34 / 140
マチルダーズ連合爆釣編
引き抜き話と派遣話
しおりを挟むトミナさんは監視役の仕事をちゃんとしたらしい。
よってアーマービッグピルバグ3匹を討伐した翌日、オレは何故かローセファースの街の庁舎の一室に呼ばれていた。
バニラさん抜きのオレ1人で。
そして眼の前にはノルメ閣下が居た。
50代で白髪と整えられた白髭をした屈強なオッサンだ。騎士寄りの魔法騎士で知的さも兼ね備えていた。
これがノルメ閣下か。
近くでじっくりと見るのは初だな。
マチルダーズ連合のナンバー7くらい。
確かに大人物には違いないな。
カリスマ性もありそうだし。
「あの、何の御用でしょうか?」
「クラン【氷の百合】を辞めて、私の直属の部下にならないか」
おっと、引き抜きの話だった。
「お断りします」
オレが断るとは思ってなかったらしい。
「何故だね」
不機嫌さを隠しながらノルメ閣下が質問してきた。
「実はボク、称号に【神童】があるんですよね~。なので16歳まではLV上げや称号獲得に専念したくて」
「・・・なるほど。宮仕えの雑務には構ってられない訳か。だがクランの創設だってーー」
「立入禁止の危険エリアへの移動許可を得る為ですよ。14歳だと入れませんからね。ジャブローレ火山地帯とリックディーストロ闇渓谷の2カ所には」
「クラン長のバニラ殿の弟子として入る訳だな」
「そういう事です」
「ふむ。では今後も友好的な関係という事で頼むよ」
ええ~。
あっさりと引き下がっちゃうの~?
三顧の礼でしょ、ここは? 劉備玄徳が諸葛亮孔明にした奴~。
後2回頼んで、最後には臣下の礼を取ってまでオレを配下に欲しがって、そこでオレが説得される、というオレが大成した時の語り草となる名物シーンのはずなのに~。
1回で採用を諦めるって。
コイツに仕えるのはないな。
そもそも50代で10年後には隠居してるし。(0.1秒)
「クラン【氷の百合】もそのはずですよ? 現代表の派閥の後押しをすると聞いていますから」
「情勢が不利なのに?」
「だからこそでしょう。逆転すれば見返りも大きいですから」
「なるほど、そんな見方もある訳か・・・時に聞いたかね? 霧平原の谷エリアの調査隊が護衛の【赤の暴風】の第3部隊共々昨日全滅した話?」
「ええ。谷エリアにウォーターサーペントが出現したらしいですね。下流から昇ってきたんですかね?」
「いや、ローセファース霧平原の主のミストジャイアントマンティスが居なくなって、主候補が進化したのだろう」
「何ですか、それ?」
「そこからか? つまりだね」
その後の小難しい説明を要約すると、不思議地帯の霧平原には主という存在が歴代存在し、主が死ぬと次の主が現れるのだそうだ。
種類も様々で、カマキリの他にカメや蜘蛛も居たらしい。
そして今回は蛇なんだとさ。
さすがは異世界ファンタジーの不思議地帯だ。
理解不能だな。
いや、ガーディアンが必要だからその場所がモンスターを進化させてる?
もしくは不思議地帯の魔素をモンスターが吸って進化した?
う~ん。
「早速だが退治してきて欲しいんだが」
「退治は出来ますが素材の回収はどうするんですか?」
「それだよ、問題は。濃霧の谷エリアまで解体職人を護送する訳にはいかないからね。アイテムボックスに居れるにしてもブツ切りにする必要があるし」
「当分は様子見でいいんじゃないですか」
「そうだな。時に遠征に出てくれたりは可能かな?」
「具体的には?」
「代表派閥が統治してる領土で暴れてるモンスターの退治だ」
「それなら余裕でやりますけど。でもクラン長のバニラさんの許可がないと」
「そう言えば一緒に寝てるらしいが恋人なのかね?」
おっと、そんな情報まで入手してるのか。
まあ、屋敷の情報収集など朝飯前か。メイドさんの世話をノルメ閣下にして貰ってるのだから。
「いえ、ただの用心棒です。異常に恐れてます、ジオール王国から放たれる暗殺者を。そして本当に既に3人来てます」
「1人だよね、寝室まで押し入ったのは?」
「ええ、そこまでの侵入は。でも他にも2人程」
「本当にジオール王国と揉めてる訳かーーそう言えばキミは男爵家の三男だったな?」
「死んだ事になってますがね」
オレはニヤリとした。
「どうして死んだ事に?」
「籍を抜いて母方の商家に送られましたからね。商家に引き取られて働くなんて嫌に決まってるじゃないですか。それで偶然討伐した大ムカデの素材で買収しまして死んだ事に。当然ジオール王国には居れず、マチルダーズ連合に流れてきて、手頃な冒険者を隠れ蓑にして路銀を稼いでLV上げを、と思っていたら何やらクラン創設に関わってしまって今、閣下の前に居ます」
「ふむ。なるほどな。ではそのクラン長と話をしてみるか」
ノルメ閣下が部下を呼んで、バニラさんに使いを出して、その後も雑談をしていると30分ほどでバニラさんがやってきた。
オレに咎めるような視線を向けたバニラさんが、
「うちのクラン員が何か粗相をしたでしょうか?」
「いや、代表派閥が統治してる領土で暴れてるモンスター退治を彼に依頼したらクラン長の了承が居ると言われてね」
「クランへの依頼でしょうか?」
「いや、彼個人への依頼だよ」
「私とアランが別行動する訳ですね」
「ああ、可能か?」
「まずは地図と依頼内容を教えていただきたく」
その後、広げられたマチルダーズ連合の地図を見ながらノルメ閣下とバニラさんが真剣に話し合い、オレは興味がなかったのでボーッと聞いていた。
「狼での5泊6日くらいなら大丈夫かと」
「なら、それで。いいね、アラン君?」
バニラさんが了承してノルメ閣下がオレに聞いてくるので、
「ええっと、道中のトラブルを避ける為に出来ればマチルダーズ連合の魔法騎士が一緒だと助かるんですが」
「逆でしょ。一緒に居たら余計にトラブるわよ、アラン」
「そうなの?」
「ええ、マチルダーズ連合は今、代表と敵対派閥がバチバチなんだから」
「それでもチンピラに喧嘩を売られない為に随行者は魔法騎士がいいかな」
「では、そうしよう」
その他、色々とクラン【氷の百合】として契約内容を決めてからオレとバニラさんは庁舎を出たのだった。
クラン【氷の百合】の屋敷に戻る蜥蜴車の中で、
「派遣話だけだったの?」
「そんな訳ないでしょ、バニラさん。堂々と引き抜き話をされたよ」
「アランが引き抜き話を受けなかったから派遣依頼の為に私が呼ばれたのね」
「そういう事。【神童】が切れるまでは成長優先だよ。それよりもオレが居なくて大丈夫なの? 暗殺者が飛んできたらーー」
「もう大丈夫よ、私にはこれがあるんだから」
バニラさんは古代遺産の腕輪を見せてそう笑ったのだった。
◇
狩猟に出なくてもオレがやるべき事は色々ある。
まずはドルバンさんの鍛冶屋での推定LV220のホワイトスネークシリーズの武具の受け取りだ。
「おお、凄くいいですね」
白蛇皮の戦士コートを纏いながら、オレは感想を言った。
「だろ、だろ? なかなかの会心の出来だし」
「この牙棒のグリップの太さも、柄の先の魔法のアクセサリーを嵌め込めれる箇所も」
「だろ、だろ。おまえさんは分かる男で助かるわ~」
ドルバンさんもご満悦だ。
「料金は?」
「素材の残りで構わん。差額分も用意してあるぞ」
こうしてオレは金貨20枚と端数の小銭少々を受け取りつつ、ホワイトスネークシリーズのリュックやベルトポーチ込みの装備一式を手に入れたのだった。
ついでにホワイトスネークの討伐後の解体が手こずったので、解体用のノコギリも購入した。
続いて解体屋だ。
ジョロンさんがオレを見て、
「まだだぞ、アーマービッグピルバグ3匹とアーマーピルバグ22匹は」
「いえ、そっちじゃなくてホワイトスネークの素材の方です」
「待て待て。代金はクランに後日届けるって事で話は付いてるはずだろ? ここには金はないぞ」
「いえ、そうじゃなくて・・・19人に配ってくれましたか、素材?」
「ああ、そっちか。もちろんさ。数日後にはホワイトスネーク装備の連中が冒険者ギルドに多数現れるだろうよ」
「あれ、お金に替えなかったんですか、皆さん?」
「冒険者なら防具にするさ。何せ、自分の命が懸かってるんだから。それに引退する時に中古でもホワイトスネークの装備なら売れるからな」
「なるほど。では、引き続きよろしくお願いしますね」
オレはそう挨拶して解体屋を後にしたのだった。
本日は庁舎に呼び出されたのでモンスター退治に出掛けない日となってる。
お陰で余暇となり、まだまだ時間があり、オレはクラン【氷の百合】でお勉強をしていた。
素材の剥ぎ方が図付きで書かれた本を読み、薬草図鑑を読んで薬草を覚える。
マチルダーズ連合やジオール王国の地理も覚える。
モンスター図鑑も当然見て、モンスター名や特殊攻撃を丸暗記した。
やる事は一杯だ。
何せ、貧乏男爵ザク家では一切勉強をしていなかったからな。
(商家に送り返す為か)オレが読み書きが出来るようになってただけでも奇跡と言っていいだろう。
そしてLVが372なので知覚も高いからだろうか、やけにスラスラと頭の中に入っていく。
オレは勉強机に居るピピーを撫でて癒されながら勉強をしまくったのだった。
まあ、何の称号は付かなかったけどね。
277
お気に入りに追加
634
あなたにおすすめの小説
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!
最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~
ある中管理職
ファンタジー
勤続10年目10度目のレベルアップ。
人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。
すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。
なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。
チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。
探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。
万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・
[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!
どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入!
舐めた奴らに、真実が牙を剥く!
何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ?
しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない?
訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、
なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト!
そして…わかってくる、この異世界の異常性。
出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。
主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。
相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。
ハーレム要素は、不明とします。
復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。
追記
2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。
8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。
2024/02/23
アルファポリスオンリーを解除しました。
追放シーフの成り上がり
白銀六花
ファンタジー
王都のギルドでSS級まで上り詰めた冒険者パーティー【オリオン】の一員として日々活躍するディーノ。
前衛のシーフとしてモンスターを翻弄し、回避しながらダメージを蓄積させていき、最後はパーティー全員でトドメを刺す。
これがディーノの所属するオリオンの戦い方だ。
ところが、SS級モンスター相手に命がけで戦うディーノに対し、ほぼ無傷で戦闘を終えるパーティーメンバー。
ディーノのスキル【ギフト】によってパーティーメンバーのステータスを上昇させ、パーティー内でも誰よりも戦闘に貢献していたはずなのに……
「お前、俺達の実力についてこれなくなってるんじゃねぇの?」とパーティーを追放される。
ディーノを追放し、新たな仲間とパーティーを再結成した元仲間達。
新生パーティー【ブレイブ】でクエストに出るも、以前とは違い命がけの戦闘を繰り広げ、クエストには失敗を繰り返す。
理由もわからず怒りに震え、新入りを役立たずと怒鳴りちらす元仲間達。
そしてソロの冒険者として活動し始めるとディーノは、自分のスキルを見直す事となり、S級冒険者として活躍していく事となる。
ディーノもまさか、パーティーに所属していた事で弱くなっていたなどと気付く事もなかったのだ。
それと同じく、自分がパーティーに所属していた事で仲間を弱いままにしてしまった事にも気付いてしまう。
自由気ままなソロ冒険者生活を楽しむディーノ。
そこに元仲間が会いに来て「戻って来い」?
戻る気などさらさら無いディーノはあっさりと断り、一人自由な生活を……と、思えば何故かブレイブの新人が頼って来た。
異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる