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エマリス、マチルダーズ二国傾国編

どうせやるなら恩に着せて

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 エマリス帝国は滅亡の末期症状に突入したらしい。

 エマリス帝国の第3都市ショミーティから国境を越えてマチルダーズ連合のラジカーンの街に入ってきた難民の数が30万人を越えそうとかで。





 マチルダーズ連合としてはこの難民の人数は想定外で凄く慌てているのだとか。





 というか、エマリス帝国が選挙前のこの時期に崩壊されると正直困る、というのがマチルダーズ連合の両陣営のスタンスで、エマリス帝国内で暴れてるセンティピード・アラクネー集団とキラーアント軍団には御退場を願いたいらしい。





 ◇





 ローセファースの庁舎ではなく、首都のモスヘンバウワー宮殿に呼び出されて長々と説明を受けたオレは、

「で、どうして、その話をオレにされてるんですか?」

 そうルイタフ代表に尋ねると、ルイタフ代表が素知らぬ顔で、

「アラン、ちょろっとエマリス帝国に出向いて虫モンスターを倒してきてくれ」

 何を気軽に言ってるんですか?

 分かってるんですか、代表閣下?

 冒険者に『死んで来い』って言ってるんですよ?

 センティピード・アラクネー集団に支配されてるなんて何も知らないエマリス帝国兵が襲ってきたらどうするんですか?

 オレ、マチルダーズ連合でセンティピード・アラクネーを殺しまくってて恨まれまくってるのに?

 何も知らない帝国兵なんかを返り討ちにしたら『エマリス帝国の敵』の汚名を着せられるんですよ?

 冒険者としてのお先真っ暗じゃないですか?(0.1秒)

 そう長々と言い返してやろうとしたのだが、オレが口を開く前に頭の上のピピーがピヨピヨと返事し、そのやくが「面白そう、やろうよ」だったので、オレは考える破目になった。

 ふむ。

 LV566なら絶対にお断りだったが、今のオレはLV1668。

 殺虫スプレーの残数も、もうぶっちゃけ、困らない。

 だって一晩寝たら残数、全回復だから。

 まあ、多分だけど。

 全部を無駄撃ちして回復するか試した事、まだないし。

 回復するかはともかくとして。

 このスプレー数なら、やれるかもな。

 エマリス帝国でも名前を売るのはありか~。

 それに余り放置して虫モンスターが強くなるのも厄介だ。

 ジオール王国で遭遇したあのアラクネーしんクラスとはもう戦いたくない。

 それに数の問題もある。

 虫は放っておくとすぐに増えるからな。

 この際、叩くか。

 センティピード・アラクネーどもを。

 キラーアントの方は微妙だけど。

 巣穴に乗り込んで攻略とか待ち伏せの罠以外の何物でもないし~。

 巣穴の深部で生き埋め攻撃とかを喰らったらマジで洒落にならないから~。

 脱出不可能以前に「酸欠で御臨終」とかマジでカッコ悪いし~。

 よし、決めた。

 やろう。

「センティピード・アラクネー潰しならやりますよ」

「『スタンピードを起こしたキラーアントを倒してくれ』と言ったつもりだったんだがな」

「いやいや、エマリス帝国を裏から支配してるセンティピード・アラクネーを倒さないとこっちが大国に因縁を付けられてやられるじゃないですか? どれだけオレがセンティピード・アラクネーを倒してると思ってるんです?」

「ふむ。では、両方を――」

 何言ってるの、ルイタフ代表?

 もしかしてボケ始めた?

 それともセンティピード・アラクネー集団と取引した?

 さすがにそれはないか。

 もし取引なんてしてたらオレがブチギレて代表選出選挙が前倒しになっちゃうし~。

「先にセンティピード・アラクネーですからね」

「エマリス帝国の帝都シーンフェンテルの宮殿に乗り込んでセンティピード・アラクネーを殺して回るのとかはなしだぞ?」

「そんなのーー向こうがオレをムカつかせない限りやりませんよ」

「あのな~」

「で、どうします? やるんですか、オレ?」

「やってくれ、今すぐに。もしエマリス帝国が崩壊したらマチルダーズ連合もただでは済まんから」

「報酬の方も期待していいんですよね?」

「ったく、チャッカリしてーー分かった。任せろ」

「期待してますからね」

 ちゃんと念押ししてから、

「ワイバーンで出向いても?」

「エマリス帝国の第3都市ショミーティまでならワイバーンでも行ける。但し、そこからは自分の足だ。狼もなしだからな」

「そうなので?」

「ああ、今、エマリス帝国は体制だからな。狼や蜥蜴は民間のが接収されてる。国境を越えてくる難民も全員徒歩だぞ。【アイテムボックス】も禁止」

「エマリス帝国の緊急事態なので帝国政府も逃げるのまでは黙認するけど、財貨の持ち出しは認めない?」

「そういう事だ」

 そんな説明を受け、その後、オレはルイタフ代表から、

「そうそう、トミナに変わって新たな連絡係を付けるな。キーデリア・メリアスだ」

「よろしく、アラン殿」

 そう挨拶したのはどう見ても17歳前後で、黄緑髪ショートの女魔法騎士のお姉さんだった。

 正直に言おう。

 弱そう。

 それに女子力も低そう。

 眼鏡も掛けてないし、巨乳でもなさそうだから。

「ええっと、いつものトミナさんは?」

「トミナはもうダメだぞ。次の代表選の立候補者にするから。ノルメからも取り上げたし」

「ってか、付けないとダメなんですか、オレへの連絡係?」

「当然だろう。アランが帝国内で暴走してエマリス帝国に外交問題にされてマチルダーズ連合が何も知らずに後手に回って変な譲歩をいられたら敵わんからな。アランの行動はこちらでも把握しておきたい」

「ふ~ん。まあ、いいですけど」

 オレはそう納得し、





 ◇





 1時間後にはマチルダーズ連合の魔法騎士が操縦するワイバーンの送迎であっさりと第3都市ショミーティにやってきたのだった。





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