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マチルダーズ連合爆釣編

ションドバーズの夜

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 ションドバーズの街に到着した日の夜の事である。

 そりゃあ、昼間、庁舎に潜入してるセンティピード・アラクネー3匹の正体を暴いて倒したんだから、もし他にお仲間が居たら襲ってきますよね~、って話で・・・





 その日の内にワイバーンで帰っていったルイタフ代表の御厚意でションドバーズの街で一番の高級ホテル(異世界ファンタジーだから宿屋と表現したいがマジで高級ホテルで他に表現のしようがなく)に宿泊したら襲われた。

 ふっふっふっ、愚かなり。

 昼間に庁舎内の客室で事情も聞かれずに放っておかれたオレは長ソファーで長々と爆睡してるのだよ~。

 お陰で夜になっても全然眠くないし~。

 それに、いくらオレでも庁舎に3匹も人型モンスターが紛れ込んでる街で呑気に高級ホテルが用意したパジャマで寝れる訳もない。

 ちゃんとバニラさんをならって、ホワイトスネークの一式装備で寝てたっつーのっ!





 そんな訳で、星空が満天の一流ホテルのバルコニーで、

「金玉バット、流星5連撃っ!」

 オレは黒尽くめの恰好の暗殺者5人の股間をすれ違いざまに牙棒でコキン、コキン、コキン、コキン、コキンッと突きまくった。

 悲鳴を上げる事も許さず、身体をくの字に曲げて倒れ、口から泡を吹いた暗殺者5人がそのまま無様に気絶している。

「ふん、弱過ぎるな。もう少し歯応えのある相手を寄越せっての」

 やっぱりただの人間か~。いや正確には5人とも獣人だが。

 ピピーが「スプレー使えサイン」を出さない以前に、「我ら闇牙」とかダッサく名乗った時点で薄々違うと思ったが。

 でも、どうして襲ってきたんだ? オレみたいな純朴じゅんぼくな少年を?

 もしかして昼間の件か?

 虫モンスターが人に化けてコイツラに依頼した?

 そんな事を考えながら部屋に戻ろうとしてたオレにピピーがピヨピヨと言ってきた。

 倒しに出かけちゃえ、と。

 おっ、ピピーのその案、いいかもな。

 どうせ、昼間寝しちゃって眠れないし。

 オレはリュックを背負うと夜の街にお出かけしたのだった。





 ◇





 ションドバーズの街はマチルダーズ連合の主要都市である。

 その深夜の豪商の屋敷に忍び込むまでもなく、ムカデ専用スプレーをまぶした聖矢魔法を200メートル離れた場所から豪邸の窓に撃ち込めば、1分後にはその豪邸から、





「旦那様が、モ、モンスターにーー」

「キャアアアアっ!」

「ち、違う、私はーーグゾオオオオオ、誰だぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」





 何やら悲鳴が聞こえた。

 豪邸を見下ろす3軒隣の豪邸の屋根からその様子を眺めたオレはソイツを倒す事なく夜の闇に消えていったのだった。





 ◇





 ションドバーズの街にも色街はある。

 色街には色々な店があり、エロイ店の他にも酒を楽しむだけの店もあった。

 そんな店の1つで、下卑たストリップショーもなく、オシャレな店内でバラード系をしっとりと歌ってたナンバー1の歌姫にもムカデ専用スプレーをまぶした聖矢魔法を窓の隙間から喰らわせると、





「ーーぐああ」

「なっ!」

「おい、嘘だろ?」

「ミレーヌ姫がモンスターに?」

「に、逃げろっ!」

「魔法騎士団を呼べっ!」

「ち、ちが、私はーーどこの馬鹿よぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」





 大騒ぎになって客達が逃げ、オレもその逃げ惑う客達に紛れてその場から離れたのだった。





 そして噴水のある広場へとやってきた訳だが、

 ピヨピヨ。

 倒さないの、とピピーに質問されたので、

「もちろん倒すさ。もう少し騒ぎが大きくなってからね」

 ピピーにオレが答えると、

「本当でしょうね? 正体を暴くだけ暴いて倒さないってのはナシにしてよ」

 隣でそう言葉を掛けられた。

 見ればエルフ眼鏡のビルデーナさんだった。

「あれ、代表と一緒に帰らなかったんですか?」

「後始末を任されたからね」

「へ~。ならお譲りしますね~。頑張って下さいね~」

「庁舎の3人のよ。他のセンティピード・アラクネーまでは知らないわ」

 あっそ。

「時に、どうしてこんなにセンティピード・アラクネーが大量発生してるんですか?」

「知らないの? それともとぼけてる?」

「知りません」

「ったく、北の大国、エマリス帝国はセンティピード・アラクネーの楽園なのよ」

「えっ、虫と人が共存してるんですか?」

「そんな訳ないでしょ、虫が人を管理してるわよ」

「うわ、最悪~」

 とオレが呟いた瞬間、噴水広場の足元の石畳の下に気配を感じて、

「失礼」

 オレはビルデーナさんの手首を掴んで3メートルほど横に跳んだ。

「キャアア」

 というビルデーナさんの言葉と、





 ドッシャアアアアっ!





 さっきまでビルデーナさんが立ってた場所の石畳が噴火するように吹き飛び、地面から上半身が人間で、下半身がムカデのセンティピード・アラクネーが1匹出現した。

 人間の方は老人の男風だ。

「クソォォォ、外したかぁぁぁぁぁっ!」

 ブチギレのセンティピード・アラクネーがビルデーナさんを睨んで、

「随分と好き勝手やってくれたなぁぁぁぁっ! 宮廷魔術師ぃぃぃぃっ!」

「はあ? 私じゃないわよ。こっちのーーえっ、嘘、居ない?」

 オレを指差そうとしたビルデーナさんがオレが居ない事に驚いてた。

 オレがどこに居るのかと言えばLV373のスピードで、ムカデの下半身で身体を持ち上げてるので顔が320センチの高さにあるセンティピード・アラクネーの斜め後方からシューッとムカデ専用スプレーを横面に吹き掛けて(専用スプレーの射程は2メートル。つまり手を上げればジャンプする事なく吹き掛けられる)離脱してるところだった。

 スプレーを吹き掛けた1秒後には、





「うっぷ、何だ、これはーーグギャアアアアアアアアアアアアアアアっ!」





 センティピード・アラクネーが苦しみ出して地面をのたうち回ったが結局はポックリと絶命したのだった。

「さすがは宮廷魔術師のビルデーナ様だ。センティピード・アラクネーを一瞬で倒すなんて~」

 パチパチパチッと拍手しながら、そうヨイショしたのはオレ自身だ。

「ちょ、ふざけーー」

 オレの狙いに気付いたビルデーナさんが否定する前に、

「本当だ、宮廷魔術師のエルフ殿だっ!」

「おお、ありがとうございます」

「さすがは宮廷魔術師様」

 お馬鹿な民衆がビルデーナさんに群がり、

「待ちなさい、アランっ! センティピード・アラクネーからの敵対心ヘイトを私に押し付けるなんて最低だからねっ!」

 ビルデーナさんが喚いてたが、手柄をプレゼントした奥ゆかしいオレは噴水広場から遠ざかっていったのだった。





 ◇





 正体がバレて逃げようとしたセンティピード・アラクネー2匹を(駆け付けた兵士や冒険者、傭兵達は全員返り討ちにあって被害が甚大な上、誰も倒してなかったので)結局はオレが倒す事になった。

 殺虫スプレーをシューッと一吹きして。





 そして一仕事を終えて例の高級ホテルの宿泊室に帰ってくると、ビルデーナさんが待っていて、

「ねえ、酷くない、あれ?」

「いえいえ、宮廷魔術師が倒した方がマチルダーズ連合全体の士気が高揚しますし」

「怒るわよ」

「ちゃんとオレも仕事をしてきましたから」

「そんな事はどうでもいいのよ。私が殺されるじゃないの」

「えっ、あんな虫ごときに? 嘘ですよね?」

「センティピード・アラクネーの強さを知らないからそんな事がーーって、アースドラゴンを倒せる実力があるんだっけ、アランは?」

 あれ、名前呼びを許したっけ?

 まあいいか。

「まあ、いいじゃないですか。ションドバーズの街にはセンティピード・アラクネーはもう居ないっぽいですし」

 これは嘘じゃない。

 ピピーがそういう反応を示してるのだから。

「どうして、そうーーああ、アナタの精霊獣、分かるんだっけ」

「ええ」

「ったく、マチルダーズ連合に居るセンティピード・アラクネー、ちゃんと皆殺しにしてよ。私の身が危険だから」

「もちろんですよ」

 オレが請け負うと、文句を言ってガス抜きが出来たのか、ビルデーナさんは自分の部屋に帰っていったのだった。

 まあ、ないか。ビルデーナさんとムフフな展開は。

 初対面があれだったからな。

 逆にもし迫ってこられたらハニートラップだってオレの方が警戒するし。

 そう思いながらオレはベッドで眠ったのだった。





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