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マチルダーズ連合爆釣編

袋型アイテムボックスと選択1

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 突然だが20億円あったら、この異世界ファンタジーで何を買う?

 いやね。

 ローセファースの街の南門前に置いていたアースビッグタートルがようやく解体された訳なのだよ。庁舎の役人、冒険者ギルド、魔術師ギルドの人間の立会の元、甲羅を上下に分解されて。

 オレとバニラさんもアースビッグタートルを倒したクラン【氷の百合】として立ち会った。

 亀モンスターは甲羅も皮や骨や爪や尻尾も武具の素材となり、内蔵は魔法薬の原料となり、魔石は武具の装飾品や魔法のアクセサリーに使われる。

 国の鍛冶局と冒険者ギルドが武器の素材を、国の医薬局と魔術師ギルドが魔法薬の原料と魔石をクラン【氷の百合】から購入するという形だ。

 肉は食用として売られた。亀肉は食べられるからな。スッポンと一緒だ。滋養強壮があり、異世界ファンタジーでも高級食材だった。商業ギルドまでが最後に出て来て買い漁っていった。

 以上の経緯から、頭部を失った推定LV120のアースビッグタートルはお値段、2万金貨(20億円)で売れた訳だ。

 金貨1万枚(10億円)って聞いてたのに、倍だから~。

 ホント、ラッキーだよね~。

 やっぱり決めてはサイズかな? 6メートルサイズの甲羅。

 ファイアハイウルフ4匹でも4億円だった事を考えれば。

 でも、これでもバニラさん曰く、かなり足元を見られて買い叩かれた方らしい。

 何せ、頭部の破損で歯が得られなかったからな。

 でも甲羅、魔石、皮があったのでこのお値段となった。





 金貨2万枚。

 言葉にするのは簡単だが、量にしたら洒落にならない。

 前世で1億円の札束を運ぶのが大変なように。

 よって金貨2万枚なんて持ち運べないので庁舎の一室で魔道具ショップの店主が持ち込んだファンタジーでは御馴染みのアイテムボックスをバニラさんと一緒に見ていた。

 ほら、オレって今まで馬鹿みたいに背中に背負ってただろ、リュック。

 オレも正直、『異世界ファンタジーとして、どうなん、これ?』と思ってた訳なのだよ。

 前世のゲームではドラゴン系でもファイナル系でも無制限にアイテムを持てたのに、アイテムの個数縛りって。

 お陰で倒したモンスターの素材も剥ぎの練習をして持って帰らずにそのまま放置だし。

 けど、これからはそんな心配もなくなる訳で、

「では、この腕輪のアイテムボックスを」

「こちらは破損や衝撃を受けますとアイテムが漏れ出る場合がありますがよろしいですか?」

 男の眼鏡など需要がないのに、眼鏡を掛けてる50代の店主が説明し、

「腕輪型は金貨5万枚以上の奴がお勧めよ。金貨2万枚なら袋型のにしておきなさい、アラン」

 バニラさんの説明に店主も頷いていた。

 ちぇ、腕輪型は金貨5万枚からか。

 ってか、だったら最初からこんな腕輪を持ってくるなよな、コイツも。

 そう思いながらオレは革袋型のアイテムボックスを金貨1万8000枚で御購入し(目の前に金貨はない)、残りの金貨2000枚(2億円)だけを庁舎から支払われて、アイテムボックスに早速入れて、その後、そのアイテムボックスをリュックに入れたのだった。

 結局、まだオレはリュック生活から抜け出せない訳ね。





 因みに金貨2000枚はクラン【氷の百合】の運営費に当てたから。

 得た金額の10%をクランが徴収って決まりルール、絶対に問題があると思うぞ。





 ◇





 クラン【氷の百合】、本格始動だ。

 現在、ローセファース霧平原の谷エリアはぬしのミストジャイアントマンティスが討伐されて、その縄張りを他のモンスターが引き継いでる訳だが。

 冒険者ギルドや魔術師ギルドからしたら、その谷エリアに生息してる薬草、谷の川の中の鉱石類を調べられる絶好のチャンスな訳で、冒険者ギルドや魔術師ギルドからはクラン【氷の百合】に依頼が殺到していた。

 「谷エリアから薬草や鉱石を採ってきてくれ」じゃない。

 それをする専門家の護衛任務だったが。

「アラン、やってくれる?」

「やる訳ないでしょ、一番苦手なのに護衛なんて。ってか、何なの、この調査員10人の護衛で、他の冒険者との合同って? もしかして霧平原の事知らないの? 薄霧エリアでも10メートルも離れたら見失う可能性が高いのに。団体行動なんてしないよ、この10人? なら最初から個別に護衛を付ければいいのに。最初から失敗前提でしょ、この依頼?」

 オレが呆れ果ててると、

「よね。じゃあ、アランは何をやるの?」

「お金になるモンスターを狩って、念願の腕輪型のアイテムボックスのゲット。後、装備の充実かな。オレの今の格好ってLV80のファイアハイウルフシリーズでしょ? 弟子よりも格下の装備って。師匠としての威厳が――」

「まあ、いいけど。そうだ、アラン。明日からだからね、猫の鈴が到着するの」

「了解」

 オレはこうして霧平原にクランで新たに購入した騎獣の狼に乗って1人で出掛けたのだった。

 ピヨピヨ。

 おっと、ピピーも一緒にね。





 ◇





 狼での移動は前世の記憶の名残りだ。

 こちとら蜜柑農家なので収穫した蜜柑を運ぶのに軽トラを転がしてたからな。

 バイクは無理だったのだよ、前世でもびんだったので。

 お陰で狼が速い速い。

 名前を付けようかな~。

 蜜柑の品種で――いや、それだと失った時、ガッカリするから毛皮の色からネイビーに・・・ダメだな、それではさすがに芸がない。

 好きな映画の役名から取るか?

 それとも憧れのポルシェとか、まあ、漫画の知識だけど。

 いっそ日本人の名字とか?

 それはさすがにふざけ過ぎだろ。

 なら、前世の初恋の女の子の下の名前。

 いや、引くわ。

 じゃあ、アイドルの名前にするか?

 ダメだ、変な死に方をしたらガッカリするから。

 名前を付けるのって意外に難しいな。

 う~ん。

 なんて呑気に考えてたらガウッと狼が吠えて、モンスターか、と警戒したら薄霧エリアなので人影が見えた。

 ざっと20人前後の冒険者が居て、代表者の山賊のような獣人が、

「よう、ガキ。調子に乗ってるらしいな?」

 喧嘩を売ってきた。

 嘘だろ?

 オレは常識人なんだぞ。

 前世でも平成生まれで、例え、田舎だろうと農業高校だろうと真面目に生きてきたのに。

 前世では喧嘩を売られた事なんて一度もなかったのに~。

 なのに、どうして今、喧嘩を売られているんだよ~?

 今世ではまだ14歳の子供だから大人達に舐められてる?

 それに結構な美少年だし。

 その上、貴族だから?

 いやいや、貧乏過ぎて雑用をやらされてましたけど~。

 分からない事は聞くに限る。

 それが子供の特権だ。(0.1秒)

質問しつも~ん、オレのどこが気に入らないの?」

「全部だよっ! ってか狼から降りろっ!」

「嫌だよ、ホワイトスネーク2匹に囲まれてるのに」

 これは嘘じゃない。

 本当だ。

 だってオレ今、バニラさんに借りた【蛇寄せ】の魔法の指輪をしてるも~ん、てへ。

 オレの今日の目標、推定LV220のホワイトスネークの討伐だし~。

「へっ?」

「嘘だろ、おいっ!」

「本当にホワイトスネークが2匹だと?」

「何で? ここは薄霧エリアだろうが? どうして濃霧エリアが縄張りのホワイトスネークが?」

「詮索は後だ、逃げるぞっ!」

 無理だよ、バーカ。

 30メートル級2匹が協力し合って囲むように布陣してるのに。

 ピヨピヨ。

 やっちゃえ、とピピーが言ってるっぽい。

 そりゃあ、倒すさ、ピピー。

 問題はいつ倒すか、だ。





 1、今すぐ。先制攻撃。

 利点、無双して冒険者に強さを見せつける事で格の違いを教えて、以後、喧嘩を売らせない。

 2、冒険者が襲われた後に恩着せがましく。

 利点、喧嘩を売らせずに済み、更には助けた事で恩も売れる。

 3、冒険者全員が喰われた後に倒す。

 利点、冒険者が死んで喧嘩を売られる心配がない。

 4、倒さない。逃げる。

 利点、狼に乗ってるので楽勝。





 4はないな。20人近く居るから。生き残りが居たら何を言われるか分からないし。

 何よりどうせ倒すのに逃げたりしたら二度手間だ。

 3だな、理想は。20人前後居るがお姉さんが1人も居ないから別に全滅しても寝覚めも悪くないし。

 いや、違うっ!

 通常ならオレへの敵対行動を表明したんだから上手く立ち回る3が正解だと思うが、マチルダーズ連合で成り上がるって決めてるんならここはノータイムで1を選ばないとダメなんだ。

 そう、オレの目的は成り上がる事なんだから。

 クズな冒険者の支持も得ないと。

 それにさ。

 喰われた後にホワイトスネークを剥いで蛇の胴体から消化されてない冒険者の死骸が出てきたら引くしさ。

 よし、決めた。

 1だ。

 成り上がるぞ、ヒーローらしく。(0.1秒)

 オレは狼の背鞍から跳ぶとLV372のスピードで突進して、1匹の首を三冠王フルスイングで、

「カッキーンっ!」

 牙棒を振り抜いた。

 ズボシャアャッと首が吹き飛んで頭部を切断する。

 頭を吹き飛ばさなかったのは蛇の大牙をゲットする為だ。

 頭部が値段が高い事はもうアースビッグタートルで学習済みなのだよ。

「うおっ! 首を切断したぞっ!」

「凄っ!」

「一撃で? そんな馬鹿なっ!」

「ただの棒だろ、あれ?」

「おいおい、マジか、アイツっ!」

 おお、冒険者の皆さんがナイスリアクションで盛り上げてくれる。

 頭部を失ったホワイトスネークの胴体がバッタンバッタンと暴れたが結局は30秒後には絶命した。

 オレが絶命するのを30秒も待つ訳がない。

 すぐにもう1匹を狙って突っ込むが、ホワイトスネークも馬鹿ではない。

 攻撃【喰らう】をオレに繰り出してきた。

 大口を開けてオレめがけて突っ込んでくる。

「遅いんだよっ!」

 横に回り込んでから、右打ちだけどメジャーリーガー初の日本人首位打者フルスイングを放った。右打ちだけど。大切な事なので2回言った。

 カッキーンッと棒を振る。

 ズルシャバアッと首を抉って頭部を切断した。

「うわっ、またっ!」

「どうなってるんだ?」

「あのガキ、まさか強い?」

「おい、嫌だぞ、あんなのと戦うの」

「オレも」

 なんて冒険者の皆さんが驚く中、煽らないように、

「アイテムボックスに入るサイズにこいつらを切断してくれたらお礼に素材の一部を進呈しますけど協力してくれません?」

 オレは【蛇寄せ】の魔法の指輪を外しながらそう持ち掛けた。

「一部ってどのくらいだ?」

「素材全体の30%と2匹の腹の中から出てくるもの全部」

「ホントだな?」

「ええ」

「なら乗った」

「オレもだ」

「約束は守れよ」

「もちろんですよ」

 こうして大盤振る舞いで冒険者20人近くを買収したのだった。





 やっぱり世の中、金だな。





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