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カクリ・コンゼート樹海波紋編

ルイタフ代表の次期選挙構想完全崩壊

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「何か私に報告する事があるんじゃない、アラン~?」

 バニラさんが迫力ある笑顔でオレを見つめてきた。

「ったく、何をしてくれて――アタタタタ」

 バニラさんの隣でこめかみを揉むルイタフ代表が悩んでる。

「アラン、おまえな~」

 ノルメ閣下が呆れ果ててる。





 ◇





 今、オレが居る場所はマチルダーズ連合のローセファースの庁舎の屋内訓練場だ。

 オレ達の視線の先ではルイタフ代表が連れてきた首都モスヘンバウワーの親衛隊の凄腕20人を相手に、1対1ではなく、1対20で余裕で無双したトミナさんが申し訳なさそうな顔で立っていた。

 対する20人は汗だくで四つん這いや座り込んでへばってる。

 その汗の量だけで何十分間も戦った事が伺えれる訳だが、トミナさんの方は勝って申し訳なさそうにしてるものの、汗の方は1つ掻いていなかった。

 昨日、ジオール王国のファイアグラスホッパーの大群退治を終えてローセファースの街に無事帰還し、本日庁舎に呼び出されてこの完全シャットアウトの屋内訓練場に居る訳だが。





 オレは説明もなしに、3人に三者三様で詰め寄られていた。

 説明がなくとも、オレは危機管理能力に長けた男。

 その辺の「愚かなり」とは一味も二味も違う。

 よって、すぐにピンと来て、

「ええっと、もしかしてトミナさん、報告しちゃったの? 自分のLVの事?」

「私、聞いてないわよ、アラン~」

「いや、どうでも良かったし」

「『どうでも良かった』だと~? 次期代表選出選挙が2年と迫ったこの時期にLV494の魔法騎士が誕生したのに『どうでも良い~』? 私の『アレックス擁立計画』と『ノルメ擁立計画』をオジャンにしておいて『どうでも良かった~』?」

「えっ、何ですか、その私の擁立計画って? やりませんよ、代表閣下」

「もうおまえさんにお鉢は回って来んわっ! トミナで行くっ!」

「ですが、トミナは・・・」

「モネオ姓に戻したら先代の名声で一発だろうが」

「本人が嫌がりますよ、それ」

「そうなのか? ったく」

 などとルイタフ代表とノルメ閣下が喋ってる中、迫力ある笑顔のバニラさんが、

「で? どんな魔法を使ったら数日でLVが494になるのかしら~?」

「さあ~」

「アランっ! 教えなさいっ! 今すぐにっ!」

「ええ~、面倒めんどい~」

「怒るわよ」

「もう怒ってる癖にっ! バニラさんの怒りんぼっ!」

 その後も散々バニラさんと言い合いになり、





 ◇





 場所を変えた執政官室にて、情報の共有が図られてトミナさん本人が説明しちゃって、

「信じられない。古代文明の【身代わり】の魔法のアクセサリー2個の消費とスキル【報復の傷】なんていう1ダメージしか敵に与えられない『カス』スキルのコンボで、アランが倒したおこぼれでLV494って」

 バニラさんが呆れ、

「本当にあったんだな、称号【経験値の黄金豚】。御伽話だとばかり思っていたが」

 ルイタフ代表が呆れ、

「アラン、おまえ、【身代わり】の魔法のアクセサリーを2個も消費って。それはつまり2回死に掛けたって事だろうが。『トミナを守れ』って言ったよな?」

 ノルメ閣下は呆れつつ少し怒ってた。

「いやいや、こっちもヤバかったんですって、今回は。銀陸王のコートの一着が1撃でオジャンになったんですから。オレじゃなかったら勝負になりませんでしたから。明らかにノルメ閣下の見積もりの甘さが原因ですよ、今回のは確実に」

 さすがにオレも反論すると、バニラさんが、

「そんなに強かったの、その王都オングスに居た『炎の魔神』って?」

 それがジオール王国の王都オングスで戦った「アラクネーしん」の呼称となってる。

 まあ、それはオレが「アラクネー神」の事を黙っているからだけど。

「はい、ファイアグラスホッパーの大群を攻撃魔法のように放ってきてましたから」

 同席してるトミナさんが報告した。

「『炎の魔神』なんだからモンスターなんだよな? ジオール王国を襲った目的は何だったんだ?」

 ルイタフ代表もオレに問うが、

「知る訳ないでしょ、強いだけで世間知らずのこのオレが」

 「アラクネー神」って事だけしか分かってないからね~。

 なので、当然、ここは「知りましぇ~ん」で通そうとしたのだが、バニラさんが疑惑の眼差しをオレに向けてきて、

「本当かしら? アランは秘密を独占するタイプだからね~。センティピードを遠隔で倒した方法も教えてくれないし~」

「説明出来ないんですよ、それは」

 本当に説明出来ないのだ、は。

 「透明分身を教えない」で説明しようとしたら、良い嘘が思い浮かばなくて。

 因みに透明分身の方はトミナさんも報告書に書いてないっぽい。

 口を挟まず、しらんぷりしてるところを見ると。

 トミナさんも分身の危険性は学習済みだからね~。

 何せ、透明分身は本当に勝手に動いて、制御が不可能だから。

 モルゼスの2日目の夜はそれの所為で、トミナさんの分身がライアナさんを殴って気絶させて、仕方ないからオレがドレッサーのスライド穴を通って別室に居た侍女長のオバサンに裸のライアナさんを引き渡したんだから~。

 あっ、別に運搬中に気絶してるライアンさんにエロイ事はしてないぞ。

 だって、シックスパックの腹筋だからさ~。

 さえなけりゃあ、健全な青少年の純粋な好奇心として気絶中の辺境伯令嬢の獣人の美女にそれなりの事はしたんだけど~。

「ジオール王国で発生したファイアグラスホッパーの大群の方はもう大丈夫なんだな?」

 この質問はノルメ閣下。

「ええ、そっちは完全に。『炎の魔神』が術者だったみたいで倒したのと前後して『各地に放たれてたのも綺麗に消えた』と辺境伯家が掻き集めた目撃情報を精査して。それでようやく解放されましたから」

「そうか。それは良かった」

 マチルダーズ連合防衛という当初の目的を果たしてノルメ閣下が安堵する。

「それよりも翌日の2匹だ。蝶と蠅のアラクネーか~。黒の翅で闇を纏うパピヨン・アラクネーは500年くらい前に八天賢に討伐されたと聞いた事があったが生きていたんだな~」

 そんな事を呟いたルイタフ代表が、

エマリス帝国が今どうなってるか知ってるか、アラン?」

「チラッとだけ。クラン【氷の百合】が国内遠征中に今度はの方が第2都市ビオフェンテルを喰らったとか。何を考えてるんですかね? 支配してる癖に?」

 この話もどうも確定情報らしい。

 第2都市ビオフェンテルは旧帝都で、現在の帝都遷都の際に移住して人口は少なかったが、それでも8万人は住んでた都市だったらしい。

 それを喰らうって。

 人類側がモンスターを倒したらLVが上がるように、モンスター側も人間を殺す、または喰らうとLVが上がるんだろうか?

 そう仮定しないと、センティピード・アラクネー集団が支配下に治めてるエマリス帝国の都市の住民をセンティピードが喰らった理由が分からない。

 それとも造反しそうだったので不穏分子を粛清しただけ?

 でも粛清くらいで都市ごと潰すか?

 あっ、やるかもな~。

 前世の戦国時代で織田信長も比叡山延暦寺を焼いているし~。

 モンスターなら尚更だ。

 人間の命なんて屁とも思ってないだろうし。

「それだけキラーアントに追い詰められているのだろう。エマリス帝国の惨状を見て西では領土の切り取りに動いてるらしいからな」

「マチルダーズ連合も侵攻するんですか?」

「する訳ないだろ。こっちは次の代表選出選挙が2年に迫ってるのに。兵を出してる隙にがあったらどうする」

「あるんですか?」

「そんな年もあったらしい。マチルダーズ連合の方針はエマリス帝国からの移民受け入れだ」

「ああ、領土拡大ではなく人口増加で国力アップを目指すと」

「そういう事だ。ちょうど開発してる街もあるからな」

 ルイタフ代表とそんな事を喋ったのだった。





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