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マチルダーズ連合黎明編

暗殺者

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 拠点となった屋敷は本当に広い。

 宝物庫なんかもあり、バニラさんに連れられてやってきたオレに、

「この宝箱にアランの魔力を登録するから手を翳して」

「登録って、そんなのがあるの?」

「ええ。魔法のアイテムの類だからね。アランの家にはなかったの?」

「うちはびんだったからね」

「まあ、宝箱の魔法を過信し過ぎてもいけないんだけどね。開けれる盗賊だっているし」

「へ~」

「だから財産は魔法のアクセサリーに変えて装備品にして身に着けておくのが主流よ」

「でも、もう金貨2800枚以上のをしてるし。これ以上、付けたらさすがに成金だから」

 オレは左手を見た。

 左手の人差指と薬指に魔法の指輪。

 左手首に魔法の腕輪。

 首には魔法の首飾りだ。

 腕輪は金貨2000枚。人差指の指輪が金貨800枚。

 他の二つは貰い物だが、おそらく両方とも金貨200枚以上だ。

「全然そんな事ないわよ。魔法のアクセサリーは上限知らずだから。いいのだと金貨数百万枚はザラだし。店頭のショーケースに並んでないだけで魔道具ショップなら別室に保管してるはずだから。まだまだバージョンアップは可能よ」

 などとバニラさんと喋って宝物庫の宝箱の登録を済ませて廊下をバニラさんと一緒に歩いていた訳だが、





 廊下で新たに雇ったメイドさんが前から歩いてきた時、オレの頭に乗ってるピピーがピピピピッといきなり怒り始めた。

 オレよりも先にピピーの意図に気付いたのは隣を歩くバニラさんで、

「アナタ」

「はい、何でしょうか?」

「クビよ。荷物をまとめて出ていってちょうだいね」

「ど、どうしてでしょうか?」

「だって、毒の匂いがするし」

 なんてバニラさんが言った瞬間、愛想良く応対していたメイドさんが、

「チッ」

 と舌打ちしながら、バニラさんに隠し持ったナイフで斬りかかろうとしたが、ほら、オレ、LV352だろ?

 メイドさんよりも先にメイドさんの胸に十六文キックをしてしまった訳だよ。

 おお、懐かしい~。

 十六文キックなんて言葉、久々に使ったぞ。

 14歳のアラン・ザクになって童心が戻ったのか?

 前世でレジェンドプロレスラーが死んだ時はそれはもう凹んだからな。

 オレは、プロレスは元気ですか派よりもアッポー派だったので。(0.1秒)

 オレに蹴られたメイドは長い廊下を3メートルほどノーバンで吹き飛んでからバウンドして更に転がった。

「女にも容赦ないのね、アランって」

「今、手加減したよ、オレ」

 オレが答える中、バニラさんはオレの頭の上のピピーを見て、

「アランの精霊獣は相当優秀ね」

 ピヨピヨ。

 当然だ、とばかりに胸を張ったピピーであった。





 その後、そのメイドは警備兵に引き渡されて逮捕されたのだった。

 後日、分かった事だが他のクランが差し向けたただのスパイで、別に暗殺者でも何でもなかった。

 じゃあ、ナイフなんて出すなよ、馬鹿女。





 ◇





 その日の夜もバニラさんに抱き枕にされてベッドで眠っていた訳だが、ピピーにピピピッと起こされた。

 ピピーに起こされるのにはオレも慣れてたが、それでもこれまで起こされてたのは野宿だったからだ。

 外だとモンスターが居るので危険を知らせてくれていたのでありがたかったが、さすがに屋敷で起こされたのには納得がいかないぞ。

 何?

 ピピーを見ると片翼で壁を指した。

 オレも壁を見る。

 だが別におかしな点はない。

 あっ、もしかして毒蜘蛛か?

 小さいタイプ?

 どこだ?

 オレが蜘蛛用スプレーを出してベッドから起きて壁の方に1歩踏み出した時、





 ゴクリッ。





 生唾を飲む声が確かに聞こえた。

 オレが近付いた壁側から。

 ーー毒蜘蛛じゃない。透明人間だっ!

 気付いた時にはオレはドロップキックを放っていた。

 音がした場所に居る何かをドゴッと蹴って、直後にそれが吹き飛んでドスンッと壁に当たる。

 それで気絶して透明になってた暗殺者が姿を見せ、バニラさんが、

「ちょっと五月蠅いわよ、アラン。夜なんだから静かにしなさい」

 と起きてきたのはその2秒後だった。





 オレがぶっ飛ばした30代で橙髪の陰気な雰囲気の男は大物だったらしい。

 何せ、不機嫌そうに起きてきたバニラさんがそいつを見て、

「嘘、アランが倒したの? 最高~」

 上機嫌でチュッとオレの唇にキスしたのだから。

 今世のファーストキスだ。

 相手はバニラさんか~。

 それも14歳で。

 非モテだった前世と比べても、14歳でのファーストキスって快挙だろ。

 ダメだ。顔がニヤけてしまう。

 二へへへ。

 対象的に頭の上のピピーがピピピッと激おこだったが。

「ごめんごめん、ピピーが一番だよ。教えてくれてありがとね」

 オレが頭に居るピピーを優しく持ってピピーの頭にキスする中、バニラさんが伸びてるソイツの腕輪を回収して、

「これこれ、これが欲しかったのよ~」

「もしかして、それが?」

「ええ」

 腕輪を腕に嵌めたバニラさんがオレの目の前から消えた。

「どう? 透明になれてる?」

「凄くね」

「私でも使える訳ね」

 と言って姿を見せたバニラさんが、

「これは古代文明の遺産の魔法の腕輪でね、貴重なのよ。私が貰っていいわよね、アラン?」

「どうぞ」

「後はもう用のないこいつだけど」

 その後、装備品を総て剥いで犯罪者として警備兵にソイツを突き出したのだった。





 オレはソイツがバニラさん対策で付けてた【上級耐火】の魔法の指輪を貰って、ポッケに入れたのだった。





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