ブルーナイトディスティニー

竹井ゴールド

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本編

テーマパークの取材に同行

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 柚子太は雪に電車で連れられて千葉県内にあるアメリカ資本の世界的テーマパークに来ていた。

 隠れセレブの柚子太からすれば電車移動やチケット代を雪に奢られたのは新鮮だったが。

「2時間しか時間のない後輩を千葉のテーマパークに連れてきますか、普通?」

「いいじゃないの。取材よ、取材」

「何をです? 著作権の関係でどうせ使えませんよね」

「施設じゃなくて客層よ。後は漫画のネタになりそうなのをね。でもあからさまに撮影したら怪しまれるからバカップルのふりをして撮影するわよ」

「えっと、何か慣れてませんか?」

「白子に協力して貰ってたからね」

 その後、本当に取材した。

 建物の陰に隠れてキスしてるカップルを、恋人を撮影してるふりをして盗撮。

 別の女と浮気中の彼氏を探し当てた彼女との修羅場を野次馬の中から撮影。

 純粋に楽しむ男女複数のグループ。

 歩きながら一本のチェロスを交互に食べるカップル。

 柚子太達は何一つ遊ぶ事なく取材した。





 この取材中に柚子太が分かった事が二つある。

 一つは、雪は興味がある対象を見つけると視野が極端に狭くなる事だ。 

 お陰で人込みのテーマパークでは雪は良く人にぶつかりそうになり、その度に柚子太が腕を引っ張って前進を止めたり、腰に手を回して半歩横にズラしたりしてエスコートする破目になった。

 今も走る子供三人が横切ってるのに建物に注目して気付かず、衝突コースで前進しようとしたので、

「おっと、危ないですよ」

 仕方なく腰を引き寄せて雪の前進を止めた。

 その際に雪の横乳が柚子太に当たるのは御愛嬌だが、ハグされた雪の反応は、

「ヒャア」

 小さな悲鳴を上げて赤面するというものだった。

 既にハグだけで5回目だ。

「え、ええっと・・・露図くん? こ、今回はどうしてなのかしら?」

 もう雪は完全にときめいて視線を泳がせている。そんな雪の態度に気付く事なく無自覚主人公の柚子太は通常運転で、

「横切る子供です。またぶつかりそうになってましたよ、根利先輩。気を付けて下さいね」

「ええ、気を付けるわ。それと・・・」

「何か?」

「そろそろ離れてくれるとありがたいんだけど」

「これは失礼」

 柚子太はこうして善意のエスコートを続けたのだった。





 もう一つは、この雪は本当にどん臭い。

「あれはどの物語をモチーフにしてるのかしら」

 取材に熱中して花壇の中央に立つオブジェを見ようと方向転換した際に信じられない事に何もない平らな地面で転んだ。

 数歩離れたので柚子太も倒れる前に補助出来ず、雪が転び、スカートがめくれて黒Tで殆ど丸見えのお尻を披露してる。

「大丈夫ですか」

 柚子太がすぐに起こしたが、

「ありがと・・・イタ」

「膝を擦り剥いてますね。確か救護室があったはずですから向かいましょう」

「これくらいどうって事――いえ、テーマパークの救護室ね~。是非向いましょう。撮影よろしくね、露図くん」

 転んでもただでは起きない性格なので救護室の様子も撮影させられたが、





 その救護室でも白衣を着た医師っぽい人に傷口に消毒後にガーゼを貼られるという治療が終わって椅子から立ち上がろうとしたら、

「キャア」

 柚子太に突っ込んできて抱き付いてきた。

「おっと、大丈夫ですか」

「・・・ええ」

 柚子太の胸板に顔を埋める雪が2秒後に我に帰って、

「い、今のはバランスを崩しただけだからね。誤解しないでね」

 赤面しつつ離れたのだった。





 救護室で膝にガーゼをして貰ってテーマパークに戻った雪が、

「少しあの店で休憩しましょう」

「そうですね」

 だが柚子太は雪が漫画の取材の為に来た事をちゃんと理解しておらず、店に入った雪が、

「私に注文させて」

 と頼まれても「どうぞ」と任せてしまい、スタッフが運んできたドリンクを見て絶句した。

 カップルが飲むストロー二本がハートの形で絡まった一つのドリンクだったので。

「ええっと」

「男子目線の感想が聞きたいわ。飲みましょう」

「なるほど。休憩中も取材って訳ですね。でも、これを注文するカップルって本当に居るんですかね?」

「周囲には居ないっぽいわね」

 柚子太は普通に飲んだ。喉が渇いてたので普通に美味しいが。

 頼んでおいていざ飲んだ雪は柚子太の顔の近さに赤面したのだった。

「・・・ろ、露図くんの感想は?」

「美人な根利先輩の顔が近くて緊張しますね」

 リップサービスをしたら更に雪は赤面した。

「た、たた、確かにこれは恋人じゃないと少し恥ずかしいわね――ほ、他に気付いた事は?」

 何故か柚子太までが取材対象になって、

「冷えてて普通に美味しいです。量は多いかな? 周囲の眼が気になるかも」

 ドリンクの感想が終わると、雪の注目は今度は柚子太の個人に変わり、

「露図くんの服、ハイブランドよね? お金持ちなの?」

(おっと、さすがは漫画家。服にも詳しいのか)

 柚子太はそう思ったが、素知らぬ顔で、

「えっ、そうなんですか? 貰い物なので詳しくは知りませんが」

「高いわよ、その服」

「へ~、それよりも取材した映像は上手く撮れてます?」

 柚子太が白々しく話題を変えると、

「もちろんよ」

 そちらに雪が喰い付いて映像の確認をし始めて、

「ほら、これなんていいアングルじゃない?」

 柚子太に見せようとした時、どん臭い雪が半分以上残ってるドリンクを肘で倒してテーブルに零れた炭酸ジュースが雪のワンピースに掛かり、

「キャア」

「ちょ、大丈夫ですか、先輩?」

「私よりもスマホをお願い」

 柚子太と雪が慌てる中、

「スタッフさん、タオルを下さい」

 そうスタッフに指示してタオルを用意させたのは二つ離れた席に座っていた伊佐部留子だった。

 キャップを被って、度入りの薄サングラスを掛けて、デニムパンツと栗虹高校の制服姿からは想像も付かなかったが。首からはストラップ付きのカメラをぶら下げている。

「えっ、ルコ? どうしてここに?」

「今はそんな事よりもユキ先輩を」

「知り合いなのか?」

「大切なクライアントだからね」

 スタッフが用意したタオルで雪の濡れたワンピースやテーブルを拭いたが、雪が纏う濡れたワンピースからモロ下着が透けてしまい、御存知、雪の下着はアダルトの黒。

「ろ、露図くんは向こうを向いていて」

 雪が照れたので指示通りに柚子太は視線を逸らし、雪がタオルで隠す中、

「これは乾くまで時間が掛かりそうね」

「テーマパークのショップで服も売ってましたよ、ユキ先輩」

 留子の提案で雪が、

「なら買いに行きましょう」





 という訳で、ショップ内に場所を変えたが、

「これ、いいわね」

 雪が手にしたハンガーに吊るされた衣服は、何万もするテーマパークのキャラクターの衣裳ドレスそのものだった。

「ユキ先輩、さすがにそれは」

「オレ、根利先輩がそれを着たら他人のふりをしますからね」

「ええ~、いいじゃないの~」

「それを着ていいのは子供までですよ」

 柚子太がピシャリと宣言して、雪は渋々とブカブカのオーバーオールとテーマパークのTシャツを購入して着衣室の中に入っていった。

 その待ち時間に、

「カメラの写真のデータを見せて貰おうか、ルコ」

「何をおっしゃる柚子太さん。何も撮ってないわよ」

「ほら早く」

 柚子太が留子が首からストラップでぶら下げたままの状態のカメラのデータ画像を確認すると案の定、柚子太と雪がテーマパークに入口ゲートを入るところから撮影されていた。

「根利先輩というクライアントの要望に応えた訳ね」

「まあ、そうなるわね」

 留子も観念して認めた。

「新聞部全体が根利先輩に雇われてるのか?」

「今日は私の他に二人よ。資料用の写真が欲しいって頼まれて。柚子太は知ってるのよね、ユキ先輩の職業?」

「ああ、漫画家さんなんだってな」

「そんな訳で太っ腹でさ。日給1万円にテーマパーク代や移動代のモロモロを払ってくれて。アマチュアカメラマンみたいな事をやってる訳よ」

「で、オレの写真は何なの?」

「男子の付き添いをゲットしたから、ついでだからデートしてる風の写真も欲しいってSNSで指示が来て。まさか柚子太とは思わなかったけどね。どうしてユキ先輩と一緒なの?」

「美術館でぶつかってしまってそれでお近付きに。『取材に行きたいけど一人では入りづらい』って言われて漫画家の取材ってのがどんなものか興味があってついてきたらテーマパ ークだった訳だよ」

「金回りのいいユキ先輩とお付き合いしようとかそんな事は思って――ないか。柚子太は隠れセレブだもんね」

「どういう意味だ?」

「『どういう意味』って。このユキ先輩の顔を見て何とも思わないの?」

 留子がカメラの画像データの柚子太にハグされた雪の顔を見せた。

「これが?」

「駄目だ、こりゃあ。柚子太、アナタ、その内、女の子に刺されるわよ」

 留子がそう呆れてると、雪がキャラクターの付いたオーバーオール姿で戻ってきた。

「何の話をしてたの、恋人同士みたいに顔を近づけて囁き合って?」

 やきもちを焼いてる風な口調で雪が尋ねてきたが、無自覚主人公の柚子太は、

「カメラの写真データをチェックしてただけですよ。オレ達が入口ゲートを潜った時からの隠し撮りされた写真もありましたが」

「そ、それはただの資料用で後で露図くんからも了解を貰おうと」

 雪が何とか言い訳をして、柚子太も軽く考えて、

「まあ、別にいいですけど。ってか、テーマパークの資料をルコ達、新聞部に頼んだんならオレが来る必要はなかったじゃないですか?」

「そうでもないわ。どんな空気感か理解出来たから。どうしてカップルが来たがるのかも理解出来たし。さてと、露図くんの言ってた時刻まではまだ時間があるわね。回るわよ」

「えっ、柚子太は親が海外だから門限はなしでしょ?」

「春休みに倒れたところだから『親がせめて都内に居ろ』と五月蠅くてね」

「へ~」





 その後も雪が興味を示した場所の写真を集めたが、移動が往復40分なのだから一時間なんてあっという間で、

「もう時間ね」

「私達はもう少し残りますね、ユキ先輩」

「親御さんに怒られない時間帯にちゃんと帰ってよ」

「もちろんですよ」

 留子が請け負い、

「じゃあな、ルコ」

「ええ」

 柚子太と雪は帰り、





 美術館から二時間後には東京駅に到着していた。

「今日はありがとね、露図くん」

「いえいえ、こっちも楽しかったですよ、根利先輩」

 柚子太はこうして雪と別れたのだった。

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