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アポリス王国鮫覇編

モスラドの置き土産

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 スタンピードを片付けて眠りに王都のバジーナード宮殿に戻った訳だが。





 翌日の新婚6日目。

 昨晩倒したスタンピードの残骸の確認の為、再度ジェジェンへとは向かえなかった。

 何分、アポリス王国の女王とその王配なのでね。

 昨晩の抜け出しの方こそ異例中の異例なだけで、気軽に移動は無理な訳だ。

 それどころか執務に入る前に宰相のメーズさんに、

「陛下、王女の時のように気軽に外出されては困ります」

「でも結果的にーー」

「困ります」

「は~い」

「で、王配殿下はどうして陛下をお止め下されなかったのです」

 えっ、オレも?

「いやいや、気付いた時には飛び出してて」

「何故、陛下から眼を放されたのですか? 就寝中ですよね?」

「着替えると言われたら結婚してるとはいえ、席を外すのは礼儀で――」

「では連れ戻しに追い掛けられた後、どうしてジェジェンまで行かれたのです? 連れ戻して下されば良かったではないですか?」

「後ろ姿は見えてたけど全然追い付けなくて」

「それはーーともかく次からは眼を放されませんように」

 オレまでが怒られて、何故か張本人のアンリが、

「怒られてる怒られてる」

 オレを茶化してきた。

「陛下、アナタ様もですよ」

「は~い」

 昨夜の飛び出しの罰として、執務の他に人事の昇進査定までやらされた。





 ◇





 LV2100の執務能力を舐めないで貰いたい。

 執務と人事の査定も終わらせたのが昼前で、一息吐いてると、国政から引退すると宣言してるのにまだバジーナード宮殿に居るモスラドさんがやってきた。

「女王陛下、並びに王配殿下に拝謁いたします」

「ん? ジイ、何か用か? ジイの弟子のセレーナの手打ちなら謝罪する気はないぞ。アランとの仲をこじれさせようとした不忠義者なのだからな」

 多分だけど、あのお腹のLV共有の魔法陣の黒幕はモスラドさんだぞ、アンリ。

 まあ、今更いいけど。

「はっ、そちらで参ったのではありません。荷物の整理も出来ましたので本日付で退官する事になりましたのでお別れの御挨拶に」

「うむ、そうなのか? これからはどこで暮らすのだ?」

「王都バジーナーの貧民街の施療院で貧乏な者達に回復魔法で治療して余生を過ごそうかと」

「そうか。これまでよくアポリス王国に尽くしてくれた。ルナ、余の個人資産からジイに金貨500枚を与えるように」

「はっ」

 アンリは慣れてるので、さらっとそんな命令を出してた。

 5000万円の贈与を一瞬で決めるだなんて。

 凄いな、アンリって。

 オレには無理だぞ。

 ってか、王家の秘密を抱えてるのに野に放つんだ?

 普通、死ぬまで飼い殺しじゃないの?

「そうそう、昨夜ジムーズ海のスタンピードがあったとか?」

「ああ、余の王配のアランの活躍でな」

 アンリが誇らしげにオレを褒める中、 モスラドさんが、

「おそらくですがまた起きますぞ」

「その根拠は何だ、ジイ?」

「前に知己を得た八天腎様のトロビーブラード様から教えられた話を思い出しまして」

「ああ、エルフの幽霊の」

 アンリがそう思い出す。

 やっぱりトロビーブラードは幽霊で有名だったのか。

「ジムーズ海には『三海覇』と呼ばれる三種類の海の王のモンスターが支配しているそうです。アポリス王国が面するジムーズ海の界隈はシャーク・キングマーマンの縄張りだと聞いた事がございます。おそらく今回のスタンピードはその高位モンスターが原因でしょう」

「ほう。よくぞ教えてくれた。聞きたい事が出来れば宮殿に召喚するのでな。その際には来るように」

「ははっ。では失礼します、陛下。王配殿下もくれぐれもアポリス王国の事頼みましたぞ」

「ええ」

 オレがそう答えるとモスラドさんは本日バジーナード宮殿から去っていったのだった。





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