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ジオール王国炎蝗編

ライアナ・ブルーレジン、再び

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 そんな訳でやってきました、マチルダーズ連合のローセファースの街から国境を越えたすぐ隣のジオール王国の辺境の街、モルゼス~。

 ワイバーンでジオール王国の国境に侵入すると同時に、警戒してたワイバーンに乗るジオール王国の魔法騎士にいきなし呼び止められてモルゼスの街まで誘導されて~。

「この非常時にマチルダーズ連合が何の用だ?」

 20代の好青年の魔法騎士が質問し、トミナさんが対応してる。

 ジオール王国のこの魔法騎士が仕事熱心なのも分かる。

 王都オングスの陥落情報が流れてるんだ。

 国境を守る魔法騎士としては正しい行動だろう。

 そうでなくてもサンドワームの死骸が毒沼化してる国境だ。

 地上の交易ルートが毒沼で寸断されて、迂回する為の街を作らないとダメと何かと物騒なんだからな。

 でもさ。

 オレの身にもなってくれよ~。

 せっかくやる気を出してジオール王国に乗り込んできたのにさ~。

 秒で邪魔されたんだよ~。

 今のオレのテンションは、当然、『やってられるか』だった。

 はい、もうやる気なくした~。

 カエルが鳴くから~えろっと♪

 トミナさんが説明する事5分、遂には奥から上役が出てきた。

「おまえ達か? ジオール王国の窮地に嘴を突っ込んできたマチルダーズ連合ってのはーーあれ、アンタ、確か?」

 褐色肌の獣人のお姉さんがオレを見て言い、オレも、

「あっ、シックスパックの腹筋のお姉さん」

 鮮明に覚えてる。

 今世で初めての裸のお姉さんで、初めての裸の獣人のお姉さんだったから~。

 これで腹筋がシックスパックじゃなかったらな~。

「変な覚え方をしてるんじゃないわよ。私の名前はライアナ・ブルーレジン。ブルーレジン辺境伯家の次の当主で、王都に行ったお父様の安否が不明な状態の現在は全権代理よ。ってか、やっぱりあの時のよね?」

「ええ、どうも。自称マチルダーズ連合出身のお姉さん」

 そう嫌味を言ってやったら、

「何の事?」

 キョトンとされた。

 あのね~。

「もしかして覚えてないの? 自分で言ったのに?」

「――えっ、私が言ったの?」

「うん。オレが『マチルダーズ連合に向かう』と言ったら」

「ふ~ん。まあいいわ。どうしてマチルダーズ連合の魔法騎士と一緒なの?」

「ジオール王国出身なのにマチルダーズ連合で冒険者のクランを結成して監視されてるとしか」

「なんてクラン名なの?」

「【氷の百合】ですよ」

 オレがそう名乗ると、シックスパックのお姉さん、いや、ライアナさんが、

「えっ、もしかしてーーアラン・ザクってアナタなの?」

「はいな。良く知ってましたね、オレの事~」

「有名だからね、その名前。ってか、そう、アナタが。へ~、道理で強い訳だわ~」

 何か色々と勝手に納得された後に、

「『帰国を嫌がって魂までマチルダーズ連合の人間になった』と聞いてたけど、来訪の目的は何?」

 はあ?

 何、それ?

 ああ、あの外交官がある事ない事言ってる訳か。

 まあ、どうでもいいけど。

 ーーいや、良くない。

 どうせ、あの馬鹿息子さん、死んでるっぽいし、ここは、

「帰国しなかったのは『帰国するな』と使節の人に言われたからですよ。『自分が即位する時に呼ぶから』と。直後にこの騒ぎでしょ? 『本気だったんだ~』ってビックリしちゃって」

 適当な事をぶっこき返しておいた。

「それってーー今はそっちはいいわ。来訪の目的は何なの?」

「『ファイアグラスホッパーの大群がマチルダーズ連合に来たら面倒なので、ジオール王国内で退治して来てくれ』との依頼を受けまして」

「待って。退治出来るの?」

「ええ、多分。ファイアキラーアントなら退治した事がありますし」

「ならすぐに退治してちょうだい」

「そうしたいのは山々なんですが、モルゼスの街で足止めされておりまして」

 今この状態の事ね~。

 今回は嫌味が通用したらしくライアナさんが、

「何、嫌味かしら? これからは足止めはなしよ。私も一緒に出陣するから」

「倒した後、カッコ良く立ち去りますから。それでいいならどうぞ」

「ええ、それでいいわ」

 言った事、忘れてそう~。

 それがオレのライアナさんの印象なのだが。





 ◇





 ワイバーン。

 飛行する騎獣ーー人間に従う飛獣の中で最高速度の騎獣である。

 まあ、今世の異世界ファンタジーにもペガサスは居てそっちの方が速いらしいが、ペガサスはレア中のレアで購入出来ないので。

 「購入出来る飛獣の中で」って意味で。





 そんな訳でモルゼスの街から王都オングスを目指していた。

 隊列はオレとトミナさんが乗るワイバーンと、ライアナさんが1人で乗るワイバーン。

 それにライアナさんの部下のワイバーンが30匹。

 さすがは国境を守る辺境伯家。

 ワイバーンだけでこんなに所有してるとはね~。

 この隊列でオレ達は王都オングスを目指したが、そこまで出向くまでもなかった。

 真っ昼間に空が文字通り燃えており、見ればファイアグラスホッパーの大群だった。

 その数、およそ500匹。

 報告よりも300匹も多い。

 まあ、問題ないけどね~。

 ゼロ距離ならともかく5キロ以上先を飛んでるのを発見したのだから。

 スプレーを使うまでもない。

「聖なる光よ、600本の矢となり我が敵を倒せ、聖なる矢」

 ワイバーンの背鞍の上から呪文を詠唱して、聖矢600本を放った。

 殺虫スプレーでまぶせる量ではないので通常の魔法攻撃だ。

 聖なる矢が前方に飛んでいき、次々にファイアグラスホッパーを撃ち落としたのだった。

「相変わらず凄いですね、アラン殿の魔法は」

 操縦席に居るトミナさんがナイスリアクションを取る中、

「まあね~」

 でもまだ20匹程が空中に残ってる。

「聖なる光よ、30本の矢となり我が敵を倒せ、聖なる矢」

 オレは第2射を発射した。

 それで全部を撃墜する。

 正確には、墜落の途中で燃え尽きて全部消えた、だが。

「じゃあ、退治したので帰りますね」

 隣で唖然としてるライアナさんにオレが声を掛けると、

「ーーま、待て、アラン。全部倒して貰わないと困るわ」

「だから今のでーー」

「報告では2000匹でしょ」





「はい?」





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