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マチルダーズ連合爆釣編
ルイタフ・ブラバイズ
しおりを挟むオレはまだションドバーズの庁舎内に居た。
襲われた後も違う応接室に通されて事情を聞かれるでもなく1人にされたので長ソファーに寝転びながら仮眠を取ってると身体を揺すられて起こされた。
睡眠を邪魔されたのだ。
そりゃあ不機嫌になるのが人情ってもので視線で不機嫌さを表しながら見れば、いつの間にか部屋に6人居た。
オレの身体を揺らして起こしたのとは違う一番偉そうな爺さんが、
「やあ、キミがセンティピード・アラクネーを3匹も倒したアラン・ザク君かね?」
と声を掛けてきた。
おおっと~。
この国一番の大物が釣りあがっちまったぞ。
新聞の紙面や土産物店の姿絵で御馴染み、マチルダーズ連合の現代表、ルイタフ・ブラバイズ御本人様が登場とはね。
65歳の白髪と白髭の老紳士。とはいえ、魔法騎士上がりなので線はまだまだ太い。権力者だが服の下は筋骨隆々だろう。
室内に居るお付きの5人も雰囲気がある。強そうだ。
ってか、その内の1人はバニラさんの2回目の表彰式の時に居た眼鏡エルフのビルデーナさんだった。
「まあ、偶然居合わせただけでーー」
オレが長ソファーから起きようとすると、
「そのままで」
ルイタフ代表がそうオレの行動を制した。
「? どうしてです?」
「そっちの方が部下達が警戒しなくて済むからね。ほら、キミ、我々よりも強いから」
「そんな事・・・」
「世の中には相手のLVが分かる便利な魔法のアクセサリーもあるんだよ」
それは本当に便利だな。
ってか何か警戒されてないか、オレ~?
この国のトップに不興を買うのは拙いか。
豊臣秀吉ならこんな出会いでも上手く立ち回れそうだけど、オレは平々凡々なので、
「御命令とあらば、お言葉通りに」
ルイタフ代表の命令通りオレは長ソファーに寝転がった。
不敬じゃないぞ、命令なんだから。
「それで結構。さて質問なのだが、どうやって人間に化けてるセンティピード・アラクネーの正体を見破ったのか教えて欲しい」
「お告げです」
「六柱神の? なるほど、それで・・・因みにどの女神様のお告げか教えて貰っても?」
ルイタフ代表が盛大に勘違いしたので、
「いえいえ、女神様ではなくて精霊獣のお告げです」
オレは慌てて言い直した。
「精霊獣と契約してるのかね?」
「ええ、それでそちらのビルデーナさんと喧嘩になりかけましたから」
「うちのビルデーナと? どうしてだね?」
「精霊獣の真名を聞くんですもん」
「えっ? 教えたらダメだよね?」
「ええ、なのに質問してくるんですから。もう敵認定ですよね~」
「それはーー部下の非礼を詫びさせて貰おう」
本当にルイタフ代表が45度くらい頭を下げて謝罪した。長ソファーに寝転んでるオレの方がまだ顔の位置が低く見上げた格好だったが。
それでもオレの方が恐縮して、
「いえいえ、『初対面の失礼な大人』程度の認識ですから。気にしてませんから頭をお上げ下さい」
「では詫びを受けて貰えたという事で話を戻すがーーキミの精霊獣がセンティピード・アラクネーだと教えてくれたのだね?」
「教える? う~ん、『不機嫌になる』でしょうか」
「なるほど、ともかく分かると」
「みたいです。精度はともかく」
「時にキミ、マチルダーズ連合に仕官する気はないかい?」
おっと、マチルダーズ連合のトップ自らに勧誘されちまったぞ。
正直ノータイムで受けたいんだが、
「えっと、数日前にノルメ閣下に称号に【神童】があるのを理由に16歳までお断りしたところでして、もし今ここで士官の話をお受けするとノルメ閣下のメンツが丸潰れになるというか」
「つまり本音は?」
「『代表の直属ならば喜んで』ですが『ノルメ閣下のメンツも潰すのも困る』です」
「八方美人って訳だね」
「いえ、オレが原因でノルメ閣下が代表から敵対派閥に寝返ったら拙いでしょう、って話をしています」
「ほう。さすがは貴族の子弟だね。14歳で十分情勢が見えてる」
「いえいえ」
「ならば当分は私の裏部隊としてクランで動いてくれたまえ」
「クラン長は別ですよ?」
「私の陣営に付くんだよね、キミのクラン長も?」
「だと思いますが、知り合ったばかりなので何とも」
と話すオレに、
「まあ、その話はおいおいとして。マチルダーズ連合内にセンティピード・アラクネーが紛れ込んでるのはよろしくない。見かけたら遠慮なく正体を暴いて討伐してくれたまえ」
「畏まりました」
「ションドバーズには竜骨発掘場に巣食ったセンティピード退治で来てるんだよね?」
「はい、ノルメ閣下の命令で来ました」
「では、そちらも頼むね」
「分かりました」
「最後にアースドラゴンの素材なのだが全部こちらに渡して欲しいのだが」
「いやいや、オレの装備の分は渡しませんよ、さすがに」
「ああ、安心してくれたまえ。査定の為に一端全部預かるだけで後日ちゃんと必要な分は返すから。何だったらクラン員全員分でも」
「いえ、そこまでは必要ないでしょう」
「そうなのかい?」
「はい、実力で狩った素材じゃないと勘違いするでしょうから。代わりに素材解体用のノコギリもお願いしますね」
「アースドラゴンの牙で作るって意味かい? かなり豪勢だと思うが」
「それだけの大物をこれからも狩る予定ですので」
「ふむ。では交渉成立という事で」
こうしてオレは別室にてルイタフ代表にアースドラゴンの素材を全部預けたのだった。
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