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大也、美人局とは違うが罠にハマって冷越我威と遭遇する

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 まだ午前中である。

 都内にある一流ホテル『ニュー極楽園ホテル』のロビーで大也は腕を組んで胸を押し当ててくる女子高生組長のトモコがチェックインするのを真横で見ていた。

「名取様、2008号室になります。案内はあちらのベルマンにーー」

「いらないわ。2人でイチャイチャしたいから。ね~」

 同意を求められて、有頂天の大也も、

「ね~」

 と答えていた。

「畏まりました。ベルマンのサービスはなしに致しますね、名取様」

 フロント係が一礼する中、キーを貰ったトモコと一緒に大也はエレベーターに乗った。

 エレベーター内は大也とトモコだけの密室空間だ。

 トモコの方から大也の首の後ろの両腕を絡めてきて、

「キスが下手でも笑わないでよ」

「まさかーーんん」

 キスされた。調子に乗って大也が舌を入れるとちゃんと受け入れて絡めてくる。

 エレベーターのキスの時間はあっという間に終わり、20階の廊下を歩く。

 2008号室のドアをカードキーで開けて、室内に入ると、

「よう、ガキ、待ってたぞ」

 ステッキ持参のポワロ髭の冷越我威が居た。

「どうも、はじめまして。ボク、お嬢様と真面目にお付き合いをしているーー」

「『はじめまして』じゃないだろうがっ! それに私は名取組長の父親ではないっ!」

 と我戚が答えて、大也が『どういう事?』と視線をトモコに向けると、

「ごめんなさいね~、大也。私の組、刹那忍軍と専属契約していてーーってか、私の親友の我子がこを襲ったんでしょ、今日? なら、その時点で敵じゃないのっ!」

「我子って?」

「私の娘だ」

「だから誰? ーーああ、横浜のヌード女?」

「そうだよーーそんな訳だ。『七人ミサキ』のジョニーと娘の裸を見た件、きっちりとケジメを取らせて貰うからな」

 と凄い殺気を放つ我威に向かって大也は悪そうなニヤニヤ顔で、

「ラッキー。おまえを殺すのダメだって言われたばかりだったのに、そっちから来てくれるなんて~。振り掛かる火の粉を払うのはOKだからさ~」

「抜かせっ!」

 ステッキに仕込んだ刃を抜いて斬り掛かる我威の斬撃に対して、

「バーカ」 

 大也が笑いながら両手で左右に何かを投げて応戦した。

 視認出来ない。

 つまりは何もない。

 そう判断した我威がそのまま突進し、

「何だ、そりゃあ? ブラフにしてはーーグアアアアア」

 視えない糸に絡め取られた。

 我威の素肌が視えない糸で斬れる。

「強さの割にーー勘悪かんわるっ!」

 そう大也が笑うと、ブチギレた我威が『冷越流忍法つらら女・氷原』を使い、自分を中心に室内を凍らせ始めた。視えなかった糸が氷で太くなって視認可能となる。

 20本以上の糸が我威の周囲に絡まっていたが、全部が凍って砕けた。

 その時には大也はホテルの窓を割って、

「鬼さん、こちら~、手の鳴る方へ~♪」

 ホテルの屋上に移動し、我威も新たに窓を割って、その後を追ったのだった。





 一流ホテル『ニュー極楽園ホテル』の屋上に着地した我威は大也の他にムーンリングの忍者スーツを纏う8人が居る事に気付いた。

「――なっ?」

「刹那忍軍副頭領、冷越我威。おまえに逮捕状が出ている。無論、アメリカ議会の裏のだが」

 ムーンリングの男の忍者スーツがそう英語で宣言し、

「そんな訳でペンタゴンまで同行して貰うぞ」

 との言葉と同時にムーンリング8人が突っ込んできた。

「誰がっ!」

 我威が迎撃しながら、参戦せずに遠巻きにニヤニヤ顔で見てる大也に、

「ーーおまえ、アメリカの手先だったのか?」

「違うよ。刹那忍軍の使いだよ。ほら、2日後の大鳥忍軍との停戦協定におまえの存在は邪魔だから」

 大也がそう笑って『手塚流忍法かまいたち・風舞(散布)』を使い、紙に包むれた白い粉を撒いた。

 大也は風使いだ。当然のように白い粉はムーンリングの連中の間をすり抜けて、我威に伸びてくる。明らかに何かある。触れたくもなかったがムーンリングが周囲に8人も居て、氷手裏剣を受けても忍者スーツが防御してるので、結局は逃げられず、白い粉が風に乗って我威に到達した。

「チッ」

 手で鼻と口を抑えて呼吸を止めたが、我威の身体が1秒で痺れた。皮膚接触でもダメな粉末だったようだ。

「本当に勘が悪いよね。雑魚の相手をし過ぎなんじゃないの? 時代遅れのロートルって奴?」

 馬鹿にしたような笑い声が聞こえた時には我威は口から白い泡を吹きながら意識を失ったのだった。





 その後、刹那忍軍ナンバー2、冷越我威はアメリカに護送されていった。





 ◇





 決着後、忍法を使って空中を移動し、大也は外側から未練がましく窓の割れた部屋を覗いたが、案の定、トモコは逃げて居なかった。

 ちょうどニュー極楽園ホテルの玄関から走り去る黒塗りのベンツの中にトモコは居た訳だが、一瞬『潰すか』迷った大也は、

「素人丸出しのディープキスに免じて逃がしてやるか」

 唇を指でなぞりながらそう笑って、トモコが乗るベンツを見逃したのだった。
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