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ゾンビは既に死んでいる。犬の嗅覚は邪魔だと認識する

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 山の中腹から川に飛び込んだオレは滝壺を落ちて、更に流されて、河辺沿いにある麦畑に出た。

 もう冒険者の姿はない。

 2時間は余裕で流されたからな。

 まだ夜だ。

 夜の内に安全を確保しないと。

 だが、視界は一面麦畑だった。

 森がないのかよ。

 仕方ない。

 歩くか。

 オレは真夜中、麦畑を横断する形で進んだ。





 真剣に歩いたが、ゾンビの足は遅い。

 朝になって太陽が昇り始めて、オレは仕方なく麦畑の中で土を掘って土の中に隠れた。





 だが、人里だと面倒なのが居る。

 犬だ。

 オレが潜った土の上で、ワンワンッと吠えまくりやがった。

「どうした、ペス? 何か居るのか?」

 犬の気配が1つに、人の気配が1つ。

 仕方ない。

 やるか?

 いや、騒動は拙い。

 犬が諦めるのを待とう。

 そうオレは見逃してやるつもりだったのに、犬の馬鹿が穴を掘り始めやがった。

 麦畑の中の地中に居るオレと御対面だ。

 仕方なくオレが犬に手を伸ばすと、犬がオレの腕を噛み、

「ギュゥゥゥン」

 とか悲鳴を上げて噛んだオレの腕を離して土に突っ込んでた頭を引っ込めた。

 もしかして森で毒キノコを喰った恩恵か?

 身体が毒を帯びてる?

 ってか、オレを噛んであの反応。

 少し失礼だな、今の犬。

「うわ、どうした、ペス? 何か見つけたのか?」

 気配は1つ。

 ここまで騒ぎになったのならば仕方がない。

 オレは地上の音や声を頼りに土の中から地上に手を伸ばして、足首を掴んだ。

「何だ?」

 転んだのは農夫の前に、地面から這い出たオレが登場。

「ヒッ、ゾンビ・・・ウギャアアアアアア」

 オレは農夫の首筋を噛んで絶命させた。

 これでおしまいだ。

 吠えてた犬はと言えば、横で弱ってた。

「アアァァァァ(悪いな)」

 オレは犬の首にも噛み付いて絶命させた。





 これが間違いの元だと気付いたのはその日の夕方だった。





 農夫が魔物オレにやられた事が判明したのだろう。

 そりゃあ、大騒ぎだ。

 近くに街でもあったのか、冒険者が放たれる。

 そして、場所は見晴らしのよい麦畑。

 身動きが取れずに、オレは麦畑の中の地面の下に隠れていた訳だが。

 そこで活躍するのが猟犬だ。

 太陽が沈んだ夜でも的確にオレの居場所を冒険者に教える。

 犬自身は麦畑に穴を掘って襲ってはこない。

 頭が良い奴だ。

 そして冒険者の中に妙に慣れた奴が居て、油を巻いて地面ごと焼きやがった。

 オレは更に奥深くへと地中を潜る破目になった。

 これ以上、地中に潜るのは拙い。

 方向感覚を失ったら、最悪、ずっと土の中に居る事になるのだから。





 オレはほとぼりが冷めるまで土の中で過ごす事になった。





 オレの体感で5日が経過した頃。

 死体なので気付くのに遅れたが、オレが居る地中の土が濡れ始めた。

 麦畑に水を撒いてる?

 いや、雨かもしれない。

 雨なら逃げるチャンス到来だ。

 オレは地上に出た。

 やはり雨だった。

 お陰で周囲に人影はいない。

 そりゃあ、そうだ。

 誰だって雨を嫌う。

 そして匂いも雨で洗い流される。

 日本では雨なんて大嫌いだったんだがな。

 まさか、恵みの雨になるとは。

 オレは雨の中、必死に麦畑をノロノロと移動して、安全地帯を探して彷徨ったのだった。





 それにしても、この両腕を前に上げるゾンビポーズ、何とかならないのか?

 マヌケっぽくて仕方がないんだが。





 ◇





 雨は幸運にも3日間続いた。





 その間、追跡される事なくオレは歩き続けて、麦畑を抜け、草原を突っ切り、ようやく森に到着した。

 森の中に入ったはいいが、

 そこでオレはよそ者の洗礼を受ける事となった。

 前の森で狼系魔物の縄張りに入ったら吠えられたのがいい例だった訳だが、 

 この森に巣食ってたのは蜥蜴系の魔物だった。

 小型の恐竜といった方がいいだろうか?

 4本足だが、前足2本が退化してて、後ろ足2本で立ってるから。

 肌の色も赤っぽく、毒でも持ってそうだった。

 そんな感じの魔物だ。

 それが4匹も出やがった。

 そして更に拙い事に、オレの毒のある身体に噛み付きやがった。

 ええい、鬱陶しい。

 オレは足を噛んだ蜥蜴に右手から出る闇で応戦。

 左手からも闇を放ち、接近する別の奴に当てたが、

 蜥蜴系の魔物2匹は闇が顔に当たってるのに倒れない。

 ええい、クソっ!

 訳の分からない能力に頼ったオレが馬鹿だった。

 右足に続いて、腹にも噛み付かれる。

 その2匹にオレは両手の爪攻撃をそれぞれお見舞いした。

 皮を裂いて致命傷を負わす。

 攻撃を受けた2匹は噛んでたオレの身体を離して、地面に倒れた。

 おっ、凄い。

 オレの指。

 普段から土を掘ってるからな。

 威力が上がってる?

 残る2匹もオレに噛み付くが、1匹の喉を掴んで片手で首を軽々とへし折り、もう1匹には爪攻撃で片眼を潰して、その痛みで噛んでたオレの身体を一度は離すが、激昂して突進してきたので両手で掴んで首に噛み付いて絶命させた。

 これでようやく4匹の蜥蜴系の魔物を倒せたが。

 蜥蜴系の魔物には闇が通じないとはな。

 人間には余裕だったのに。

 どういう原理だ?

 分かりやすい説明書が欲しいぜ。

 おっと、拙い。

 2回、足を噛まれた所為で、歩く速度がノロノロなのに、右足を前に出す度にガクッと身体が沈む。

 この足のダメージは拙いだろ。

 修復しないと。

 オレは地面に倒れた4匹の蜥蜴系の魔物を見た。

 仕方ない。

 オレは蜥蜴系の魔物を美味しくいただいて身体の損傷を修復したのだった。





 森の中は、ずっとこんな感じだった。

 蜥蜴系の魔物が襲ってきては倒し、それを喰らっては身体の損傷を修復して、更に奥へと進む。

 実験もした。

 闇はやはり蜥蜴系の魔物には通用しない。

 爪攻撃と噛みつき攻撃で総て倒した。

 20匹は喰らったんじゃないか、と思った時、蜥蜴系の魔物の姿が見えなくなった。

 オレを倒すのを諦めたのでも、蜥蜴系の魔物が全滅したのでもない。

 別の魔物の縄張りに入っただけだった。

 今度の魔物は虎系だ。

 虎なんて普通でもヤバイのに、それが魔物。

「ガルルルッ」

 とオレの前に2頭も現れた。

 だが、襲って来ない。

 喰っても不味い、と判断されたのか。

 それとも毒があると気付いたのか。

 5秒くらいガン見された後、興味を失ったのか、フイッと視線を逸らせて茂みの奥へと戻っていった。

 ふむ。

 滞在を許された?





 こうして、ようやくオレは新たな住処に辿り着いたのだった。
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