オレはスキル【殺虫スプレー】で虫系モンスターを相手に無双する

竹井ゴールド

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ジオール王国脱出編

推定LV200のセンティピード(大ムカデ)

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 翌日の朝、

「これまでありがとうございました」

「うむ、元気でな」

 あっさりとザク家を出れた

 迎えの馬サイズと蜥蜴が引く馬車、いや蜥蜴車に乗って母方の実家に向かう。

 ザク男爵家はジオール王国に仕えている。

 王国の東部の田舎の村1つの領地がザク男爵領である。

 村の名前はホッペス。

 そして母方の実家があるのはザク領なんて田舎ではなく、東部最大の街サイダール。

 ホッペスから蜥蜴車でも4日は掛かる距離だった。

 迎えは蜥蜴車の行商人の40代の顎髭のオジサンで、そのオジサンと4日間も旅をするって事だ。

 それにしてもっそ。

 車が懐かしいぜ。

 ってか、4日も移動って。

 どんだけ遠いんだよ。

 土地が広いな、異世界って。

「田舎の貴族ってのは大変なんだな。子供を売らないとダメだなんて」

 街道を進んでるとオジサンがそう口を開いた。

 売るって。

 このオッサン、オレ本人にそんな事言うなんて行商の癖に相当頭が悪いな。

 ってか、ナメてるだろ、ザク男爵家の事を。

 貧乏でも貴族は貴族だぞ。

 理不尽な階級社会なのに。

「ただの口減らしですよ。あの家は貧乏ですから。ってか、馭者をやってみたいんですけど教えてくれませんか?」

「ん? こんなのをやりたいのか? いいぞ」

 そんな訳で簡単な蜥蜴の操縦方法を教わった。

 手綱を引けば止まるとか、背を鞭で叩けば動くとか。

 どうしてそんな事を教わってるのかと言えば、道中でモンスターに襲われた時、オッサンを捨てて蜥蜴車で逃げる為だ。

 このオッサンも同じ事をするはずだから、お互い様って事で。

 この世界は異世界ファンタジーで、かなり世知辛いからな。

 まあ、虫系のモンスターだったら殺虫スプレーで倒して経験値にするんだけど。

 後、オッサンを素材で買収。

 そんな都合良くはいかないだろうけど。





 ◇





 なんて思って旅をして2日目の昼間、いきなり荷車を引いてた蜥蜴がピィーッと鳴き始めた。

 何かヤバイ。

「コ、コンダさん、何ですか、これ?」

 コンダさんってのは冒険者崩れの行商のオッサンの事ね。

「モンスターだ。それもこの警戒する鳴き方。大物だぞ」

 コンダさんが警戒する中、山道の先の森の木々が揺れて、モンスターが現れた。

 20メートル級のセンティピード(大ムカデ)だ。

 何かに追われてるとかそんなのじゃない。

 一直線でオレ達の方に突進してくる。

「クソ、よりにもよって大型サイズのセンティピードかよっ! 動きが速くて逃げられねえじゃねえかよっ! 荷は麦わらで喰いモンじゃないから狙いは蜥蜴か?」

 コンダさんが叫ぶ中、オレはと言えば高速で思考を回転させーー

 ええっと、ムカデは足が一杯だけど虫判定だよな?

 じゃないといきなり死ぬぞ、オレ。

 ってか、最初にスキルを試す相手がかよ?

 20メートル級の大ムカデ。

 スプレーなんだから噴射が届く距離、最低でも2メートルには近付かないとダメだよな?

 アレの顔の2メートル圏内まで近くぅ~?

 無理無理無理。

 もしスプレーが効かなきゃ喰われるってっ!

 でも逃げられる訳ないし(0.1秒)。

「クソ、こっちに来るなっ!」

 コンダさんが車から弓矢を出して射撃するが、無理でしょ、さすがに。

 ほら、カンッて矢を弾いてるし。

「ボーズ、逃げろ」

「いえ、オレに試させて下さい」

 オレは馭者席から立ちあがり、大ムカデが蜥蜴を喰らった瞬間に(そうだよ。囮だ、蜥蜴は)、右手にスキルで殺虫スプレー(缶タイプ)を出して、





「喰らいやがれっ!」





 シューッと吹きかけたのだった。

 白い薬剤が出た。

 うわ、何か懐かしい、このスプレーの感触。

 ちゃんと白い薬剤が大ムカデの顔に掛かる。

 だが、20メートル級の大ムカデだ。

 1回じゃ効かないと思って、2回、3回とシューッと吹き掛けると、





 ギャギャギャギャギャ





 と身体をくねらせて苦しみ出した。

「コンダさん、これでダメなら走って逃げますからね」

「おうっ! ってか、何をやったんだ、アラン?」

「オレのスキルですよ」

「毒霧?」

「虫系モンスター限定ですけどね」

 オレがニヤリと笑った時にはくねって苦しんでた大ムカデが高く伸びてからドスンッと倒れたのだった。





 アラン・ザク。14歳。LV4→LV71。

 ジョブ:雑用係。

 スキル:【殺虫スプレー】(30)(30)(11)

 称号:【貴族名鑑】【神童】new【格上潰し】new【英雄の卵】new【センティピードの呪い】





 隠し称号:【前世の記憶】(【算盤少年】【野球少年】【農夫パワー】【蜜柑博士】【蜜柑喰い】【出雲信徒】)





 えっ?

 LVが一気に71まで上がってるんだけど?

 大ムカデ1匹を倒しただけで?

 経験値2倍の【神童】のお陰か、もしかして?

 ってか、何だ、この【格上潰し】【英雄の卵】【センティピードの呪い】って?





 【格上潰し】LV差が50以上のモンスターと対峙した時、全ステータスが3倍になる。撃破時の経験値も5倍になる。





 取得条件:LV差50以上のモンスターを単独で倒す。





 【英雄の卵】攻撃、防御が1.5倍になる。





 取得条件:LV100以上の敵を単独で倒す。





 【センティピードの呪い】センティピードとのエンカウント率上昇。センティピード限定の挑発状態。





 取得条件:センティピードに恨まれる。今回の場合は殺虫スプレーズル





 えっ、これって、あの大ムカデのLVが100を越えてたって事か?

 LV100以上のモンスターを3吹きで倒すってオレのスキル【殺虫スプレー】って、もしかしてかなり凄い?

 それよりも【センティピードの呪い】だ。

 ムカデの方から寄ってくるって事か?

 【殺虫スプレー】を持ってるオレからしたら超ラッキーだろ、これって。

 LV上げが楽に出来て。

「コンダさんにこの素材、全部プレゼントしますよ」

「どういう意味だ? おまえさんが倒したんだろうが?」

「どうせ、サイダールに到着したら親族に全部撒き上げられますから。それならコンダさんにプレゼントして、代わりにお願いを聞いて貰った方がお得かな~って」

「お願いって?」

「助けて下さい。商家に送られたらオレ絶対に不幸になりますから」

「いやいや、オレはおまえさんを連れていくのを請け負ってーー」

「大ムカデに喰われて死んだって事でお願いします、コンダさん。ね?」

「アラン、おまえさん、相当の悪だな」

「まさか、生き残る為にこっちも必死なだけですよ。ね?」

「いいだろう。但し、国外に出て貰うぞ」

「えっ、国外? オレ、旅費なんて持ってませんよ?」

「それくらいはオレが出してやるさ。でも、警備隊にはどう倒したと説明するつもりだ?」

「そんなの蜥蜴を食べたら突然苦しんだ、でいいんじゃないですか?」

「そんな話が通用する訳がないだろ。せめてモンスター除けの毒草を蜥蜴に仕込んでおいた事にしないと」

 などと話し合い、





 サイダールの警備隊がやってきて、

「実はモンスター除けの毒草を蜥蜴に仕込んでまして」

「その蜥蜴を食べて死んだと。なるほど」

 コンダさんが説明したら現に大ムカデが死んでるので通用した。





 それだけではなく、警備隊の中に神官のザビエル頭の白髪のお爺さんが居て、

「ボーズ、おまえさん、センティピードに呪われたな? 祓ってやろう」

「でも、ボク、お金なんて持ってないし」

「構わんよ、タダじゃから」

 おい、こら。

 余計な真似をするな、ジジイ。

 ピカーッ。

 簡単に【センティピードの呪い】はステータスから消えたのだった。





 ガックシ。

 ムカデを返り討ちにして経験値をガッポリ計画が。





 20メートル級の大ムカデの素材はコンダさんが50%、ジオール王国が50%で簡単に決着した。

 ってか、警備隊が査定してた時、

「推定LV200のこの辺のぬしだよな?」

「ええ、手を焼いてましたが、まさか毒草で死ぬなんて」

 と喋っていたのを聞いて、オレは苦笑した。

 それで一気にLVが71まで上がった訳ね。

 ってか、LVって99でカンストしないんだ~、この異世界ファンタジーでは。

 いきなり71まで上がってるもんね。

 もしかして上限は999?

 いや、もしかしたら更に上があるかも。





 大ムカデの素材は冒険者ギルドが噛んだ事で運搬する前に売れた。

 これでコンダさんは大金持ちだ。

 因みにオレはコンダさんの行商の見習って事になっていた。

 ザク家は貧乏男爵なもんでね。

 オレが着てる衣服も、貴族の子弟というよりは下民に見える服装だったから。

 そしてオオムカデの死骸の傍で野営をして足止めされる事2日。





 ◇





 警備隊の一団に連れられてようやくオレはサイダールに到着した。

 サイダールは東部最大の主要都市だけあり、さすがにデカく都会だった。

 サイダールの一流店で成金になったコンダさんに冒険者の装備を買って貰って、小銀貨の詰まった革袋を貰って、 乗合客車も世話して貰って、

「じゃあな、アラン」

「ええ、ありがとうございました、コンダさん」

 オレはサイダールの東、隣国のマチルダーズ連合を目指して旅立ったのだった。





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