ナゲキ怪人フウンダー

竹井ゴールド

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本編

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4月。

会社勤めを止めて運送業を始める初日、浮雲田ふうんだ名激なげきは人生が新たな門出に浮かれていた。

実は電車通勤が大っ嫌いだったからだ。

やはり車はいい。

聞いた事のない会社の下請けの個人事業主として今日から運送業を始める訳だが、既に事前の面接には合格している。

「よし、始めますか」

名激は荷物が運べる軽ワゴンに乗って荷物の受取に出向いたのだった。

都内のオフィスビルの駐車場に乗り付けた名激は、

「チワッス、今日よりお世話になる浮雲田運送の浮雲田です」

そう自分の名字が付いた会社名を名乗り、少し誇らしげだった。

これから新たな人生が始まるのだから気分は上々だ。

屋内駐車場では社員さんの他に初日という事もあるのか女部長で面接も担当したスーツ女史も居て、

「おはようございます、世里さん」

「おはよう、浮雲田くん、これ、よろしくね」

ダンボール3箱を指差した。

「何ですか、これは?」

「我が社の新商品のジュースよ。面接でも言ったけど、まだ発売前だからネットに写真をアップしないでね」

「もちろんですよ。社内機密なんですよね」

「そういう事。1.5リットルのペッドボトルが6本入りが3箱。お願いね」

「はい」

新たな人生の希望に満ち溢れてる名激はそう元気良く返事した。

だが、頭の方は少し残念な男で、この業種が初めてだった事もあり、それだけの量の荷物しかない事に全く不信を抱いていなかった。

モブの社員がダンボール箱を車内に積んでくれる、という高待遇にも。

「では、よろしくね。支給したタブレットは?」

「あります」

「では、マップで届け先の確認をして。出てる?」

「はい、出てます」

「じゃあ、よろしくね」

「はい、行ってきます」

名激はそう意気揚々と運転席に乗り込み、配達に出掛けた。

その様子をビルの屋内ガレージで見送ったスーツ姿の世里女史は、

「ふふふ」

悪そうに笑うと同時に人間の変身を解いた。

肌を露出した衣装と女怪人セレリアへと。

因みに怪人モチーフは紫色系の宇宙生物である。

「まさか、自分がジュースと思って運んでる液体が我がダークマターズが誇るドロ博士が新開発した人間を怪人化する薬品とは、あの人間も夢にも思うまい」

「でもよろしかったのですか。あんな人間に我が組織の最新機密を運ばせて」

モブ社員からダークマターズの末端戦闘員の変身した部下が尋ねた。

「ヒーローどもの眼を誤魔化す為よ」

「さすがは女参謀のセレリア様です」

「当然よ、おまえ達とは頭の出来が違うんだから」

部下の賞賛を受け、車が見えなくなったところでセレリアはその姿のまま車内に戻ったのだった。





一方の名激は赤信号で前の車が停車したのでちゃんと停車した。

「ふふふ、手取りで月30万円。22万の会社員時代が嘘のようだ」

もう完全に舞い上がっていたが、不運はすぐにやってきた。

後方から走っていたトラックの運転手がウトウトしており、そのまま名激の車に激突したのだ。

「おわっ!」

その激突の衝撃で、車内の後部の搭載場所に置かれたダンボールの中のペットボトルの液体が車内に飛び散り、運転席の名激にも掛かったのだった。

液体は黄緑色の蛍光色だった。

それがシートベルトをしてた事でフロントガラスに激突しなかった名激にも掛かった。

液体はダークマターズの博士が新発明した「ダークマターX12」の原液。

効果は現地の地球人の怪人化で、原液を被った名激も、

「ぐおおおおお」

一瞬で怪人化したのだった。

モチーフは宇宙生物。カラーは黒。ワンポイントで赤と緑あり。

その怪人化のお陰で名激はトラックと前の車に挟まれて潰れたミニワゴンの中でも生きていた。

それどころか意識を保っていた。

「何だ? 追突された? ふざけるなよ。保険に入ってるんだろうな。労災を貰うからなっ!」

そんな事を叫び、ひしゃげたドアを蹴破って外に出た。

怪人の姿でだ。

そして無意識に人間に戻り、初の怪人化で疲労したのか、その場で意識を失って倒れたのだった。





その後、救急車が来て大変だったが、名激は何も覚えておらず、





 ◇





目覚めたら病院のベッドの中だった。

「あっ、気が付いた、お兄ちゃん?」

妹のウララが覗き込んでいる。

「おお、我が自慢の妹よ。相変わらず美人だな」

「そりゃね。その美貌とスタイルを生かしてトップモデルをやってるくらいだから」

立ってノリノリのモデルポーズをしたウララが、

「災難だったわね、転職初日に事故なんて」

「事故?」

「居眠り運転のトラックに突っ込まれたって聞いたけど?」

「へ~」

「幸先悪いからもう辞めたら、その仕事? 私がマネージャーとして雇ってあげるから」

「いや、それは兄としてのプライドが・・・」

「いいからやりなさい」

浮雲田家では妹の方が序列が上で、

「・・・はい」

なんて返事をしたものだったが、





車で事故に遭って、救急車で搬送されたのだ。

当然のように事故担当の警察が聴取をしにきて、

「打悪馬株式会社の下請けの個人事業主として運送業を本日殻開業してまして」

「失礼ですが。打悪馬株式会社というのは?」

「えっ、オフィスビルに入ってますよね? ネットに会社のホームページがありましたかち」

「調べましたがそんな会社は登記されてませんが」

「まさか」

「いえ、本当です」

「でも、この名刺」

そう言って名激が面接を担当した世里の名刺を渡す。

まだ文字が残っていた。まあ、偽物だったが。

「なるほど。一応、探してみますね」

と言って帰っていった警察官がダークマターズ陣営に味方する悪徳警察とは思わず、名激は総ての証拠をその警察に提出したのだった。





 ◇





病院の方では医師達が、

「547号室の交通事故で運ばれてきた患者ってどこか怪我してるのか?」

「いえ、奇跡的に無傷です。ですが脳波に異常がないか、数日は容態を見るように言われています」

「へ~、運が良かったんだな~」

などと会話がされる中、





 ◇






悪の宇宙組織ダークマターズの幹部会では、映像が放映されていた。

事故に遭った名激の車内搭載カメラのデータの映像だ。

トラックが衝突して蛍光色の怪人化薬が飛び散ってカメラに付着。

その為、映像はクリアではない。

だが、そのクリアでない映像の中では運転手が確かに怪人化していた。

「クソ、ワシの最高傑作の「ダークマターX12」がこんなしょうもない事で」

眼鏡を掛けたカラーは灰色の小男の老怪人、ドロ博士がそう嘆く中、女参謀セレリアが、

「性能はどのくらいなんですか、ドロ博士?」

「おそらくは幹部のワシらくらいの能力はあるはずじゃ」

「爺さん、耄碌したのか? 我ら四天王に匹敵する怪人が地球人から誕生する訳がなかろうが」

大男のカラーは赤の宇宙生物の怪人、クエント将軍が指摘する。

「ワシの地球人改造用に作った「ダークマターX12」と地球人の相性が良かったのが原因じゃ」

「一応、味方に引き入れますか?」

「なら、オレがやろう。もし言う事を聞かなければ力付くでも」

「地球側のヒーローにも気を付けてよ。妙に強いんだから、ここの連中」

「ふん、今度こそそいつらもオレが蹴散らしてやるよ」

「また負けて帰ってくるのがオチじゃな」

「何だと、爺さん」

「本当の事であろうが」

2人が睨み合う中、4人目のリーダーのカラーは青の怪人、ウミルトス軍事総長が、

「止めんか。総統の御前であるぞ」

「はっ」

「チッ」

「今回はクエント将軍に一任する。殺してでも連れて帰れ」

「あいよ。任せてくだせえ、ウミルトス様」

そう勝ち誇ってクエント将軍は命令を受けたのだった。
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