姿なのに。

「いやいや、オレ、無能・・・・・・」

 青夜が断る前に、葉月が、

「私、もう『記憶がある』って言ったわよね? 中国系の異能マフィア20人を10歳の青夜が半殺しにしてるさ」

 逃げ道を防いだ。

 通常ならば青夜は相手にしないが義理の姉だ。それに何度もお風呂で身体を洗って貰った借りもある。

「ったく、仕方ないな。特別だよ」

「いいの?」

 そう葉月は喜んだが、

「その代わり、利き腕の正拳突きだけだからね。葉月は右利きだったよね?」

「えっ? 実戦組み手じゃないの?」

 青夜の言葉を聞いて葉月はガッカリしたが、青夜は、

「不平を言わない。とりあえず正拳突きをやってみて」

「いいけど・・・・・・ハッ!」

 暗闇の中、葉月が空手の正拳突きを空打ちする。

 その右側に回った青夜が、

「もう一回」

「ハッ」

「気を腕に纏って、もう一度」

「ハッ」

 と葉月が打ち、

「正拳突きを打つ前の構えでストップ」

 青夜の指示で葉月が右拳を止めると、青夜が両手を伸ばして葉月の右腕に触り、

「『気』を腕に纏って。拳と肩にも。出来れば全身かな? ともかく、ちゃんと『気』を纏わないとけんすじを痛めるからね」

 と言った直後に、青夜は両手で葉月の右拳を動かして正拳突きさせた。

 但し、その速度は葉月の正拳突きの5倍以上の速さだった。

「ヒャアア」

 と葉月が情けない悲鳴を上げる。

 同時にビリリリッと空手着の袖が肩口で破れた。

「あらら。手加減したんだけどな」

「手加減って・・・今、腕が引っこ抜かれたかと思ったわよ」

「もう出来るよね? 今の速度でやってみて、葉月」

「へっ? 出来る訳ないでしょ、あんな速さで」

「なら、もう1回するね。ってか、この袖、邪魔だから引きちぎるよ?」

「普通にダメでしょ、青夜。縫い合わせてまだ使うんだから。空手着の方を脱ぐわね」

 そう言った葉月は黒帯を解いて空手着を脱いだ。

 無地の半袖の白Tシャツを着てるので全くエロくは・・・・・・まあ、汗だくだったので葉月の肌にTシャツが張り付いててサラシまでバッチリ透けてたが暗室で(暗視は出来るが)視えてないって事で。

「じゃあ、もう1回ね。『気』を纏って腕を保護して」

「ええ」

 と『気』を纏った瞬間、青夜が両手で葉月の右手を空打ちで正拳突きさせた。

 またもや5倍以上の速度だ。

「空打ち10回続けていくよ、1、2、3」

 と右腕を動かし始める。

「ヒャア、クヒャ、ヒィ」

 その度に葉月が変な声を出し、

「姿勢が崩れてるっ! お尻を引いてへっぴり腰にならない」

 青夜がパンッと葉月のお尻を叩いて姿勢を直してから『4、5』と空打ちを続けたが、7回目の空打ちの時、Tシャツがビリッと簡単に破けた。

「あれ? 何で?」

「青夜が滅茶苦茶な速さで私の腕を動かすからでしょうが」

 それが葉月の解釈で、

「Tシャツも脱ぐわね」

 葉月が破れたTシャツを脱いで上半身サラシとなる中、青夜がまた腕に触れて、

「後5回ね、1、2、3」

「ヒャア、ニュ、うわ、今変な声が出た、ヒェエッ」

 と空打ちを終えると青夜が、

「さすがにもう身体が覚えたでしょ。葉月、やってみて?」

「そんなお手軽に出来たら世話はないと思うけど」

 半信半疑ながら葉月が正拳突きを繰り出すと、いつもの倍の速度で空打ちが出来た。

「嘘、凄ぉ」

 と葉月は喜んだが、その3倍は早く腕を動かしてた青夜はその出来にガッカリだった。

 それでも葉月は感激して、

「ありがとね、青夜。これはお礼よ」

 汗だくなのにパジャマ姿の青夜に抱き付き(ファーストキスだったので葉月からしたら一世一代の演技だったが、ごく自然に)青夜の唇に軽くキスしたのだった。

「ちょ、葉月、唇はダメでしょ。そんな簡単に」

「いいじゃん、別に。今日は青夜の誕生日なんだから」

 その後もパジャマ姿の青夜に抱き付いたままサラシ姿の葉月は甘えた。

「最初くらいはもっと記念に残る場所で」

「空手道場も記念に残ると思うけど」

 と抱き付きながら喋ってると、

「何やってるの、アナタ達?」

 背後から気配もなく現れた弥生が声を掛けた。

「あれ、今、帰り? 弥生ねえ?」

「ええ、埼玉県まで出張でね。誰かさんの所為で」

 嫌味を言う弥生に対して、青夜が心配そうに、

「・・・白鳳院批判は止めた方がいいですよ、弥生さん」

「皇宮警察勤めの私が白鳳院批判なんてする訳がないでしょ、アンタよ、アンタっ!」

「仲悪いわよね、2人とも?」

 葉月が呆れる中、

「それで? 何をやってたの?」

「それがさ。見ててよ、弥生姉、凄いから」

 話を振られて得意げに葉月が『ハッ』と正拳突きの空打ちをした。

 その正拳突きの速度の異常さを一打ちで理解した弥生が、

「その突き、以後禁止ね、葉月」

「はあ? 何でよ?」

「その突きでサンドバッグを殴ったら分かるわ。ダメージを拳にも受けるからね。『気』が十分に練れるまでは当分禁止よ」

「ええぇ~。せっかく青夜先生が教えてくれたのにぃ~」

 と青夜に横から抱き付く葉月の言葉を聞いて、弥生は青夜に、

「青夜、アナタも葉月に変な事を教えないでちょうだい。葉月が調子に乗って勘違いしたらどうするの? そもそも葉月は太郎御伽の坂田一族なんだから、どうせ教えるなら『相撲』や『まさかり』、『熊調伏ちょうふく』の異能の使い方を教えてよね」

「はぁ~い」

 こうしてこの日の深夜の空手道場の特訓はお開きとなったのだった。
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