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本編

40、祖母ちゃん、現(あらわ)る

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山梨県は土地が余ってるのか、小都市の中心部にある板垣邸は立派なお屋敷で、その玄関に戻れば、まだマスコミが10組くらい残っていて、こちらに好奇心を向けてきた。

ん?

「誰か来てるの?」

「柊の先代夫人が」

「お祖母様が? 教えてくれてありがと」

玄関を潜って板垣邸に入ったら、本当に客間にオレの桃香(この表現いいな~。ってところが特に)と祖母ばあちゃんが居た。

本当に祖母ちゃんだった。

元の世界の祖母ちゃんと寸分変わりのない。

あれ? 妙に懐かしくて涙が・・・

「誠、大和男児が人前で涙を見せるものではありませんよ」

ちょっと~。

外見は一緒だけど、口調が全然違うから~。

何、その良家の老婆風の喋り方?

って。

他人行儀な。元の世界の祖母ちゃんは誠って呼び捨てなのに~。

ゲンナリだから~。

着てる着物もパッと見、地味だけど高級そうで良さげだし~。

でも会えて嬉しかったから許す。

「・・・申し訳ありません。会えたあまりの嬉しさについ。御無沙汰しております、お祖母様。それで本日はどのような?」

祖母ちゃんに合わせて畏まった口調で尋ねた。

「結婚したと聞いて孫のお嫁さんの顔を見にきたのよ」

桃香をわざとらしくチラ見してるが、多分嘘だな。

「報告が遅れて申し訳ございません。出会って20分後には結婚しましたもので」

「どうしてそんなに急いだのかしら? 宮家の御落胤だったから?」

「いえ、モロタイプだったので」

「真面目に聞いているのだけれど?」

「なので心底を語りました。まあ『柊家にいつ殺されるか分からないので悔いのないように』というのもありましたが」

まあ、そっちは1%もないかな~?

出会って20分で結婚した理由の99%は「いつオレが元の世界に帰る事になるのか分からないから」だったから。

ホント、悔いを残さないようにこっちの世界の生活を楽しまないとね。

お陰で片桐冴子アナとエッチ、じゃなかった結婚出来たし~。

おっと、違う違う。桃香ね、桃香。

「そう言えば、何やら『柊家のメイド数人に手を付けた』とかで騒ぎになっていましたね。その訴えたメイド全員、当主の賢治を間接に殺した罪で柊家に自決に追いやられたそうだけど」

「えっ、立花さんもですか?」

「誰の事?」

「オレ専属の睨みメイドです。柊邸に居た時はずっとあの視線が気に入らなくて、出来ればこの手で斬り捨てたかったんですけど」

「なら、ちゃんと柊邸に出向けば良かったのよ。そう言えば、誠さんは『柊家を継がない』で本当にいいのね?」

おっと、これを聞きに来た訳か。

「はい」

「なら、本当にで調整するけど、後になって『やっぱり継ぐ』はなしよ? 伯爵の爵位や貴族院議員の議席もあるんだから」

柊惣領家は明治以降、代々伯爵家で、貴族院議員の議席も持っている。

そしてこっちの世界にはコスモアネモニーが存在する関係で死が身近にあり、爵位と貴族院議員の地位は6歳から継承可能だった。

つまり16歳のオレも継ごうと思えば継げた訳だが。

同席してる桃香が何か言いたそうだったけど、

「ええ、構いません。但し、『緋山流を許す』とか次の当主が眠い事を言った時は分かりませんが」

「西郷の東京家の命令で壱式家に嫌がらせをしてた?」

「はい」

「西郷の東京家はいいのかしら? 簡単に潰せるわよ、今なら?」

「西郷本家に睨まれたくありませんので」

「誠さんに分別があって本当に良かったわ。まあ、私は許さないけどね」

おっと、祖母ちゃんの迫力が増したぞ。

ってか、こっちの顔は「元の世界の祖母ちゃん」にはない顔だな。

へ~、さすがは気闘法があるこっちの世界ってところか。

「ええっと、葬儀の席に乗り込まれるんですか?」

「正室ならともかく第二夫人ごときに言われるがまま親を実家に追い出すような親不孝な息子の葬儀なんて出席する価値もないわ。それに今や御上に逆らった反逆者だし。誠さんは出るの?」

「いいえ。高みの見物と洒落込むつもりです」

「あら、特等席での見物も一興よ」

「そんな悪趣味な真似はしませんよ」

そんな雑談をして、15時には祖母ちゃんは、

「本日中に埼玉の家に帰りたいので、これでおいとまさせて貰うわね」

「えっ、そうなの?」

「ええ、色々と都内で明日の協議もしないと駄目だから」

悪そうな顔で祖母ちゃんが言い、

「何もお構い出来ませんで」

桃香がそんな心にもない挨拶をし、オレは玄関の外まで出て祖母ちゃんが乗る車が走り去るのを見送ったのだった。
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