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アポリス王国理月編
【理の月】
しおりを挟むアポリス王国。
マチルダーズ連合の南側に位置する。
現国王はお姫様の父親であるジェームズ・モア・アポリス。
首都は王都バジーナード。
まだローセファースの街を旅立った日の当日なのだが。
オレはバジーナード宮殿の謁見の間に通されて、赤絨毯の上で跪いていた。
何、これ?
アホらし~。
さっさと帰りたいんだけど~。
オレ、迷惑お姫様の居るアポリス王国で成り上がる気はないぞ。
「面を上げよ」
との声で、オレは顔を上げた。
玉座に座ってる国王様は意外にお爺さんだった。
60代?
前世の学校の音楽室に貼られてる音楽家の白髪カールに王冠を被って白髭を蓄えてる。
王冠を被ってるって分かりやす~。
ってか、ツッコミ待ちか、あのヘアスタイル?
「その方が我が王国領のサーズス山に巣食うウイングドラゴンを倒したアラン・ザクか。見事であった」
「ははっ!」
「褒美に我が国の男爵位を授けよう、受け取るが良い」
はあ?
謁見だけのはずだろ?
爵位を授けるって。
それも男爵。
男爵って貴族様だから凄いって思うかも知れないが、その実態は国王、大公、公爵、侯爵、辺境伯、伯爵、子爵の次だから~。
正直、貴族の中で一番の下っ端。
男爵なんていくら権勢を持っても国を動かす事も出来ない中間管理職なのに~。
う~ん。
軽く見られて馬鹿にされてる、と見るべきか。
それとも、14歳のオレに与えるのには破格の待遇、と見るべきか。
微妙だな。
仕官するなら、男爵からなのが相場だろうが。
ピピピッ。
そしてオレの頭の上のピピーさんは謁見の間に入ってから、ずっと激おこだった。
スプレーを使えのサインをずっと出してる。
どうも2人、面倒なのが混じってるみたいで。
その2人に向かって「使え」とおっしゃってる訳だが、さすがに無理でしょ。国王様が上座に居る謁見の間では。
そう思ってたら、オレの半透明の分身が誰にも視えてないのをいい事に謁見の間に並んでる重臣の1人の前に移動して・・・
えっ、待て。嘘だろ。
オレの思いも虚しく殺虫スプレーをシューッと吹き掛けた。
使ったのは無印だったが。
そして、
「グアアアアアアアアアアアア」
顔をスプレーで吹かれた重臣が苦しみ出して、2秒後にはアント・アラクネーの正体を現したのだった。
「なっ? 人型のモンスターだと?」
「馬鹿なっ! ナスレス殿がっ!」
「いつから入れ替わっていたんだ?」
と並んでる貴族や魔法騎士の皆さんがナイスリアクションをする中、オレの分身がもう1人にもcoldスプレーをシューッと一吹き。
「ギャアアアアアアアアア」
今度はドレスの貴婦人がスネーク・リザードマン(いやレディー?)の正体を現したのだった。
蟻と蛇のモンスターが謁見の間に紛れ込んでるって。
何、この国?
あり得ないんだけど~。
ってか、殺虫スプレーって虫以外にも効くのってどうよ?
少し汎用性があり過ぎないか?
まあ、coldスプレーは冷気噴射だからギリギリありって事で納得しておくか~。
「馬鹿な、サラニエル女伯爵も?」
「魔法騎士団、何をしてるっ! モンスターを倒せっ!」
「陛下と殿下達を安全な場所へ」
「さあ、こちらへ」
皆さんがナイスリアクションを取って大騒ぎをしてる。
ピヨピヨ。
倒さないの、とピピーに質問された。
ほら、オレってよそ者だしね~。
武器を取られてるからスプレーで倒したら根掘り葉掘り聞かれるし~。
まあ、オレがやらなくても半透明のオレの分身が正体を現したアント・アラクネーの方を蟻専用のスプレーを使って簡単に倒したから。
まあ、半透明のオレの分身が視えてないので魔法騎士達が剣で突き刺して倒したみたいになってたが。
スネーク・リザードマンの方もオレの半透明の分身が魔力で作った棒を握ってメジャーリーガー日本人初首位打者スイング(右)を使って背中を殴ってて、これまた視えてないので魔法騎士の正面からの突き刺した剣がラストアタックみたいになってた。
よって謁見の間では貴族や魔法騎士達が、
「さすがは我が国最強のジュリオス殿と若手ホープのリンダル殿」
「見事なものだな」
「いえいえ」
「当然の事をしたまでですよ」
ナイスリアクションを取ってた訳だが、オレは別の事を考えていた。
オレの分身も人に化けてたアラクネーには無印を使ってたよな。
オレもそうしてたが、いきなり専用スプレーは無理なのか?
ってか、オレの分身がモンスターを倒した場合、経験値の分配はどうなるんだ?
いや今、考察すべきはスネーク・リザードマンにcoldスプレーを使った点だ。
さすがにこれは見逃せないぞ。
何せ、他のスプレーはおそらくスネーク・リザードマンには無害なんだからな。
coldスプレーだけが冷気でダメージを与えられたんだから。
何故、オレの分身はcoldスプレーをチョイス出来たんだ?
本体のオレでも分からなかったのに?
オレがやったら多分、1回目は無印で不発、2回目はアント・アラクネーが居たから蟻専用で不発、3回目はムカデ専用で不発、それでもピピーが激おこで4回目にようやくcoldスプレーを使ってたはずだ。
なのに、1発目でcoldスプレーをチョイスって。
精神世界の分身だから波長を感じて?
優秀過ぎないか、オレの分身?
無能な本体に取って替わろうとかしないだろうな?
それにLVの問題もある。
分身のLVは82、スネーク・リザードマンのLVはいくつだ?
どうして倒せた?
魔法騎士の剣の突き刺しがとどめだったが・・・(0.1秒)
なんて考えてると、魔法騎士の1人がオレに、
「ザク男爵、別室へどうぞ」
「は~い」
オレは指示通りに別室に移動したのだった。
◇
オレが居る別室に訪ねてきたのは年寄りの老魔術師だった。
名乗った名前はモスラド。
その爺様がテーブルを挟んだ対面のソファーに座ってオレをじぃ~っと見ている訳だが、
「何でしょうか?」
「『何でしょうか』はないじゃろうが。謁見の間であんな前代未聞の大騒動を引き起こして」
「はい? 何の事でしょうか?」
とのオレのおとぼけに、オレの横で立ってる分身を指差して、
「ワシには視えとるぞ」
このジジイ、やる~。
「因みに、そっちもな」
オレの頭の上に乗ってるピピーも指差した。
チッ、油断ならんな。
さすがは国の中枢だ。
「何故視えるのか御教授いただいても?」
「魔眼持ちだからのう」
「へ~」
オレは爺さんの眼を見た。
確かに魔力を強く感じる。
この波長が魔眼な訳ね。覚えておこうっと~。
「それ、LV400以上の恩恵じゃよな?」
おっと。
「その口ぶり。もしかして他にも持ってるのがいるんですか?」
「ああ、ワシが知ってる中ではおまえさんで3人目じゃよ」
「へ~、他の2人の名前を伺っても」
「光の勇者ダリューズ、冥賢者エルロング」
「もう~、2人とも鬼籍に入ってるじゃないですか」
真面目に聞いて損した。
「いや、エルロング殿はまだ生きてるらしいぞ」
「ほう、それは一度会ってみたいものですね」
「で、おまえさん、本当にアポリス王国に仕官する気はあるのか?」
「ある訳ないじゃないですか」
オレは堂々と本音を口にした。
「なら、どうして謁見の間まで来たんじゃ?」
「あのわがままお姫様に無理矢理ーーですよ」
オレの嫌そうな一言で総てを理解した爺さんは、
「やれやれじゃな」
と呆れ果てて、
「仕方ない。グリフォンでマチルダーズ連合まで送らせよう」
「ありがとうございます」
こうして話の分かる爺さん、ええっと、モスラドさんによって、オレはその日の内にローセファースの街に送って貰えたのだった。
◇
ローセファースの街のクラン【氷の百合】の表庭まで送って貰い、ありがとうございました、と送ってくれた男の魔法騎士に礼を言ってると、
「アラン~、大人しく屋敷で勉強してるんじゃなかったのかしら~?」
「あれ。どうしてバニラさんが屋敷に居るの? まだ昼下がりだよ?」
「はあ? 呼び戻されてモンスター討伐を中止した私にそれを聞くぅ~?」
理不尽にもオレはその後、バニラさんに長々と嫌味を言われたのだった。
オレ、悪くないのに~。
クソ~、あのお姫様とはもう会いたくないな。
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