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このパーティーはもう卒業式の後でしてよ? 貴族学校を卒業して晴れて大人の仲間入りを果たしてるのですから対応も大人扱いにさせていただきますわね
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「フローネ・ラグラスっ! 貴様、間もなく王太子である私と結婚して王太子妃になる身でありながら、私とここに居る男爵令嬢のジャネット・ミレーとの仲に嫉妬して、私物を盗み、噴水へと突き落とし、更には階段から落として殺そうとしたなっ! 調べは既に付いているっ! そのような恐ろしい女と結婚する事など私には出来ないっ! よって、ここにーー」
とジェンシャン王国の貴族学校の卒業パーティーの席で、大声でやらかそうとしたのは私ことフローネ・ラグラスの婚約者でありながら、婚約者の私を放っておいて男爵令嬢の相手をしているエリオット・ジェンシャン王太子殿下だったものだから、私は最後まで言わせる事なく、
「お待ち下さい、殿下っ! わたくしには身に覚えのない話ばかりでございますが、今言った罪状に証拠はございますのでしょうね?」
「無論だっ!」
そう自信満々に言ったエリオット殿下に対して、私は、
「そちらの令嬢本人の発言は証拠にはなりませんわよ?」
そう優しく噛み砕いて説明すると、馬鹿にされたと思ったのか、
「馬鹿にするなっ! 他にも目撃者が居るわっ!」
「では、先にそれらの目撃者の証言を聞かせて戴きましょうか?」
「いや、その前に言っておきたい事が・・・」
「あら、目撃者を後回しにするだなんて、もしや自信がないのですか、殿下は?」
「無礼なっ! あるわっ! だが、その前に・・・」
「なるほど。捏造してるのがバレては困ると?」
私が訳知り顔で理解を示すと、本当に扱いやすいエリオット殿下は、
「そんな訳あるかっ! ジャン、言ってやれっ!」
そう将来の側近候補の宰相令息に丸投げしたのだった。
「はっ」
眼鏡をクイッとして、メモ帳を出した宰相令息が、
「まずはジャネット嬢の私物である教科書が紛失し、ボロボロな状態で翌日に見つかった件につきまして、紛失に気付いた当日の放課後、フローネ嬢が自らジャネット嬢の鞄を漁ってるのをメーケット子爵令嬢とコマイナ男爵令嬢が目撃しております。その2人は前に」
宰相令息の言葉で卒業パーティーに参加していた令嬢2人が前に出た。
「その時、見た事を発言せよ」
宰相令息の言葉で、
「私はフローネ様がジャネット様の鞄を漁っているのを見ました」
「私もです」
と証言する2人に、満足そうにエリオット殿下が、
「どうだ、フローネ」
「まだ日数を証言しておりませんよ、殿下? 御二方、いつなのかしら?」
「文化祭前の月曜日だったと記憶しております」
「はい」
2人の証言に私が最終確認の為に、
「そう、文化祭前の月曜日・・・日数に間違いはないのね?」
「間違いございません」
「文化祭前の月曜日です」
2人が答え、私が、
「その日の放課後に私がミレー男爵令嬢の鞄を漁っていたと?」
「はい」
「見ました」
「そう、それは本当に残念ね」
私は心底同情した。
「どうだ、フローネっ! これでもシラを・・・」
なにやらエリオット殿下が喋ろうとしておられましたが、私は扇をバチッと閉じたのでした。
それを合図に警備の騎士数名が2人の身柄を取り押さえた。
「キャア、何を?」
「・・・」
令嬢達が騒ぎ、エリオット殿下が、
「何の真似だ、フローネ? まさか、自分が不利になる証言をした者達を力尽くで抑える気か? そんな事は王太子として許さんぞっ!」
ズレた事を堂々と言う中、私は後方に控える秘書係であるヘリア伯爵家の令嬢シノーラに合図した。
「シノーラ」
「はい、フローネ様」
メモ帳を出したシノーラが、
「問題となった文化祭前の月曜日、フローネ様は貴族学校の授業に午前中まで出席。その後は王宮へと出向かれ、昼食を取られた後、午後からはそのまま王宮にて王太子妃教育を受けておられます。その日は王宮で王妃様主催のお茶会が催されており、フローネ様は当初は出席の御予定ではございませんでしたが、王妃様のお招きで急遽出席されておられます。国王陛下も途中で顔も出されており、フローネ様がそのお茶会に居たとする証言者は国王陛下、王妃殿下を筆頭に上位貴族の夫人が20名以上となります」
「つまり、どうなるのかしら、シノーラ?」
「王宮に居るはずのフローネ様がその時間、貴族学校で鞄を漁っていたのを見た、となると、どちらかが嘘を吐いてる事になるでしょう」
「もう何を言っているの、シノーラ? 国王陛下や王妃殿下が嘘を吐く訳がないでしょ?」
「はい。結論として、そこの2人が偽証をしてフローネ様の名誉を傷付けただけではなく、その偽証により王太子殿下との仲を険悪化させた事となり、王族の婚約を妨害した事となります」
「そう、王族の婚姻の妨害を・・・でも、そんな事が下位貴族の独断で可能なのかしら?」
私が問うと、
「まさか、他国の介入が透けて見えるかと」
心得たシノーラがそう答えたので、私は騎士達に、
「確認なさい」
と命じた。
ジェンシャン王国の騎士が、
「どこの国の依頼であんな証言をした? 言えっ!」
「違います。日数を誤解しただけーー」
言い訳をしようとした瞬間、騎士は平然とメーケット子爵令嬢の指の骨をボキッと折った。
「ギャアアアアッ!」
鋭い悲鳴が卒業パーティーの会場に響き渡り、
「酷い」
「めまいが・・・」
「おっと、大丈夫か?」
「おい、やりすぎなのでは?」
「そう思うが、あの騎士達、陛下の親衛隊じゃなかったか?」
卒業パーティーに出席中のギャラリーが騒ぐ中、
「指が、私の指が・・・」
指を折られた令嬢が涙を流した。
「待て、何をしてるっ! おまえ達、本当に我が国の騎士なのか? そんな事が許される訳がーー」
騎士の蛮行にエリオット殿下が驚いて止めようとするが、
「殿下、何を驚いておられるのです? 彼女達は貴族でありながら他国と内通して殿下を謀った売国奴でしてよ? 貴族の扱いを受けれる訳がないではありませんか?」
「だが、まだ学生だぞ?」
「学生? 先程、卒業したではありませんか? それとも留年されたのですか、あの2人は? だとしたら卒業パーティーに居るのは変ですわよね?」
「ふざけるなっ! ともかく、このような事ーー」
「ギャアアアア」
また指が折られたのか子爵令嬢が悲鳴を上げた。
「ともかく止めろ、貴様らっ!」
「我らは国王陛下の親衛隊です。王太子殿下に我々を命令する権限はございません」
騎士の1人がさらりと言った。
「王太子妃候補のフローネの指示には従っているではないかっ!」
「御冗談を。我らが主は陛下のみ。その陛下から受けた命令は、王太子殿下と婚約者のフローネ嬢の護衛、害そうと試みた者への捕縛権限。並びに黒幕追及への調査権限です」
「だからと言って、相手は学生だぞ?」
とおっしゃるエリオット殿下に、私が、
「いつまで学生気分なのですか、殿下? 我々は先程、貴族学校を卒業しているのですよ? 扱いは当然、成人した貴族ですわ。そして貴族たる者が他国に内通して我らが祖国を裏切った。当然、扱いは、ああ、なりますわ」
「ギャアアアア」
と3本目の指の骨を折られて子爵令嬢は気絶した。
「気絶しました」
末端の騎士の報告に、隊長らしき騎士が、
「歯を抜いてやれ。意識を取り戻すだろう」
そんな事を言い、本当にペンチで子爵令嬢の前歯が抜かれると、
「ギャアーー」
痛みで意識を取り戻した。
もう殿下も口を挟まなくなる中、騎士が、
「早く誰の命令でこんな偽証をしたのかを言えっ!」
「だから、日数を間違っていたと言って――ギャアアアアアアア」
否定的な答えをしようとした瞬間、4本目の指が折られたのでした。
「ジャネット様、助けて・・・」
エリオット殿下の腕の中に居るジャネット嬢を子爵令嬢は涙を流しながら見て、ジャネット嬢が、
「殿下、私、もう見ていられませんわ」
「分かってる。おまえ達、さすがに、これは――」
と言おうとして、エリオット殿下がもう片方の男爵令嬢が何もされていない事に遅蒔きに気付き、
「待て。もう片方の令嬢には何もしていないではないか?」
「なるほど。罪人は平等に指を折れと? さすがは殿下ですわ」
私がわざとそう曲解すると、
「そんな訳あるかっ!」
とエリオット殿下がツッコまれたので、私が仕方なく、
「あちらのマリア嬢が何もされていないのは当然の事ですわ」
「どういう事だ? うん、名前を知っているのか?」
「はい。だって自分のしでかした大罪に耐えられずに御両親に相談したらしく、10日前には男爵夫妻共々、緊急に報告したい事がある、と我が公爵家にやってきて、わたくしや父の前で謝罪をされたのですもの。8日前には父の仲介で両陛下とも謁見。その場にてエリオット殿下の企ての事前通達と、事が起こる前に罪を認めた事への褒美として、マリア嬢の無罪が陛下により言い渡されておりますわ。陛下から免罪符を貰っているのですから、何もされてないのは当然でしょう?」
と内幕を教えて差し上げると、エリオット殿下が、
「待て。私の企てだと?」
「まあ、マリア嬢に謝罪されなくても、とっくに私も陛下も承知しておりましたけどね」
「ーー何だと?」
「だって、殿下の側近の方々は優秀な上に、殿下ではなく陛下に忠誠を捧げておられるんですもの」
と私が言った時には、
「ギャアアア」
と子爵令嬢が5本目の指が折られて悲鳴を上げたのでした。
私は高らかとパーティー会場に居る全員に聞こえるように、
「いつまで頑張るのかしらね、あの子? どうせ、もうメーケット子爵家は断絶が決まっていますのに。後が閊えているのだから早く音を上げればいい物を」
「待て。子爵家が取り潰しだと?」
エリオット殿下が驚く中、私は、
「はい、陛下が決定されましたわ。王太子の婚約に虚偽の悪評を用いて干渉しようとした。内乱罪が適用出来るな、との事で、宰相や大臣達と閣議決定されて。連座で証言者達の実家は断絶ですわ。ねえ?」
と私がエリオット殿下の側近達に視線を向けると、4人全員が無言で微妙な顔をした。
「おまえ達、知っていたのか? と言うか、まさか、陛下に・・・」
エリオット殿下が周囲の側近達に視線を向けると、
「いいえ、私は報告はしておりません。ですが、何故か情報が筒抜けで・・・」
「オレもです。いきなりオヤジに殴られました」
「私もです」
「私が忠誠を捧げるのは殿下だけです。計画は漏らしておりません」
と全員が否定した。
「あらら、誰かが偽証してるようですわね。殿下、そんな不忠義者を傍に置いておくと寝首を掻かれますわよ。拷問されてみては?」
「フローネ、おまえは黙っていろっ!」
という殿下の怒声は、
「ギャアアアアアア」
というメーケット子爵令嬢の悲鳴で掻き消えた。
「・・・言います、もう言いますから」
指6本で音を上げた令嬢が泣きながら、
「ジャネット様に偽証を頼まれました、ヒグッ。フローネ様を追い落として王太子妃になった暁には優遇するとの約束で」
だが、騎士は尋問を心得ており、
「証拠は?」
「ヒグッ、証拠?」
「文書等々による覚書とかだ」
「そんなのありませんよ。口約束です」
「とおっしゃっておりますが、ジャネット・ミレー嬢、そんな約束、されましたかな?」
との騎士の代表者の問いかけに、
「いいえ、嘘です。ナンシー様は嘘を吐かれておられます。助かりたいが為に私を悪者にするなんて、酷い」
と嘘泣きをしてエリオット殿下の胸に顔を埋めて見せた男爵令嬢がメーケット子爵令嬢を切り捨てたので、
「やはり嘘ではないか。続けよ」
「ギャアアアアアア」
その後も拷問は続き、
「本当です。本当に、あそこのジャネット様に偽証するように頼まれたのですっ! だから、もう許してっ!」
必死に無様に泣いて訴えるメーケット子爵令嬢と、
「酷い、酷いわ。どうして、そんな嘘が吐けるの? 本当に知らないのです、殿下」
と嘘泣きのジャネットの言い合いは続き、メーケット子爵令嬢は指10本が折られて、前歯が5本抜かれる破目になった。
騎士の代表者が、
「埒があかんな。指を切断してみろ」
と言ったところで、エリオット殿下が、
「待てっ! それ以上はここではするなっ!」
「ですから、殿下。先程も申し上げましたが、殿下には我々に命令する権限はございません」
「だがーー」
まだ何かを言おうとしたエリオット殿下に対して、騎士が、
「王族の婚姻に介入して、内乱罪が適用されたのですぞ、殿下? ここで悪の根を絶たねばジェンシャン王国は更なる窮地に立たされるのは明白です。我々は絶対に黒幕を突き止めねばならぬのです。王太子である殿下も御理解下さい」
そう言った時には騎士の1人が本当に指切断専用の機材を取り出したので、さすがに私も苦笑して、
「殿下、他の予定されてる証言者の身柄の引き渡しを条件に、生徒会役員として、生徒会長権限による本年度の卒業パーティーの中止、を進言致します。これ以上はさすがに他の令嬢達のトラウマになるかと思いますので」
「それだ。卒業パーティーはただ今を以て――」
とのエリオット殿下の宣言を遮るように、宰相令息が、
「お待ちを、殿下。他の証言者の身柄をお渡しになられるのですか?」
「そんな事する訳がなかろうが?」
とエリオット殿下が言い放ち、宰相令息が少し残念そうに、
「そうですか」
「ともかく私の生徒会長権限で、本年度の卒業パーティーは唯今を以て中止とする。皆もよいな?」
と殿下が問いかけ、参加者達から異存が出なかったので、
「誰からも異議がなかったので中止とする。解散だっ!」
とエリオット殿下が宣言されたのでした。
◇
参加者達が出口に向かって帰ろうとする中、参加者全員が眼を引く出来事が起こった。
エリオット殿下の胸の中で泣いていたジャネットが私の許へとやってきて、気軽に私の腕に自分の腕を絡めて、
「フローネお姉様、一緒に帰りましょう」
「ジャネット、お姉様は止めなさいって言ったでしょ」
私は窘めながら、閉じた扇でジャネットのおでこをペシッと軽く叩くも、腕を払い退ける事もなく一緒に腕を組んだまま歩き、
「はぁ~い、フローネ様」
ジャネットも歩調を合わせて腕を組んで歩き出したのだから、注目も浴びますわよね。
私の秘書係のシノーラも呆れてるだけで咎める事もありませんし。
貴族学校に在籍していた者からすれば異様な光景に映ったらしく、皆が唖然とする中、同じく唖然としてたエリオット殿下が、
「待て。ジャネット、フローネとどういう関係だ?」
と声を掛けてきた。
「もう言って良かったんでしたっけ?」
立ち止まったジャネットが私に問いかけ、一緒に足を止めた私が、
「ダメに決まってるでしょ」
「内緒ですぅ~、殿下ぁ~」
とジャネットが言い、エリオット殿下が今度は私に、
「フローネ、どういう事だ?」
「陛下からの発表は10日後ですので、その時にお聞き下さいますように。では失礼」
そう言ってジャネットと一緒に歩き出した。
「私も公爵邸で泊まっていいですか?」
「まずは王宮よ。両陛下にこのパーティーの顛末をお伝えするから」
「私も付いて行っていいですよね?」
「ったく、性がないわね。但し、付き人ですからね、まだ」
「はぁ~い」
と談笑しながら卒業パーティーの会場から出て行ったのだった。
◇
私への婚約破棄計画は中止となりましたが、エリオット殿下の身柄を引き渡さないとの宣言は無視され、事前にリストを入手していた騎士達が王太子妃候補の私を陥れる偽証の証言予定者の令嬢5人と令息3人を卒業パーティーの退席時に捕縛。
そのまま身柄を拘束されて尋問されたそうです。
無論、他国の関与などはある訳もないのですが。
私を王太子妃から引きずり下ろして、ジャネットが王太子妃になった際に便宜を図って貰う。
それが偽証を承諾した条件なのですから。
けど、そんな約束の覚書をジャネットが残す訳もなく、騎士達が故意に再起不能になるまで捕縛した令嬢と令息を拷問したそうです。
下位貴族の分際で王族の婚姻に干渉した者がどうなるのか、の見せしめとして。
お陰で爪や歯などはいい方で、眼を潰されたり、指を切断された者も居たとか。
メーケット子爵家を含む(寝返ったのはコマイナ男爵家以外にも居り)、下位貴族7家が予定通り断絶となった。
ラグラス公爵家との敵対派閥の貴族達もその下位貴族の動きに乗せられた為に、王家に証拠を掴まれた上位貴族12家が爵位を降格させられて、下位貴族8家が断絶し、敵対派閥は弱体化したのでした。
◇
そして卒業パーティーの10日後にはジャネット・ミレー男爵令嬢がラグラス公爵の実弟のバッキャー伯爵の落胤である事が公表され、バッキャー伯爵家に迎え入れられた事が正式に発表されました。
系譜でいうと私の父の弟の娘、同年の従妹になり、ここでようやく、エリオット殿下の婚約者の私と、エリオット殿下の寵愛を受け、貴族学校内で私と対立していた男爵令嬢のジャネットが、実は裏で繋がっていた事が判明し、更には王家が、穀潰しの下位貴族の排斥や、王太子が王位に継いだ際に政敵となる敵対派閥の貴族潰しをした事が、誰の目にも明らかとなりましたが、嵌められた貴族達は後の祭りでどうする事も出来なかったのでした。
◇
エリオット殿下は事情を全く知らされていませんでしたが、陛下の命で私と結婚し、ジャネットを側妃にした事で、貴族潰しを主導した策略家として見られる事となりました。
◇
5年後、ジェンシャン王国の王宮のお茶会で王太子妃として産んだ子供と一緒に参加した私は、隣に座る従妹で王太子側妃の身重のジャネットに、
「お腹が大きくなってきたわね、ジャネット?」
「はい、お姉様」
その呼び方を注意しても直らなかったので、もう流して、
「最近の殿下の様子はどう?」
「少しは人間不信が直ったかと」
「御可哀想にね、殿下も。卒業パーティーでは側近全員が陛下に情報を流して殿下を裏切っていたんですもの。殿下が人間不信になるのも分かるわ」
「お姉様、絶対にそっちじゃないと思いますけど。まあ、男色に走らなくて助かりましたが」
「それもそうね、オホホ」
私とジャネットはその後も順調に王妃と側妃になって、ジェンシャン王国で幸せに暮らしたのでした。
おわり
とジェンシャン王国の貴族学校の卒業パーティーの席で、大声でやらかそうとしたのは私ことフローネ・ラグラスの婚約者でありながら、婚約者の私を放っておいて男爵令嬢の相手をしているエリオット・ジェンシャン王太子殿下だったものだから、私は最後まで言わせる事なく、
「お待ち下さい、殿下っ! わたくしには身に覚えのない話ばかりでございますが、今言った罪状に証拠はございますのでしょうね?」
「無論だっ!」
そう自信満々に言ったエリオット殿下に対して、私は、
「そちらの令嬢本人の発言は証拠にはなりませんわよ?」
そう優しく噛み砕いて説明すると、馬鹿にされたと思ったのか、
「馬鹿にするなっ! 他にも目撃者が居るわっ!」
「では、先にそれらの目撃者の証言を聞かせて戴きましょうか?」
「いや、その前に言っておきたい事が・・・」
「あら、目撃者を後回しにするだなんて、もしや自信がないのですか、殿下は?」
「無礼なっ! あるわっ! だが、その前に・・・」
「なるほど。捏造してるのがバレては困ると?」
私が訳知り顔で理解を示すと、本当に扱いやすいエリオット殿下は、
「そんな訳あるかっ! ジャン、言ってやれっ!」
そう将来の側近候補の宰相令息に丸投げしたのだった。
「はっ」
眼鏡をクイッとして、メモ帳を出した宰相令息が、
「まずはジャネット嬢の私物である教科書が紛失し、ボロボロな状態で翌日に見つかった件につきまして、紛失に気付いた当日の放課後、フローネ嬢が自らジャネット嬢の鞄を漁ってるのをメーケット子爵令嬢とコマイナ男爵令嬢が目撃しております。その2人は前に」
宰相令息の言葉で卒業パーティーに参加していた令嬢2人が前に出た。
「その時、見た事を発言せよ」
宰相令息の言葉で、
「私はフローネ様がジャネット様の鞄を漁っているのを見ました」
「私もです」
と証言する2人に、満足そうにエリオット殿下が、
「どうだ、フローネ」
「まだ日数を証言しておりませんよ、殿下? 御二方、いつなのかしら?」
「文化祭前の月曜日だったと記憶しております」
「はい」
2人の証言に私が最終確認の為に、
「そう、文化祭前の月曜日・・・日数に間違いはないのね?」
「間違いございません」
「文化祭前の月曜日です」
2人が答え、私が、
「その日の放課後に私がミレー男爵令嬢の鞄を漁っていたと?」
「はい」
「見ました」
「そう、それは本当に残念ね」
私は心底同情した。
「どうだ、フローネっ! これでもシラを・・・」
なにやらエリオット殿下が喋ろうとしておられましたが、私は扇をバチッと閉じたのでした。
それを合図に警備の騎士数名が2人の身柄を取り押さえた。
「キャア、何を?」
「・・・」
令嬢達が騒ぎ、エリオット殿下が、
「何の真似だ、フローネ? まさか、自分が不利になる証言をした者達を力尽くで抑える気か? そんな事は王太子として許さんぞっ!」
ズレた事を堂々と言う中、私は後方に控える秘書係であるヘリア伯爵家の令嬢シノーラに合図した。
「シノーラ」
「はい、フローネ様」
メモ帳を出したシノーラが、
「問題となった文化祭前の月曜日、フローネ様は貴族学校の授業に午前中まで出席。その後は王宮へと出向かれ、昼食を取られた後、午後からはそのまま王宮にて王太子妃教育を受けておられます。その日は王宮で王妃様主催のお茶会が催されており、フローネ様は当初は出席の御予定ではございませんでしたが、王妃様のお招きで急遽出席されておられます。国王陛下も途中で顔も出されており、フローネ様がそのお茶会に居たとする証言者は国王陛下、王妃殿下を筆頭に上位貴族の夫人が20名以上となります」
「つまり、どうなるのかしら、シノーラ?」
「王宮に居るはずのフローネ様がその時間、貴族学校で鞄を漁っていたのを見た、となると、どちらかが嘘を吐いてる事になるでしょう」
「もう何を言っているの、シノーラ? 国王陛下や王妃殿下が嘘を吐く訳がないでしょ?」
「はい。結論として、そこの2人が偽証をしてフローネ様の名誉を傷付けただけではなく、その偽証により王太子殿下との仲を険悪化させた事となり、王族の婚約を妨害した事となります」
「そう、王族の婚姻の妨害を・・・でも、そんな事が下位貴族の独断で可能なのかしら?」
私が問うと、
「まさか、他国の介入が透けて見えるかと」
心得たシノーラがそう答えたので、私は騎士達に、
「確認なさい」
と命じた。
ジェンシャン王国の騎士が、
「どこの国の依頼であんな証言をした? 言えっ!」
「違います。日数を誤解しただけーー」
言い訳をしようとした瞬間、騎士は平然とメーケット子爵令嬢の指の骨をボキッと折った。
「ギャアアアアッ!」
鋭い悲鳴が卒業パーティーの会場に響き渡り、
「酷い」
「めまいが・・・」
「おっと、大丈夫か?」
「おい、やりすぎなのでは?」
「そう思うが、あの騎士達、陛下の親衛隊じゃなかったか?」
卒業パーティーに出席中のギャラリーが騒ぐ中、
「指が、私の指が・・・」
指を折られた令嬢が涙を流した。
「待て、何をしてるっ! おまえ達、本当に我が国の騎士なのか? そんな事が許される訳がーー」
騎士の蛮行にエリオット殿下が驚いて止めようとするが、
「殿下、何を驚いておられるのです? 彼女達は貴族でありながら他国と内通して殿下を謀った売国奴でしてよ? 貴族の扱いを受けれる訳がないではありませんか?」
「だが、まだ学生だぞ?」
「学生? 先程、卒業したではありませんか? それとも留年されたのですか、あの2人は? だとしたら卒業パーティーに居るのは変ですわよね?」
「ふざけるなっ! ともかく、このような事ーー」
「ギャアアアア」
また指が折られたのか子爵令嬢が悲鳴を上げた。
「ともかく止めろ、貴様らっ!」
「我らは国王陛下の親衛隊です。王太子殿下に我々を命令する権限はございません」
騎士の1人がさらりと言った。
「王太子妃候補のフローネの指示には従っているではないかっ!」
「御冗談を。我らが主は陛下のみ。その陛下から受けた命令は、王太子殿下と婚約者のフローネ嬢の護衛、害そうと試みた者への捕縛権限。並びに黒幕追及への調査権限です」
「だからと言って、相手は学生だぞ?」
とおっしゃるエリオット殿下に、私が、
「いつまで学生気分なのですか、殿下? 我々は先程、貴族学校を卒業しているのですよ? 扱いは当然、成人した貴族ですわ。そして貴族たる者が他国に内通して我らが祖国を裏切った。当然、扱いは、ああ、なりますわ」
「ギャアアアア」
と3本目の指の骨を折られて子爵令嬢は気絶した。
「気絶しました」
末端の騎士の報告に、隊長らしき騎士が、
「歯を抜いてやれ。意識を取り戻すだろう」
そんな事を言い、本当にペンチで子爵令嬢の前歯が抜かれると、
「ギャアーー」
痛みで意識を取り戻した。
もう殿下も口を挟まなくなる中、騎士が、
「早く誰の命令でこんな偽証をしたのかを言えっ!」
「だから、日数を間違っていたと言って――ギャアアアアアアア」
否定的な答えをしようとした瞬間、4本目の指が折られたのでした。
「ジャネット様、助けて・・・」
エリオット殿下の腕の中に居るジャネット嬢を子爵令嬢は涙を流しながら見て、ジャネット嬢が、
「殿下、私、もう見ていられませんわ」
「分かってる。おまえ達、さすがに、これは――」
と言おうとして、エリオット殿下がもう片方の男爵令嬢が何もされていない事に遅蒔きに気付き、
「待て。もう片方の令嬢には何もしていないではないか?」
「なるほど。罪人は平等に指を折れと? さすがは殿下ですわ」
私がわざとそう曲解すると、
「そんな訳あるかっ!」
とエリオット殿下がツッコまれたので、私が仕方なく、
「あちらのマリア嬢が何もされていないのは当然の事ですわ」
「どういう事だ? うん、名前を知っているのか?」
「はい。だって自分のしでかした大罪に耐えられずに御両親に相談したらしく、10日前には男爵夫妻共々、緊急に報告したい事がある、と我が公爵家にやってきて、わたくしや父の前で謝罪をされたのですもの。8日前には父の仲介で両陛下とも謁見。その場にてエリオット殿下の企ての事前通達と、事が起こる前に罪を認めた事への褒美として、マリア嬢の無罪が陛下により言い渡されておりますわ。陛下から免罪符を貰っているのですから、何もされてないのは当然でしょう?」
と内幕を教えて差し上げると、エリオット殿下が、
「待て。私の企てだと?」
「まあ、マリア嬢に謝罪されなくても、とっくに私も陛下も承知しておりましたけどね」
「ーー何だと?」
「だって、殿下の側近の方々は優秀な上に、殿下ではなく陛下に忠誠を捧げておられるんですもの」
と私が言った時には、
「ギャアアア」
と子爵令嬢が5本目の指が折られて悲鳴を上げたのでした。
私は高らかとパーティー会場に居る全員に聞こえるように、
「いつまで頑張るのかしらね、あの子? どうせ、もうメーケット子爵家は断絶が決まっていますのに。後が閊えているのだから早く音を上げればいい物を」
「待て。子爵家が取り潰しだと?」
エリオット殿下が驚く中、私は、
「はい、陛下が決定されましたわ。王太子の婚約に虚偽の悪評を用いて干渉しようとした。内乱罪が適用出来るな、との事で、宰相や大臣達と閣議決定されて。連座で証言者達の実家は断絶ですわ。ねえ?」
と私がエリオット殿下の側近達に視線を向けると、4人全員が無言で微妙な顔をした。
「おまえ達、知っていたのか? と言うか、まさか、陛下に・・・」
エリオット殿下が周囲の側近達に視線を向けると、
「いいえ、私は報告はしておりません。ですが、何故か情報が筒抜けで・・・」
「オレもです。いきなりオヤジに殴られました」
「私もです」
「私が忠誠を捧げるのは殿下だけです。計画は漏らしておりません」
と全員が否定した。
「あらら、誰かが偽証してるようですわね。殿下、そんな不忠義者を傍に置いておくと寝首を掻かれますわよ。拷問されてみては?」
「フローネ、おまえは黙っていろっ!」
という殿下の怒声は、
「ギャアアアアアア」
というメーケット子爵令嬢の悲鳴で掻き消えた。
「・・・言います、もう言いますから」
指6本で音を上げた令嬢が泣きながら、
「ジャネット様に偽証を頼まれました、ヒグッ。フローネ様を追い落として王太子妃になった暁には優遇するとの約束で」
だが、騎士は尋問を心得ており、
「証拠は?」
「ヒグッ、証拠?」
「文書等々による覚書とかだ」
「そんなのありませんよ。口約束です」
「とおっしゃっておりますが、ジャネット・ミレー嬢、そんな約束、されましたかな?」
との騎士の代表者の問いかけに、
「いいえ、嘘です。ナンシー様は嘘を吐かれておられます。助かりたいが為に私を悪者にするなんて、酷い」
と嘘泣きをしてエリオット殿下の胸に顔を埋めて見せた男爵令嬢がメーケット子爵令嬢を切り捨てたので、
「やはり嘘ではないか。続けよ」
「ギャアアアアアア」
その後も拷問は続き、
「本当です。本当に、あそこのジャネット様に偽証するように頼まれたのですっ! だから、もう許してっ!」
必死に無様に泣いて訴えるメーケット子爵令嬢と、
「酷い、酷いわ。どうして、そんな嘘が吐けるの? 本当に知らないのです、殿下」
と嘘泣きのジャネットの言い合いは続き、メーケット子爵令嬢は指10本が折られて、前歯が5本抜かれる破目になった。
騎士の代表者が、
「埒があかんな。指を切断してみろ」
と言ったところで、エリオット殿下が、
「待てっ! それ以上はここではするなっ!」
「ですから、殿下。先程も申し上げましたが、殿下には我々に命令する権限はございません」
「だがーー」
まだ何かを言おうとしたエリオット殿下に対して、騎士が、
「王族の婚姻に介入して、内乱罪が適用されたのですぞ、殿下? ここで悪の根を絶たねばジェンシャン王国は更なる窮地に立たされるのは明白です。我々は絶対に黒幕を突き止めねばならぬのです。王太子である殿下も御理解下さい」
そう言った時には騎士の1人が本当に指切断専用の機材を取り出したので、さすがに私も苦笑して、
「殿下、他の予定されてる証言者の身柄の引き渡しを条件に、生徒会役員として、生徒会長権限による本年度の卒業パーティーの中止、を進言致します。これ以上はさすがに他の令嬢達のトラウマになるかと思いますので」
「それだ。卒業パーティーはただ今を以て――」
とのエリオット殿下の宣言を遮るように、宰相令息が、
「お待ちを、殿下。他の証言者の身柄をお渡しになられるのですか?」
「そんな事する訳がなかろうが?」
とエリオット殿下が言い放ち、宰相令息が少し残念そうに、
「そうですか」
「ともかく私の生徒会長権限で、本年度の卒業パーティーは唯今を以て中止とする。皆もよいな?」
と殿下が問いかけ、参加者達から異存が出なかったので、
「誰からも異議がなかったので中止とする。解散だっ!」
とエリオット殿下が宣言されたのでした。
◇
参加者達が出口に向かって帰ろうとする中、参加者全員が眼を引く出来事が起こった。
エリオット殿下の胸の中で泣いていたジャネットが私の許へとやってきて、気軽に私の腕に自分の腕を絡めて、
「フローネお姉様、一緒に帰りましょう」
「ジャネット、お姉様は止めなさいって言ったでしょ」
私は窘めながら、閉じた扇でジャネットのおでこをペシッと軽く叩くも、腕を払い退ける事もなく一緒に腕を組んだまま歩き、
「はぁ~い、フローネ様」
ジャネットも歩調を合わせて腕を組んで歩き出したのだから、注目も浴びますわよね。
私の秘書係のシノーラも呆れてるだけで咎める事もありませんし。
貴族学校に在籍していた者からすれば異様な光景に映ったらしく、皆が唖然とする中、同じく唖然としてたエリオット殿下が、
「待て。ジャネット、フローネとどういう関係だ?」
と声を掛けてきた。
「もう言って良かったんでしたっけ?」
立ち止まったジャネットが私に問いかけ、一緒に足を止めた私が、
「ダメに決まってるでしょ」
「内緒ですぅ~、殿下ぁ~」
とジャネットが言い、エリオット殿下が今度は私に、
「フローネ、どういう事だ?」
「陛下からの発表は10日後ですので、その時にお聞き下さいますように。では失礼」
そう言ってジャネットと一緒に歩き出した。
「私も公爵邸で泊まっていいですか?」
「まずは王宮よ。両陛下にこのパーティーの顛末をお伝えするから」
「私も付いて行っていいですよね?」
「ったく、性がないわね。但し、付き人ですからね、まだ」
「はぁ~い」
と談笑しながら卒業パーティーの会場から出て行ったのだった。
◇
私への婚約破棄計画は中止となりましたが、エリオット殿下の身柄を引き渡さないとの宣言は無視され、事前にリストを入手していた騎士達が王太子妃候補の私を陥れる偽証の証言予定者の令嬢5人と令息3人を卒業パーティーの退席時に捕縛。
そのまま身柄を拘束されて尋問されたそうです。
無論、他国の関与などはある訳もないのですが。
私を王太子妃から引きずり下ろして、ジャネットが王太子妃になった際に便宜を図って貰う。
それが偽証を承諾した条件なのですから。
けど、そんな約束の覚書をジャネットが残す訳もなく、騎士達が故意に再起不能になるまで捕縛した令嬢と令息を拷問したそうです。
下位貴族の分際で王族の婚姻に干渉した者がどうなるのか、の見せしめとして。
お陰で爪や歯などはいい方で、眼を潰されたり、指を切断された者も居たとか。
メーケット子爵家を含む(寝返ったのはコマイナ男爵家以外にも居り)、下位貴族7家が予定通り断絶となった。
ラグラス公爵家との敵対派閥の貴族達もその下位貴族の動きに乗せられた為に、王家に証拠を掴まれた上位貴族12家が爵位を降格させられて、下位貴族8家が断絶し、敵対派閥は弱体化したのでした。
◇
そして卒業パーティーの10日後にはジャネット・ミレー男爵令嬢がラグラス公爵の実弟のバッキャー伯爵の落胤である事が公表され、バッキャー伯爵家に迎え入れられた事が正式に発表されました。
系譜でいうと私の父の弟の娘、同年の従妹になり、ここでようやく、エリオット殿下の婚約者の私と、エリオット殿下の寵愛を受け、貴族学校内で私と対立していた男爵令嬢のジャネットが、実は裏で繋がっていた事が判明し、更には王家が、穀潰しの下位貴族の排斥や、王太子が王位に継いだ際に政敵となる敵対派閥の貴族潰しをした事が、誰の目にも明らかとなりましたが、嵌められた貴族達は後の祭りでどうする事も出来なかったのでした。
◇
エリオット殿下は事情を全く知らされていませんでしたが、陛下の命で私と結婚し、ジャネットを側妃にした事で、貴族潰しを主導した策略家として見られる事となりました。
◇
5年後、ジェンシャン王国の王宮のお茶会で王太子妃として産んだ子供と一緒に参加した私は、隣に座る従妹で王太子側妃の身重のジャネットに、
「お腹が大きくなってきたわね、ジャネット?」
「はい、お姉様」
その呼び方を注意しても直らなかったので、もう流して、
「最近の殿下の様子はどう?」
「少しは人間不信が直ったかと」
「御可哀想にね、殿下も。卒業パーティーでは側近全員が陛下に情報を流して殿下を裏切っていたんですもの。殿下が人間不信になるのも分かるわ」
「お姉様、絶対にそっちじゃないと思いますけど。まあ、男色に走らなくて助かりましたが」
「それもそうね、オホホ」
私とジャネットはその後も順調に王妃と側妃になって、ジェンシャン王国で幸せに暮らしたのでした。
おわり
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