短編集

竹井ゴールド

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国外脱出を計画していた侯爵令嬢は大嫌いな王子に断罪されたので予定を前倒しして修道院(の傍の隣国)へと旅立った。見物の為に半年で帰国しましたが

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「シルキーナ・エレファルナーっ! おまえはこの私を愛するばかりに、この私が懇意にしているこちらの可愛らしいティラ嬢に嫉妬の炎を燃やし、ティラ嬢の私物を盗み、悪評を立て、遂には階段から突き飛ばすという暴挙に出たっ! 総ては完璧過ぎるこの私の寵愛を独占したいという卑しい欲望が為にっ! 美し過ぎるこの私にも多少の瑕疵はあるが、それでもおまえの行動は王国の法に照らし合わせても重罪だっ! そのような女とは結婚出来ぬっ! よってここに、この私、ロバート・チャイナピンクはシルキーナ・エレファルナーとの婚約を破棄し、私の真実の愛の相手、 ティラ・イーテ嬢との新たな婚約を宣言するっ!」

 チャイナピンク王国の貴族学校の卒業パーティーでそう盛大にアホな事を言い出したのはわたくしことシルキーナ・エレファルナーの婚約者であるチャイナピンク王国の王太子、ロバート・チャイナピンク様でした。

 わたくしが国外追放?

 エレファルナー侯爵の令嬢にして、チャイナピンク王国の至宝とまで謳われた、このわたくしが?

 わたくしはロバート殿下のその断罪の言葉を聞いて背筋が震えてしまいましたわ。

 余りの歓喜で。

 そう、歓喜ですわっ!

 婚約破棄された事に対してのっ!

 だって、このナルシストクズって(ああ、ロバート殿下の事ですわよ、もちろん)勘違いの度合いが酷過ぎて気持ち悪いんですものっ!

 ほら、何か言っていたでしょう、今も?

 わたくしが嫉妬したとか?

 する訳ないじゃないのっ!

 バカなの?

 バカなのよね?

 バカに決まってますわっ!

 こっちは嫌々、6歳の時から王命でこのナルシストクズと婚約させられてるのにっ!

 わたくしの気持ちも知らないでっ!

 そもそもこのナルシストクズの一人称は「この私」ですから。

 外見が無駄にキラキラしてるだけの、低能なクズの癖に、自分が1番だと思ってる勘違いナルシストクズ。

 本当、大っ嫌いっ!

 大っ嫌いですわっ!

 気軽に触られる度にわたくし、触られた箇所に鳥肌が立って大変だったんですからっ!

 それでも未来の次期国王様だから逃げられなくて婚約させられて。

 このナルシストクズとの結婚が嫌で、嫌で、嫌で、嫌で、例え、この国の次期王妃の椅子が引き出物として付随しているとしても本当に嫌で、わたくし、遂には国外脱出まで視野に入れて隣国の数カ国に資産を密かに移していたくらいでしたのにっ!

 そのわたくしをナルシストクズの方から婚約破棄してくれるだなんて。

 嗚呼、ありがとうございます、神様。

 このわたくしの願いを聞き入れて、このナルシストクズから救って下さって。

 それと何やらそこの勝ち誇られてるティラ様っ!

 アナタがナルシストクズの前に現れてからというもの、わたくし、ナルシストクズに触られる事も、声を掛けられる事も最小限になりましたのよ?

 本当に感謝してますわっ!

 勲章を贈りたいくらいに。

 わたくしの中では、アナタはもう、わたくしの心の友ですからね。

 困った事があったら出来る限りの事はしますから気軽に頼って下さいね。

 そう頭の中で歓喜のダンスを踊っていたわたくしですが・・・・・・

 はあぁ~っ!

 現実に意識を戻して、そう嘆息を吐きましたわ、

 だって、これって・・・・・・

 ぬか喜びですものね、確実に。

 現実問題として、わたくしとナルシストクズの婚約破棄なんて無理ですもの。

 ナルシストクズは低能ですので、わたくしがそばで補佐しないと何も出来ませんし。

 国王陛下だってその事は重々承知で、すぐに撤回するに決まって・・・(ハッ)

 今、国王陛下はダンデライオン王国に出向いて王宮に不在じゃないのっ!

 王妃様も、宰相も、お父様も。

 あれっ?

 ーー嘘、これって、千載一遇のチャンスなんじゃ・・・

 今、行動を起こせば・・・国外に脱出出来る?

 チャイナピンク王国の王都から早馬でダンデライオン王国に居る国王陛下の許に報告が行き、命令を受けた早馬が王都に戻ってくるのが・・・

 イケる、イケますわ、これはっ!

 ダンデライオン王国側とは逆方向の隣国のプッシーウィロー王国へと逃げれば、国外脱出が出来ますわっ!

 わたくしは日数を計算しつつ、ナルシストクズに向かって、

「婚約破棄、うけたまわりました。ロバート殿下」

 優雅に微笑して、

「陰ながら王太子殿下とデイラ様の幸せを祈っていますね」

「おまえに祈られなくても神に愛されたこの私は幸せになるさ。そう決まってるのだからな」

 ほら、そういうところですわっ!

 神様に愛されてる訳ないでしょ、ナルシストクズがっ!

 このナルシストクズだけは、本当に喋ってるだけでムカムカしますわ。

 ですが、そのムカつきを億尾にも出さずに、悲嘆にくれた健気な表情で、

「殿下にフラれたわたくしはもう嫁ぎ先もありませんので修道院へと向かいますわね」

「うむ、罪を認めて自ら修道院行きを志願するとは愁傷な心掛けだ。この私が褒めてつかわす」

 誰も罪なんて認めてないわよっ!

 ナニ様なのよ、このナルシストクズっ!

 いえ、我慢、我慢。

「つきましては修道院へと向かう為の通行許可書をいただきたいのですが?」

 わたくしは意図を悟られぬ事なくそう進言すると、ナルシストクズが、

「おまえが書けば良かろう」

 普段通りにそう丸投げされて、

「わたくしはもう王太子殿下の婚約者ではありませんので」

「構わん。王宮に出向いて自分の通行許可書を書け」

「王太子殿下の御命令、承りました。では、ここで失礼致します」

 わたくしはそう言って美しくカーテシーすると、悲壮感を漂わせた演技をしつつ、会場を後にしましたわ。





 さあ、ここからは時間との勝負です。

 国王陛下の命令書が届く前に隣国に脱出しないといけませんから。

 まずは王宮で自分の通行許可書の作成ですわ。

 わたくしは(陛下の裁定がないので、まだ一応は)ナルシストクズの婚約者ですので、外出には一々、許可書が必要ですからね。

 ついでに移動に必要な資金も王太子の婚約者用の予算から引き出しましょうか。

 後の問題は・・・

 わたくしのストーカー、ーーコホン、わたくしの移動に付いてくる騎士の皆様ですわね。

 まあ、これは何とかなりますわ。

 だって、他国脱出計画の素案はわたくしの頭の中に既に何通りもありますから。

 騎士の皆様が居るので王家の影は3名のみ。

 殆どは陛下を守る為にダンデライオン王国に出向いていますからね。

 よし、イケますわ、やはり。

 決行する価値はあります。

 失敗しても修道院に向かっていて、親愛なる殿下にフラれて不意に他国に行ってみたい誘惑にかられた、とか適当な事を言えば許して貰えますもの。

 そんな訳で、わたくしは通行許可書を自分で書いて、移動の際の予算も、殿下の遊興費名目で申請して(普段からナルシストクズに言われてわたくしが申請してましたので)、財務部の官僚から持って来させて、王宮を後にしたのでしたわ。





 エレファルナー侯爵家の屋敷に戻ったわたくしはすぐに長旅の支度をメイド達にさせたかったのですが、お母様が在宅していたので・・・

 心の中では情熱的なフラメンコを踊り狂ってる真っ最中ですが、わたくしは悲壮感を漂わせた沈んだ微笑で、

「卒業パーティーで王太子殿下と婚約破棄されて修道院へ行くように命じられました。申し訳ございません、お母様」

 と謝罪しましたわ。

「そんな。お父様も国王陛下も不在されてる時に・・・どうしましょう」

 これがお母様ですわ。

 婚約破棄されたわたくしを気遣う事がないのですのよねぇ~。

 未来の王妃の母親になるべく邁進されていましたから、娘のわたくしの心配よりも、未来の王妃の母親になれない事の方に衝撃を受けておられてますわ。

「これ以上、王太子殿下に嫌われぬ為に直ちに修道院へと向かいます」

「ーーいえ、御待ちなさい、シルキー。隣国に居られる陛下の判断を・・・」

 シルキーはわたくしの愛称ですわ。

 シルキーナなのでシルキー。

 一文字違いでそう変わらないと本人的には思うのですが、何故か、家族はみんな、そう呼びますのよねぇ。

「修道院に入ってもいつでもわたくしを呼び戻せますわよ、お母様。今、1番に考えなければならないのは殿下への心証ですわ。これ以上、嫌われたら陛下が婚約破棄を撤回しても、殿下から白い結婚を言い渡されるかもしれませんから素直に従いませんと」

 そうお母様を誘導して、

「それもそうね。殿下の命令には従ったフリをするのも大事ですわね。すぐにシルキーの小旅行の用意をなさい」

 そうお母様がメイド達に命じる中、わたくしは、

「お母様、修道院での暮らしを快適にする為に相応の寄付金を修道院に持って行きたいのですが」

「ええ、すぐに用意させましょう」

「ありがとうございます」

 こうしてわたくしは卒業パーティーの当日の内に、自分で発行した移動許可書を使って、王都の城門を潜って修道院へと旅立ったのでした。





 わたくしは婚約破棄されたのですが、騎士の方々、それにエレファルナー侯爵家の私兵や使用人達が多数、ついてきて大名行列になってしまいましたわ。

 お陰で修道院までの移動中は実に快適でしたが。

 そして、わたくしはプッシーウィロー王国そば、の修道院へと入りましたわ。

 修道院に本当に入るのがここでのポイントですわ。

 護衛の騎士と王家の影は国王陛下の手先。

 我が家の私兵や使用人達はお父様の手先ですので。

 お父様よりもわたくしに忠実な使用人なんて数名しかいませんから。

 よって、わたくしへの忠誠を1番に誓っていない皆様とは修道院の門前で、

「これまで、わたくしに尽くしてくれてありがとね、皆さん。では」

 と最後の別れを言い、

「本当に修道院に入る必要は・・・やはり国外に居られる陛下の裁定を待ちましょう」

 わたくしの処遇に同情された熱血タイプの騎士の方がそう提案されましたが、

「いえ、殿下の御命令ですので・・・・・・」

 泣き真似をしたわたくしは全部をナルシストクズの所為せいにして、

「では、皆さん。今生の別れですわ」

 そう言って修道院の門の中へと消えていったのでした。





 3日後、護衛の騎士や私兵や王家の影の殆どが帰ったところで、わたくしは行動に移りましたわ。

 残った女騎士や女性の王家の影の食事に睡眠薬を盛って・・・

 わたくしが自らやったのか、ですって?

 まさかっ!

 やらせたのですわ。

 修道女に賄賂を払って・・・

 ともかく邪魔者達には眠って貰いました。

 さあ、出発です。

「お世話になりました」

 わたくしは修道院のトップの院長に出発の挨拶をしました。

「もう呼び戻しの書簡が届くとは······大変ですね、王太子様のワガママに付き合うのも」

 と苦笑されています。

 そうです。

 修道院から出る為の呼び戻しの命令書も、出発前にわたくしが書いて用意しておりましたのよ。

 それを(王国の騎士の格好をした)私兵に早馬で王都から来たようなフリをさせると、如何いかに修道院だろうと簡単に出られる訳です。

 僅か3日の滞在費としてあり得ないくらいの金額を既に支払っているので、楽勝でしたわ。

 そんな訳で、修道院の馬車を借りて、修道院を出発して、馭者ぎょしゃを買収して、自由を勝ち取ったわたくしは無事プッシーウィロー王国へと旅立ったのでした。


 ◇◆◇


 王太子が婚約者を断罪して修道院に送ったとの報告を聞いてダンデライオン王国に居たチャイナピンク王国の首脳が慌てて自国の王宮に帰還した時には後の祭りだった。

「修道院の者達が言うには修道院に到着した3日後に殿下から王宮への帰還命令が届いたとかで、10日前に王宮に向けてシルキーナ壌は旅立ったとの事です」

 修道院から戻ってきた騎士の報告を受けて、父親のエレファルナー侯爵が、

「では、もう王宮に到着していなければおかしいではないかっ! 道中で何か事故にでもーーいや、まさか」

 ある事に気付き、上座を見ると、

「逃げたな」

「逃げたわね」

「逃げましたな」

 国王、王妃、宰相の3人が呟いたのだった。

「無実の罪で断罪されて遂にはロバートを見限ったか」

 そうひょうした国王に対して、王妃が、

「あら、陛下。あの子は最初からロバートの事を嫌ってましたのよ」

「そうなのか?」

「はい。それを我々が無理矢理、ロバートの婚約者に添えていたのですわよ」

「・・・・・・シルキーナ嬢の交際費の一部の計算が合いませんでしたな。てっきり殿下が浮気相手に貢いでたと思ってましたが、その4分の1はシルキーナ嬢の仕業でしょう。逃亡後の生活費としてプールしておいたのかと」

 宰相までが呟き、父親のエレファルナー侯爵が、

「申し訳ございません、陛下。直ちにシルキーの捜索隊を編成して編成して連れ戻します」

 そう言ったが、国王は、

「よい。そこまで嫌ってるのであれば捨て置け」

 と言って、宰相が真面目な顔で、

「では、ロバート殿下を見限られますので?」

「仕方あるまい。アヤツでは国政は任せられぬからな。臣籍降下した弟を王族に戻して、王太子とする」

「そんな、陛下。お待ち下さい。別の高位貴族の令嬢を嫁にすれば・・・」

 ロバートが自分の産んだ息子だったので王妃が、そう取り繕ったが、

「シルキー以上の令嬢はこの国にはおらんよ。それにシルキーでさえ、あんな目に遭ったのだ。いくら未来の王妃になれるとは言っても良識のある貴族は娘をロバートなどには差し出さんさ」

 との会話がされた10日後には公爵に臣籍降下していた王弟が呼び戻されて王太子になったのだが・・・





 1人、廃太子されて納得していないロバート王子が謁見の間で臣籍降下を言い渡される際に、

「父上、どうして神に愛されたこの私が王太子から外されなければならないのですかっ?」

 そう国王に詰め寄っていた。

 国王が頭痛を覚えながらも、

「そんなズレた事を言ってるからだっ! 何が神に愛されただっ! シルキーからも愛されなかった癖にっ!」

「シルキーっ? あんな悪女など、この私の方がフッてやりましたまでの事っ!」

「・・・そう思ってるのはおまえだけだ。まさか、ここまで愚かだったとは。もうよい。おまえは侯爵ーーいや、伯爵とする。その何とかいう男爵令嬢と好きに結婚するがよい」

 息子を見限った国王が伯爵を任命する中、ロバート王子は、

「この私にそのような愚かな真似をした事、必ずや後悔しますぞ、父上っ!」

「陛下だっ! そう呼べっ!」

 国王が激昂するも、ロバートは不服そうに国王を睨んだのだった。





 その伯爵への臣籍降下から僅か半年後。

 伯爵になったロバートは伯爵領でチャイナピンク王国に対して反旗をひるがえして兵を挙げた。

「真の後継者であるこの私を廃嫡するような愚かな男が国王に居る限り、この王国に明日はないっ! 神に愛されるこの私が正統なる王国を引き継ぐっ!」

 そう兵達の前で宣言したが・・・





 僅か10日でチャイナピンク王国軍に鎮圧されてロバートは捕縛されたのだった。





 例え、国王の実の息子であろうと兵を起こして王国に反旗を翻した以上は反逆者だ。

 内々には処理は出来ない。

 よって公開処刑の断頭台送りとなり・・・


 ◇◇◇


 チャイナピンク王国の王都の断頭台が設置された広場には群衆が多数集まっていましたわ。

 その群衆の中に、隣国から慌てて帰国したわたくしもおりましたのよ。

 あのナルシストクズが王国に対して反乱を起こした、と聞いて、そろそろ実家への帰り支度でもしようかしら、と呑気に構えていたら、ナルシストクズが秒で負けて、慌てて旅支度をして帰国したのですけどもね。

 王都までの移動もかなり無理をして、王都に到着した今日がその公開処刑の日でした。

 無理して急いだ甲斐がありましたわ。

 このメインイベントだけは見逃せませんものね。

「出てきたぞっ!」

「反逆の廃嫡王子だっ!」

「でも本当は王家の血は引いてないらしいぞっ?」

「それで王国に反乱して王国の乗っ取りを企んだってさっ!」

 ナルシストクズの登場で、熱気を帯びた皆さんが好き勝手おっしゃってますわ。

 まあ、敵に回ったらこんなもんですわ。

 流言を用いて、相手の信用を潰す。

 常套手段ですわね。

 ってか、わたくしが居る場所は断頭台から遠くて全然見えませんわ。

 あっ、断頭台に鎖で繋がれたナルシストクズが登ってきて、ようやく見えましたわ。

 プププッ・・・・・・殴られて自慢の御顔が台無しじゃないのっ!

 右眼の周り、青あざが模様にように出来てて、髪の毛もボサボサですし。

 もしかして鼻も折れて曲がってません?

 遠くからなのでオペラグラスで覗いても微妙ですが。

 それに愛国的な民衆が投石もされてて・・・

 あら、今、ナルシストクズの頭に石が当たりましたわ。

 首枷に設置される中、

「や、止めろ、石を投げるなっ! みんな聞いてくれっ! この王国は・・・ふげっ。止めろ、石を顔にっ!」 

 何やら最後の気持ちの悪い独自の主張をしようとされてましたが、民衆の多数の投石というナイス判断で痛がって何も喋れませんでしたわ。

 そして、死刑執行官が、

「罪人、ロバート・ブルッヘン。この者は恐れ多くもチャイナピンク王国の貴族でありながら国家転覆を企み、兵を挙げた。よって公開処刑とするっ!」

 罪状を読み上げて、そして、

「待て、聞いてくれ、みんな・・・・うぷっ、石を投げーーウギャアアアアアアアアア」

 刃が落ちたのでした。

 それを見たわたくしの心情は正直、申せば・・・・・・





 なんて清々しい気持ちなのかしらっ!

 これであのナルシストクズのわずらわしさから完全に解放されたのですわねっ!





 でしたわ。

 心の中では、皆さんでラインダンスを踊るほどした。

 さてと、久しぶりに実家にでも顔を出そうかしら、と思ってると、わたくし付きだった顔見知りの王家の影が、

「シルキーナ様、陛下がお呼びです。来ていただきますよ」

「あら、でもドレスが」

「問題ありません。王宮にまだシルキーナ様のドレスは山ほどありますから」

 との事で、1人ではなく5人以上の王家の影に囲まれていたので抵抗など出来る訳もなく、わたくしは王宮に出向く事となりましたわ。





 勝手知ったる王宮に通されたわたくしは、国王陛下の私室で、少しお老けになった陛下から、

「戻ってきたか、シルキー」

「はい、陛下。ブルッヘン伯爵が兵を挙げて負けた、と聞いて慌てて。先程、公開処刑も遠めから確認させていただきましたわ」

「そうか・・・・・・興味本位で聞くんだが、いつからあのバカを見限っていたのだ?」

「出会って3度目の時からですから婚約する前でしょうか? 最初から、言葉が通じない御方だわ、と思ってましたが、3度目で、頭が変なのだわ、この御方、と確信しましたから。それでも大人に成長すれば治りますわよね、と期待したのですが、無理でしたわね」

 バカは死ななきゃ治らない、とはよく言ったものですわ、本当に。

「そうか。それはさておき、まだ純潔か?」

「はい。王宮医師に確認されても構いませんが・・・なぜ、そのような事を?」

「王太子となった王弟のデニーは既婚者なのだが、妻に国政の理解力がまるでなくてな。側妃になって補佐を頼みたい」

 ええぇ~、ナルシストクズの呪縛からようやく解放されたのにぃ~。

 と思いませんでしたわ。

 だって、王弟のデニー様とは既に面識がありましたもの。

 8歳年上の誠実な人物で、正直、あのナルシストクズよりも次期国王にふさわしい御方ですわ。

 それどころか、心ならずも素敵な御方だと思っていましたので、

「総ては陛下の御心のままに」

「うむ。頼むな」

 こうしてわたくしは王太子殿下の側妃として納まり、王太子妃のアンジュ様には早々に退場していただいて、側妃になって1年後には王太子妃に昇格して幸せに暮らしたのでした。





 おわり
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