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マチルダーズ連合爆釣編

引き抜き話と派遣話

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 トミナさんは監視役の仕事をちゃんとしたらしい。

 よってアーマービッグピルバグ3匹を討伐した翌日、オレは何故かローセファースの街の庁舎の一室に呼ばれていた。

 バニラさん抜きのオレ1人で。

 そして眼の前にはノルメ閣下が居た。

 50代で白髪と整えられた白髭をした屈強なオッサンだ。騎士寄りの魔法騎士で知的さも兼ね備えていた。

 これがノルメ閣下か。

 近くでじっくりと見るのは初だな。

 マチルダーズ連合のナンバー7くらい。

 確かに大人物には違いないな。

 カリスマ性もありそうだし。

「あの、何の御用でしょうか?」

「クラン【氷の百合】を辞めて、私の直属の部下にならないか」

 おっと、引き抜きの話だった。

「お断りします」

 オレが断るとは思ってなかったらしい。

「何故だね」

 不機嫌さを隠しながらノルメ閣下が質問してきた。

「実はボク、称号に【神童】があるんですよね~。なので16歳まではLV上げや称号獲得に専念したくて」

「・・・なるほど。宮仕えの雑務には構ってられない訳か。だがクランの創設だってーー」

「立入禁止の危険エリアへの移動許可を得る為ですよ。14歳だと入れませんからね。ジャブローレ火山地帯とリックディーストロ闇渓谷の2カ所には」

「クラン長のバニラ殿の弟子として入る訳だな」

「そういう事です」

「ふむ。では今後も友好的な関係という事で頼むよ」

 ええ~。

 あっさりと引き下がっちゃうの~?

 三顧の礼でしょ、ここは? 劉備玄徳が諸葛亮孔明にした奴~。

 後2回頼んで、最後には臣下の礼を取ってまでオレを配下に欲しがって、そこでオレが説得される、というオレが大成した時の語り草となる名物シーンのはずなのに~。

 1回で採用を諦めるって。

 コイツに仕えるのはないな。

 そもそも50代で10年後には隠居してるし。(0.1秒)

「クラン【氷の百合】もそのはずですよ? 現代表の派閥の後押しをすると聞いていますから」

「情勢が不利なのに?」

「だからこそでしょう。逆転すれば見返りも大きいですから」

「なるほど、そんな見方もある訳か・・・時に聞いたかね? 霧平原の谷エリアの調査隊が護衛の【赤の暴風】の第3部隊共々昨日全滅した話?」

「ええ。谷エリアにウォーターサーペントが出現したらしいですね。下流から昇ってきたんですかね?」

「いや、ローセファース霧平原のぬしのミストジャイアントマンティスが居なくなって、主候補が進化したのだろう」

「何ですか、それ?」

「そこからか? つまりだね」

 その後の小難しい説明を要約すると、不思議地帯の霧平原にはぬしという存在が歴代存在し、主が死ぬと次の主が現れるのだそうだ。

 種類も様々で、カマキリの他にカメや蜘蛛も居たらしい。

 そして今回は蛇なんだとさ。

 さすがは異世界ファンタジーの不思議地帯だ。

 理解不能だな。

 いや、ガーディアンが必要だからその場所がモンスターを進化させてる?

 もしくは不思議地帯の魔素をモンスターが吸って進化した?

 う~ん。

「早速だが退治してきて欲しいんだが」

「退治は出来ますが素材の回収はどうするんですか?」

「それだよ、問題は。濃霧の谷エリアまで解体職人を護送する訳にはいかないからね。アイテムボックスに居れるにしてもブツ切りにする必要があるし」

「当分は様子見でいいんじゃないですか」

「そうだな。時に遠征に出てくれたりは可能かな?」

「具体的には?」

「代表派閥が統治してる領土で暴れてるモンスターの退治だ」

「それなら余裕でやりますけど。でもクラン長のバニラさんの許可がないと」

「そう言えば一緒に寝てるらしいが恋人なのかね?」

 おっと、そんな情報まで入手してるのか。

 まあ、屋敷の情報収集など朝飯前か。メイドさんの世話をノルメ閣下にして貰ってるのだから。

「いえ、ただの用心棒です。異常に恐れてます、ジオール王国から放たれる暗殺者を。そして本当に既に3人来てます」

「1人だよね、寝室まで押し入ったのは?」

「ええ、そこまでの侵入は。でも他にも2人程」

「本当にジオール王国と揉めてる訳かーーそう言えばキミは男爵家の三男だったな?」

「死んだ事になってますがね」

 オレはニヤリとした。

「どうして死んだ事に?」

「籍を抜いて母方の商家に送られましたからね。商家に引き取られて働くなんて嫌に決まってるじゃないですか。それで偶然討伐した大ムカデの素材で買収しまして死んだ事に。当然ジオール王国には居れず、マチルダーズ連合に流れてきて、手頃な冒険者を隠れ蓑にして路銀を稼いでLV上げを、と思っていたら何やらクラン創設に関わってしまって今、閣下の前に居ます」

「ふむ。なるほどな。ではそのクラン長と話をしてみるか」

 ノルメ閣下が部下を呼んで、バニラさんに使いを出して、その後も雑談をしていると30分ほどでバニラさんがやってきた。

 オレに咎めるような視線を向けたバニラさんが、

「うちのクラン員が何か粗相をしたでしょうか?」

「いや、代表派閥が統治してる領土で暴れてるモンスター退治を彼に依頼したらクラン長の了承が居ると言われてね」

「クランへの依頼でしょうか?」

「いや、彼個人への依頼だよ」

「私とアランが別行動する訳ですね」

「ああ、可能か?」

「まずは地図と依頼内容を教えていただきたく」

 その後、広げられたマチルダーズ連合の地図を見ながらノルメ閣下とバニラさんが真剣に話し合い、オレは興味がなかったのでボーッと聞いていた。

「狼での5泊6日くらいなら大丈夫かと」

「なら、それで。いいね、アラン君?」 

 バニラさんが了承してノルメ閣下がオレに聞いてくるので、

「ええっと、道中のトラブルを避ける為に出来ればマチルダーズ連合の魔法騎士が一緒だと助かるんですが」

「逆でしょ。一緒に居たら余計にトラブるわよ、アラン」

「そうなの?」

「ええ、マチルダーズ連合は今、代表と敵対派閥がバチバチなんだから」

「それでもチンピラに喧嘩を売られない為に随行者は魔法騎士がいいかな」

「では、そうしよう」

 その他、色々とクラン【氷の百合】として契約内容を決めてからオレとバニラさんは庁舎を出たのだった。





 クラン【氷の百合】の屋敷に戻る蜥蜴車の中で、

「派遣話だけだったの?」

「そんな訳ないでしょ、バニラさん。堂々と引き抜き話をされたよ」

「アランが引き抜き話を受けなかったから派遣依頼の為に私が呼ばれたのね」

「そういう事。【神童】が切れるまでは成長優先だよ。それよりもオレが居なくて大丈夫なの? 暗殺者が飛んできたらーー」

「もう大丈夫よ、私にはこれがあるんだから」

 バニラさんは古代遺産の腕輪を見せてそう笑ったのだった。





 ◇





 狩猟に出なくてもオレがやるべき事は色々ある。

 まずはドルバンさんの鍛冶屋での推定LV220のホワイトスネークシリーズの武具の受け取りだ。

「おお、凄くいいですね」

 白蛇皮の戦士コートを纏いながら、オレは感想を言った。

「だろ、だろ? なかなかの会心の出来だし」

「この牙棒のグリップの太さも、柄の先の魔法のアクセサリーを嵌め込めれる箇所も」

「だろ、だろ。おまえさんは分かる男で助かるわ~」

 ドルバンさんもご満悦だ。

「料金は?」

「素材の残りで構わん。差額分も用意してあるぞ」

 こうしてオレは金貨20枚と端数の小銭少々を受け取りつつ、ホワイトスネークシリーズのリュックやベルトポーチ込みの装備一式を手に入れたのだった。

 ついでにホワイトスネークの討伐後の解体が手こずったので、解体用のノコギリも購入した。





 続いて解体屋だ。

 ジョロンさんがオレを見て、

「まだだぞ、アーマービッグピルバグ3匹とアーマーピルバグ22匹は」

「いえ、そっちじゃなくてホワイトスネークの素材の方です」

「待て待て。代金はクランに後日届けるって事で話は付いてるはずだろ? ここには金はないぞ」

「いえ、そうじゃなくて・・・19人に配ってくれましたか、素材?」

「ああ、そっちか。もちろんさ。数日後にはホワイトスネーク装備の連中が冒険者ギルドに多数現れるだろうよ」

「あれ、お金に替えなかったんですか、皆さん?」

「冒険者なら防具にするさ。何せ、自分の命が懸かってるんだから。それに引退する時に中古でもホワイトスネークの装備なら売れるからな」

「なるほど。では、引き続きよろしくお願いしますね」

 オレはそう挨拶して解体屋を後にしたのだった。





 本日は庁舎に呼び出されたのでモンスター退治に出掛けない日となってる。

 お陰で余暇となり、まだまだ時間があり、オレはクラン【氷の百合】でお勉強をしていた。

 素材の剥ぎ方が図付きで書かれた本を読み、薬草図鑑を読んで薬草を覚える。

 マチルダーズ連合やジオール王国の地理も覚える。

 モンスター図鑑も当然見て、モンスター名や特殊攻撃を丸暗記した。

 やる事は一杯だ。

 何せ、貧乏男爵ザク家では一切勉強をしていなかったからな。

 (商家に送り返す為か)オレが読み書きが出来るようになってただけでも奇跡と言っていいだろう。

 そしてLVが372なので知覚も高いからだろうか、やけにスラスラと頭の中に入っていく。

 オレは勉強机に居るピピーを撫でて癒されながら勉強をしまくったのだった。





 まあ、何の称号は付かなかったけどね。





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