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ゾンビは既に死んでいる。場所が変われば戦い方も変わる【中編】

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 川越えをして6日目の夜の事である。

 オレは24時間稼働のゾンビなので夜も歩いてる。

 明かりが見えて、そちらに誘われた。

 すると、冒険者20人くらいが夜営をしていた。

 そればかりか、太鼓や横笛で陽気に酒盛りをしてる。

「明日からはゾンビ狩りだ。覚悟しろよ、テメーラ」

「はいっ!」

「相手は名前付きネームドだ。そんなのが付けられる魔物は普通じゃない。気を引き諦めろよ」

「はい」

 音楽が邪魔だったが、会話の内容が聞こえて、オレを狙ってる事を理解した。

 同時に、もしかして罠か、とも疑った。

 余りにも無防備だったからだ。

 遠めからオレは闇に潜み、連中が寝るのを待った。

 それが功を奏した。

 酔っ払った冒険者の1人がションベンでもしようとしたのか離れたところで、何かを踏んだ瞬間、ボオッと地面の一面が燃えたのだ。

 罠だと?

 地雷か。

 それもファンタジーらしく魔法の。

 そんな戦法、これまでなかったぞ。

「ヒィエエエ、誰か助けてくれっ!」

 踏んだ酔っ払いは足どころか全身が燃えてる。

 転がって必死に炎を消そうとしてたが、その程度では消えず、

「魔術師、水だっ!」

「はい、水よ」

「水よ」

 魔術師2人がバケツ一杯の水を空中に出して、燃えてる冒険者に掛けた。

 ようやく炎が消えて、僧侶が治癒をした後、燃えた冒険者に冒険者のリーダーが、

「この馬鹿が。口を酸っぱくして教えただろうが。魔法陣の罠は踏むなって。立てた枝を目印にして囲ってあるんだから、ちゃんと見分けろ。1枚、50金貨の高級品なんだぞ。分かってるのか?」

 大声で怒鳴りながら貴重な情報を提供してくれた。

 なるほど。

 オレは遠めの闇の中からそのマヌケな冒険者に感謝したのだった。





 深夜になって冒険者達も眠りに付いた。

 20人以上の冒険者の集団でも見張りは2人。

 丸々一晩見張るのではなく、数時間置きに交替だろうが。

 オレは闇に紛れて、近付いた。

 本当に地面に短い木の枝が立ってて、囲っていた。

 その中には何もない。

 いや、土が薄く被せられてて、その下の布がチラッと見えていた。

 つまりは布製。

 移動式って事か。

 面倒だな。

 夜目が利くのでオレはそれを避けて、冒険者20人の夜営に近付いた。

 この冒険者の集団で一番に注意しなければならないのは、

 エルフ男狩人。

 ドワーフ男戦士。

 獣耳男戦士。

 獣耳女戦士。

 この4人だ。

 警戒して風下から近付いたくらいだからな。

 その後は、5メートルの射程範囲ギリギリを駆使して闇の手で落としていく

 7人までは落とせた。

 エルフ男狩人とドワーフ男戦士の2人がその中に入ってるのは大きい。

 だが、今回はそこで予期せぬ事態が起きた。





 ワオォォォォォン。





 との遠吠えが聞こえたのだ。

 それも近い。

 直後に見張りの2人が武器を持って立ち上がる。

 警戒した。

 寝てた4人が遠吠え1つで起きた。

 クソ、結構優秀だ。

 オレは慌てて夜営地から離れようとしたが、

「闇の中に何か居るぞっ!」

 あらら、気付かれたか。

 9人を闇で落としたところで、夜営地の冒険者が起き始めた。

 だが、オレは突っ込まない。

 わざわざ焚き火がある場所に移動してやる義理はない。

 姿を晒さなければ、連中は松明を片手に闇側に来なければならないからな。

 松明要員は戦闘不参加となり、それだけで数が減るのだから。

「ん? マックさんの様子が変だ。起きないぞ?」

「カーレットもだ。何かされてるぞ、これ」

「クソっ! 何だ、いったいっ?」

 オレが闇の手で落とした連中が起きない事に冒険者達はパニックとなった。

 冒険者が寝てる奴の頬を叩いてるが落ちた連中は起きなかった。

 えっ?

 それでも起きないの?

 前にゴブリンの数を増やす目的で女を献上した時、闇で落ちた女の腕の骨を折ったら一発で起きたんだが。

 もしかして闇の手の威力も上がってる?

 これは勉強になったな。

 意識を取り戻さないように一々首筋を噛んでトドメを刺さなくてもいいんだから。

 連中がパニックの中、更なる面倒な事が起きた。

 オレと反対側の地面一面がボワッと燃えたのだ。

 燃えた中には普通サイズの狼が2頭も居た。

 正確には1頭は丸焼き。

 もう1頭は顔面だけだが。

 そして一面が燃えた事で最低7匹の狼の群れが炎に照らされたのだった。

「狼の群れだっ!」

「多いぞっ!」

 全員がそちらに注目した隙に、オレは闇の手を発動。

 白い静電気入りだったが、射程範囲に居たのが最前線に移動してた獣耳男戦士と獣耳女戦士だったので、振り返って炎に気を取られてたこの2人を落とせたのは行幸だった。

 これでオレが闇で落としたのは11人。

 20人以上だから、残るは9人以上。

「どうするんです?」

「全員、両面戦闘だ。闇に潜んだ奴と狼、両方と戦うぞっ! 正体不明の敵はベン、ドーラ、任せたぞっ!」

 リーダーが吠える。

 チッ、無駄に統率力が高いな。

 リーダーの鼓舞で全員がやる気になったが、

「ベンさん?」

「トムさん、ベンさんとドーラさんが」

 獣耳の2人が倒れてて冒険者連中はパニックだ。

「何だと?」

 リーダーが状況を確認しようとした時には狼側が突進しており、夜営地は大混戦となった。

 もう戦術もヘッタクレもない。

 魔術師が光を頭上に放って、闇に潜んでいたオレの姿を晒し、

「人っ? いや、ゾンビだっ!」

「『リスカの悪魔』だと?」

 正体がバレたところで、オレは夜営地に突進。

 男剣士と女剣士が攻撃してきたが、攻撃を身体で受けながらも爪攻撃で2人を絶命させた。

 これで倒した数は13人。

「うわ、ジョニーとミニーが・・・」

 狼の方も優勢のようだ。

「クソ、撤退だっ!」

 冒険者のリーダーがそう吠えた。

 チッ。

 まだ10人以上残ってるのに、その決断をするとは。

 やるな。

「えっ? でも・・・」

 生き残った冒険者達が躊躇する中、オレは闇の手を使った。

 2人を落とす。

 これで15人を倒した。

 その頃には、

「撤退だっ! 今すぐ逃げるぞっ!」

 リーダーの一喝で意思統一がされた。

 全員が逃げ出す。

 冒険者の1人がマヌケにも逃げる際に夜営地の周囲に展開されている地雷を踏んで、ボワッと丸焼きになった。

「ウワアアアア」

 燃えてるが、もう助ける奴はいない。

 全員が逃げてて、ソイツは見殺しだ。

 狼が後を追っていき、逃げる冒険者が何かを投げたら煙が出た。

 暗闇だが夜目が利くのでオレにはそれが見えた。

 遠くの方で狼がキュン、キュンと鳴いて嫌がってる。

 嗅覚に特化した撃退法か。

 へえ。

 オレは足が遅いので、それを眺めながら落ちてる獲物を美味しくいただき始めた。

 最初は当然、エルフ男狩人からだ。

 続いてドワーフ男戦士、獣耳女戦士、獣耳男戦士を美味しくいただく。

 喰いでのあるのから美味しくいただいてるのは狼が戻ってくると予想したからだ。

 案の定、10人を美味しくいただした後、戻ってきて、





 ガルルルル。





 とオレに威嚇してきた。

 狼の群れの数は5匹。

 冒険者に負けたのか予想以上に少ない。

 10匹以上なら譲ったんだがな。

 おまえらが邪魔しなければ全員狩れたのに邪魔をしたんだ。

 その罪、償って貰うぞ。

 狼に闇の手を発動。

 敏捷性に長けた狼が2匹とも闇を避けたが、直後に『キュン』と弱って腹這いの状態になった。

 この現象、前にもあったな。

 女盗賊がこの現象になってた。

 避けた狼2匹が苦しむ間に狼1匹がオレの左足に噛み付く。

 そして、キュンと嫌がって噛んでたオレの左足を口から離した。

 毒にやられたのだろう。

 やはり普通の魔物にはゾンビのオレは喰えないらしい。

 その間にじゃれてきた奴とは別の2匹に闇の手を放った。

 その2匹も闇の直撃を避けたが、直後に弱って腹這いとなった。

 オレを噛んでフラついてるラスト1匹は敏捷性を失っており、オレの闇の手の闇を回避出来ずに当たって落ちたのだった。

 その後、オレは冒険者と狼を美味しくいただいてから、冒険者達が残した備品を総て焚き火の中に捨てた。

 美味しくいただいた後の亡骸を地雷に投げる。

 やはり亡骸でもファンタジーの地雷は発動し、燃えた。

 全部で12個もあった。

 総ての作業を終え、夜の内にオレは夜営地から離れたのだった。
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