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【閑話】魔物襲来

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 王国西部のアテミス領とガガン領の境界線でもあるレイン川。

 レイン川はオージ川に合流する支流であると同時に、周辺に麦畑に水を送る貴重な水源でもある。

 レイン川の中流にはレガリアム水門が存在し、その水門を堰き止めて両領地の水路に水を供給する。

 『我田引水』の言葉が示す通り、水問題は深刻だ。

 水が豊富にある時は問題ないが、枯渇した際には。

 両領地を治めるのが公爵と伯爵で格の差は歴然だが、伯爵も領民の為に水問題で譲るような事はしない。

 王国もそれが分かっていたので、レガリアム水門は建造時から国の直轄であり、代官が王都ベルドスハイムより派遣されて厳しく管理していた。

 水門を堰き止めるのは2日に1度。

 堰き止める時間は日の出から。

 水量にもよるが、大抵は2時間ほど堰き止めるだけだ。

 それ以外の時間は、水は水門からレイン川に放流されてるのだが、その水を求めてアテミス領からレイン川に難民が押し寄せて来ていた。

 最初は100人程だったが、どんどん集まってきて今では1万人を越えている。

 両方の領主である公爵と伯爵の合意と政府の承認によって、レイン川に難民が住む事は正式に認められている。

 とはいえ、絶対に問題になると代官は思ったが、大都市アテミスの豪商5人が難民キャンプを合議で取り仕切った事で、大きな問題は起きなかった。

 これまでは。





 だが、最近になって『人が消えてる』との報告が上がり始めた。

 10人、20人。

 当初はキャンプ内の別の場所に移ったと思われていた。

 難民キャンプの人口は代官の許に届いた最新情報では1万2000人。

 平等を心掛けても待遇にはどうしても差が出る。

 作り過ぎたパンや総菜の無料配布等々だけでも難民達からしたら違うのだから。

 どこどこの区画は待遇が良いらしい、との噂は毎日のように難民達に共有されている。

 その為、そちらに移ったのだと。

 まだまだアテミスから人は流れてくる。

 新参などは当然、把握していない。

 そして、人が消えてるとの噂が立ってから20日が経過した頃には、

 豪商達が把握してるだけでも行方不明者数は500人を越え、

 水門の施設内で、代官と難民キャンプの代表の豪商5人が今後の対策を真面目な顔で検討していた。

 まさにその時、カンカンカンッと魔物接近の報告を告げる鐘の音が響き渡り、

 水門の砦の窓から『何事か』と代官達が下流の様子を見てみれば、

 海老系の魔物や蟹系の魔物や蛙系の魔物が大量にレイン川を逆流して押し寄せ、既に難民キャンプ内に侵入していた。

 陸地が土塁に囲まれた難民キャンプはレイン川にもちゃんと対策が施されている。

 魔物避けの薬品が日に2回撒かれ、

 更には両岸の土塁と土塁の間に鉄柵も設置されていたはずだが。

「どういう事だ? どうして魔物が侵入している? 鉄製の柵があったはずだろうが?」

 代官である文官の言葉に、豪商の1人が、

「いえ、あれは大分、前に破壊されたと・・・」

「どうして報告しないっ!」

 代官が叫んだが後の祭りで、

 難民キャンプは水棲系の魔物のスタンピードによって蹂躙されて、兵士や冒険者たちも各自奮戦したが、魔物を退治した頃には逃げ遅れた難民3000人が被害にあったのだった。
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