異世界転生したら両腕を前に上げてノロノロ歩くゾンビだった

竹井ゴールド

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ゾンビは既に死んでいる。ゾンビが居る世界だ。喋る蝙蝠くらい居る

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 長々と歩き、蜥蜴系の魔物に喰われながら森の奥を目指した甲斐があった。

 出会いがあったからだ。

 オレにしては大きな一歩だった。

 出会ったのは喋る蝙蝠だ。

 木の枝にぶら下がった蝙蝠が、

「ダークゾンビか。この森に迷い込んでる事といい、二重の意味で珍しいな。蜥蜴に喰われなかったのか?」

「アアアァァァ(逆に喰ってやったよ)」

「おまえ、ゾンビの癖に喋れるのか?」

「アアァァ(えっ、分かるのか、オレの言葉が?)」

 その後、その喋る蝙蝠に色々な事を教えて貰った。





 ◇




 まず最初にダークゾンビに付いて。

 喋る蝙蝠いわく、

「ダークゾンビはゾンビの中堅っぽい種類らしいぞ」

「アアァァァ(能力は?)」

「知る訳ないだろ」

 そりゃ、そうだ。

 オレでさえ手から出る闇の原理が分からないんだから。

 詳しく知ってたら、オレが蝙蝠を疑うわ。





 まあ、最初から信用してないがな。

 何せ、蝙蝠だから。

 英語だと『バット』とカッコイイが。

 日本語だと『どっち付かずの蝙蝠野郎』だ。

 信用なんて出来る訳がない。

 話半分で聞いていた。





 パワーアップについて。

「アアァァ(喰えば強くなるでいいんだよな?)」

「そのはずだ。その辺は魔物と変わらないはずだから」

 との事だ。

 ふむ。

 やはり、喰うのが正解らしい。





 ◇





 この森だが、結構広い。

 そして、森のぬしは2種類。





 森全域を自由に徘徊する恐竜系の赤蜥蜴の10メートル級。

 森の中の毒沼地帯に居る毒蛙の5メートル級。





 両方がオレを一飲みに出来るサイズらしい。

「まあ、ゾンビなど好んで喰わないがな」

「アアアァァァァ(どこかに安全な場所はないのか?)」

「ある訳ないだろ」

「アアアァァァァ(じゃあ人間を狩れる場所は?)」

「どうしてそんな事を聞くんだ?」

「アァァァアァァ(喰って強くなる為かな?)」

「なら・・・」

 こうして紹介されたのが、





 小川を渡った森の東の端だった。





 森の地形はこうだ。

 西側が毒沼地帯。

 北側に破棄された古城。

 北側から東側に掛けて小川が流れてる。





 その小川の流れた東の端の森は薬草摘みに人間が現れるらしい。





 オレは東の端を狩り場にした。

 まずやる事は冒険者達の目的の薬草を抜き尽くす事だ。

 オレはゾンビなので薬草なんて喰ったりはしない。

 抜いて地面にポイだ。

 それを繰り返す。

 薬草採取の冒険者達を森の奥へと誘う為だ。

 同時に地面を手で掘る。

 地中に移動出来る道を作った。

「変わってるな。やはり、おまえは」

 時々やってきては枝にぶら下がり、蝙蝠はそうオレをひょうしたのだった。





 ◇





 下準備を終えた後、ようやく狩りだ。

 獲物の冒険者達は呑気に喋りながら、

「薬草採取から早く卒業したいぜ」

「本当よね」

 とやってきた。

 茂みに隠れて射程範囲に入った冒険者達に闇の手(オレ、命名)を試しに使う。

 闇が伸びて、男剣士と女魔術師の2人を気絶させた。

 やはり人間にはちゃんと効くんだな。

 だよな。

 もう20人以上に試してるんだから。

 闇の手の用途はともかく、

 倒れた2人に近付いて、とどめを刺さないのがポイントだ。

 引率の男戦士が、

「おい、どうした?」

 と近寄ってきて、射程範囲に入ったところを更に闇の手で気絶させる。

「どうしたんですか、バランさん」

 更に女僧侶が闇の手の射程範囲に入って、そいつも気絶させた。

「凄いな、おまえ。本当にゾンビなのか?」

 喋る蝙蝠が飛びながらそう呆れる中、オレは4人全員の喉元を噛んでトドメを刺し、美味しくいただいたのだった。





 5組を同じように美味しくいただいてると、さすがに調査隊が森にやってきた。

 8人体制だ。

 どうするのかって?

 どうもしない。

 土の中に潜伏だ。

 オレの喰い残しを求めて蜥蜴系の魔物が4匹、徘徊してるからな。

 この馬鹿蜥蜴はゾンビのオレも襲うから。

 タイミングが悪過ぎる。

 三つ巴は戦況がどう転ぶか分からないからな。

 危険過ぎて何も出来ない、が本当のところだった。

「ん? 蜥蜴だと? どうして東の森に居るんだ?」

「犯人はコイツラだな」

「ああ。薬草採取の新人ルーキーには荷が重いから」

 そう言って、八人の冒険者と4匹の蜥蜴系の魔物が戦い、

 まあ、冒険者の方が勝ったのだった。





 そして夕方になって東の森の調査を終えた冒険者達が帰った後、オレは蜥蜴系の魔物を美味しくいただき、その様子を見ていた喋る蝙蝠が、

「戦わずして蜥蜴4匹を得るねえ。やっぱり凄いわ、おまえ」

 と妙に感心していた。





 ◇





 こうして蜥蜴系の魔物を隠れ蓑にオレはその後も冒険者を4組狩った。

 無論、目撃者は残さない。

 全滅させてる訳だが。

 だが、さすがはファンタジーというべきか。

 望遠鏡のような魔法があるらしい。

 お陰でバッチリとられて、今度は大規模な討伐隊が森に派遣されてきた。

 その数、50人以上。

「全員、気を付けろよ。今回の敵は『リスカの悪魔』だぞ」

 との声が聞こえてくる。

 何だ、それ?

 オレ、今、そんな風に呼ばれてるのか?

「でもよ。 リスカの村を落としたのは炎熊でゾンビじゃないだろ?」

「その後にゴブリンを飼って領主の兵隊を倒したらしい」

 全然、違うぞ、それ。

 あれはゴブリンの中に軍師が居て、実力で倒したのに。

「どうするんだ? 土の中に隠れてるんだろ、そのゾンビ?」

「冒険者ギルドから森を燃す許可を得てる。燃やせ」

 との会話が聞こえた瞬間、地中に居たオレは道を這って慌てて森の奥へと逃げた。





 本当に森の東を燃やしやがった。

 オレはそれを森の中を流れる小川を渡った反対側で見ていた。

 オレを倒す為だけに森を焼く?

 何を考えてるんだ?

 思考が短絡的過ぎる。

 燃料を自ら手放すなんて?

 森の薬草は?

 自分の首を絞めてる事に気付かないのか?

 とオレが呆れてると、





 ギャアアアアアアアアアアアアア。





 遠吠えが轟いた。

 森の鳥達が一斉に羽ばたく大音量だ。

「おっと、蜥蜴のぬしの方が森を燃やされて怒ってるぞ」

 いつの間にか近くの枝にぶら下がってた喋る蝙蝠が伝えてきた。

「アアァァァァ(街に攻めるのか?)」

「勝てないだろ。それでも突っ込みそうだがな」

「アアアァァァ(そうなの?)」

「ああ、蜥蜴は馬鹿だから」

「アアアァァァァ(なら、その間にこの森を焼くか)」


「? 何を考えてるんだ、おまえ?」

「アアァァァァ(悪い事さ)」

 オレは地面の枯れ葉を集めて、燃えてる対岸まで小川を渡って火を取りに行ったのだった。
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