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本編
柚子太の日常と未来の非日常の浸蝕
しおりを挟む栗虹高校は土曜日は休みだ。
だからと言って柚子太が休める訳ではない。
柚子太は速攻で朝7時からルームシェアのマンション前に停まった迎えの高級車に乗って外出していた。
それも向かった先は弐賀邸だ。
なので訪問着は当然、タイを締めてのハイブランド。
(朝食前に出向くって。我ながら忠臣だね~)
弐賀邸の正門を潜る高級車の中で柚子太はそう苦笑したのだった。
弐賀邸の客間ではなく執務室に柚子太は通された訳だが、その大モニターには倉庫らしき屋内で10人以上の男達が逆さ吊りにされた映像が映されていた。
どう見ても全員、任侠系だ。ボコられて傷口から流れた血が乾いてる。微妙に動いてるところを見るとまた全員生きてるっぽい。
ワンピース姿の絵梨が執務室に到着したのは、出された珈琲を飲みながらスマホでSNSをしていた頃で、
「おはよう、柚子太」
「おはよう、エリ姫。それで何なの、あれ?」
「柚子太のルームシェアに男達を送り込んできた貧乏人よ。どこかの暴力団らしいわ」
「退治していただきありがとうございました」
露図グループを代表して敬語で礼を言いながら、
(善意で弐賀財閥が露図グループのゴタゴタに介入した? あり得ない。真意は何だ?)
「アナタ、昨日ビーと一緒に下校したでしょ?」
「府井先輩の事? ならイエスだけど」
「どうして下校中にビーと抱き合っていたの? 腕を組んで親しそうに歩いていたし。ビーに聞いても寝起きだったのか「知らない」って二度寝されて電話にも出ないんだけど。ああ、映像が出てきてるから正直に答えなさいね。怒らないから」
絵梨の「怒らない」は「絶対に怒る」だから柚子太は焦りながら、
「待ってよ。エリ姫に怒られるような事は何もしてないよ、オレ。府井先輩がカラスの影が自分の影に触れると縁起が悪いとかいう自分ルールで横飛びしてオレに突っ込んできて、抱き留めて反転しただけだから。2秒以内に離れたし。腕を組んでるのはその後、カラスの影から避けれたお礼とか言われて悪ノリで。下校路の分かれ道まで・・・多分、3分くらい腕を組んで胸を押し付けられていたと思うけど。それだけだから」
「その様子を撮影されて柚子太の関係者とビーは見なされた訳ね」
「というと?」
「ビーが昨夜襲われかけたわ。財閥の護衛を付けてたから事前に事なきを得てビー自身も知らないけど。つまりビーが襲われかけたのは露図グループがノロノロしてた所為ね」
(それで朝から呼び出された訳か)
「申し訳ありませんでした」
「昨夜のあの後、戦術ランクAのブルーフィールドに巻き込まれて新たに四人の戦闘員と知り合ったらしいわね」
「1ブルーフィールドで撃破スコア500機でスペシャルナノマシンの獲得や武器庫内のアイテムの譲渡もその時にね」
「武器庫のアイテム譲渡の情報は眼から鱗だったわね。なんだかんだ言って、わたくし達も本音では『そこまでする義理はない』と思っていたのだから」
「まあね」
「武器庫のアイテムを徴収出来ると知っていたら弱い時も苦労しなかったのにね」
「何なら最新武器、エリ姫にプレゼントしようか」
「いえ、いらないわ。それよりもその四人を勧誘してきてちょうだいね」
「年頃の女子高生の許に男のオレが出向いたら逆に警戒すると思うよ。それに一人は緋位多一族で接触には細心の注意が必要だし」
「――仕方ないわね、知穂にやらせましょう。もう帰っていいわよ」
「実は朝食をまだ食べてなくて」
「柚子太くらいよ。弐賀邸で朝食をねだる図々しい客は」
そう笑いながらも退席しながらメイドに指示を出して柚子太は客間に通されて優雅な朝食をいただいたのだった。
柚子太はセレブなので都内から神奈川県に移動するのに高速道路や新幹線は使わない。
移動はヘリだった。
とはいえ、露図グループは弐賀財閥とは違い、自家用ヘリなんぞは持っていない。
維持が大変だし、専門家に任せた方が確実なので。
そんな訳でセレブ御用達のヘリ運航会社のヘリに乗ろうとすれば貸し切りではなく相乗りである事が判明した。
「申し訳ございません、当社の手違いで」
会社側が相乗りになった双方に謝る訳だが、相乗りの相手を見れば顔見知りの女子高生セレブ、慶伊永遠だった。
焦茶髪のパーマで、神奈川県の名門女子高の制服姿。何故かストッキングは網タイツだったが。
「よろしくね、露図グループの御曹司」
「こちらこそ、慶伊グループの御令嬢」
露図グループはれっきとした純日本企業だが、慶伊グループは在日華僑系企業だ。
「最近、何かと狙われてるんだって? 私が何とかしてあげましょうか?」
永遠の距離感は近く、まるでハグする距離で見つめ合って胸の膨らみを柚子太に押し当てながら尋ねてきた。柚子太は永遠に異性として狙われてるので。
「それなら昨夜、エリ姫の逆鱗に触れて潰されたよ」
「あら、相変わらず仲が良いのね」
「エリ姫と懇意になればその分、総帥に睨まれるんだから何ともね」
「それもそうね」
そんな事を喋りながら勝手に腕を組まれて歩きながらヘリに乗った。
ヘリの爆音が五月蠅いので、マイク付きのヘッドホンは必須だが、横の席から柚子太の太股に手を置いた永遠が、
「露図と慶伊をグループ統合しましょうよ」
「出来る訳ないだろ。オレは純血の日本人だぞ」
「まだそんな事にこだわってるの? 時代はグローバルなんだからさ~」
「そもそも慶伊グループは中国政府に睨まれてるだろうが。露図グループとしてはマイナス面の方が大きい。まずはその拗れた関係を何とかしろ」
「出来ないわよ。もう3代も日本に住んでるのに『中国人なら中国政府に従え』って頭の悪い事を言って来てるんだから。中国のエリート達はいったい何を考えてるんだか」
「今や東アジアは中国がトップだからな。やりたい放題って事だろ」
都内と神奈川県なんてあっという間で、すぐに目的地に着いたのだが、さすがは色々と揉めてる慶伊グループの令嬢との相乗りだ。
ヘリポートには中国系のマフィア10人が出迎えており、
「やれやれ、ハメめてくれたな」
「私の絵図じゃないわよ」
「ったく」
仕方なく柚子太は降りると同時に中国語で、
「失せろ。今なら許してやる」
「馬鹿な小僧が。痛い目を見ないと分からないらしい」
あっという間に乱闘となったが柚子太はナノマシンのアドバンテージ付きだ。更にはスペシャルナノマシン【ビースト】まで漏れてる。
手加減しつつも10人相手にあっさりと無双して、柚子太の強さに永遠が驚きつつ、
「あれ、そんなに強かったっけ?」
「ズルをしてるだけさ。じゃあ、後始末は任せたからな」
柚子太は主人公らしくカッコ良く去っていき、その後ろ姿を眺めた永遠は、
「本当、無自覚で女を口説くのよね~、露図の御曹司は」
御機嫌で呟いたのだった。
柚子太の神奈川県への来訪の目的はサーキット場だ。
ブルーフィールドに巻き込まれる前の柚子太のマイブームはサーキット場を借り切ってのバイク運転だったので。
専用のチームに金を出してバイクを用意させて、本日も朝9時30分から走っていた訳だが、ブルーフィールドを体験後に初めてバイクで走った柚子太の感想は、
(つまんね~、どうしてこんなものに熱中して金と時間を浪費していたのか今となっては謎だな。当時の自分の心情すら理解出来ない)
30分走ってピットインした柚子太は、
「今日はスケジュールの都合でもう帰るな。もう1枠貸し切ってたけど、弐賀財閥がスポンサーのレースチームに譲ってやってくれ」
指示をして帰り支度をしたが、レーシングスーツの前ジッパーを下げてタンクトップ丸出しの葉里と出会い、
「柚子太も着てたの」
「もう帰るけどね」
「どうして?」
「テンションが上がらないというか」
「ああ、分かるわ。エアバイクを乗った後だったら格段に遅いものね」
「まだ乗り続けるの、ハリーは?」
「プロレーサーだからね。それに肘すりコーナーリングもマスターしたし」
「事故には気を付けてな」
「事故る訳ないでしょ、あの程度の速度で」
「後、ジッパー上げた方がいいぞ」
「柚子太にサービスしてたんでしょ」
葉里は笑いながらジッパーを上げたのだった。
そして、貸し切りヘリで都内へ帰ってる最中、柚子太の視界に、
【東アジアの大都市「重慶」がロボット軍団に敗北して消滅しました】
アナウンスが流れたのだった。
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