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貴族学校の図書館に入り浸ってたのを理由に婚約破棄されましたけど、10年後の同窓会には堂々と出席しますわ。だって侯爵夫人なんですもの
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「リンダ・ヒルトンっ! おまえとの婚約は本日を以て破棄するっ!」
サルビア王国の貴族学校の卒業パーティーでそう盛大にやらかしたのは、この私、リンダ・ヒルトンの婚約者であるケント・カスベーカ様でした。
元々、私の婚約者のケント様の頭が弱い事は知っていましたが、まさか、卒業パーティーで婚約破棄をするとは。
「はあ? 卒業パーティーの余興か何かですの? それとも御学友達との罰ゲームですか?」
と私が呆れながら確認しますと、ケント様が、
「本気に決まってるだろうが、この読書女がっ!」
「読書女って・・・・・・」
「事実であろうがっ! 貴族学校の在学中の2年間、放課後に毎日のように図書館に入り浸り、勉強をしてるのかと思えば成績も赤点の少し上ばかりで、娯楽本に興じるなど、貴族令嬢の風上にも置けないっ! そんな女とは婚約破棄だっ!」
娯楽本って。
こっちは毎日のように図書館で専門書を読み漁ってたのですけどね。
嫁ぎ先のカスベーカ伯爵領の領地改革の準備の為に。
何せ、婚約者のケント様が無能ですので。
そのお陰で成績だって、ここだけの話、頭の悪い婚約者のケント様の顔を立てる為に低くなるように操作して・・・
と言っても理解されませんわね、ケント様の頭では。
「・・・本気なんですね、ケント様?」
「ああ」
「婚約解消ではなく破棄の理由を聞いてもよろしいですか?」
「オレの我慢も限界だからだっ!」
全然、答えになってませんけど。
「当然、この婚約破棄はそちらの有責ですわよね?」
「ふざけるなっ! 娯楽本に熱中して婚約者の義務を怠ったおまえの有責だっ!」
「あのですわねぇ~。・・・まあ、その辺はカスベーカ伯爵と我が父との間で決めればいいですわね。では、婚約破棄の件、承りましたわ。そうそう、未練がましく私に付き纏わないで下さいね? 後、婚約破棄した相手の家にお金の無心をするのも、言語道断ですのでしないで下さいね」
「ふざけるなっ! そんな真似する訳がないだろうがっ!」
するんですわよ、アナタ様は。
おバカ様なんですから。
ちゃんと言っておかないと、そんな恥知らずな真似を平気で。
「本当ですの?」
「無論だ」
「では、付き纏ったり、お金の無心をされた際には、騎士団やゴシップ誌や商会ギルドの方に通達させていただきますのでお忘れなきよう。では、卒業パーティーを楽しみましょうね、赤の他人のカスベーカ伯爵令息」
「ふん、どこまでも可愛げのない奴だっ!」
本当におバカなケイト様が口を滑らせ、私が、
「あら、誰かと比べられてらっしゃいますの? だとしたら浮気ですわね。慰謝料をちゃんといただかないと」
そんな嫌味を言うと、
「ふざけるなっ! おまえが・・・」
「あらあら、言った傍から。未練がましく付き纏わないで下さいませんか、カスベーカ伯爵令息? もう他人なのですから?」
私はそう嫌味を言いながら、卒業パーティー中、ずっとおバカな元婚約者のケント様を口論で言い負かし続けたのでした。
後日、我が父、ヒルトン子爵と、ケント様の父親のカスベーカ伯爵が話し合った結果、ケント様の発言は認めれられず、婚約破棄ではなく婚約解消となり、卒業パーティーで婚約破棄を切り出して令嬢の私の名誉を傷付けた事がカスベーカ伯爵家側の瑕疵となり、ヒルトン子爵家側に少量ながらも慰謝料が支払われたのでした。
慰謝料の支払いを払い終えると同時に、ケント様は男爵令嬢のルーナ様と結婚されましたけどね。
よく婚約破棄した直後に縁談が舞い込んだな、さすがは伯爵家だ、ですって?
ご冗談はよしてください。
それとも頭に虫でも湧いてますの?
そんなにすぐに結婚なんて出来る訳がないじゃないですか。
この結婚こそが、私と婚約していながら浮気をしていた証拠ですわよ。
まあ、婚約を解消した私はさほど興味はありませんでしたが。
それから10年の月日が流れ・・・
貴族学校の同窓会が行われる事となりました。
無論、私は出席しましたわよ。
サルビア王国の王家すらも操る王宮の最大勢力、バスラー公爵派閥のナンバー2のヒルトン侯爵家の夫人としてね。
この通り、同年に卒業し、この同窓会に出席する令息、令嬢だけでも20人以上の一団を引き連れ、その先頭を颯爽と歩いて会場入りしましたわ。
えっ?
僅か10年間で子爵から侯爵にどうやって成り上がったんだ、ですか?
そうですねぇ~。
卒業後に嫁ぐ予定でしたが、婚約破棄された私は貴族学校卒業後にヒルトン子爵家が保有する領地に出向き、肥料で痩せた土壌を豊かにし、運良く領内に銀鉱山を発見してバスラー公爵と交渉して売上の30パーセントを献上する事で(サルビア王国に50パーセントの税を献じた後に残る50パーセントの中の30パーセントですわよ)、庇護を得て、他の貴族達を領地に寄せ付けず・・・
同時に、貴族学校の1年後輩の図書館常連組の一人がそのバスラー公爵家の次男のテリー様で、テリー様が私の優秀さを父親の公爵に話してくれて、その上、婚約まで望んでくれたので、バスラー公爵家が保有する伯爵位を結納品として下さり、テリー様の貴族学校の卒業を待って、2年目には私は結婚し、テリー様が婿入りして我が家の当主に就任すると同時にヒルトン家は伯爵位となり・・・
同じく2年目には領地で麦酒製造やガラス工芸の職人を招いて醸造所や工房を開き・・・
私は3年目には子供を産んで・・・
その3年目には、東隣がカスベーカ伯爵領だったのでおバカなケント様が田畑の肥料に、土壌が改善されて穀倉地帯となったヒルトン伯爵領で使用してる肥料の情報を盗んで同じ物を使い、ヒルトン伯爵領は酸性の土壌でしたが、カスベーカ伯爵領はアルカリ性の土壌だったのにアルカリ性の肥料を蒔いた為に田畑が大凶作となって、領地運営の失敗で借財を重ねに重ね・・・
本当にプライドの無い御方だったらしく、卒業パーティーであれだけ釘を刺しておいたのに、6年目には借金で首が回らなくなって切羽詰ったのか、ヒルトン伯爵領の土壌改善による農業と麦酒の醸造所が軌道に乗り、新築したばかりの豪華な屋敷に居るわたくしに会いに来られて、
「あの時は悪かった。頼む、この通りだ。金を貸してくれ」
ボロボロの服を着たケント様は頭を下げられましたわ。
「あら、どうしましょうかねぇ~」
「本当に謝ってるのかしら?」
「誠意が感じられませんわ」
「下げてる頭の位置がまだ高くありません?」
わたくしがそう嬲りに嬲り続けると、
「ぐっ・・・この通りだ」
最後にはソファーから床に這いつくばって、みっともなく土下座されましたわ。
そう。土下座ですわ、土・下・座ぁ~♪
「こんなつまらない頭を下げられても嬉しくありませんわ」
そう言いながらも、待望の時がきたので、立ち上がったわたくしは土下座したケント様の後頭部をガコッとヒールで踏み付けてグリグリグリッとしてやりましたけどね。
ああ、何て気持ちがいいのかしらぁ~♫
この時を今か今かと待ってましたのよ、わたくし。
おバカなケント様が真似されて自領で使うのを期待して、わざわざ土壌改善に値段が割高のアルカリ性の肥料を用意して。
婚約破棄されてわたくしの評判を落としたのだから、これくらいの復讐は許して下さいますわよね、皆さんも?
婚約中もウンザリしてましたから、このおバカ様には。
そう思い返してると、後頭部をグリグリするヒールに込める足の力も強くなりましたわ。
借金を頼みにきてるケント様は抵抗する気力も資格もございませんので、それはもう長々と後頭部をグリグリと踏み付けてやりましたわ。
そして、当然の事ながら、お金なんか貸す訳もないので、後頭部を踏むのに厭きたわたくしは、
「お客様がお帰りよ、連れて行って」
同室に居た警備兵6人にケント様を連れ出すように命令したのでした。
土下座してたケント様が警備兵に起こされる中、
「待った。金は、リンダ?」
情けない顔で質問されましたので、おバカなケント様でも分かるようにわたくしが、
「貸す訳ないでしょ。調子に乗らないで下さいません? もうそちら様とは縁が切れてますのに?」
「なら、どうしてーー」
「ああ、会ったのは落ちぶれた無様なケント様を笑って差し上げる為ですわ、オーッホッホッホッホッ」
そう馬鹿にするように高笑いをして差し上げましたわ。
「ふ、ふざけーー」
何やらケント様が逆上されてわたくしを殴ろうとされましたけど、既に屈強な警備兵6人に掴まれていたので、わたくしに触れる事もなく部屋から引きずり出されて行かれましたわ。
あぁ~、気分が良かったぁ~♬
これで積年の恨みが晴らせて、すっきりしましたわ。
そして、わたくしは約束通りに、各所に通達しました。
その情報で、婚約破棄した相手にまで借金を頼むなんてカスベーカ伯爵家は本当にもうおしまいらしい、と皆さんがお知りになり、私が断ったのですから、誰も資金を融通する者はおられず、遂にはカスベーカ伯爵家は破産され、爵位と領地を王家に返上されて断絶し・・・
この時点で、まだ6年目ですわ。
7年目には、わたくしは2人目の子供を産みますが・・・
カスベーカ伯爵家の破産する前に、孫の顔を見に来られたお義父様のバスラー公爵に、
「実はカスベーカ伯爵領にはルビー鉱脈がありますのよ」
と耳打ちして差し上げてるので、
「本当にリンダは福の神だな」
と喜ばれて、すぐさま専門家を旧カスベーカ伯爵領に秘密裏に派遣してルビー鉱脈の有無を確認され、カスベーカ伯爵家の破産と同時に、その負債を丸々、領地併合を条件に、好景気で沸く裕福な隣のヒルトン伯爵領に肩代わりさせてはどうか、と打診されて、結構な負債だったので許可が下りて、旧カスベーカ伯爵領をヒルトン伯爵領に併合した直後に・・・
すぐさまルビー鉱脈の採掘を始めて、同時に土壌も回復させ(嫁入り予定だったので旧カスベーカ伯爵領の領地運営は既に計画書がありましたので)、田畑を広げ、ルビー鉱山までの街道を整備し、旧カスベーカ伯爵領の景気をV字回復させ・・・・・・
2人目の子供を産んだ後だから、卒業して8年目だったかしら?
旧カスベーカ伯爵領内を視察する夫のテリー様とわたくしが乗った馬車の前に、
「リンダっ! この悪女がっ! よくもオレの総てを奪ってくれたなっ!」
何やら逆恨みしたボロボロの衣服を纏った髭面の浮浪者が錆びたナイフを片手に行く手を遮り、
「通行の邪魔だっ! この馬車は新領主の伯爵夫妻が乗る御料車だぞ、この汚らしい浮浪者がっ!」
馬車を守る私兵団のヒルトン伯爵家の騎兵の1人に呆気無く槍で突き殺されたのでした。
馬車の中で、少し物静かで奥手の、最愛の夫のテリー様とイチャイチャしていたわたくしはそんな事、知りもしませんでしたけどね。
その浮浪者が元伯爵令息のケント様だったと報告されたのは、10年後の同窓会の話を知り、ケント様を探すように命じた時でしたわ。
ホント、最後までおバカ様だったのね、ケント様って。
貴族籍を失ったケント様を貴族学校の同窓会に招いて笑い物にする予定でしたのに。
勝手に死なれるだなんて。
この事は当然、内緒ですわよ。
元婚約者のケント様を我が家の私兵が殺しただなんて風聞が悪いですからね。
敵対派閥などに知られたら、謀殺した、などとある事ない事、喚きそうですから。
ですので、平民落ちしてケント様は行き方知れず、という事で、皆さんもお願いね。
そうそう。
ケント様の話をしていて、1つ思い出しました。
ケント様と結婚した男爵令嬢のルーナ様でしたか?
夫であるケント様の実家の借金返済の為に娼館で働いてるそうですわ。
元貴族夫人として人気があったそうですが、すぐに病気を貰って死なれましたけどね。
まあ、病気持ちを向かわせるようお義父様の公爵にお願いしたのはわたくしなんですけど。
それくらいは許してくださいな。
こちらはあんなおバカなケント様でも婚約者を取られて満座で恥を掻かされてるんですから。
その後、銀山やルビー鉱山の発見、旧カスベーカ伯爵領の経営改善、ヒルトン伯爵領が牽引するサルビア王国の好景気などの功績から、ヒルトン家が伯爵から侯爵に昇格したのが9年目、という次第ですわ。
その1年後に、今回の同窓会があり、わたくしは出席してるという訳です。
大勢の取り巻きに囲まれたヒルトン侯爵夫人としてチヤホヤされながらね。
「そう言えば、もうあの婚約破棄が起こった卒業パーティーから10年が経ったのね。月日が経つのは早いものね。あの時は誰も助けてくれなかったけど」
婚約破棄されて幸せになったわたくしはそう感慨深げに呟きつつも周囲に嫌味を言いながら同窓会を我が物顔で楽しんだのでした。
おわり
サルビア王国の貴族学校の卒業パーティーでそう盛大にやらかしたのは、この私、リンダ・ヒルトンの婚約者であるケント・カスベーカ様でした。
元々、私の婚約者のケント様の頭が弱い事は知っていましたが、まさか、卒業パーティーで婚約破棄をするとは。
「はあ? 卒業パーティーの余興か何かですの? それとも御学友達との罰ゲームですか?」
と私が呆れながら確認しますと、ケント様が、
「本気に決まってるだろうが、この読書女がっ!」
「読書女って・・・・・・」
「事実であろうがっ! 貴族学校の在学中の2年間、放課後に毎日のように図書館に入り浸り、勉強をしてるのかと思えば成績も赤点の少し上ばかりで、娯楽本に興じるなど、貴族令嬢の風上にも置けないっ! そんな女とは婚約破棄だっ!」
娯楽本って。
こっちは毎日のように図書館で専門書を読み漁ってたのですけどね。
嫁ぎ先のカスベーカ伯爵領の領地改革の準備の為に。
何せ、婚約者のケント様が無能ですので。
そのお陰で成績だって、ここだけの話、頭の悪い婚約者のケント様の顔を立てる為に低くなるように操作して・・・
と言っても理解されませんわね、ケント様の頭では。
「・・・本気なんですね、ケント様?」
「ああ」
「婚約解消ではなく破棄の理由を聞いてもよろしいですか?」
「オレの我慢も限界だからだっ!」
全然、答えになってませんけど。
「当然、この婚約破棄はそちらの有責ですわよね?」
「ふざけるなっ! 娯楽本に熱中して婚約者の義務を怠ったおまえの有責だっ!」
「あのですわねぇ~。・・・まあ、その辺はカスベーカ伯爵と我が父との間で決めればいいですわね。では、婚約破棄の件、承りましたわ。そうそう、未練がましく私に付き纏わないで下さいね? 後、婚約破棄した相手の家にお金の無心をするのも、言語道断ですのでしないで下さいね」
「ふざけるなっ! そんな真似する訳がないだろうがっ!」
するんですわよ、アナタ様は。
おバカ様なんですから。
ちゃんと言っておかないと、そんな恥知らずな真似を平気で。
「本当ですの?」
「無論だ」
「では、付き纏ったり、お金の無心をされた際には、騎士団やゴシップ誌や商会ギルドの方に通達させていただきますのでお忘れなきよう。では、卒業パーティーを楽しみましょうね、赤の他人のカスベーカ伯爵令息」
「ふん、どこまでも可愛げのない奴だっ!」
本当におバカなケイト様が口を滑らせ、私が、
「あら、誰かと比べられてらっしゃいますの? だとしたら浮気ですわね。慰謝料をちゃんといただかないと」
そんな嫌味を言うと、
「ふざけるなっ! おまえが・・・」
「あらあら、言った傍から。未練がましく付き纏わないで下さいませんか、カスベーカ伯爵令息? もう他人なのですから?」
私はそう嫌味を言いながら、卒業パーティー中、ずっとおバカな元婚約者のケント様を口論で言い負かし続けたのでした。
後日、我が父、ヒルトン子爵と、ケント様の父親のカスベーカ伯爵が話し合った結果、ケント様の発言は認めれられず、婚約破棄ではなく婚約解消となり、卒業パーティーで婚約破棄を切り出して令嬢の私の名誉を傷付けた事がカスベーカ伯爵家側の瑕疵となり、ヒルトン子爵家側に少量ながらも慰謝料が支払われたのでした。
慰謝料の支払いを払い終えると同時に、ケント様は男爵令嬢のルーナ様と結婚されましたけどね。
よく婚約破棄した直後に縁談が舞い込んだな、さすがは伯爵家だ、ですって?
ご冗談はよしてください。
それとも頭に虫でも湧いてますの?
そんなにすぐに結婚なんて出来る訳がないじゃないですか。
この結婚こそが、私と婚約していながら浮気をしていた証拠ですわよ。
まあ、婚約を解消した私はさほど興味はありませんでしたが。
それから10年の月日が流れ・・・
貴族学校の同窓会が行われる事となりました。
無論、私は出席しましたわよ。
サルビア王国の王家すらも操る王宮の最大勢力、バスラー公爵派閥のナンバー2のヒルトン侯爵家の夫人としてね。
この通り、同年に卒業し、この同窓会に出席する令息、令嬢だけでも20人以上の一団を引き連れ、その先頭を颯爽と歩いて会場入りしましたわ。
えっ?
僅か10年間で子爵から侯爵にどうやって成り上がったんだ、ですか?
そうですねぇ~。
卒業後に嫁ぐ予定でしたが、婚約破棄された私は貴族学校卒業後にヒルトン子爵家が保有する領地に出向き、肥料で痩せた土壌を豊かにし、運良く領内に銀鉱山を発見してバスラー公爵と交渉して売上の30パーセントを献上する事で(サルビア王国に50パーセントの税を献じた後に残る50パーセントの中の30パーセントですわよ)、庇護を得て、他の貴族達を領地に寄せ付けず・・・
同時に、貴族学校の1年後輩の図書館常連組の一人がそのバスラー公爵家の次男のテリー様で、テリー様が私の優秀さを父親の公爵に話してくれて、その上、婚約まで望んでくれたので、バスラー公爵家が保有する伯爵位を結納品として下さり、テリー様の貴族学校の卒業を待って、2年目には私は結婚し、テリー様が婿入りして我が家の当主に就任すると同時にヒルトン家は伯爵位となり・・・
同じく2年目には領地で麦酒製造やガラス工芸の職人を招いて醸造所や工房を開き・・・
私は3年目には子供を産んで・・・
その3年目には、東隣がカスベーカ伯爵領だったのでおバカなケント様が田畑の肥料に、土壌が改善されて穀倉地帯となったヒルトン伯爵領で使用してる肥料の情報を盗んで同じ物を使い、ヒルトン伯爵領は酸性の土壌でしたが、カスベーカ伯爵領はアルカリ性の土壌だったのにアルカリ性の肥料を蒔いた為に田畑が大凶作となって、領地運営の失敗で借財を重ねに重ね・・・
本当にプライドの無い御方だったらしく、卒業パーティーであれだけ釘を刺しておいたのに、6年目には借金で首が回らなくなって切羽詰ったのか、ヒルトン伯爵領の土壌改善による農業と麦酒の醸造所が軌道に乗り、新築したばかりの豪華な屋敷に居るわたくしに会いに来られて、
「あの時は悪かった。頼む、この通りだ。金を貸してくれ」
ボロボロの服を着たケント様は頭を下げられましたわ。
「あら、どうしましょうかねぇ~」
「本当に謝ってるのかしら?」
「誠意が感じられませんわ」
「下げてる頭の位置がまだ高くありません?」
わたくしがそう嬲りに嬲り続けると、
「ぐっ・・・この通りだ」
最後にはソファーから床に這いつくばって、みっともなく土下座されましたわ。
そう。土下座ですわ、土・下・座ぁ~♪
「こんなつまらない頭を下げられても嬉しくありませんわ」
そう言いながらも、待望の時がきたので、立ち上がったわたくしは土下座したケント様の後頭部をガコッとヒールで踏み付けてグリグリグリッとしてやりましたけどね。
ああ、何て気持ちがいいのかしらぁ~♫
この時を今か今かと待ってましたのよ、わたくし。
おバカなケント様が真似されて自領で使うのを期待して、わざわざ土壌改善に値段が割高のアルカリ性の肥料を用意して。
婚約破棄されてわたくしの評判を落としたのだから、これくらいの復讐は許して下さいますわよね、皆さんも?
婚約中もウンザリしてましたから、このおバカ様には。
そう思い返してると、後頭部をグリグリするヒールに込める足の力も強くなりましたわ。
借金を頼みにきてるケント様は抵抗する気力も資格もございませんので、それはもう長々と後頭部をグリグリと踏み付けてやりましたわ。
そして、当然の事ながら、お金なんか貸す訳もないので、後頭部を踏むのに厭きたわたくしは、
「お客様がお帰りよ、連れて行って」
同室に居た警備兵6人にケント様を連れ出すように命令したのでした。
土下座してたケント様が警備兵に起こされる中、
「待った。金は、リンダ?」
情けない顔で質問されましたので、おバカなケント様でも分かるようにわたくしが、
「貸す訳ないでしょ。調子に乗らないで下さいません? もうそちら様とは縁が切れてますのに?」
「なら、どうしてーー」
「ああ、会ったのは落ちぶれた無様なケント様を笑って差し上げる為ですわ、オーッホッホッホッホッ」
そう馬鹿にするように高笑いをして差し上げましたわ。
「ふ、ふざけーー」
何やらケント様が逆上されてわたくしを殴ろうとされましたけど、既に屈強な警備兵6人に掴まれていたので、わたくしに触れる事もなく部屋から引きずり出されて行かれましたわ。
あぁ~、気分が良かったぁ~♬
これで積年の恨みが晴らせて、すっきりしましたわ。
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その情報で、婚約破棄した相手にまで借金を頼むなんてカスベーカ伯爵家は本当にもうおしまいらしい、と皆さんがお知りになり、私が断ったのですから、誰も資金を融通する者はおられず、遂にはカスベーカ伯爵家は破産され、爵位と領地を王家に返上されて断絶し・・・
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と耳打ちして差し上げてるので、
「本当にリンダは福の神だな」
と喜ばれて、すぐさま専門家を旧カスベーカ伯爵領に秘密裏に派遣してルビー鉱脈の有無を確認され、カスベーカ伯爵家の破産と同時に、その負債を丸々、領地併合を条件に、好景気で沸く裕福な隣のヒルトン伯爵領に肩代わりさせてはどうか、と打診されて、結構な負債だったので許可が下りて、旧カスベーカ伯爵領をヒルトン伯爵領に併合した直後に・・・
すぐさまルビー鉱脈の採掘を始めて、同時に土壌も回復させ(嫁入り予定だったので旧カスベーカ伯爵領の領地運営は既に計画書がありましたので)、田畑を広げ、ルビー鉱山までの街道を整備し、旧カスベーカ伯爵領の景気をV字回復させ・・・・・・
2人目の子供を産んだ後だから、卒業して8年目だったかしら?
旧カスベーカ伯爵領内を視察する夫のテリー様とわたくしが乗った馬車の前に、
「リンダっ! この悪女がっ! よくもオレの総てを奪ってくれたなっ!」
何やら逆恨みしたボロボロの衣服を纏った髭面の浮浪者が錆びたナイフを片手に行く手を遮り、
「通行の邪魔だっ! この馬車は新領主の伯爵夫妻が乗る御料車だぞ、この汚らしい浮浪者がっ!」
馬車を守る私兵団のヒルトン伯爵家の騎兵の1人に呆気無く槍で突き殺されたのでした。
馬車の中で、少し物静かで奥手の、最愛の夫のテリー様とイチャイチャしていたわたくしはそんな事、知りもしませんでしたけどね。
その浮浪者が元伯爵令息のケント様だったと報告されたのは、10年後の同窓会の話を知り、ケント様を探すように命じた時でしたわ。
ホント、最後までおバカ様だったのね、ケント様って。
貴族籍を失ったケント様を貴族学校の同窓会に招いて笑い物にする予定でしたのに。
勝手に死なれるだなんて。
この事は当然、内緒ですわよ。
元婚約者のケント様を我が家の私兵が殺しただなんて風聞が悪いですからね。
敵対派閥などに知られたら、謀殺した、などとある事ない事、喚きそうですから。
ですので、平民落ちしてケント様は行き方知れず、という事で、皆さんもお願いね。
そうそう。
ケント様の話をしていて、1つ思い出しました。
ケント様と結婚した男爵令嬢のルーナ様でしたか?
夫であるケント様の実家の借金返済の為に娼館で働いてるそうですわ。
元貴族夫人として人気があったそうですが、すぐに病気を貰って死なれましたけどね。
まあ、病気持ちを向かわせるようお義父様の公爵にお願いしたのはわたくしなんですけど。
それくらいは許してくださいな。
こちらはあんなおバカなケント様でも婚約者を取られて満座で恥を掻かされてるんですから。
その後、銀山やルビー鉱山の発見、旧カスベーカ伯爵領の経営改善、ヒルトン伯爵領が牽引するサルビア王国の好景気などの功績から、ヒルトン家が伯爵から侯爵に昇格したのが9年目、という次第ですわ。
その1年後に、今回の同窓会があり、わたくしは出席してるという訳です。
大勢の取り巻きに囲まれたヒルトン侯爵夫人としてチヤホヤされながらね。
「そう言えば、もうあの婚約破棄が起こった卒業パーティーから10年が経ったのね。月日が経つのは早いものね。あの時は誰も助けてくれなかったけど」
婚約破棄されて幸せになったわたくしはそう感慨深げに呟きつつも周囲に嫌味を言いながら同窓会を我が物顔で楽しんだのでした。
おわり
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