上 下
40 / 140
マチルダーズ連合爆釣編

ションドバーズの夜

しおりを挟む





 ションドバーズの街に到着した日の夜の事である。

 そりゃあ、昼間、庁舎に潜入してるセンティピード・アラクネー3匹の正体を暴いて倒したんだから、もし他にお仲間が居たら襲ってきますよね~、って話で・・・





 その日の内にワイバーンで帰っていったルイタフ代表の御厚意でションドバーズの街で一番の高級ホテル(異世界ファンタジーだから宿屋と表現したいがマジで高級ホテルで他に表現のしようがなく)に宿泊したら襲われた。

 ふっふっふっ、愚かなり。

 昼間に庁舎内の客室で事情も聞かれずに放っておかれたオレは長ソファーで長々と爆睡してるのだよ~。

 お陰で夜になっても全然眠くないし~。

 それに、いくらオレでも庁舎に3匹も人型モンスターが紛れ込んでる街で呑気に高級ホテルが用意したパジャマで寝れる訳もない。

 ちゃんとバニラさんをならって、ホワイトスネークの一式装備で寝てたっつーのっ!





 そんな訳で、星空が満天の一流ホテルのバルコニーで、

「金玉バット、流星5連撃っ!」

 オレは黒尽くめの恰好の暗殺者5人の股間をすれ違いざまに牙棒でコキン、コキン、コキン、コキン、コキンッと突きまくった。

 悲鳴を上げる事も許さず、身体をくの字に曲げて倒れ、口から泡を吹いた暗殺者5人がそのまま無様に気絶している。

「ふん、弱過ぎるな。もう少し歯応えのある相手を寄越せっての」

 やっぱりただの人間か~。いや正確には5人とも獣人だが。

 ピピーが「スプレー使えサイン」を出さない以前に、「我ら闇牙」とかダッサく名乗った時点で薄々違うと思ったが。

 でも、どうして襲ってきたんだ? オレみたいな純朴じゅんぼくな少年を?

 もしかして昼間の件か?

 虫モンスターが人に化けてコイツラに依頼した?

 そんな事を考えながら部屋に戻ろうとしてたオレにピピーがピヨピヨと言ってきた。

 倒しに出かけちゃえ、と。

 おっ、ピピーのその案、いいかもな。

 どうせ、昼間寝しちゃって眠れないし。

 オレはリュックを背負うと夜の街にお出かけしたのだった。





 ◇





 ションドバーズの街はマチルダーズ連合の主要都市である。

 その深夜の豪商の屋敷に忍び込むまでもなく、ムカデ専用スプレーをまぶした聖矢魔法を200メートル離れた場所から豪邸の窓に撃ち込めば、1分後にはその豪邸から、





「旦那様が、モ、モンスターにーー」

「キャアアアアっ!」

「ち、違う、私はーーグゾオオオオオ、誰だぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」





 何やら悲鳴が聞こえた。

 豪邸を見下ろす3軒隣の豪邸の屋根からその様子を眺めたオレはソイツを倒す事なく夜の闇に消えていったのだった。





 ◇





 ションドバーズの街にも色街はある。

 色街には色々な店があり、エロイ店の他にも酒を楽しむだけの店もあった。

 そんな店の1つで、下卑たストリップショーもなく、オシャレな店内でバラード系をしっとりと歌ってたナンバー1の歌姫にもムカデ専用スプレーをまぶした聖矢魔法を窓の隙間から喰らわせると、





「ーーぐああ」

「なっ!」

「おい、嘘だろ?」

「ミレーヌ姫がモンスターに?」

「に、逃げろっ!」

「魔法騎士団を呼べっ!」

「ち、ちが、私はーーどこの馬鹿よぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」





 大騒ぎになって客達が逃げ、オレもその逃げ惑う客達に紛れてその場から離れたのだった。





 そして噴水のある広場へとやってきた訳だが、

 ピヨピヨ。

 倒さないの、とピピーに質問されたので、

「もちろん倒すさ。もう少し騒ぎが大きくなってからね」

 ピピーにオレが答えると、

「本当でしょうね? 正体を暴くだけ暴いて倒さないってのはナシにしてよ」

 隣でそう言葉を掛けられた。

 見ればエルフ眼鏡のビルデーナさんだった。

「あれ、代表と一緒に帰らなかったんですか?」

「後始末を任されたからね」

「へ~。ならお譲りしますね~。頑張って下さいね~」

「庁舎の3人のよ。他のセンティピード・アラクネーまでは知らないわ」

 あっそ。

「時に、どうしてこんなにセンティピード・アラクネーが大量発生してるんですか?」

「知らないの? それともとぼけてる?」

「知りません」

「ったく、北の大国、エマリス帝国はセンティピード・アラクネーの楽園なのよ」

「えっ、虫と人が共存してるんですか?」

「そんな訳ないでしょ、虫が人を管理してるわよ」

「うわ、最悪~」

 とオレが呟いた瞬間、噴水広場の足元の石畳の下に気配を感じて、

「失礼」

 オレはビルデーナさんの手首を掴んで3メートルほど横に跳んだ。

「キャアア」

 というビルデーナさんの言葉と、





 ドッシャアアアアっ!





 さっきまでビルデーナさんが立ってた場所の石畳が噴火するように吹き飛び、地面から上半身が人間で、下半身がムカデのセンティピード・アラクネーが1匹出現した。

 人間の方は老人の男風だ。

「クソォォォ、外したかぁぁぁぁぁっ!」

 ブチギレのセンティピード・アラクネーがビルデーナさんを睨んで、

「随分と好き勝手やってくれたなぁぁぁぁっ! 宮廷魔術師ぃぃぃぃっ!」

「はあ? 私じゃないわよ。こっちのーーえっ、嘘、居ない?」

 オレを指差そうとしたビルデーナさんがオレが居ない事に驚いてた。

 オレがどこに居るのかと言えばLV373のスピードで、ムカデの下半身で身体を持ち上げてるので顔が320センチの高さにあるセンティピード・アラクネーの斜め後方からシューッとムカデ専用スプレーを横面に吹き掛けて(専用スプレーの射程は2メートル。つまり手を上げればジャンプする事なく吹き掛けられる)離脱してるところだった。

 スプレーを吹き掛けた1秒後には、





「うっぷ、何だ、これはーーグギャアアアアアアアアアアアアアアアっ!」





 センティピード・アラクネーが苦しみ出して地面をのたうち回ったが結局はポックリと絶命したのだった。

「さすがは宮廷魔術師のビルデーナ様だ。センティピード・アラクネーを一瞬で倒すなんて~」

 パチパチパチッと拍手しながら、そうヨイショしたのはオレ自身だ。

「ちょ、ふざけーー」

 オレの狙いに気付いたビルデーナさんが否定する前に、

「本当だ、宮廷魔術師のエルフ殿だっ!」

「おお、ありがとうございます」

「さすがは宮廷魔術師様」

 お馬鹿な民衆がビルデーナさんに群がり、

「待ちなさい、アランっ! センティピード・アラクネーからの敵対心ヘイトを私に押し付けるなんて最低だからねっ!」

 ビルデーナさんが喚いてたが、手柄をプレゼントした奥ゆかしいオレは噴水広場から遠ざかっていったのだった。





 ◇





 正体がバレて逃げようとしたセンティピード・アラクネー2匹を(駆け付けた兵士や冒険者、傭兵達は全員返り討ちにあって被害が甚大な上、誰も倒してなかったので)結局はオレが倒す事になった。

 殺虫スプレーをシューッと一吹きして。





 そして一仕事を終えて例の高級ホテルの宿泊室に帰ってくると、ビルデーナさんが待っていて、

「ねえ、酷くない、あれ?」

「いえいえ、宮廷魔術師が倒した方がマチルダーズ連合全体の士気が高揚しますし」

「怒るわよ」

「ちゃんとオレも仕事をしてきましたから」

「そんな事はどうでもいいのよ。私が殺されるじゃないの」

「えっ、あんな虫ごときに? 嘘ですよね?」

「センティピード・アラクネーの強さを知らないからそんな事がーーって、アースドラゴンを倒せる実力があるんだっけ、アランは?」

 あれ、名前呼びを許したっけ?

 まあいいか。

「まあ、いいじゃないですか。ションドバーズの街にはセンティピード・アラクネーはもう居ないっぽいですし」

 これは嘘じゃない。

 ピピーがそういう反応を示してるのだから。

「どうして、そうーーああ、アナタの精霊獣、分かるんだっけ」

「ええ」

「ったく、マチルダーズ連合に居るセンティピード・アラクネー、ちゃんと皆殺しにしてよ。私の身が危険だから」

「もちろんですよ」

 オレが請け負うと、文句を言ってガス抜きが出来たのか、ビルデーナさんは自分の部屋に帰っていったのだった。

 まあ、ないか。ビルデーナさんとムフフな展開は。

 初対面があれだったからな。

 逆にもし迫ってこられたらハニートラップだってオレの方が警戒するし。

 そう思いながらオレはベッドで眠ったのだった。





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊

北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

エラーから始まる異世界生活

KeyBow
ファンタジー
45歳リーマンの志郎は本来異世界転移されないはずだったが、何が原因か高校生の異世界勇者召喚に巻き込まれる。 本来の人数より1名増の影響か転移処理でエラーが発生する。 高校生は正常?に転移されたようだが、志郎はエラー召喚されてしまった。 冤罪で多くの魔物うようよするような所に放逐がされ、死にそうになりながら一人の少女と出会う。 その後冒険者として生きて行かざるを得ず奴隷を買い成り上がっていく物語。 某刑事のように”あの女(王女)絶対いずれしょんべんぶっ掛けてやる”事を当面の目標の一つとして。 実は所有するギフトはかなりレアなぶっ飛びな内容で、召喚された中では最強だったはずである。 勇者として活躍するのかしないのか? 能力を鍛え、復讐と色々エラーがあり屈折してしまった心を、召還時のエラーで壊れた記憶を抱えてもがきながら奴隷の少女達に救われるて変わっていく第二の人生を歩む志郎の物語が始まる。 多分チーレムになったり残酷表現があります。苦手な方はお気をつけ下さい。 初めての作品にお付き合い下さい。

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

【毎日更新】元魔王様の2度目の人生

ゆーとちん
ファンタジー
 人族によって滅亡を辿る運命だった魔族を神々からの指名として救った魔王ジークルード・フィーデン。 しかし神々に与えられた恩恵が強力過ぎて神に近しい存在にまでなってしまった。  膨大に膨れ上がる魔力は自分が救った魔族まで傷付けてしまう恐れがあった。 なので魔王は魔力が漏れない様に自身が張った結界の中で一人過ごす事になったのだが、暇潰しに色々やっても尽きる気配の無い寿命を前にすると焼け石に水であった。  暇に耐えられなくなった魔王はその魔王生を終わらせるべく自分を殺そうと召喚魔法によって神を下界に召喚する。 神に自分を殺してくれと魔王は頼んだが条件を出された。  それは神域に至った魔王に神になるか人族として転生するかを選べと言うものだった。 神域に至る程の魂を完全に浄化するのは難しいので、そのまま神になるか人族として大きく力を減らした状態で転生するかしか選択肢が無いらしい。  魔王はもう退屈はうんざりだと言う事で神になって下界の管理をするだけになるのは嫌なので人族を選択した。 そして転生した魔王が今度は人族として2度目の人生を送っていく。  魔王時代に知り合った者達や転生してから出会った者達と共に、元魔王様がセカンドライフを送っていくストーリーです! 元魔王が人族として自由気ままに過ごしていく感じで書いていければと思ってます!  カクヨム様、小説家になろう様にも投稿しております!

異世界転生!俺はここで生きていく

おとなのふりかけ紅鮭
ファンタジー
俺の名前は長瀬達也。特に特徴のない、その辺の高校生男子だ。 同じクラスの女の子に恋をしているが、告白も出来ずにいるチキン野郎である。 今日も部活の朝練に向かう為朝も早くに家を出た。 だけど、俺は朝練に向かう途中で事故にあってしまう。 意識を失った後、目覚めたらそこは俺の知らない世界だった! 魔法あり、剣あり、ドラゴンあり!のまさに小説で読んだファンタジーの世界。 俺はそんな世界で冒険者として生きて行く事になる、はずだったのだが、何やら色々と問題が起きそうな世界だったようだ。 それでも俺は楽しくこの新しい生を歩んで行くのだ! 小説家になろうでも投稿しています。 メインはあちらですが、こちらも同じように投稿していきます。 宜しくお願いします。

処理中です...