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大也、ハイチャンドラーホテルのレストランでおデートする
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犯罪忍者対策室の本部ビルの室長室で猿飛聖が銭湯から戻ってきた暗樹菊之助に、
「菊の爺。どうだった、手塚は?」
「昨日の件に一切噛んでおりませんな」
「そうなのか?」
想像していた答えと違ったので聖が菊之助を見ながら、
「はい、『青行燈』との遭遇を楽しみにしてますから」
「ん? 百瀬喜多郎の脱獄の話を信じてるのか?」
「そのようで」
「何だ。強いだけのマヌケという訳か?」
そう聖が大也の事を断じたのは菊之助への絶大な信頼があったればこそだ。
菊之助は読心術使い。その実力は日本一だ。
菊之助を相手に嘘をつき通せる人間はいないのだから。
「ならばオレの思い過ごしか。つまらん事に突き合わせて悪かったな、菊の爺」
「いえ、何がありましたらいつでもお呼び下さい」
こうして菊之助は退室していったのだった。
大也の方は1階の受付カウンターで水羅椿に、
「上司に言われて嫌々オレに付き合ってるんじゃないよね?」
「もちろんです、手塚様」
「良かった~、変な爺さんが妙な事を言うから。じゃあ、今晩は奮発するね、店はオレに任せて。いいところを予約したから」
大也は鼻の下を伸ばして口説いたのだった。
◇
夜6時の退社時間になって玄関で大也は椿と合流して、そのままタクシーに乗って料理店に向かったのだった。
今日の料理店は一流ホテル、ハイチャンドラーホテルのレストランだ。
この店を選んだのが大也なのだから、もう大也の下心が透けて見える店のチョイスだった。
「えっと、大也君。料理だけだからね。ホテルには泊まらないわよ」
「もちろんだよ。部屋は予約してあるけど」
ホテルのカードキーを見せながら大也は笑ったのだった。
「ちょっと大也君。泊まらないからね」
ホテルのレストランに着席して、コース料理を食べた。
会話は弾み、大也がしきりに椿にワインを飲ませようとしたが、さすがに飲んだら拙いと思ったのか、椿は本日は酒を控えた。
食事中に席を立つのはマナー違反である。
だが、食後の化粧直しはありだ。
トイレではない。
化粧直しだ。
椿も鏡の前でリップを塗り直していた訳だが、鏡の隣に立った女が、
「気付いてる?」
と質問してきた。
26歳で159センチ。黒髪を纏めて普段は眼鏡など掛けていないが変装してるつもりか、黒縁眼鏡を掛けた丸顔の美人の六本木舞が声を掛けてきた。
舞は犯罪忍者対策室の同僚で、椿のバックアップ要員だった。
「何がです?」
「中国マフィアのダブルドラゴンのトップ、バ・ホンガがあのレストランに居るわよ」
「まさか」
「本当よ」
「何してるんですか、一流ホテルで?」
「さあ。中国語はさっぱりだから。美女数人と食事してたけど」
「それよりも私、帰っていいんですよね?」
「あら、気に入ったのならホテルに泊まってもいいのよ」
「勘弁して下さい。年下じゃないですか」
「なら、上手く断るのね」
との話を終えて、化粧室から戻ってみれば、席に座った大也が見知らぬ美女にキスされて鼻の下を伸ばしてるところだった。
「あっ、椿さん。今日、ホテルに泊まらないんだよね?」
「ええ」
「じゃあ、オレは少し別の用が出来たから。ゴメンね、玄関まで送れなくて」
「いえ、いいけど・・・誰なの?」
「田中花子で~す」
と挨拶したのは18歳で165センチ。銀メッシュ入りの黒髪をゆるふわポニーにした知的美人だった。
胸元が開いた赤色のドレスを纏ってる。
苦労知らずのお嬢様の印象を椿は受けた。
「たった今、ここで知り合ったんだ~」
鼻の下を伸ばした大也がそう嬉しそうに紹介した訳だが。
今、椿が対処しなければならないのは相手が名乗った名前だ。
田中花子。偽名か本名か判断が求められる名前だった。
田中の姓は日本に多い。花子が居ない訳ではないだろうが親がその名前を付けるだろうか。
椿からすれば別に大也は椿の男ではないが、それでも席を外した隙に横取りされたのは事実な訳で偽名を使おうかと思ったが、既に大也が椿と呼んだので、仕方なく、
「水羅椿です。それじゃあ、私はお呼びじゃないようなので帰るわね」
「ゴメンね。また明日ね」
大也は席も立たずにそう椿を送り出した。
元々ホテルに泊まる気はなかったが女として馬鹿にされた感を覚えながら椿はホテルを出て、バックアップ要員が運転する車で自宅に戻ったのだった。
「菊の爺。どうだった、手塚は?」
「昨日の件に一切噛んでおりませんな」
「そうなのか?」
想像していた答えと違ったので聖が菊之助を見ながら、
「はい、『青行燈』との遭遇を楽しみにしてますから」
「ん? 百瀬喜多郎の脱獄の話を信じてるのか?」
「そのようで」
「何だ。強いだけのマヌケという訳か?」
そう聖が大也の事を断じたのは菊之助への絶大な信頼があったればこそだ。
菊之助は読心術使い。その実力は日本一だ。
菊之助を相手に嘘をつき通せる人間はいないのだから。
「ならばオレの思い過ごしか。つまらん事に突き合わせて悪かったな、菊の爺」
「いえ、何がありましたらいつでもお呼び下さい」
こうして菊之助は退室していったのだった。
大也の方は1階の受付カウンターで水羅椿に、
「上司に言われて嫌々オレに付き合ってるんじゃないよね?」
「もちろんです、手塚様」
「良かった~、変な爺さんが妙な事を言うから。じゃあ、今晩は奮発するね、店はオレに任せて。いいところを予約したから」
大也は鼻の下を伸ばして口説いたのだった。
◇
夜6時の退社時間になって玄関で大也は椿と合流して、そのままタクシーに乗って料理店に向かったのだった。
今日の料理店は一流ホテル、ハイチャンドラーホテルのレストランだ。
この店を選んだのが大也なのだから、もう大也の下心が透けて見える店のチョイスだった。
「えっと、大也君。料理だけだからね。ホテルには泊まらないわよ」
「もちろんだよ。部屋は予約してあるけど」
ホテルのカードキーを見せながら大也は笑ったのだった。
「ちょっと大也君。泊まらないからね」
ホテルのレストランに着席して、コース料理を食べた。
会話は弾み、大也がしきりに椿にワインを飲ませようとしたが、さすがに飲んだら拙いと思ったのか、椿は本日は酒を控えた。
食事中に席を立つのはマナー違反である。
だが、食後の化粧直しはありだ。
トイレではない。
化粧直しだ。
椿も鏡の前でリップを塗り直していた訳だが、鏡の隣に立った女が、
「気付いてる?」
と質問してきた。
26歳で159センチ。黒髪を纏めて普段は眼鏡など掛けていないが変装してるつもりか、黒縁眼鏡を掛けた丸顔の美人の六本木舞が声を掛けてきた。
舞は犯罪忍者対策室の同僚で、椿のバックアップ要員だった。
「何がです?」
「中国マフィアのダブルドラゴンのトップ、バ・ホンガがあのレストランに居るわよ」
「まさか」
「本当よ」
「何してるんですか、一流ホテルで?」
「さあ。中国語はさっぱりだから。美女数人と食事してたけど」
「それよりも私、帰っていいんですよね?」
「あら、気に入ったのならホテルに泊まってもいいのよ」
「勘弁して下さい。年下じゃないですか」
「なら、上手く断るのね」
との話を終えて、化粧室から戻ってみれば、席に座った大也が見知らぬ美女にキスされて鼻の下を伸ばしてるところだった。
「あっ、椿さん。今日、ホテルに泊まらないんだよね?」
「ええ」
「じゃあ、オレは少し別の用が出来たから。ゴメンね、玄関まで送れなくて」
「いえ、いいけど・・・誰なの?」
「田中花子で~す」
と挨拶したのは18歳で165センチ。銀メッシュ入りの黒髪をゆるふわポニーにした知的美人だった。
胸元が開いた赤色のドレスを纏ってる。
苦労知らずのお嬢様の印象を椿は受けた。
「たった今、ここで知り合ったんだ~」
鼻の下を伸ばした大也がそう嬉しそうに紹介した訳だが。
今、椿が対処しなければならないのは相手が名乗った名前だ。
田中花子。偽名か本名か判断が求められる名前だった。
田中の姓は日本に多い。花子が居ない訳ではないだろうが親がその名前を付けるだろうか。
椿からすれば別に大也は椿の男ではないが、それでも席を外した隙に横取りされたのは事実な訳で偽名を使おうかと思ったが、既に大也が椿と呼んだので、仕方なく、
「水羅椿です。それじゃあ、私はお呼びじゃないようなので帰るわね」
「ゴメンね。また明日ね」
大也は席も立たずにそう椿を送り出した。
元々ホテルに泊まる気はなかったが女として馬鹿にされた感を覚えながら椿はホテルを出て、バックアップ要員が運転する車で自宅に戻ったのだった。
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