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王妃様の崩御

王妃様の葬儀【セーラside】

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 ミリアリリー王国の王妃様が崩御した。

 享年42歳。

 死因は長年患ってた胸のやまいの悪化ですって。

 聞いた事もないからっ!

 王妃様がご病気だったなんて。

 まあ、伯爵令嬢の私ごときにミリアリリー王国の最高機密である王妃様の病状が届く訳もないんだけど。

 お父様は騎士団長で、陛下の無二の友だから、絶対に知ってたわよね。

 娘の私にそれとなく教えてくれたら良かったのに。水臭いわ。

 ってか、王妃様ってお父様よりも1歳年下で、お父様よりも若いから。

 お父様はまだ死なないでよ?

 5月が誕生日の娘の私がまだ17歳なんだから。





 そんな訳で、ミリアリリー王国中が王妃様の崩御によって喪に服す事となった。

 崩御の翌日からの3日間が休日となり・・・

 劇場や酒場、大道芸人や屋台は休業。

 ミリアリリー女学園も3日間、休校となった。





 そして・・・

 私はクワナリス伯爵家の令嬢として王宮に献花に来ていた。

 王宮への訪問着は当然、喪服の黒ドレス。

 来訪者の貴族全員がそうだった。

 王妃様が入った棺が置かれた王宮の礼拝堂内には一杯の花が飾られており、私も1輪の花を飾った。

 王妃様が、好きだ、と言ったのを子供の頃に直接聞いた事があったのでピンク色の薔薇を贈った。

 陛下直参の騎士侯のイザベラも献花に来てるはずだけど、全員が黒服の上、この数の多さでは分からなかった。

 廊下に出た時、第2王女のルビア様と視線があった。

 あちらも喪服だけど、親衛隊に囲まれてるのですぐに分かった。

 視線だけ・・で呼ばれ、私はルビア様の後を追って一室に入った。

 親衛隊はなし。

 2人だけだ。

 室内に入ると同時に、ルビア様が、

「お母様が殺されたって言ったらセーラは信じてくれる?」

 真剣な顔で私に言ってきた。

 ルビア様はわがまま王女様だが、頭の方はまともだ。

 なので、私は慎重に、

「・・・ええっと、誰にですか?」

「陛下よ。私のお父様の」

「・・・はあ?」

 私はルビア様を見た。

 顔は真剣その物で、私をすがるように見てる。

 最愛の王妃様が死んで錯乱してる?

「ええっと・・・」

「本当よ、信じて。私、気絶させられたけど、確かに見たの。陛下がお母様の首を絞めてたの。陛下も、兄様も、側近達も、もうおかしくなってて。多分、アナタの父親もおかしくなってるはずよ。信用してはダメよ」

 ルビア様は必死に私に訴えたが・・・・・・・

 あんなにも王妃様を愛してた陛下が王妃様を殺した?

 断言出来る。

 絶対にありえない、と。

 だって、あの陛下よ?

 婚約者だった王妃様が16歳の時に辛抱堪らずに一線を越えて、第1王女を孕ませて大問題になりながら結婚して、それからも王妃様一筋の。

 両陛下のアツアツっぷりは王女むすめのルビア様の方が詳しいはずなのに・・・

 そんな妄言を言うルビア様が正気とはとても思えず、

「ルビア様、王妃様を失って悲しいのは分かりますが、妄言は・・・」

「本当よ、信じてちょうだいっ! そうだわ、エニスに伝えて、この事をっ! 絶対にっ! いいわね、絶対によっ! お願いっ!」

 と頼まれたけど、さすがに私はルビア様の言葉をエニスさんに伝えなかった。





 だって、ルビア様のこの言葉が真実だったなんて、その時の私は思いもしなかったから。





「お陰で後手を踏んだわ」





 後日、エニスさんにそう嫌味を言われたけどね。
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