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レコアーヌ公国掌握編
暗殺
しおりを挟む襲撃事件を聞いた老王が、
「申し訳なかった、英雄殿」
別室でそう謝罪してきたが、
「ミラリンク殿下を手に掛けたのは事実ですから」
オレはしおらしい事を言って好感度を更に上げておいた。
◇
さ~て、夜になった。
今夜は老王の頼みでギラドニール宮殿で一泊する事が決まっている。
晩餐会で夕食を美味しくいただきました~。
毒が入っていないのを。
やっぱ美味いな、宮殿の料理はどこも。
当然、本番はここからだ。
まずは風呂。
侍女に扮した貴族のお姉さんがオレの身体を洗ってくれたから~。
いや、だって。
髪を縦ロールにして、高級な香水をした侍女なんている訳ないし~。
一瞬「お色気系の暗殺者か」と警戒したが、「オレとお近付きになりたい」だけの貴族のお姉さんでした~。
伯爵令嬢のミリューネット・アーベさん。17歳。
昼間の貴族の挨拶回りの時に居た事をオレも遅蒔きに思い出したが、礼儀として気付かないふりをして前も洗わせたら赤面してたから~。
初々しくて実に良かった~。
おっと、これだとセクハラオヤジだな。
まあ、遊びはここまでとして。
◇
客間のベッドに入ったら当然、襲われた。
エッチ系のお姉さんじゃない。
賊の方だ。
銀陸王を倒せるくらい強いオレだ。
そんな強者に挑むのだから相手も襲撃は万全を期しており、まずは昼間の内にオレが宿泊予定の客間のベッドの下の床に魔法陣を作成。
LVを弱める魔法陣で「オレの力を弱めた」ところを襲撃だそうだ。
ったく、オレは災害級のモンスターか何かかよ?
まあ、オレはモンスターじゃなくて人間サマなのでね~。
魔法陣を無効化したぞ、当然。
とドヤ顔で言いたいところだけど、気付いたのはオレじゃなかった。
勤勉なる我が透明分身が気付いて、棒を出して床に描かれた魔法陣を殴って、それで魔法陣を無効化。
オレの方は分身のその行動を見て、
何をやってるんだろ、もしかして狂った?
そう呑気に思ったもんだが。
いや~、さすがは我が分身。
これからも頼りにしてるからね~。
そんな訳で弱体化の魔法陣が発動してると思ってる賊が30人も押し寄せてきて、
「ミラリンク殿下の仇だ、掛かれえええええっ!」
黒布で顔を隠しもしていないオッサンの号令で、
「うおおおおおっ!」
「ミラリンク様、冥府から見ていて下さいぃぃぃっ!」
同じく顔も隠していない魔法騎士達が突っ込んできたが、
「鬱陶しいわっ!」
オレはアースドラゴンの牙棒を振り回し、透明分身も活躍して、
「ぐああああ」
「何だ、今の攻撃は? 遠隔攻撃?」
「ーー強いっ! 弱体化させてこの強さかっ!」
「化け物めーーギャアアア」
賊がナイスリアクションをしてたが、余裕で倒した。
全員を撃破した直後に、
「大丈夫ですか、ザク様っ!」
警備の魔法騎士達が現れた。
ザク様って。
家名で呼ばれると萎えるな~。
そうだ、ザクだったんだ、オレ。
気を引き締めないとな。
一撃で倒されたら洒落にならないから。
オレがそんな事を思ってると警備の魔法騎士達が賊の顔触れを見て、
「ベルエー隊長まで? どうして?」
「なんて恐れ多い事をーー」
「全員逮捕だっ!」
倒れた侵入者達を捕縛して引っ立てていき、オレが興味本位で、
「どうして宮殿の一角ごと魔法で爆発とかさせなかったの?」
「そんな卑怯な事が出来るか」
それがベルエー隊長と呼ばれたオッサンの言い分だったが、
「いやいや、寝込みを襲ってる時点で十分卑怯だから」
オレのツッコミに賊の魔法騎士のオッサンはガックシと肩を落としたのだった。
これで終わりではなく、また襲われた。
どうやらあの公子(いや正確には公孫だが)は本当に外面だけは良かったらしい。
襲撃の下準備として、まずはドアが薄く開けられて外から焚かれた「眠り香」を室内に充満させて、眠らせたところを侵入する算段だったようだが、
オレの勤勉なる透明分身の射程範囲内だったらしく、ドアの外で、
「グアアア」
「なっ、どこから攻撃をーーグオオ」
戦闘を始めてしまい、
「クソ、こうなってはーー構うな、部屋に突撃だっ!」
と室内に8人が侵入してきた。
当然、負ける訳がなく、
「グベシャアア」
「ーー化け物めっ!」
8人全員を倒して、今回は警備が眠らされててなかなか来なかったので、
「で? 後何人くらい居るのかな?」
「誰が喋るか。呪われろーー(ミシッ)グアアアアアア」
オレが相手の手の甲を踏んで拷問した訳だが、なかなか年季が入ってて口を割らず、その間に警備の魔法騎士達が、
「ザク様、大丈夫ですか?」
はあ~。
このザク様って呼ばれるのには慣れないな~。
「ああ、頼むね」
「はっ」
この8人の賊も逮捕されていった。
◇
2回も襲撃があったのだ。
こうなるとオレの部屋のドア前の廊下には警備が張り付き、窓の外側にも警備が立った訳だが、宮殿には御存知、隠し通路がある。
ギラドニール宮殿にもあったらしく、オレの部屋の壁がガコッと前世の忍者屋敷の仕掛け扉のように動いた訳だが、その奥から現れたのは公太子妃のミラリー・レコアーヌだった。
つまりはミラリンク公子の母君だ。40代の金髪の艶年増で色っぽい寝着だったが手には短剣を握っている。
その短剣の刃には毒を連想させる魔法薬が塗られており、ベッドに近付いたミラリー様がベッドの中に眠っているオレに向かって刃を振り下ろしたのだった。
「グアアアアアアア・・・」
と悲鳴を上げると同時に変化が解ける。
オレから公太子のオズレンテ・レコアーヌ殿下に。
「へ? で、殿下?」
「ミ、ミラリー、お、おまえっ―――ゲボっ! 誰かっ!」
次の瞬間、ドアや窓が開いて魔法騎士達が飛び込んできて、
「えっ、オズレンテ殿下? すぐに治療をっ! 宮廷治癒術師を呼べっ!」
「まさか、ミラリー妃殿下が?」
「なんて事を」
「乱心されたのか?」
「ち、違う――わたくしじゃないっ!」
なんて大騒ぎになった。
それを【遠視】の魔法のアクセサリーの片眼鏡を使ってオレは隣の部屋から目撃したのだった。
プププ~。
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