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ジオール王国炎蝗編

アラクネー神殺しの余波

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 今日の寝起きは良かった~。

 トミナさんのナマ乳に顔をうずめてたから~。

 バニラさんのドレスはズレた事がないし~。

 ナマ乳。

 なんて良い響きだ~。

 スベスベだったし~、いい匂いだったし~。

 ナマ乳も良かったが、それ以上に良いのがトミナさんの今の様子なんだけどね~。

 オレが見れば、オレの視線に気付いて赤面して視線を逸らすリアクションだから~。

 昨晩、ライアナさんに夜這いされ掛けた時はどうなる事かと思ったけど。

 何かいい事が続いてるな~。

 ――いや、待てよ。

 何か幸運が続き過ぎてないか?

 どこかに落とし穴があるかも。

 でも、オレ、【天人の理】でバッドエンドが回避されるの確定だし~。

 ならーー

 えっ、もしかしてトミナさんの死亡フラグが立ってる?

 なら、この貰った【身代わり】の魔法のアクセサリーを渡しておこう。

「トミナさん、これを預けるね、持ってて」

「・・・これはアラン殿が貰ったはずでは?」

 ほら、キリッが売りのトミナさんがこの熱視線。

 完全にOKの顔だよね?

「トミナさんに死なれたらオレのテンションが下がるから。ローセファースに帰ったら返してくれていいから」

「・・・預かるだけですからね」

「うん」

 と軽いノリでオレは渡した訳だが・・・





 渡して良かった~。





 1時間後にはそう思う破目になった。





 ◇





 昨夜真っ裸で迫ったのにオレにフラれた事がショックだったのか、かなり不機嫌なライアナさんだった訳だが、





 それでもジオール王国の危機だ。

 それは本当だ。

 王都オングスが壊滅で住民は全員が死亡。

 王族の行方も分からない。

 では臣籍降下して王族の血の入った貴族を擁立するのかと言えばーー

 ないない。

 前世の戦国時代では太閤秀吉だって一応は三法師様を立てたが、結局は天下人になってたから~。

 強い者が総てを手に入れる。

 人間社会の常識だ。

 異世界ファンタジーでも当然、適用されており、ライアナさんはファイアグラスホッパーの大群に警戒しつつ、周辺貴族の支持集めに動いていた。

 もうライアナさんはだ。

 ジオール王国の後釜の国家の女王に。

 その為に、昨夜オレの獲得に動いた訳だけど。





 せめて女王になってからにしてよね、迫るの~。





 それがオレの言い分だった。





 そしてオレはそんな建国に付き合う義理はないのだが、こちらはこちらでファイアグラスホッパーの大群の駆除が残ってる。

 あのアラクネーしんが炎からあの数を出せたんだ。

 他の奴が出せたとしても不思議じゃない。

 そんな訳でジオール王国に留まり(本当は飛獣なら数分なのでローセファースの街に帰っても良かったんだが、飛獣の所有権がね~。ほら今、貰ったグリフォンに乗ってるし~)、今日はその付き添いがてら王国内を巡回していた訳だが、





 空をワイバーンやグリフォンで移動中にいきなりきやがった。





 右斜め前方から巨大なプレッシャーが。

 空なのでまた落ちたら大変なので手の上に居るピピーが撫でられて気持ち良さそうにしてたが、いきなりの激おこモードになった。

 ピピピッ。

 訳すれば「よこしまなる存在ものだよ」だったので、

「トミナさん、戦闘態勢」

「えっ?」

「来るよ、ライアナさんっ!」

「何が?」

 昨晩の件でまだ不貞腐れてますから~。

 ってか、気付いてないの?

 このプレッシャーを?

 いやいや、前世のアニメのニュータイプじゃなくても気付くでしょ、こんだけ強ければ?

 ドラゴンよりもヤバイのに?(0.1秒)

「ちょ、可愛くないよ、そのリアクションっ!」

「何ですって?」

「ってか、それよりもーー拙い、もう来たっ!」

 オレが睨んだ時にはその方角から2匹が凄い速度で飛来してきた。

 両方ともアラクネーだった。

 1匹は珍しい蝶の翅の雌型のアラクネー。

 もう1匹は蠅? っぽい翅のこっちも雌型のアラクネー。

 人間のふりなんてしてないから最初から完全にアラクネーだ。

 そして昨日のとは違う。

 炎じゃない。

 助かった~。

 と思った瞬間、

 パピヨン・アラクネーは闇。

 フライ・アラクネーは風。

 ーーに、なりやがった。

「はぁ~? 全員、逃げーー」

 背鞍から立ち上がったオレが、またもや右手で無印とcoldのスプレー2本を出して器用に握って噴射しながら、左手でピピーを隠した時には、





「おまえ、人間にしては強いな?」





 風になったフライ・アラクネーの方がオレの眼前に居やがった。

「ーーなっ!」

 だが、オレが驚いたのはソイツの接近速度が早過ぎたじゃない。

 ソイツの凄い速度の移動の余波の風で噴射したはずのスプレーが吹き飛んだトコだ。

 スプレー噴射後の残留3秒ルールを無効化しただと~?

 後、無駄に美人なのと男言葉なのが気に要らないぞっ!

「くそっ!」

 スプレー缶で殴り掛かるが、その時には間合いの外に高速で移動していた。

 何でだ?

 動きに付いていけないぞ?

 【アラクネー神殺し】があるのにっ!

 そうか、攻撃や防御だけで戦闘速度は上がってなかったんだった~。

 それでも効果はあったみたいで、ソイツが、

「おまえ、硬いんだな? そっちは【身代わり】かよ、製造法はもう全部抹消したはずなんだがな」

 何の事かと思えば首筋を負傷していた。

 前世のひげ剃りのCMばりに「切れてな~い」だけど~。

 トミナさんの方も、

「えっ、アラン殿に借りてた首飾りがーー」

 マジで?

 【身代わり】の魔法のアクセサリーが壊れたって事はトミナさん、致命傷を負ってたの?

 クソ。全く相手の動きが見えない。

 速度が違い過ぎる。

 さすがは蠅だわ~。

 蠅叩きがないと分が悪過ぎるだろ。

 だがね~。

 こっちも人間様なんだ~。

 虫ごときにやられたとあっちゃ~、前世の農家の皆様に申し訳が立たないんでね~。

 でも、どうやって倒せばいいんだ、これ?

 攻撃魔法も避けるだろう、あの速度だと?

 前世でも素手で蠅を倒すなんて無理だから~。

 達人の空手家が箸で蠅を捕まえたらしいけど、オレは普通の蜜柑農家だから~。

 せめて丸めた新聞紙でもないと。(0.1秒)

 オレがそう思った時、

「(ドクン)――な、何だ?」

 距離を取ったフライ・アラクネーが苦しみ出して動きを止めた。

「何か知らんがこのチャンスを逃すかっ!」

 【浮遊落下】の魔法の腕輪を外すと同時に、命綱を切って背鞍からジャンプして空中の20メートル先に浮いてるフライ・アラクネーに突進する。





「あら、私を忘れてるのね?」





 なんて余裕の言葉と共に、闇になったパピヨン・アラクネーが間に入ってくるが。

 その距離、3メートル。

 (昨日の炎の奴と同様で)気持ちの悪い闇を纏ってるどころか、全身がなってる。

 触りたくもなかったが。

 マヌケな虫にはこんな言葉を送ってやろう。

 愚かなり。

 バ~カ、最初からおまえが狙いだったんだよっ!

 と馬鹿正直には答えず、オレは、

「なっ、何だって~っ!」

 と名演技しながらも、右手で持ってる無印スプレーを1個投げた。

 空中で、それもピッチングフォームじゃないが、オレの今のLVは766だ。

 投げたスプレーの速度はピッチング投球じゃなくても早い。

 闇と激突した。

 無印スプレーがベゴッと破壊されて、スプレーの残数(26)の総てが周囲にボシューッと散布される。

 ナ~イス。

 避けずに破壊してくれて。

「ウプッ、何、これ、ーーゲボっ!」

 驚き、そして闇が3分の1まで減って闇から実体に戻り、紫色の吐血をするパピヨン・アラクネーの横を素通りして、

「おらああああ」

 フライ・アラクネーに迫った。

 最優先はコイツだ。

 調子が悪い今、倒しておかないと。

 フライ・アラクネーの方は移動しようとしたが、

「クソ、身体が――」

 マジで不調らしいな?

 理由は知らんが、このチャンスは逃さないぞっ!

「おらよ、男言葉っ!」

 もう1個の無印スプレーを投げた。

 本当に不調で避けれないらしい。

 その為、風の刃で撃ち落とすが、そんな事をすればスプレーが割れて中の残数をボシューッと噴射だ。

 それを浴びて、

「何だ? ゲブッーーまさか、毒? だが、アラクネー邪王のオレ達には効かないはずーー」

 その言葉と共に、風から実体に戻って浮力を失ってフライ・アラクネーは墜落していった。

 振り返れば、パピヨン・アラクネーの方も墜落している。

 オレはステータスを見て、ニヤリどころか、ハァーッハッハッハッと高笑いを上げながら【浮遊落下】の魔法のアクセサリーを再装備したのだった。





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