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マチルダーズ連合爆釣編
エンゼゲーツの森と推定LV320のアースドラゴン
しおりを挟むまだ移動の初日だ。
モメーセカ橋を越えると次はエンゼゲーツの森が出迎えた。
この森の中を北側に向かって縦断して森の北側に横に通る主街道を目指す。
このエンゼゲーツの森が本日の最大の難所と言えた。
何せ、異世界ファンタジーの森だ。
モンスターが居ないなんて事はない。
寧ろ、モンスターが居なかったら、そっちの方が警戒だ。
毒や呪いの地質だという事なのだから。まあ、不思議現象もあるだろうが、警戒するならまずは毒や呪いだ。
そして、このエンゼゲーツの森はそうではない。
ローセファースの冒険者ギルドにオレが出向かなくてもクラン【氷の百合】の本部の一室にはマチルダーズ連合全域、並びにジオール王国東部のモンスターの情報が掻き集められてる。
その情報源を信じるならば、このエンゼゲーツの森にはちゃんとモンスターが一杯居た。
主は、
推定LV320の中型のアースドラゴン1匹。
対抗馬として、
森の植物を操る推定LV230のフォレストビッグベアー10匹の群れ。
空を凍らす王者、推定LV280のアイスファルコンのつがい。
エンゼゲーツの森の危険なモンスターのトップ3はこれらとなった。
オレも前世でファンタジーゲームを嗜んだ男だ。
アースドラゴンにはさすがに興味がある。
アースドラゴンとは翼のない地竜で、恐竜の何とかザウルスっぽいタイプの事だ。
よってモンスターを狩るゲームみたいに飛んで逃げられる心配がない。
そしてLVはオレの方が既に上。
アースドラゴンに挑んでもみたかったが、だが今回はそうも言っていられない事情がある。
何せ、森の中で夜になったら最悪だからな。
今回の目標は夕方までにこのエンゼゲーツの森を突破して主街道にある村、または野営所を提供してくれる森の監視塔への到着なのだから。
つまり「移動を優先して時間を無駄にする戦闘はするな」って事だ。
そんな訳で、ずっと装備してる【モンスター除け】の魔法の指輪の出番だ。
頼むぜ~。
本当に頼むぜ~。
さっきの荒野では【モンスター除け】を突破してくる馬鹿犬が居たんだからさ~。
そう祈りながらオレは森を進んだ。
狼で森を走る。
オレが乗る狼は馬サイズだ。
なので騎乗時のオレの頭の位置はなかなかに高い。
低木の枝なんかが危ない訳でピピッとピピーが警戒を示す中、
「おわっ、のわっ!」
オレも狼の上で枝を避けながら喚く破目になった。
「アラン殿、狼をちゃんと操縦しないと」
「してますけど、狼が自分の事しか考えてなくて」
この狼、マジか?
荒野だと気付かなかったが、こういう障害物のある地帯ではダメだな。
更にダメな事が起こった。
雑魚ゴブリンとのエンカウントだ。
ゴブゴブッと4匹と遭遇する。
「ああ、鬱陶しいっ!」
この声はオレじゃないぞ。
確かにそう思ったけど。
トミナさんがそう言いながら狼の上から槍を振るってゴブリンを倒してる。
あっ、オレ、持ってない、騎上戦闘用の武器。
オレは遅蒔きにそう苦笑したが、その頃にはトミナさんがゴブリンを追っ払っていた。
「さあ、急ごう、アラン殿」
「はい」
オレは返事をして狼を進ませた訳だが、オレは失念していた。
森の外周が雑魚モンスター。
森の深部が強いモンスター。
このように住み分けがされていて、オレは現在エンゼゲーツの森の南側の外周を入ったところだった事を。
そしてもう1つ。
前世で存在するとの都市伝説があった「地図の読めない方向音痴の女」の存在を。
◇
そんな訳でエンゼゲーツの森の深部エリアでオレは迷子になっていた。
キリッとしてるトミナさんを信じて先頭を任せたオレも馬鹿だったのだが。
「申し訳ない、アラン殿。迷いました」
と告白した潔さだけは認めるけどさ~。
この迷子の教訓は「自分以外をアテにしてはダメだ」って事なのだろうか。
まあ、ともかく、
「ここからはオレのやり方で移動させて貰いますね」
「分かった」
との了承を得たので、オレは狼の背中の上から、
聖なる女神よ、光明よ。
竜を滅する聖なる力の槍を与えたまえ。
我が眼前の竜を屠る槍を与えたまえ。
「竜を屠る聖なる槍」
北側に向かって魔法を放った。
オレが放った聖槍魔法が樹木を薙ぎ倒していく。
ピヨピヨ。
ナイス、とピピーがオレの頭の上で機嫌良く鳴いた。
「アラン殿、何を?」
「道を作ってるんですよ、迷わないように一直線のを。ここを駆け抜けて遅れた分を取り戻ーー」
驚いたトミナさんにオレが得意げに答えようとした言葉は、
ングギャアアアアアアアアっ!
との鳴き声に遮られた。
あれ?
何かやっちゃった、オレ~?
「ええっと、アラン殿、今のは?」
「トミナさんが迷子になったように誰にでも手違いというのはあるというか、あっちから行きましょう」
オレはそう言ってせっかく作った道の右側の茂みへと狼で進み出そうとしたが、
「アラン殿、まさか放置していくつもりか?」
「何をです?」
とぼけたオレが真顔でトミナさんに答えた声に、被さるように、
アンギャアアアアアアアっ!
モンスターのブチギレた鳴き声が森を振動させたのだった。
◇
はいはい。
自分の尻は自分で拭けばいいんでしょ。
ったく、エンゼゲーツの森の深部エリアで迷子になったトミナさんが悪いのに。
オレはトミナさんがミスしたリカバリーの為に道を作っただけなのに。
なのに、どうしてこんな事になるのかね~。
世の中、間違ってないか。
仕方なくオレは、さっきから、
ヌギャアアアアアアアアっ!
馬鹿みたいに喚いてるアホなモンスターの元にやってきた。
そこでオレが見た光景はブチギレて眼が完全にイッてる20メートルサイズの緑色の鱗に覆われたアースドラゴンの姿だった。
咆哮する度に周囲の地面に魔法陣が展開され、魔法陣から岩の錐を何個も突出させている。
そのアースドラゴンの横っ腹は見事に裂けており、紫色の血を流していた。
もしかしなくても今さっきオレが道を作る為に撃った魔法が直撃した?
それで無意味に当たり散らすように暴れてる?
やれやれ、こんな形で遭いたくはなかったが、これも運命か。
恨むならトミナさんを恨んでよね。
オレは茂みの陰から、
聖なる女神よ、光明よ。
竜を滅する聖なる力の槍を与えたまえ。
我が眼前の竜を屠る槍を与えたまえ。
「竜を屠る聖なる槍」
呪文を詠唱して不意撃ちでアースドラゴンを攻撃した。
不意討ちなので当然、聖槍魔法が当たる。
もちろん負傷して裂けてる横っ腹を狙った。
ンヌギャアアアアアアアアアアっ!
こうしてオレが放った聖槍魔法によってアースドラゴンは腹から上下に切断されて絶命したのだった。
倒したアースドラゴンを前にトミナさんが、
「アースドラゴンを魔法の一撃で倒すなんてあり得ない」
いや、2撃ですけど。
何やらオレにリスペクトの眼差しを向けてるが、今の問題はそこじゃない。
このアースドラゴンの素材を放置するかどうかだ。
当然、放置などしない。
ドラゴンだぞ、ドラゴン。
その素材だ。
絶対に大金になる。
上下に分断された20メートルサイズの半分は10メートルだが。
その塊が丸々アイテムボックスの中に入る訳もない。
そこで登場するのが、ドルバンさんの鍛冶屋でゲットしたドラゴンも解体出来ると言ってたモンスター解体用のノコギリだ。
「アラン殿、まさかーー」
「いやいや、捨てていくなんて絶対にあり得ませんから」
「冒険者ギルドで説明されてると思うが、ドラゴン素材の売却はマチルダーズ連合の管理となるのでそのつもりで。当然、現代表派閥の庁舎に降ろされるように」
「分かってますって」
さらっとオレは答えたが。
あれ、そうなの? 説明とか受けてないんだけど。
それが本音だった。
だってギルド長、オレに何の説明もしてないから。
「今から解体すれば本日は野営になるがいいのだな?」
「ええ」
「分かった」
迷子になった負い目か、ドラゴン素材の貴重性を考慮したのか、トミナさんも了承したのでオレは解体を始めた。
尻尾を切ってアイテムボックスに入れる。
足4本を根元から切ってアイテムボックスに入れる。
首部分を切ってる最中にノコギリの片刃が完全にイカれた。
「ああ、もうっ! 何がドラゴンも解体出来るだ、ドルバンさんめっ!」
そうか、【聖装強化】の魔法を使えばーー
オレは両刃のノコギリの残る片刃で解体を始めたが、その途中で夕焼けになった。
「アラン殿、私は野営の準備を始めるな」
「ええ、よろしく」
トミナさんがそう言って焚き火の燃料の材木を拾いに出かけた。
オレは解体を続ける。
そうそう、言い忘れてたけど、オレが解体中、1回もモンスターとは遭遇していない。
ここがアースドラゴンの縄張りだからなのか、それとも死ぬ前にブチギレてたアースドラゴンの咆哮の所為で周囲の雑魚モンスターが一斉に逃げたのかは知らないけど。
オレは首を切断してアースドラゴンの頭部をアイテムボックスに入れた。
残るは胴体だ。
頭部を切った残り6メートルサイズの上半身を更に半分輪切りにして、両方をアイテムボックスに入れた時には夜になった。
「聖光」
最初に覚えた魔法を使って光源を作る。
夕食? 休憩?
そんなものは後だ。
モンスターの襲撃を受けたらどうする?
もちろん撃退するが、鳥が獲物を掴んで飛び去るようにアースドラゴンの解体した残りの死骸を持ち逃げしたら?
あり得ない。解体優先だ。
尻尾を失った下半身側7メートルサイズも更に輪切りに切断した。
その全部をアイテムボックスに入れて、
「ふ~、ようやく一息つける」
満足したオレは座ってクラン【氷の百合】の拠点の料理長が作ったお弁当を広げようとして、
「あれ? トミナさんは?」
トミナさんが居ない事に気付いた。
オレを置いて先に拠点に向かった?
いや、トミナさんが乗ってた狼はちゃんとここに居る。
ってか、あれ・・・いつからトミナさんは居ないんだ?
ああ、野営の準備をするって言って離れてたな。
まさか、それから、ずっと?
おいおい。
「まさか迷子なんて事はないだろうし、モンスターに襲われた? エロピンチな事になってないだろうな」
オレは仕方なく夕食も食べずに立ち上がってトミナさんを探す事にした。
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