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マチルダーズ連合功名編
モイタルダート月桂花5026輪、納品
しおりを挟む何もモンスターを討伐する事だけが冒険者の功績ではない。
冒険者ギルドにはポーションの原料になる薬草摘みなんて依頼も当然ある。
それは駆け出しの冒険者の依頼内容だったが。
では、ハイポーションやマナポーションの原料の上級薬草摘みだったら?
十分な功績となった。
とはいえ、飛獣がある今世の異世界ファンタジーだ。
普通の場所に群生しているのならば例え難所であろうとも国の魔法騎士が飛獣でサッとこなしてしまう。
との論法から、飛獣や陸獣が出向くのを嫌う場所に生息するマナポーションの製造に使う薬草、正式名称、モイタルダート月桂花(1000年以上前の賢人モイタルダートがそう命名した)を求めて、我らがクラン【氷の百合】はマチルダーズ連合が誇る最大の難所にして不思議エリアの1つ、マチルダーズ連合とアポリス王国の国境でもあるリックディーストロ闇渓谷に来ていた。
その名の通り、年がら年中、闇に覆われた渓谷な訳だが。
オレの周囲50メートルはオレが使った聖光魔法の光源が闇を掃って真昼並みに明るかった。
闇に潜むスケルトンウルフなんかも一望出来て、余裕で撃退だ
「凄いですね、師匠の聖光魔法は?」
弟子のパリがヨイショしてくる。
「まあ、属性ばかりは運だからね~。パリだって、もう上級雷魔法が使えるんだろ?」
「はい。LV100になった時に魔術師ギルドで調べたら階位が上がってて。他にも炎と治癒も」
「おお、それは凄い~」
オレも久しぶりに調べてみるかな?
でもオレの場合、ピピーとの契約の関係で聖属性だけっぽいんだけどね~。
オレはピピピッと不機嫌な頭の上のピピーを確認しながら何と無くそう思った。
さて、今回もクラン【氷の百合】総出だ。
と言うか、アースセブンケルベロスの撃破に続いて、ローセファースの街に帰る事なくマチルダーズ連合の南東側のリックディーストロ闇渓谷に来ていた。
当然、狼で陸路をトロトロと移動だ。
駆け鳥ならピューッと30分なのに丸1日って~。
さすがのオレもキレそうだったけど。
レストランで酔っ払った妖艶のダークエルフハーフのベルさんが寝るまでの3時間、オレを離さなくて、結構なおっぱい貯金の利用者になってくれたから我慢したけどね。
実に良かった~。
ピピーは時々怒ってたけど。
そして、このリックディーストロ闇渓谷のモンスターは完全に死霊系だ。
スケルトンウルフ。
スケルトン。
スケルトンキメラ。
スケルトンスネーク。
ゴースト。
レイス。
つまりは動く骨格標本や怨霊ばかりだ。
おっと、グールなんていうゾンビっぽいのも居たっけ。
それらがリックディーストロ闇渓谷の闇に紛れてゼロ距離でエンカウントするから危険なのであって、こうして見渡す事が出来て接近が分かればオレ抜きの他のクラン員でも余裕で遠距離から攻撃魔法で倒せ、オレはと言えば、
「他のクラン員に手柄を分けてあげなさい」
とのバニラさんの厳命で照明係と聖属性付与係に徹したのだった。
まあ、別にいいんだけどね~。
でも、スケルトン系だけでも250匹は居たか。
もしかして称号が取れた?
う~ん。
後、分かった事がある。
ピピーはスケルトン系やゴースト系が嫌いらしい。
虫系モンスター以上にずっと激おこだった。
それとオレの透明分身。
ゴースト系にも視えないらしい。
真正面から透明分身が近付いても気付かず、棒で殴られて消滅してたから。
◇
このリックディーストロ闇渓谷は陸獣が侵入を嫌がるのでオレ達クラ員は徒歩で移動してる訳だが。
この徒歩移動中に新たな出会いがあった。
最初に気付いたのは当然、オレの頭の上に居るピピーだったが。
ピヨピヨ。
ピピーの、あっち、との鳴き声でオレは20メートル右斜め前側にちょこんと紺色の小さな兎が姿を見せてるのに気付いた。
小兎の精霊獣だった。
へ~。
(精霊獣の森以外で)契約されていない野良の精霊獣を見るのは初めてだな~。
バニラさんも後発でオレやピピーの視線に気付き、
あらら、と苦笑した後、
「全員、あっちに注目~」
クラン員全員に精霊獣を指差して教えた。
「何ですか、師匠?」
今やバニラさんをそう呼ぶ弟子のベリロアさんがバニラさんに質問し、
「見える人~」
「何の事ですか?」
「あの小さい紺色の兎の事じゃないのか、ベリ」
視えないベリロアさんにそう教えたのは意外な事にパリだった。
「えっ、どこだ?」
「見えるか?」
「いえ」
なんてクラン員がナイスリアクションをしてる。
あれ、ベルさん、ダークエルフハーフなのに視えないんだ~。
そう言えば、オレの精霊獣も視えてなかったな~。
暗殺者もどきのエクレスさんでさえ、視えてるのに視えてないふりをしてるのに~。
オレの中でベルさんの評価が下がる中、バニラさんが、
「あら、パリだけなの? なら、パリ、契約出来るか試してらっしゃい」
「契約? ーーえっ、あの紺色の兎って、まさか」
「ええ、精霊獣よ」
「・・・ええっと、師匠はいいんですか?」
どうしてオレに話を振る。
オレにはもうピピーが居るんだよ。
「うん」
「どうしてです?」
ああ、もう。
空気を読めよ、パリ。
オレは精霊獣と契約してる事を言いたくないんだよ~。
「弟子のパリに譲るよ」
「いいんですか? 精霊獣ですよ?」
なんて言葉のラリーを数回した後、パリが近付いて恋人にプロポーズするみたいに、
「契約して下さい。お願いします」
と声を掛けて、契約していた。
右肩に精霊獣を乗せたパリが、
「ニヒヒヒヒ」
と戻ってきた訳だが、オレの頭の上のピピーを視て、
「師匠、それ」
「ああ、視えるようになったんだ~。そういう事だから。後、内緒ね」
「最初から教えておいて下さいよ~」
そんな会話をしたが、その後、パリはずっと精霊獣と契約出来た事が嬉しかったのか、ニヒヒヒヒ、と喜んでた。
パリ、おまえ、いいところの子だろ?
ニヒヒヒヒって笑い方は止めた方がいいぞ。
◇
そんなこんなで、我ら捜索隊はリックディーストロ闇渓谷の最深部の地下洞窟の泉の前まで進み、一面の花畑に出食わした。
全部が同じ白色の花。
目的のモイタルダート月桂花だ。
「嘘でしょ、まさか、これ全部がーー」
「大当たりだな」
「これだけあったらマナポーションが20万本以上作れーー」
クラン【氷の百合】の冒険者全員がナイスリアクションをしていた。
オレがバニラさんに、
「根こそぎ持って帰るの?」
「いいえ、等間隔に1本残すわ。来年も採れるように。みんなもそのつもりでね~」
あれ、このやり方、知ってるぞ。
何だっけ?
そうだ、前世の山菜摘みの時のルールだ。
来年もその場所で採れますように、って奴ね。
こうしてオレは薬草摘みをしまくって、称号【月花摘み】をゲットしたのだった。
リックディーストロ闇渓谷を見張る監視砦にモイタルダート月桂花を5000輪以上納品したら大騒ぎになったけどね。
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