上 下
9 / 30
アテニナ・バスラ生尻折檻事件

私は悪くないのに【セーラside】

しおりを挟む
 クワナリス伯爵家の屋敷の執務室で私は王宮から急ぎ戻ってきたお父様に氷点下まで冷め切った眼で睨まれながら、





「で? どうしてエニス嬢を止めなかった?」





 と質問されたので、正直に、

「止めましたよっ! すぐに駆け付けてっ! バスラ公爵家の令嬢もちゃんと保護しましたしっ!」

 と答えたのだけれど、お父様は不機嫌そうに、

「保護した? 遅過ぎるだろうが? バスラ公爵家の令嬢が皆の面前でお尻を丸出しにされて叩かれてるんだぞ? そんな屈辱を受けて、これからバスラ公爵家がどう動くと思ってるんだ? 最悪、私刑で殺されるんだぞ、クワナリス家は?」

 確かに、向こうは魔法兵団長で、こっちは騎士団長の家柄ですけど、公私混同具合は向こうの方が上ですもんね。

 いくら、お父様が陛下の無二の親友でも無理かも。

 そんな事を思いながらも私は、

「お父様に一応言っておきますが、やったのはエニスさんで私は何も悪くありませんから」

「そんな言葉、バスラ公爵家に通じると本気で思ってるのか?」

 とお父様が答えた時、屋敷内に居たお父様の側近の騎士が、ドアからノックもなく入室してきて、

「魔法兵団長、ーーバスラ公爵が屋敷にご到着されました」

「公爵だけか?」

「まさか、そんな訳が・・・・・・屋敷は魔法兵団1000人に包囲され、周囲は完全封鎖されています。どう見ても戦闘態勢です」

「そうか」

 と呟いたお父様が、

「娘の失態で今日、死ぬ事になる訳か。あの世で死んだ妻に会えるから、まあいいか」

 嫌味ったらしく私を見た。

 私は全然、悪くないのにっ!

 それどころか、私は的確に最善手を打って、被害を最小限に抑えた功労者なはずなのにっ!

 そう思ってると、バスラ公爵が執務室のドアを潜った。

 金髪で【覇眼】のナイスミドル。

 名前はアデール・バスラ。

 バスラ公爵家の当主にして、魔法兵団長を務める。

 見た事があるので間違いない。

 魔力量も高い。

 これで影武者だって事はないだろう。

 そして、嫡男の金髪【覇眼】の美青年、アデトス・バスラも一緒に乗り込んで来ていた。

 バスラ公爵家の人間2人だけで、護衛もなし。

 まあ、【覇眼】使いが2人も居れば、クワナリス伯爵家を潰すくらい余裕でしょうけど・・・

 舐められてるわね、完全に。

「騎士団長、エニスってのを血祭りにするから邪魔するなよ?」

 バスラ公爵が言う中、

「返り討ちにされるのがオチですよ」

 とお父様が溜息を吐いた。

「あの女の異常さは知ってる。北の森の3頭の災害級を潰した事も。だが娘をはずかしめられて引き下がれる訳がなかろうが」

「ですが・・・」 

「差し出すのか、盾になるのか、どっちだ?」

「職務ですので盾に・・・」

 とお父様が言った瞬間、2人の【覇眼】が怪しく輝いた。

 【覇眼】は魔眼や邪眼の類だ。

 精神系を侵すので、私は自分の意志とは関係なくビクンッと背筋を正し、直後に身体がまったく動かなくなった。

 お父様はどうかしらないけど。

 直後に、ドアが蹴破られて、

「そこまでよ、魔法兵団長」

 乱入したのは屋敷に現在下宿してるホルーテさんだった。

 へぇ~。まだ居たんだ。

 律儀ね。メボ伯爵家に帰れば良かったのに。

「黙ってろ、小娘。おまえ以外のメボ家など瞬殺出来るんだぞ、こっちは」

 バスラ公爵の脅迫で、ホルーテさんは動けなくなった。

「でも・・・」

「大人しくしてろよ。大人の世界に口を挟むのはまだ早い」

 あらら。

 これまでのようね。

 と思ってると、執務室の開いたドアの廊下から、

「バスラ公爵家の御令嬢がお起こしになられました」

 視線に入ってないので、誰が報告したのか分からなかったけど、直後に、

「お父様、お兄様、何をやってるの?」

 バスラ公爵家のあの時、ミリアリリー女学園の廊下で泣いてた御令嬢が執務室に入ってきて、そう2人に言ったのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

根暗男が異世界転生してTS美少女になったら幸せになれますか?

みずがめ
ファンタジー
自身の暗い性格をコンプレックスに思っていた男が死んで異世界転生してしまう。 転生した先では性別が変わってしまい、いわゆるTS転生を果たして生活することとなった。 せっかく異世界ファンタジーで魔法の才能に溢れた美少女になったのだ。元男は前世では掴めなかった幸せのために奮闘するのであった。 これは前世での後悔を引きずりながらもがんばっていく、TS少女の物語である。 ※この作品は他サイトにも掲載しています。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

僕が美少女になったせいで幼馴染が百合に目覚めた

楠富 つかさ
恋愛
ある朝、目覚めたら女の子になっていた主人公と主人公に恋をしていたが、女の子になって主人公を見て百合に目覚めたヒロインのドタバタした日常。 この作品はハーメルン様でも掲載しています。

百花繚乱 〜国の姫から極秘任務を受けた俺のスキルの行くところ〜

幻月日
ファンタジー
ーー時は魔物時代。 魔王を頂点とする闇の群勢が世界中に蔓延る中、勇者という職業は人々にとって希望の光だった。 そんな勇者の一人であるシンは、逃れ行き着いた村で村人たちに魔物を差し向けた勇者だと勘違いされてしまい、滞在中の兵団によってシーラ王国へ送られてしまった。 「勇者、シン。あなたには魔王の城に眠る秘宝、それを盗み出して来て欲しいのです」 唐突にアリス王女に突きつけられたのは、自分のようなランクの勇者に与えられる任務ではなかった。レベル50台の魔物をようやく倒せる勇者にとって、レベル100台がいる魔王の城は未知の領域。 「ーー王女が頼む、その任務。俺が引き受ける」 シンの持つスキルが頼りだと言うアリス王女。快く引き受けたわけではなかったが、シンはアリス王女の頼みを引き受けることになり、魔王の城へ旅立つ。 これは魔物が世界に溢れる時代、シーラ王国の姫に頼まれたのをきっかけに魔王の城を目指す勇者の物語。

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。

ファンタジー
〈あらすじ〉 信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。 目が覚めると、そこは異世界!? あぁ、よくあるやつか。 食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに…… 面倒ごとは御免なんだが。 魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。 誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。 やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!  父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 その他、多数投稿しています! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

【完結】いせてつ 〜TS転生令嬢レティシアの異世界鉄道開拓記〜

O.T.I
ファンタジー
レティシア=モーリスは転生者である。 しかし、前世の鉄道オタク(乗り鉄)の記憶を持っているのに、この世界には鉄道が無いと絶望していた。 …無いんだったら私が作る! そう決意する彼女は如何にして異世界に鉄道を普及させるのか、その半生を綴る。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

処理中です...