ニンジャマスター・ダイヤ

大也、鉄砲塚マミを救助して一緒に逃げる

　『犯罪コンサルタント』という非合法な仕事を生業とする鉄砲塚マミは、午前中から都内の車道を愛車のスポーツカーで逃げていた。

　マミは20歳。茶髪をツインテールに分けてドリル巻きにした髪型をしてるが、可愛い系ではなく綺麗系の部類の美女だった。切れ長の眼差しなどが知的さを演出している。

　纏ってる衣裳は20代後半が読むファッション雑誌のコーディネートさながらだったが。

　そのマミがスポーツカーで逃げてる理由は、犯罪コンサルタントの業務失敗の所為であった。

　中国財閥系のペーパーカンパニーから日本最大のＳＮＳサービス会社『ビージー』の乗っ取りの発注を受け、ビージーの幹部達を寝返らせて、親の遺産と株式を受け継いだ井森桃花を昨夜、行方不明にする手筈だったのだが、何故かその桃花は警察に保護されており、更にどういう訳か、今日の10時から大鳥コンツェルンがビーシーの援護をし始めた。

　僅か20分でビーシーの裏切り者の重役達と連絡が付かなくなり、中国財閥系のペーパーカンパニーは蛻の殻。

　そして子飼いの情報屋が義理で『逃げろ』と伝えてくれて、どういう事かと情報を収集しようとしたら情報屋や非合法な仕事をする連中と一斉に連絡が取れなくなった。

「どいつもこいつもアテにならないわねっ！」

　ハンドルを切って交差点を曲がりながら、片っ端からスマホで連絡するが誰もが着信拒否だ。

　この現象の原因は分かってる。

　大鳥コンツェルンにマミ自身が狙われてるからだ。

　大鳥コンツェルン。

　表向きは軍事兵器や不動産、携帯電話会社やスマホ決済サービスと手広くやってる大手企業だ。

　だが、裏では日本政府の汚れ仕事を請け負い、他国のスパイと日夜暗闘してるともっぱらの評判だった。

　ヤクザでさえ、大鳥コンツェルンには手を出さない。

　そんな大組織に狙われる事はマミはしてないはずなのだが。

　不意にドゴッと衝撃を受けた。後部車両にぶつかられたのだ。オカマ掘られたって奴だ。

「ふざけんじゃないわよっ！　イタリア車よ、２０００万円以上したんだからっ！」

　スポーツカーのルームミラーで怒りながらマミが後方を確認すると、ぶつけた車の運転席に居る男は悪びれた様子もなく軽く笑っていた。

　それだけで『わざとぶつけられた』と悟った。

　つまりは追っ手だ。ここで自動車保険のお金欲しさに停車したら捕まって最後だ。

　ブレーキを踏むどころかアクセルを踏んで後部車両からマミは逃げたのだった。





　◇





　午前中からの都内のカーチェイスの末、交差点を凄いスピードで突っ込んだスポーツカーが曲がり切れずにガードレールにドゴッとぶつかった訳だが、その衝突したガードレールの５メートル圏内の歩道には大也が歩いていた。

　大也は御存知、率先して人命救助活動などしないタイプなのだが騒動大好き人間である。

「大丈夫ですか？」

　とエアバッグで軽傷で済んだ運転席のマミを救助した。

「・・・助けて」

「分かりました。救急車を呼びますね」

「違うの。私を連れて逃げて。悪い奴らに追われてるの」

　大也は美人局を経験していたので、一瞬『罠か』とも疑ったが基本、暴れたいので眼を輝かせた。

「分かりました、逃げましょう。失礼しますね」

　大地はマミをお姫様抱っこすると普通の速度で歩道を駆け出したのだった。





　マミのスポーツカーとカーチェイスをしてフロントバンパーを凹ませたワゴン車の運転席に座る30歳の一流会社のサラリーマン顔の男、工藤信二がマミを連れ去る大也を目視しながらスマホを出して、

「手塚大也が標的を連れていきましたがどうしましょうか？」

　そう上司に次の指示を尋ねた。

『何の冗談だ？』

「本当です。車内搭載カメラの映像を確認して下さい」

『・・・確認した。鉄砲塚の身柄はもういい。鉄砲塚の資産を差し押さえてるチームに合流しろ』

「了解」

　信二はそう返事して事故を起こしたスポーツカーが残された車道の横を通過していったのだった。