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本編
艦長用ヘルメットの本当の機能
しおりを挟む柚子太は食事に関しては保守的なので、行きつけの高級フレンチ店に一人で出向いてコース料理を食べていたが、
【ブルーフィールド展開、戦術ランクB、フィールドカウント59分59秒】
予測出来ない40%の方にブルーフィールドに当たってしまった。
「ったく、今日は手離さんに借りてたレイ手榴弾を返して、ついでに一つ星を取らせる約束があるのに~。だが、まあ戦術ランクBをエクセレントクリアしておくのも悪くない、か」
柚子太はバトルスーツを装備してヘルメットを被りながら椅子から立ち上がり、味方の識別ビーコンを確認した。
この戦術ランクBのブルーフィールドには味方のナノマシン戦闘員が四人居る。
戦術ランクAのブルーフィールドの時は「フィールドボスの傍に居るこの二人は助けられないな」と判断して実はすっ呆けていたが、この戦術ランクBは余裕で他の戦闘員全員を保護出来るので、ヘルメットの通信を使い、
「この戦術ランクBが厳しいナノマシン戦闘員は居る? 助けるけど」
四人全員に向かって呼び掛けた。
『露図くん? 地下は私に任せて。パワードスーツがあるから』
「えっと、その綺麗な声は利々場さん?」
『あら、褒めてくれてありがと』
真っ先に反応したのは利々場千だった。
そしてもう一人、
『昨日の露図って男の人よね? 出来ればお願い』
「ああ、女優の蛇豆さん?」
『惜しい。蛇津九羽よ。ちゃんと覚えておいてね』
「ええ、蛇津さん」
レイカノン砲を昨夜貸してくれた蛇津九羽から連絡があり、すぐに柚子太は高級フレンチ店から加速ブーツで駆け出した。
残る二人からは応答がない。
「返事がない人は大丈夫と判断するよ。戦術ランクBのブルーフィールドはエクセレントクリア、ブルーフィールド内の敵機全滅を目指すから出来たらフィールドボスを倒すのは待ってね」
柚子太はそう宣言して敵機をレイアサルトライフルで倒しながら進んだ。
◇
耐久値50オーバーの敵機が雑魚として大量にフィールド内に居る戦術ランクBのブルーフィールドに苦戦するか苦戦しないかはナノマシン戦闘員からすれば一つの試金石だ。
攻撃力もそれなりなので、
ムシd-19強襲型
レイシールド耐久値20、耐久値30
これ1機に苦戦するナノマシン戦闘員も当然居た。
積んでるAIも違い、攻撃対象のナノマシン戦闘員に一直線の接近するのではなくビルの3階の高さの側面に張り付いての口の位置の銃口からのビームで攻撃した。
「キャ――嘘でしょ。こんなに強いの、戦術ランクBの敵機って?」
ナノマシン戦闘員、蛇津九羽はレイシールドで敵のビームを防ぎながらレイサブマシンガンでどうにかムシ1機を撃破した。
だが銃撃戦を聞き付けたプロペラが近付いてくる。接近しての上空からの投下ではなく、10メートルも離れた位置からレイ手榴弾を投擲してきた。
これも下位のブルーフィールドのプロペラでは見られない攻撃方法だ。
「ちょっ――」
慌てて逃げるがレイ手榴弾が爆発した。未来の兵器なので火薬ではなくエネルギーの衝撃波が広がる。そのエネルギー爆発が逃げる九羽を掠めた。レイシールドで防いだが衝衝撃で吹き飛ばされる。地面に叩き付けられて転がる九羽は慌てて立ち上がって、
「イタタ、戦術ランクAよりもキツイじゃないの。こんなブルーフィールドを50分以上 一人で生き抜くなんて無理に決まって――」
迫るプロペラを睨んだ時、ジャンプ力増強で高速で空中に接近し、当たり前のようにアサルトライフルのレイダガー3連撃で倒したヘルメットを被った柚子太がそのまま九羽の眼前に着地した。
「遅くなって申し訳ありません、蛇津さん。昨日借りたシリウスを返しますね」
武器庫にレイカノン砲が返還される中、
「ありがと、助けてくれて。戦術ランクAのフィールドボスを倒すだけあって強いのね」
「いえいえ。それとレイマシンガンを貸しますね。これでどうにか頑張って下さい」
更にレイマシンガン-255A・ニューヨークを九羽に譲渡して去ろうとするが、九羽の想像していた「助け」とは全然違う。
「待って。昼間に連絡を受けてプロジェクトの部分共闘に同意したわよ、私。ブルーフィールド内で遭えば共闘のはずでしょ」
(面倒臭いな~)
というのが柚子太の率直な感想で、
「なので周囲の敵を倒してきますね。戦術ランクBのブルーフィールドのエクセレントクリアを狙いますので」
(拙い。本当に別行動するつもりだわ)
そう判断した九羽は最後の手段を使った。
もちろん美人のみが使えるお色気作戦だ。
「特別扱いして欲しいな~、私~。怜ちゃんみたいに~」
九羽は堂々と柚子太の首に両腕を絡めて抱き付いて色目を使った。
バトルスーツなので胸の弾力等々が伝わらず効果薄だったが。
それには柚子太の方が過敏に反応した。
鼻の下を伸ばしたのではない。別人のような行動に警戒感を強め、
(人型ロボットが未来の立体映像的な技術で化けてるって事はないよな)
「あれ、昨日の今日で性格変わってません? もっと嘘臭い八方美人だったと思いましたけど」
柚子太は遠慮なく九羽の頬を軽くつまんだ。
弾力があって頬が歪んでるがグローブをしてるので感触は柚子太に伝わらない。
九羽も女優だ。
柚子太の声のトーンが警戒色を強めた事を悟って、頬をつまんだ事には触れず本音で、
「嘘臭い八方美人で悪かったわね。人気商売なんだから仕方がないでしょ。これはこんなところで死にたくないから嫌々やってるのよ。後、今のは他の人には内緒だからね。同性の反感を買いたくないから」
「本人様でいいんですよね?」
「あら、私はいつからモノマネされるほどの売れっ子に――ちょ、冗談なんだから武器を出さないでよ。本物だから。唇で感触を確かめてみる?」
柚子太がレイステッキを出したのを見て九羽が驚いて本人だと証明しようとする中、
「偽物だったら薬品を盛られて終わりじゃないですか。勘弁して下さいよ」
「ちょっと。普通は喜ぶところでしょ? 女優、蛇津九羽の唇よ」
「もう結構。本人だと信じますから」
柚子太は武器を戻しながら、
「でも今後はそういう無駄に神経を尖らせなければならないような真似は止めて下さいね」
「ええ」
「そして御要望は昨夜の怜扱い。つまりは成長LV上げですね」
「出来れば守って欲しかったんだけど・・・そっちでもいいわ」
「加速ブーツ、出ました?」
「いえ、昨夜は出なかったわ」
「やっぱり距離が短かったか。では、加速ブーツも貸しますんで付いてきて下さい」
こうして柚子太と九羽は高速で移動を始め、敵機の出現と同時に柚子太がレイアサルトライフルの単発で敵機の耐久値を削り、
「どうぞ」
「もう少し特別扱いして欲しかったな~」
文句を言いながら九羽が敵機にとどめを刺しつつ、戦術ランクBのブルーフィールドを移動したのだった。
◇
ブルーフィールドは地上だけではなく地下も覆う。
お陰で地下鉄の線路や駅前の地下街もフィールド内の範囲に入った。
平面は縦横15キロだが、立方ではビル群や地下鉄や地下街も含まれるので、今回の戦術ランクBのブルーフィールドは想像以上に広い。
その地下では、運悪くブルーフィールドが発生した時、地下鉄に乗っていた利々場千が奮闘していた。ブルーフィールドとなって無人の列車内に突如出現したボックスを撃破した後、列車を降りてパワードスーツに乗って線路を移動し、ロボット軍団を相手に無双する。
千は戦術ランクEのエクセレントクリア経験者なので、既にENタンク長者だ。
パワードスーツのレイシールドは回数制限ではなくEN消費なので、もう戦術ランクBの敵ごときでは本当に無双出来た。
「露図くんが居たのはラッキーだったわね」
【ロボット軍団陣営の情報送信装置1基の破壊を確認。残り1基】
視界に報告が入るのを確認して、
「仕事も早いし。地上は任せて大丈夫ね」
そう呟きながら鼻歌混じりに進んだ。
◇
千は完全に誤解していたが、情報送信装置の1基目を破壊したのは柚子太ではなく金波理波だった。
柚子太の通信に無回答だったのは昨夜半裸を見られて恥ずかしかったから――というのも少しはあったが、それ以上に昼間に接触してきた嫌な女、音糸知穂の所為だ。
ブルーフィールドの攻略を目指すプロジェクトなるものの参加を求められたが、勉強を妨害されての訪問だ。相手の非礼さから断ったら遠回しに父親の左遷をチラ付かされた。
当然、理波の態度は硬化し、完全に決裂だ。
その日の夜のブルーフィールドで、そのプロジェクトに参加する柚子太の呼び掛けだったので理波は無視した訳だが、
(戦術ランクBの雑魚はギリ倒せるのよね、フィールドボスはまだ無理だけど。それにしてもあの女、本当にムカつくわっ!)
理波は昼間の不愉快な女、知穂の顔を思い出しながら敵機を撃破していったのだった。
◇
もう一人のナノマシン戦闘員はアイドルグループの月乃丘44の3期生の出井亜麻だった。
亜麻が柚子太の通信を応答しなかったのはそれどころではなかったからだ。
番組収録の本番のダンス中に不意打ちでブルーフィールドが発生し、ストップ出来ずに1秒動いてしまったのだから。なのでゆっくりと1秒前に戻ろうとしたのに、無人のスタジオ内に雑魚ムシも出現しており、
「衣裳がオジャンになったらさすがにフォロー不可能だからっ!」
慌ててバトルスーツを纏って、ブルーフィールドの開始直後の迎撃戦の最中に柚子太から通信が入ったのだが、
(ヤバイヤバイヤバイ。ブルーフィールドから現実世界に戻ったら絶対に立ち位置がズレた場所に居るからっ! どうなるの? 取り直し? 先輩達が2回ミスしてのリテイクなのに?)
テンパッていてそれどころではなく、亜麻には聞こえておらず応答出来なかったのだ。
その後、ムシを撃破した頃には通信は終了されており、どうにか平静を取り戻した亜麻は一人で戦術ランクBのブルーフィールドの攻略に乗り出していたが、戦闘員用のヘルメットを使っていたらレーダーの範囲内に入ってきた二人組を発見した。
「うわ、凄い速さで敵機を潰して回ってる二人組が居る。合流しようかしら?」
合流するつもりで移動を開始して、通信の範囲内に入って、
「合流していい?」
『先程は応答がなかったですよね?』
「えっ、そうなの、いつ?」
『ブルーフィールドの開始直後ですよ』
「ああ、こっちはそれどころじゃなかったのよ。ブルーフィールドになった後、1秒動いちゃって。それに眼の前にムシも居て」
『なるほど。では、どうぞ』
「ってか、男の人よね?」
遅蒔きに気付いた亜麻が問うと、
『それが?』
「ええっと、私、すっごい美人だけど惚れないでね」
『大丈夫ですよ、今連れてる人の方が多分、美人ですから』
「はぁ~? 私の方が美人だから」
『ええっと、もしかしたら遭わない方がいいかも――』
「私が負けて傷付くから? アッタマきた。今から行くから待ってなさいっ!」
こうして亜麻は柚子太の許へと向かったのだった。
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