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マチルダーズ連合蟻軍編

デモネーロス高山の調査任務

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 オレはまたローセファースの街の冒険者ギルドのギルド長の執務室に呼び出されていた。

「オレ、何もしてませんよ」

「分かってる。アランを呼んだのは確認したい事があったからだ」

「なら、前にしてくれたらーー」

「忘れてたんだよっ! おまえが暴れ回って雑務が増えたからっ!」

 そう逆ギレしたギルド長が、

「アラン、おまえ、最後にキラーアントを見たのいつだ?」

 ん? タイムリーな質問だな。

 思い返すまでもなく、

「クリスタルスタッグビートルをゲットした時ですかね」

「つまり西の森のお祭り騒ぎだな。以降は見てないと?」

「ええ」

 オレが答えるとギルド長が少し考えながら、

「実は他の支部の冒険者ギルドもキラーアントが消えたと報告を上げてきててな。実は前からその報告がこちらにも届いてたんだが、ほら、ローセファースこっちはおまえが暴れててそれどころじゃなかっただろ?」

「『暴れてて』ってオレは普通に冒険者として活動してただけですけど?」

「アースドラゴン退治や隣国のお姫様の来訪や周辺のモンスター根こそぎ討伐は普通とは言わねえんだよっ!」

 何故か怒られた。

「そんな訳でデモネーロス高山に行って、キラーアントが居るか確認して来てくれ」

「デモネーロス高山ならちょうど昨日行ってきましたよ」

「どうだった?」

「ゴーレム30匹とバッド・ハーピーとサンドワームしか居ませんでした」

「待て。バッド・ハーピーだと? 討伐したんだよな?」

「ええ」

「報告書を後で書けよ」

「いえいえ、素材を持ち帰ってませんから。討伐証明が出来ませんし」

「どうして素材を持って帰って来なかったんだ?」

「だって、ねえ、ーー分かるでしょ、ギルド長も?」

「何をだ? ちゃんと言葉にしろ」

「駆け鳥から降りたくなかったというか――」

「もう金を持ってるからローセファースの周辺の雑魚モンスターを狩り尽くした時同様、剥ぐのが面倒臭いと思った訳だな。これだから成金は」

 あれ、もしかしてギルド長の好感度が下がってる?

 何故だ?

 どうも拙そうだったので慌てて、

「いやいや、剥ぐのが面倒めんどいなんてそんな事はーーそうだ、ちゃんとゴーストの時は拾いましたから」

「ゴーレムのを拾う? 何をだ?」

「ミスリルとか宝石とか」

「・・・ミスリルだと? 嘘だよな?」

「いえ、ほら」

 オレが革袋型のアイテムボックスからミスリルゴーレムの残骸のミスリル混じりの岩を出すと、ギルド長が絶句しながら、

「信じられねえ。おまえ、これが何を意味するか・・・いや、今はそっちの話はいい。洞窟の中を確認したんだな、どうだった?」

 何やら苦悶した後、ギルド長がオレに問うたが、

「洞窟の中なんて調べる訳がないでしょ、駆け鳥で出向いたのに」

「なら、もう1回調べてこい」

 気軽にギルド長がオレに頼んできた。

「ええっと、それってーー」

「ああ、冒険者ギルドからのクラン【氷の百合】への調査以来だ」

「なら、うちのクラン長に正式に依頼をーー」

「おまえのところのクラン長は今それどころじゃねえんだろ」

「? 何の話です?」

「ん、聞いてないのか?」

「何も」

「ったく。ほら、おまえがションドバーズでルイタフ代表派閥の後継者、マリソン・ゼイセスがいつの間にかセンティピード・アラクネーに入れ替わってたのを暴いただろ。それで今、ルイタフ代表派閥のとこの後継者選定が行われてて、おまえのところのクラン長はここの執政官のノルメ閣下をそれに担ぎ出したんだよ」

「えっ、50代ですよね、ノルメ閣下? 30年後は80代ですよ? なれませんよね?」

「通常ならばな」

 何故か隻眼でギルド長がオレを見て、

「霧平原のミストジャイアントマンティスの討伐、スケルトンドラゴンの討伐、サハリード砂漠の討伐されたアースドラゴンの素材売却等々の功績と、モスヘンバウワー在住の対抗馬達の奪われたアースドラゴンの素材警備の失態がなければな」

「えっ、オレのアースドラゴンの素材を奪われた奴が後継者候補なんですか? それはさすがにないでしょ」

「まあな、それでモスヘンバウワーのお歴々が候補から外れて、スルスルっと抜け出たのがノルメ閣下という訳だ」

「本人は乗り気なんですか?」

「エマリス帝国の手先が代表になるのは阻止したいらしいぞ」

「へ~、で、オレに調査依頼を回す理由は? 他の冒険者に振ればいいじゃないですか?」

「今、うちのギルドの冒険者達はドラゴンを討伐したおまえの影響で空前の大物狩りブームなんだよっ! 徒党を組んで薄霧エリアまで顔を見せてる濃霧エリアの大型を狙ってる」

「下らない調査依頼は受けないと?」

「薄霧エリアで濃霧エリアの大型が狩れるんだ。ギルドとしてもこのチャンスを不意にしろとは言えないからな。そんな訳でどうせ暇だろ、おまえ? 行って来い」

「ええ~」

「返事」

「は~い」

「後、ミスリルゴーレムの討伐報告書を書けよ。ったく、問題ばかり起こしやがる」

「何が問題なんですか?」

「ミスリルゴーレムが生まれてたって事はそこにミスリルがあるって事だろうが。デモネーロス高山でミスリルラッシュが起こるぞ」

 ミスリルラッシュ? ああ、ゴールドラッシュの造語ね。





 そしてバニラさんの、

「いいんじゃない」

 との許可も出たので、翌日クラン【氷の百合】が出動する事になった。





 もうクラン【氷の百合】は代表派閥のノルメ閣下とズブズブなので・・・





 ◇





 翌日の出発はオレとパリとジョニー・デ、ーーコホン、ジョニーとモヒカンのソードさん、それに連絡係のトミナさん、それに3人のノルメ閣下の部下という編成だった。

 オレはトミナさんの狼の後部席、他も便乗させて貰って移動する。

 ソードさんなんてクラン【氷の百合】の旗持ちまでさせられていた。





 そして駆け鳥だと30分だったが、狼だと5時間の移動の末、ようやくデモネーロス高山の麓に到着した。

 デモネーロス高山の洞窟と言っても実は3カ所ある。

 裾野の西側。

 中腹の東側。

 山頂だ。

 全部を見て回る。

 MP全容量を減少させてまでして作った青色のインコの使い魔を持つジョニーが使い魔を飛ばしてだけど。

 一々、足を運んで見て回るなんてバッカらしいからね~。

 オレ達が裾野で休憩する中、ジョニーには頑張って貰った。

 それにしても勿体ない事をしたな~、ジョニーも。

 LV400になった時の報酬をフイにするなんて。

 まあ、普通の奴はLV400になれないからね~。

 偵察に使えるんだから鳥系の使い魔を作るのは常識らしいけど。

「パリは使い魔を作らないの?」

「作りませんよ、少ないMP全容量が更に削られるのに。師匠は作らないんですか、使い魔?」

「作らないかな~」

 誰にも視えていないオレの分身をチラ見しながらオレは答えた。

「LVはどうなの? ビッグホワイトスパイダーを薄霧エリアで倒したんでしょ?」

「はい。それとその、肉でようやく83です。LV100なんてまだまだですよ」

 ああ、なるほど。他の兵士達が居るからドラゴン肉の事は伏せた訳ね。

「まあ、頑張ってね」

「師匠はLVいくつなんですか?」

「20かな?」

「絶対に嘘ですよね? ドラゴンは見てませんけど、アースビッグタートルはオレ達の眼の前で一撃で倒してるんですから」

「まあね。ソードさんのLVは?」

「オレは100を越えてるよ」

「だよね~。ってか、どうしてソードさん自らがクラン【氷の百合】うちに出向いてるの? 幹部だよね?」

 ソードさんはローセファースの街で一番のアクロラルロ商会からの派遣員だ。

 つまりはトミナさんと一緒でクラン【氷の百合】の情報を商会に流す連絡係。

「下っ端だと何が金になる情報なのかまだ分からないからな」

「どんな情報が金になるの? デモネーロス高山にミスリルゴーレムが居たのとか?」

「そんな情報は金にはならないぞ。代表選出選挙前にミスリル鉱脈を発見って。両陣営が利権目当てで足の引っ張り合いをして旨味が一切残らないってのにーー金になるとしたら、アポリス王国でスカイドラゴンを第2王女の部隊が討伐した話とかかな?」

「そんなのが金になるの?」

「その内、クラン【氷の百合】もスカイドラゴンの素材を入手するだろうから、いち早く買い付けて転売して大儲けとか」

「多分来ないよ、それ。全部あげてきたから」

「向こうがそれでも持ってくるさ。渡さなかったら関係を断つ事になるし。1割は最低でも寄越してくると思うぜ」

 なんて喋りながらジョニーの偵察が終わるのを待っていたのだが、





「キラーアントは居ませんでしたが東側の中腹に人型のトレントが居ました。赤色なので元はキャロットトレントでしょうか。周囲にキャロットトレントが10匹以上居ましたし」





 と報告してきた。

 人型か~。

 天然物か、それともサンドワームの死肉を食った変異種か、どっちだろ?

「人型のキャロットトレントね~。興味はあるけど~」

「アラン殿、ダメだぞ。今回は偵察任務だけにしろと千人長に念を押されてるので」

 トミナさんに止められた。

「は~い。ジョニー、他の洞窟の偵察もお願いね」

「わかりました」

 だが、全部調べさせるまでもなかった。





 休憩地点の周囲の岩地に生える草が図鑑で見た薬草の一種だったので採取して時間を潰してたら、南の空から20匹のグリフォン部隊がやってきて2匹が下りてきて、

「クラン【氷の百合】のアラン殿はお乗り下さい」

「どうしたの?」

「キラーアントのスタンピードがラジカーンの街で発生しました。救援に向かいますので」

 ラジカーンの街、北の国境か(地図を暗記した成果)。

「待った。確か陣営は――」

「関係ありません。民が危険なのですから」

 御立派だな。

「分かりました、乗ります。パリ、バニラさんに説明をよろしくね」

 こうしてオレはワイバーンの後部席に乗り、またしても空へと飛び立ったのだった。





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