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ゾンビは既に死んでいる。よって首が落ちても死ぬ事はない

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 オレはゾンビだ。

 そしてゾンビの一番の弱点はやはり移動速度だ。

 とにかく遅い。

 アメリカのゾンビ映画くらいにノロノロだ。

 その為、移動に適していないのは自覚してるが、ノロノロと移動していた。

 この辺はとにかく見晴らしがいい。

 麦畑が枯れて全滅の所為で尚更に。





 そして、どうやらオレはまた眼の仇にされていた。

 やはり修道院を襲ったのは拙かったらしい。





 兵士ばかりか冒険者達までが追撃して来てた。

「居たぞ、『リスカの悪魔』だっ!」

 今度の相手は冒険者だ。

 失礼な連中だな。

 ゾンビに悪魔の呼称を使うなんて。

 遠距離から魔法攻撃の雨あられ。

 何せ、こっちはゾンビだから敏捷性が皆無だからな。

 相手がミスしない限り、命中する。

 今回は相性が悪過ぎた。

 魔術師が4人。

 狩人が4人。

 戦士や剣士も複数。

 どう見ても20人以上居た。

 何だ、これは?

 オレが何をしたって言うんだ?

 ちょっと修道院を落としただけだろうが?

 それなのにゾンビってだけで攻撃しやがって。

 魔法の球が直撃と同時に爆発してオレの右足が吹き飛んだ。

 おっと、今のは拙い。

 そう思った時には、

 次は首に直撃した。

 完全に首からチギれて頭が落ちた。





 ハイ、死んだぁ~。





 と思ったが、まだ生きてた。

 いや、ゾンビだから元々死んでた訳だが。

 首から頭が落ちても何と胴体だけで動けた。

 オレの意識もまだある。

 チギれて地面に落ちた頭部のオレが、頭部を失っても動かせれるオレの胴体を見てた。

 驚きと新たな発見だったが、それよりも今は、





 必殺、死んだふり。





 を使う時だ。

 首を失った胴体で瞬時に倒れて見せた。

 このオレの名演技によって冒険者達が、

「おお、遂に倒したぞっ! 『リスカの悪魔』をっ!」

「やるな、スレンっ!」

「まあ。それほどでもあるかな」

 歓声を上げて、呑気に喋りながら近付いてきた。

 そしてトドメとばかりにオレの身体に槍を突き刺そうとした時、身体を動かした。

「何だ、このゾンビ? ギャアアアアア」

「頭が吹き飛んでも動けるの? ヒィ、キャアアアア」

 槍男戦士とエルフ女狩人の2人を爪で攻撃する。

 蜥蜴系の魔物でも一撃で致命傷を与えられる爪攻撃だ。

 人間にも余裕で致命傷を与えられ、今の一撃で2人が沈んだ。

「距離を取れっ!」

 その前に『闇の手』を発動。

 昼間だから放った闇が可視化出来る。

 女魔術師と男魔術師の顔を闇が覆い、2人を気絶させた。

「クソ、何だ、このゾンビはっ?」

 この世界の冒険者って知能指数が低いのか?

 3メートルまでしかオレから離れないなんて。

 もう1発、オレは両手で『闇の手』を使う。

 今度は男魔術師と男魔術師の顔に闇を飛ばして気絶させた。

 それで更に冒険者達がオレから離れる。

 5メートル以上離れやがったか。

 ならば。

 オレの身体が落ちたオレの頭を持ち、首の箇所に乗せた。

 おお、くっついた。

 ってか、元通りにくっ付くんだぁ~。

 それには冒険者達が唖然としてる。

 その唖然としてる隙に、オレは足元に落ちてるエルフ女狩人を美味しくいただいた。

「ヒィィ、コイツ、メラを・・・」 

「ってか、どうやって倒すんだ、こんな奴?」

「そんなの魔法で・・・あっ」

 冒険者どもが遅蒔きに気付く。

 魔術師4人をオレが始末した事に。

「偶然だよな? それとも狙いやがったのか?」

「まさか、ゾンビだぞ? 知恵なんてある訳がないっ!」

 なんて喚いてる隙に、回復完了。

 吹き飛んだ右足が修復した。

 次だ。

 連中がボサッとしてる間にオレは凄い勢いで地面を両手で掘り始めた。

 麦畑の土はその辺の地面と違って、小石も無くて、肥料や空気を含んでて掘りやすい。

 この麦畑もそうだった。

 この麦畑をたがやした農夫のプロ意識に感謝だな。

 お陰でゾンビの手でも掘りやすい。

「土の中に逃げる気だっ! 射ろ、矢でっ!」

 男僧侶の言葉でエルフ女狩人を1人始末したので、残る狩人3人が矢を射てくる。

 オレは足を止めてるのだ。

 全本命中・・・いや、プレッシャーに弱いのか、1人外してるな、この距離で。

 だが、早撃ち出来る奴が居て、矢が何本も飛んでくる。

 同時に脳筋の男剣士1人が、

「させるかぁぁっ!」

 間合いを詰めてオレに突進してきた。

 射程範囲の5メートル以内に入る。

 オレは右手を向けて『闇の手』を放った。

「ヌアアア」

 闇に顔を覆われて、男剣士も意識を失う。

 行動力のある奴は男剣士だけか。

 ダメな連中だな。

 オレが同時に2人までしか倒せない事に気付かないなんて。

 観察眼が無さ過ぎる。

 オレは1人なんだぞ?

 魔術師が居なくても、被害覚悟で数で押せば接近戦でも勝てるのに。

 我が身大事か。

 それじゃあ、大成しないぜ。

 『ここぞ』って時にはオールインの覚悟がないと。

 これなら兵士連中の方が覚悟があったな。

 おっと、教訓話はここまでにして。

 これで、残るはーークソ、まだ20人近く居るな。

 オレは穴掘りを続けた。

 矢が左眼に命中して視界を失うが関係ない。

 そして、オレは地中に完全に入った。

「クソ、逃げられたぁぁぁっ!」

 冒険者の1人がそう悔しそうに叫んでるが、

 さすがにかんに触り始めてきたな。

 あのさぁ~。

 さっきから『逃げる逃げる』言ってるがよぉ~。

 何か勘違いしてないか?

 オレがこれだけヤラレてるのに、おまえらを無傷で逃がす訳がないだろうがっ!

 全員、ここで始末してやるよっ!

 その為の地中なんだよっ!

 地上では、

「どうするんだ?」

「待ってれば地上に出てくるはずだから、そこを・・・」

 呑気に喋ってくれてるから居場所はバレバレだぜ。

 オレは地面の下から地上に手も出さずに『闇の手』を発動した。

 オレの闇の手の射程範囲は5メートル。

 オレは地中1・5メートルの地点に居る。

 遮蔽物があるから届かないなんて勝手に都合良く決め付けてないよな?

 闇は土の隙間からでも噴き出すんだぜ?

「キャアアア」

「嘘だろ、闇だと?」

「まさか、土の中から攻撃してる?」

「グアアアア」 

「おい、やべえぞっ! 離れないとっ! グオオ」

「撤退だっ! 全員を連れて帰るぞっ!」

 マヌケなリーダーがナイスな提案をしてくれたお陰で、

「良かった、まだ生きて・・・グアアア」

「ほら、行くわよ、サリ・・・キャアアアア」

「重っ・・・グオオオ」

 倒れてる仲間を持とうとした3人を更に闇の手で始末出来た。

 土の中からの闇の手で6人を始末した計算だ。

 これで倒した人数は13人。

 まだ12人以上居る計算だが。

 んっ? 誰も喋らなくなったな。

 全員、逃げたのか?

 それとも息を潜めて地上で武器を構えてる?

 ふん、どっちでもいいさ。

 オレは地上に腕だけ出すと、倒した奴を土の中に引きずり込んで土の中で美味しくいただいたのだった。

 土が付着して口の中がシャリシャリの食感だろうと問題ない。

 オレは死んでるからな。

 それよりも優先すべきは身体の修復だ。

 こっちは矢で射られてるんだ。

 左眼もやられてる。

 修復しないと。

 視界の回復を確認してから麦畑の地上に出た。

 戦闘態勢のまま、周囲を見渡す。

 だが、誰も居なかった。

 視界にはもう居ない。

 よって1人で戦闘能勢を取ってたオレはマヌケだったが、安全第一だ。

 不意討ちでの致命傷よりはマシだ、と看過しよう。

 何だ、逃げたのか。

 死んだり、気絶した仲間も結局は置いていってる。

 オレが美味しくいただいて損傷個所を修復していたのを見てただろうに。

 放置はないだろ。

 ここは油を撒いて燃やして美味しくいただけなくするのが正解だぜ。

 逃げたおまえらは冒険者に向いてねえよ。

 そう言えば・・・

 初エルフだったな、さっきの。

 必死だったので感想もなかったが。

 エルフ。

 エロ漫画でやたらと登場する巨乳美女達で、確かにさっきのも美女だったが。

 別に美味しくいただいてもパワーアップはしてないよな?

 ふむ。

 オレはその後、闇の手で倒れた全員の首筋を噛んでトドメを刺してから美味しくいただいたのだった。
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