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マチルダーズ連合爆釣編

ションドバーズの街の為政者

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 エンゼゲーツの森の夜。

 アースドラゴンの解体を終えたオレは夕食も食べずにトミナさんを捜索する破目になった。

 そしてトミナさんは簡単に見つかった。

 結論から言うと、トミナさんは別にモンスターに捕まってエロイ事をされてるとかではなく、本当にただの迷子だった。

 何せ、本当にこのエリアにはモンスターが1匹もいなかったから。

 動物もだ。

 よっぽどアースドラゴンを恐れてるのか。

 いや、ブチギレたあの咆哮の所為だな。

 ってか、それよりもトミナさんだ。

 大木の根元で三角座りしてグッスンと泣いていた。

 あっ、可愛いかも。

「結構探しましたよ、トミナさん」

 嘘だけどね。

 ピピーが指し示した方向に進んで20秒で発見だから。

 ってか、アースドラゴンの解体現場から僅か10メートルしか離れてなかったし。

 本当に迷子か?

 演技とかじゃないだろうな?

 オレが疑う中、トミナさんはオレを見て、

「アラン殿~」

「おっと」

 トミナさんに抱き付かれた。

 甲冑が硬いだけで全然、柔らかくないけど。

 これって、もしかして心細い捨て猫が拾われて心を開くみたいな?

 そしてそして、このまま今夜、この森で初体験をーー

 ピピピピッ。

 オレの頭の上でピピーが激おこなのでそれは無理か。

「大丈夫ですか?」

「ああ、すまない。気が動転してしまって」

「さあ、戻って食事にしましょう」

 オレは堂々とトミナさんの手を握り(いや、変な下心はない。マジで腹が減ってて、ここで更なる迷子イベントが起きたらオレがキレそうだったから。それでも)、トミナさんの名誉の為にも少し大回りしてアースドラゴンの解体現場に戻ったのだった。





 ◇





 一夜が明けた訳だが。

 嘘だろ、何もなかった、トミナさんと。

 ムフフな展開はもちろん、焚火の前でトミナさんが照れくさそうにオレの隣に座ったり、寝る時に「冷えるので、もっと近くに」的な沿い寝や親密イベントも。

 昨夜、手を繋いで野営地点に戻ったところまではいい雰囲気だったのに、焚火の前で対面に座られてからは何も。

 あれ、何かおかしくない?

 もしかしてオレ、前世で「非モテビーム」を誰かに撃たれた?

 それとも単に縁がなかっただけなのか、トミナさんとは?

 でも、さすがにこの鬱積を誰かにぶつけなければ気が収まらないぞ。





 そんな訳で、フォレストビッグベアー1匹と遭遇して、

「じゃ~ま~」

 バットフルスイングでフォレストビッグベアー1匹の顔面を吹き飛ばした。

 死骸の解体は面倒なのでしないけど、心臓部から魔石だけはゲットしておいた。

 ほら、オレって【剥ぎ職人】のお陰で何となく魔石があるって分かるから。

 他の素材は放置だ。

 もうアースドラゴンの素材を丸々持ってるからね~。

 この【モンスター除け】の魔法の指輪って、モンスターが寄って来ないけど、こっちからモンスターに近付いたらアウトな訳ね。

 ってか、アイテム関係のステータスって開かないのか、この世界?

 凄く不便なんだが。





 ◇





 エンゼゲーツの森をどうにか抜けた。

 ってか、森の中で雑魚モンスター(スネイルスライム3匹の群れ、イエローキャタピラー2匹の群れ)と遭遇したが冒険者とは1人も遭遇しなかった。

「今ションドバーズの街は竜骨採掘場に掛かり切りと聞く。その所為だろう」

 そう答えたトミナさんは全然デレてない。

 ちぇ、トミナさんとは縁が本当になかったのかもな。

「なるほど」

 まあ、余裕なんだけどな、その竜骨採掘場のモンスターはオレからしたら。

 大ムカデ30匹前後なんだから。

 おっと、慢心は良くないな。

 オレとトミナさんは主街道からションドバーズの街を目指した。





 ◇





 そして、やってきました、ションドバーズの街。

 当然、モンスターが出る異世界ファンタジーなのだから城塞都市だ。

 城門を通過するには何やら手続きが必要らしかったが、こっちには通行手形代わりのトミナさんが居る。

 何せ、マチルダーズ連合の女魔法騎士の装備一式をしているので、下っ端兵士達は敬礼しながら、

「どうぞ、中へ」

「そちらのお連れの方も」

 オレも余裕で通れた訳だよ。





 ションドバーズの街はローセファースの街よりも栄えていた。

 何せ、主街道の要にある訳で、マチルダーズ連合でトップ3に入る繁栄ぶりだった。

 人口も多い。

 特産物は近隣の竜骨採掘場から取れる竜骨だったりする。

 つまりはマチルダーズ連合の主要都市だ。

 当然、代表の子飼い議員が執政官に収まってる訳だが、そのションドバーズの街は現在ピンチだった。

 理由は竜骨採掘場に大ムカデの群れが住み着いたからだ。

 それを退治するのがオレの役目という訳だ。

 さっさとその竜骨採掘場に向かいたかったのだが、まずはノルメ閣下の紹介状を持って、ここの庁舎の執政官に会いに行った。

 オレの冒険者の等級は3本。つまりはまだまだその辺に居る冒険者と変わらない。

 よって普通に考えれば遭えないのだが何故か遭えた。

 そう言えばノルメ閣下はナンバー7か8って言ってたっけ。

 という事は、ここの執政官って、もしかしなくてもノルメ閣下よりも凄い相手?

 庁舎に入ると執務室にトミナさんと一緒に通された。

 そこで待ってたのは本当に執政官で、深緑の髪をした30代の男の眼鏡は需要がないというのに、眼鏡を掛けた魔術師だった。

 30代で大都市の執政官って、どれだけエリートなんだか。

 眼鏡をクイッとしそうな優男で、

「やあ、遠いところをよく来てくれた」

 などと好意的に出迎えてくれた訳だが、トラブルが発生した。

 オレの頭の上に乗ってるピピーが激おこで、ピピピッと「スプレーを吹きかけろサイン」を出したのだ。

 つまりだよ。

 ほら、前にあったでしょ?

 どっかのボロ教会の老神父に化けてたセンティピード・アラクネー。

 その時と同じリアクションだった訳で、もし本当にそうだったとしたら、こいつは虫モンスターの人型が化けてる事になる。

 おいおい、マジですか、ピピーさん?

 老神父の時は違っても「すんませ~ん」で済む、と楽観的に考えてオレも気軽にスプレーを吹き掛けてたが、今回の相手は権力者だぞ。

 スプレーをシューッとして違ったら、相手が相手なだけに温厚そうだけどそれでも不敬罪とかで牢屋送りだってありそうなのに。

 本当だろうな?

 信じるぞ。

 信じるからな、ピピー。

「私、ローセファース方面ノルメ千人隊魔法近衛第24隊隊員、魔法騎士トミナです。ノルメ千人長の命令で、こちらのクラン【氷の百合】所属の冒険者、アラン・ザクを連れて参りました」

「おお、それは御苦労さま。よろしくね、アラン殿」

「こちらこーー」

 挨拶しながらシューッと無印の【殺虫スプレー】を使って、名前も知らない為政者の顔に吹き掛けたら、





「グアアアアアアアアアア、貴様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」





 顔を抑えた為政者が変化した。

 いや、元の姿に戻ったか。

 顔がモンスターっぽくなって、下半身が3メートルくらいのムカデの胴体になる。

 おお、ピピーの言う通り、やはり人型のモンスターだったか。良かった~。

 それもまたもセンティピードだし(ああ、ムカデね)。

 そして、この執務室内にはオレとトミナさんの他にも為政者の護衛の魔法騎士が6人居た訳で、

「な、何だと?」

「馬鹿な」

「い、いつから入れ替わっていたんだ?」

「そう言えば、苦手だった人参を食べてたのを見た事が・・・」

「それよりも退治しろっ!」

 魔法騎士とは思えないナイスリアクションを取ってた。

 まあ、オレが経験値を他人にくれてやる訳もなく、

「グアアアアアア」

 まだ顔面を両手で抑えながら苦しんでるセンティピード・アラクネーの顔面に、

「はい、終わり」

 オレが追加でムカデ専用スプレーをシューッと顔面に吹き掛けると、





「グギャアアアアアアアアアアアア」





 苦しんだセンティピード・アラクネーは3回部屋の壁に衝突して、魔法騎士を2人巻き添えにしたが、結局は死んだのだった。

 んっ、7秒粘った? 個体差があるのか?

 いや、顔面を両手で覆ってたから効きが甘かった、だな。





 アラン・ザク。14歳。LV372→373。

 ジョブ:棒使い、精霊獣使い、聖天魔術師

 スキル:【殺虫スプレー】(31)(33)(33)(33)(14)ノズルタイプ(30)(30)cold(30)(30)ムカデ専用(29)蜘蛛専用(30)蜂専用(33)蟻専用(30)

 称号:【貴族名鑑】【神童】【格上潰し】【英雄の雛】【精霊獣の契約者】【聖雛を連れて歩く者】【蜂殺し】【聖天を司る者】【女神の裁きの代行者】【古代種殺し】【白霧の狩人】【打の極みへの道】【無傷の強者】【弱きを貪る者】【剥ぎ職人】→new【流しの解体屋】【虫殺し】【骨竜殺し】new【幸運の緑竜鱗】new【大地の若竜牙】new【熱中のコーラル】





 【流しの解体屋】大型モンスターの解体の速度が1.5倍。解体用道具の損傷度が25%減。





 取得条件:解体系のジョブがなく、剥ぎ系称号を所有する状態でLV200以上のモンスター解体で一定の経験値を得る。





 【幸運の緑竜鱗】運が2倍。偉人賢人との遭遇率上昇。





 取得条件:グリーンドラゴンを特殊条件下(今回はソロ、2撃、タイム、ノーダメージ、断末魔呪詛防御)で倒す。





 【大地の若竜牙】HP1.2倍、防御2倍、地属性ダメージ50%減、地属性ダメージでMP回復。麻痺耐性、毒耐性、石化耐性、地震耐性。大地精霊魔法(中級)解禁。





 取得条件:LV300以上~400未満のアースドラゴンに一定のダメージを与えて討伐する。





 【熱中のコーラル】好きな事に没頭する時、集中力が増す。作業効率1.1倍。




 取得条件:2時間、無言、1人、ノーミス、ハイテンションで作業する。





 おっ、LVが1上がってる。

 いつだ?

 スプレーの減りがリセットされてないのを考慮すると、今の人型の時じゃないな。

 アースドラゴンを倒した時か。

 推定LV320だったもんな~。

 1上がって恩の字か。

 称号も4つ付いて、ーーいや新規は3つか。

 一番お得なのは【大地の若竜牙】だな、どう見ても。

 中級とは言え、大地精霊魔法が解禁ってかなりの旨味があると見た。

 他の称号は、解体速度が1.5倍で、運が2倍は当たりかな?

 作業効率1.1倍は何とも言えないが。

 いいね、乗ってるね。

 人型のモンスターも倒してるし。

 風がオレに吹いてるっぽい。

 そのまま一気に上昇ってか?





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