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婚約者に浮気されたので秘密裏に婚約を破棄して元婚約者と公爵未亡人との婚約を王命でまとめて差し上げましたわ。あら、卒業パーティーが大変な事に
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貴族学校に通うフローラ・フラリース伯爵令嬢は繁みの奥に見える風景を見て、涙を浮かべていた。
フローラが涙を浮かべてる理由は、視線の先の繁みの向こう側には噴水があり、噴水の前にベンチがあったのだが、そこにフローラの婚約者であるアストス・シルバリアン公爵令息が座っていたからだ。
長い銀髪の貴公子然としてるのがアストスだった。
アストスだけが座ってるのなら、フローラも涙を浮かべたりはしない。
その横に親しげどころか、アストスの腕に絡み付いて恋人のように振る舞うエミー・ミュナージ侯爵令嬢が居たから涙を浮かべていたのだった。
「うふふふっ。もうアストス様ったら。冗談ばっかり」
「はははっ、可愛いよ、エミー」
まるで絵に描いた恋人のような2人を見てフローラは涙していたのだ。
(酷い、酷いわ、アストス様。そりゃ確かにお父様が多額の支度金を献じて、無理矢理シルバリアン公爵家に私を嫁がせようとして、成金め、と嫌われてたのは知ってましたけど。それでも婚約者の私が同じ貴族学校に通ってるのに、こんなに堂々と浮気をするなんて。お父様に言い付けて、こんな婚約、破棄して貰うんだから)
涙をハンカチでぬぐったフローラは繁みの奥へと音もなく遠ざかったのだった。
◇
その日、家に帰ったフローラは父親であり、フラリース財閥総帥でもあるフラリース伯爵に直談判していた。
「私とアストス様との婚約を破棄して下さい」
とフローラが父親に頼むも、父親であるフラリース伯爵の返事は、
「馬鹿を言え。シルバリアン公爵家はリリー王国では王家に次ぐ名家だぞ。その公爵家の跡継ぎなんだぞ、おまえの婚約者は? そもそもシルバリアン公爵家におまえを嫁がせる為に一体いくら使ったと思ってるんだ?」
という政略の話だった。
それは重々フローラも承知しているが、あんなに堂々と浮気する男が結婚相手では先が思いやられる。
「あんな男と結婚するくらいなら死を選びますわ」
「ふざけるな。高々、浮気くらいで大袈裟に騒ぐもんじゃない」
やり手のフラリース伯爵は貴族学校での娘の婚約者の情報も知っていたようだ。
アストスの浮気を承知の上で娘のフローラに、公爵家との縁続きになる為に我慢しろ、と言っているのだ。
その事を理解したフローラは、
「分かりました。死ぬのは結婚式を挙げた後の初夜にしますね。それならば公爵家とも縁が出来るのでお父様にも迷惑は掛かりませんものね」
と貴族令嬢らしく礼儀正しく微笑した。
娘の様子を見て、本気だ、と悟ったフラリース伯爵は溜息を吐くと、やり手の財閥総帥らしく事前に第2案を用意していたので、
「長男がダメなら、4歳年下の次男となるが、それでもいいんだな、フローラ?」
「アストス様以外なら誰だっていいですわ」
「わかった。こちらで総て手配しよう」
フラリース伯爵はそう言ったので、フローラが、
「お父様、私の希望を聞いて戴きたいのですが」
「希望だと? ・・・何だ?」
その後、フローラが自分の希望を父親のフラリース伯爵に伝えると、伯爵は笑いながら、
「プププッ、本当にそれをワシにやれと?」
「はい。お父様なら可能ですわよね?」
「まあ、可能だが。それでもフラリース財閥に逆らった者に対する見せしめとしては、これは少し酷くないか?」
「酷くありませんわ。フラリース財閥の総帥令嬢である私がどれだけ貴族学校で恥を掻かされてると思っているんですか?」
「ーー分かった。フローラの希望に沿うように手配してやろう」
その言葉を聞いて、フローラは満面の笑顔で執務室から退室したのだった。
◇
その後、秘密裏にフローラ・フラリース伯爵令嬢とアストス・シルバリアン公爵令息の2人の婚約は破棄された。
◇
半年後の貴族学校の卒業パーティーに、フローラはエスコート役のシルバリアン公爵令息と一緒に参加した。
シルバリアン公爵令息とは言っても、長男のアストスではない。
4歳年下の次男で、まだ14歳のイース・シルバリアン公爵令息がフローラのエスコート役だった。
「あら、フローラ様。可愛い方にエスコートされてますのね?」
「私の婚約者のイース様をお褒め下さり、ありがとうございます」
とフローラが満面の笑みを浮かべると、声を掛けた本日卒業の学友が、
「やっぱり昨夜、突如、通達のあった情報は・・・」
「ええ、細工は流流ですわ。これから面白い劇が始まりますわよ」
扇で口元を隠して笑ったフローラは会場の中央で、当然のように踊る幸せそうなアストス・シルバリアン公爵令息とエミー・ミュナージ侯爵令嬢を見つめたのだった。
学生で埋め尽くされた会場に、場違いな年配の少し太めの御夫人が現れたのは卒業パーティーが始まって少ししての事だった。
赤いドレスで分厚い赤いリップなので嫌でも目立つ。
その御夫人が一直線に中央で踊るアストス・シルバリアン公爵令息とエミー・ミュナージ侯爵令嬢の方へとズカズカと近付いて行って、握ってる扇で、
「この泥棒猫がっ!」
と言って、バギッとエミー・ミュナージ侯爵令嬢の鼻っ面を叩いたのだった。
本当にバギッという音がして、
「ぷびしゃああっ!」
御夫人の太い腕での強烈な一撃を受け、叩かれたエミーは鼻血を噴きながら床に転がって、無様に白眼を剥いて気絶したのだった。
「あら、呆気ない。手癖が悪い小娘をもう少し叩きたかったのに」
そう言ったのは、50代ながら太めの体形の為、顔に皺が余りないメリーナ・カミルーネ公爵未亡人だった。
「ねぇ~、ダーリン♡」
30歳以上年下のアストスに猫撫で声で甘えてくる。
自分の腕に見知らぬ怪女の太い腕を絡められたアストスは背筋を凍らせる思いをしながらも、
「な、何を言っているんだ、アナタは? 私にはれっきとした婚約者が・・・」
アストスが反論しようとするも、メリーナ未亡人が、
「あら、アナタ、まだ王命を聞いていないの? この私、メリーナ・カミルーネがアナタの婚約者よ」
と宣言した。
「王命だと?」
その不穏な言葉を聞き咎めたアストスは、今日一緒に貴族学校を卒業するパーティー会場に居る第2王子のヒルトム殿下を探して視線を向けた。
メリーナ未亡人がエミーを殴って鼻血を噴いて床に倒れた時点で、会場の音楽は止まっていたので、参加者の全員が会場中央の騒動に注目しており、ダンスを止めたヒルトム殿下とはすぐに視線が合ったが、ヒルトム殿下の方は側近候補のアストスからの助けを求めるような視線を向けられても、バツが悪そうに視線を逸らしただけだった。
そのヒルトム殿下の仕草だけで、本当に王命が下った、と悟ったアストスが次に視線を向けたのは、そんなふざけた事をした人物だった。
リリー王国内でこんなふざけた事が出来るのは王家以外ではフラリース財閥くらいなのだから。
何故か弟と一緒に居るフラリース財閥の総帥令嬢のフローラを見つけて、
「フローラ、貴様っ! よくもこんなふざけた事をっ!」
と喚いたが、太めの体形のメリーナ未亡人は細身のアストスよりも腕力が強く、腰を抱かれているので、フローラに近付く事も出来なかった。
「王命の結婚ですので謹んでお受け下さいね、シルバリアン公爵令息。有り難い事にカミルーネ公爵家に婿入り出来るらしいですわよ? 元婚約者としてお喜び申し上げます」
もう関係ないので他人行儀にフローラは答えた。
「ふざけるなっ! オレはシルバリアン公爵家の跡継ぎだぞっ! 幾ら王命でもそんな事まで指図されて堪るかっ!」
「カミルーネ公爵家への婿入りは御父君のシルバリアン公爵もお認めになられた事ですわよ。ああ、シルバリアン公爵家の事なら御安心下さい。次代後継はここに居る私の婚約者のイース様が務めますので」
「何だとっ?」
とアストスは驚いたが、パーティー会場に居る参加者達のニヤニヤ顔や同情の視線を浴びて、もう決定事項として貴族の間で情報が伝わってる、と気付いた。
「幾らだっ? 幾らで父上を籠絡したっ?」
「妙な事をおっしゃらないで。アストス様に浮気されたのでシルバリアン公爵家側の有責で婚約を破棄して欲しいと父が頼んだだけですわ。無論、支払った支度金の返金と同額の慰謝料の提示はしたらしいですけど」
「き、貴様っ! やはり金で・・・」
「あら、浮気をした方が被害者面をするなんてお笑いですわね? まあ、王命は今更覆りませんし、お互い楽しくやりましょう。ねっ、お義兄様、お義姉様」
とフローラは微笑し、アストスの腰に腕を回して離さないメリーナ未亡人も、
「それもそうね。ほら、ダーリン、んちゅううっ」
「ヒィッ――ギャアアアアアアア」
アストスは悲鳴を上げながら、卒業パーティーの参加者達が見ている前でメリーナ未亡人に唇を奪われたのだった。
◇
その卒業パーティーが終わった当日に、アストス・シルバリアンとメリーナ・カミルーネの2人はフラリース財閥が手配した教会で結婚式を挙げた。
翌日の新聞には、王命の事実が伏せられたので、愛を貫いた王国史に残る年の差高位貴族カップル、として王国中にその2人の結婚情報は伝わる事となったのだった。
結婚後、アストスは社交界に姿を現す事はなく、メリーナ夫人との結婚生活が苦痛だったのか、1年後の王家主催のパーティーに久々に姿を現した時には40歳でも通るくらいにまで老け込んでいた。
対照的に結婚相手のメリーナ夫人の方は太めのままだが少し若々しくなっていたが。
一方、王命に横槍を入れた泥棒猫の鼻血一撃気絶女として有名になったエミー・ミュナージ侯爵令嬢はその醜聞から王家、公爵家2つ、大財閥を敵に回したと見なされて社交界から爪弾きにされ、周囲からの圧力に耐えられなかった親の手によって厳しめの修道院へと送られ、生涯慎ましく暮らしたのだった。
そしてフローラ・フラリースは4年後にイース・シルバリアンの貴族学校の卒業を待って結婚した。
「浮気はダメよ、イース様」
「浮気した兄の末路を特等席で見せられてるんですから、浮気なんてしませんよ、フローラ」
おわり
フローラが涙を浮かべてる理由は、視線の先の繁みの向こう側には噴水があり、噴水の前にベンチがあったのだが、そこにフローラの婚約者であるアストス・シルバリアン公爵令息が座っていたからだ。
長い銀髪の貴公子然としてるのがアストスだった。
アストスだけが座ってるのなら、フローラも涙を浮かべたりはしない。
その横に親しげどころか、アストスの腕に絡み付いて恋人のように振る舞うエミー・ミュナージ侯爵令嬢が居たから涙を浮かべていたのだった。
「うふふふっ。もうアストス様ったら。冗談ばっかり」
「はははっ、可愛いよ、エミー」
まるで絵に描いた恋人のような2人を見てフローラは涙していたのだ。
(酷い、酷いわ、アストス様。そりゃ確かにお父様が多額の支度金を献じて、無理矢理シルバリアン公爵家に私を嫁がせようとして、成金め、と嫌われてたのは知ってましたけど。それでも婚約者の私が同じ貴族学校に通ってるのに、こんなに堂々と浮気をするなんて。お父様に言い付けて、こんな婚約、破棄して貰うんだから)
涙をハンカチでぬぐったフローラは繁みの奥へと音もなく遠ざかったのだった。
◇
その日、家に帰ったフローラは父親であり、フラリース財閥総帥でもあるフラリース伯爵に直談判していた。
「私とアストス様との婚約を破棄して下さい」
とフローラが父親に頼むも、父親であるフラリース伯爵の返事は、
「馬鹿を言え。シルバリアン公爵家はリリー王国では王家に次ぐ名家だぞ。その公爵家の跡継ぎなんだぞ、おまえの婚約者は? そもそもシルバリアン公爵家におまえを嫁がせる為に一体いくら使ったと思ってるんだ?」
という政略の話だった。
それは重々フローラも承知しているが、あんなに堂々と浮気する男が結婚相手では先が思いやられる。
「あんな男と結婚するくらいなら死を選びますわ」
「ふざけるな。高々、浮気くらいで大袈裟に騒ぐもんじゃない」
やり手のフラリース伯爵は貴族学校での娘の婚約者の情報も知っていたようだ。
アストスの浮気を承知の上で娘のフローラに、公爵家との縁続きになる為に我慢しろ、と言っているのだ。
その事を理解したフローラは、
「分かりました。死ぬのは結婚式を挙げた後の初夜にしますね。それならば公爵家とも縁が出来るのでお父様にも迷惑は掛かりませんものね」
と貴族令嬢らしく礼儀正しく微笑した。
娘の様子を見て、本気だ、と悟ったフラリース伯爵は溜息を吐くと、やり手の財閥総帥らしく事前に第2案を用意していたので、
「長男がダメなら、4歳年下の次男となるが、それでもいいんだな、フローラ?」
「アストス様以外なら誰だっていいですわ」
「わかった。こちらで総て手配しよう」
フラリース伯爵はそう言ったので、フローラが、
「お父様、私の希望を聞いて戴きたいのですが」
「希望だと? ・・・何だ?」
その後、フローラが自分の希望を父親のフラリース伯爵に伝えると、伯爵は笑いながら、
「プププッ、本当にそれをワシにやれと?」
「はい。お父様なら可能ですわよね?」
「まあ、可能だが。それでもフラリース財閥に逆らった者に対する見せしめとしては、これは少し酷くないか?」
「酷くありませんわ。フラリース財閥の総帥令嬢である私がどれだけ貴族学校で恥を掻かされてると思っているんですか?」
「ーー分かった。フローラの希望に沿うように手配してやろう」
その言葉を聞いて、フローラは満面の笑顔で執務室から退室したのだった。
◇
その後、秘密裏にフローラ・フラリース伯爵令嬢とアストス・シルバリアン公爵令息の2人の婚約は破棄された。
◇
半年後の貴族学校の卒業パーティーに、フローラはエスコート役のシルバリアン公爵令息と一緒に参加した。
シルバリアン公爵令息とは言っても、長男のアストスではない。
4歳年下の次男で、まだ14歳のイース・シルバリアン公爵令息がフローラのエスコート役だった。
「あら、フローラ様。可愛い方にエスコートされてますのね?」
「私の婚約者のイース様をお褒め下さり、ありがとうございます」
とフローラが満面の笑みを浮かべると、声を掛けた本日卒業の学友が、
「やっぱり昨夜、突如、通達のあった情報は・・・」
「ええ、細工は流流ですわ。これから面白い劇が始まりますわよ」
扇で口元を隠して笑ったフローラは会場の中央で、当然のように踊る幸せそうなアストス・シルバリアン公爵令息とエミー・ミュナージ侯爵令嬢を見つめたのだった。
学生で埋め尽くされた会場に、場違いな年配の少し太めの御夫人が現れたのは卒業パーティーが始まって少ししての事だった。
赤いドレスで分厚い赤いリップなので嫌でも目立つ。
その御夫人が一直線に中央で踊るアストス・シルバリアン公爵令息とエミー・ミュナージ侯爵令嬢の方へとズカズカと近付いて行って、握ってる扇で、
「この泥棒猫がっ!」
と言って、バギッとエミー・ミュナージ侯爵令嬢の鼻っ面を叩いたのだった。
本当にバギッという音がして、
「ぷびしゃああっ!」
御夫人の太い腕での強烈な一撃を受け、叩かれたエミーは鼻血を噴きながら床に転がって、無様に白眼を剥いて気絶したのだった。
「あら、呆気ない。手癖が悪い小娘をもう少し叩きたかったのに」
そう言ったのは、50代ながら太めの体形の為、顔に皺が余りないメリーナ・カミルーネ公爵未亡人だった。
「ねぇ~、ダーリン♡」
30歳以上年下のアストスに猫撫で声で甘えてくる。
自分の腕に見知らぬ怪女の太い腕を絡められたアストスは背筋を凍らせる思いをしながらも、
「な、何を言っているんだ、アナタは? 私にはれっきとした婚約者が・・・」
アストスが反論しようとするも、メリーナ未亡人が、
「あら、アナタ、まだ王命を聞いていないの? この私、メリーナ・カミルーネがアナタの婚約者よ」
と宣言した。
「王命だと?」
その不穏な言葉を聞き咎めたアストスは、今日一緒に貴族学校を卒業するパーティー会場に居る第2王子のヒルトム殿下を探して視線を向けた。
メリーナ未亡人がエミーを殴って鼻血を噴いて床に倒れた時点で、会場の音楽は止まっていたので、参加者の全員が会場中央の騒動に注目しており、ダンスを止めたヒルトム殿下とはすぐに視線が合ったが、ヒルトム殿下の方は側近候補のアストスからの助けを求めるような視線を向けられても、バツが悪そうに視線を逸らしただけだった。
そのヒルトム殿下の仕草だけで、本当に王命が下った、と悟ったアストスが次に視線を向けたのは、そんなふざけた事をした人物だった。
リリー王国内でこんなふざけた事が出来るのは王家以外ではフラリース財閥くらいなのだから。
何故か弟と一緒に居るフラリース財閥の総帥令嬢のフローラを見つけて、
「フローラ、貴様っ! よくもこんなふざけた事をっ!」
と喚いたが、太めの体形のメリーナ未亡人は細身のアストスよりも腕力が強く、腰を抱かれているので、フローラに近付く事も出来なかった。
「王命の結婚ですので謹んでお受け下さいね、シルバリアン公爵令息。有り難い事にカミルーネ公爵家に婿入り出来るらしいですわよ? 元婚約者としてお喜び申し上げます」
もう関係ないので他人行儀にフローラは答えた。
「ふざけるなっ! オレはシルバリアン公爵家の跡継ぎだぞっ! 幾ら王命でもそんな事まで指図されて堪るかっ!」
「カミルーネ公爵家への婿入りは御父君のシルバリアン公爵もお認めになられた事ですわよ。ああ、シルバリアン公爵家の事なら御安心下さい。次代後継はここに居る私の婚約者のイース様が務めますので」
「何だとっ?」
とアストスは驚いたが、パーティー会場に居る参加者達のニヤニヤ顔や同情の視線を浴びて、もう決定事項として貴族の間で情報が伝わってる、と気付いた。
「幾らだっ? 幾らで父上を籠絡したっ?」
「妙な事をおっしゃらないで。アストス様に浮気されたのでシルバリアン公爵家側の有責で婚約を破棄して欲しいと父が頼んだだけですわ。無論、支払った支度金の返金と同額の慰謝料の提示はしたらしいですけど」
「き、貴様っ! やはり金で・・・」
「あら、浮気をした方が被害者面をするなんてお笑いですわね? まあ、王命は今更覆りませんし、お互い楽しくやりましょう。ねっ、お義兄様、お義姉様」
とフローラは微笑し、アストスの腰に腕を回して離さないメリーナ未亡人も、
「それもそうね。ほら、ダーリン、んちゅううっ」
「ヒィッ――ギャアアアアアアア」
アストスは悲鳴を上げながら、卒業パーティーの参加者達が見ている前でメリーナ未亡人に唇を奪われたのだった。
◇
その卒業パーティーが終わった当日に、アストス・シルバリアンとメリーナ・カミルーネの2人はフラリース財閥が手配した教会で結婚式を挙げた。
翌日の新聞には、王命の事実が伏せられたので、愛を貫いた王国史に残る年の差高位貴族カップル、として王国中にその2人の結婚情報は伝わる事となったのだった。
結婚後、アストスは社交界に姿を現す事はなく、メリーナ夫人との結婚生活が苦痛だったのか、1年後の王家主催のパーティーに久々に姿を現した時には40歳でも通るくらいにまで老け込んでいた。
対照的に結婚相手のメリーナ夫人の方は太めのままだが少し若々しくなっていたが。
一方、王命に横槍を入れた泥棒猫の鼻血一撃気絶女として有名になったエミー・ミュナージ侯爵令嬢はその醜聞から王家、公爵家2つ、大財閥を敵に回したと見なされて社交界から爪弾きにされ、周囲からの圧力に耐えられなかった親の手によって厳しめの修道院へと送られ、生涯慎ましく暮らしたのだった。
そしてフローラ・フラリースは4年後にイース・シルバリアンの貴族学校の卒業を待って結婚した。
「浮気はダメよ、イース様」
「浮気した兄の末路を特等席で見せられてるんですから、浮気なんてしませんよ、フローラ」
おわり
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